「サッカー中学生の筋トレメニュー 安全・成長期対応の週3プラン」をテーマに、成長期でも安心して取り組める、技術重視のトレーニング設計をまとめました。研究やスポーツ現場の知見で確かめられている範囲をベースに、無理なく成果が積み上がるように構成しています。器具がなくてもできる代替メニューも用意。最初の2週間は“軽く・正確に”を合言葉に、痛みゼロで進めてください。
目次
はじめに:中学生に筋トレは必要?安全性とメリットの整理
成長期の骨・筋・成長板の基礎知識(わかりやすく)
中学生は骨も筋も急成長する時期です。骨の端には「成長板(骨端線)」があり、ここが閉じるまで身長は伸び続けます。成長板は柔らかくダメージに弱い一方、適切な運動刺激は骨密度や筋力の発達を助けます。ポイントは「大きな重さよりも、正しい動きと適切な回数」。急激な負荷や痛みを我慢した継続は、成長板へのストレスを高めるので避けましょう。
「背が伸びなくなる」は本当?研究でわかっていること
適切に指導・管理されたレジスタンストレーニング(筋トレ)が身長の伸びを妨げるという根拠は示されていません。むしろ、フォーム重視・軽〜中負荷での反復は、ケガの予防、運動スキルの向上、骨密度の改善に役立つと報告されています。問題になるのは、フォーム崩れのまま高重量を扱う、痛みを無視する、休みなく追い込む、といったやり方です。
サッカー選手に必要な基礎体力(スプリント・方向転換・キックの土台)
- スプリント:地面を強く・速く押す足(足関節・ハムストリングス・臀筋)
- 方向転換:減速→再加速のコントロール(ヒンジ動作・片脚安定・体幹)
- キック:骨盤と胸郭の連動(体幹の安定+股関節可動+足部の使い方)
これらの土台を安全に伸ばすための「週3プラン」を、以下で具体化します。
安全設計の原則:成長期対応のトレーニング哲学
技術優先・軽負荷多反復・痛みゼロが前提
- 最優先はフォーム。速度や重さは後からついてくる。
- 軽負荷・中回数(8〜12回)・反復練習で動作を固める。
- 痛みはゼロ基準。「違和感」も放置せず一度止める。
週3回の理由:刺激と回復のバランス設計
週3回は、スキル習得に必要な反復を確保しつつ、成長期に大切な回復時間も確保しやすい配分です。筋力系の刺激は48〜72時間で回復しやすく、学校・部活・試合との両立にも適しています。
RPE(主観的運動強度)の使い方と自己調整
- RPE6〜7:あと2〜4回できる余裕。基本はこの範囲。
- RPE8:あと1〜2回。週のメイン種目で時々使う。
- RPE9以上は不要。フォームが崩れる前に止める。
中止基準と痛みチェックリスト(保護者・指導者向け)
- 鋭い痛み、引っかかる感覚、腫れや熱感がある。
- 膝下(お皿の下の出っ張り)や踵に押すと強い痛み。
- びっこをひく、着地を避ける、片足に乗れない。
- これらがあれば中止し、低衝撃メニューへ切り替え。
用具と環境:自重・チューブ・軽ダンベルの安全条件
- チューブは破損チェック、固定点は安定した柱に。
- ダンベルは片手2〜6kg程度から。手が滑らないグリップ。
- 床は滑りにくく、周囲1.5mの安全スペースを確保。
全体像:サッカー中学生の筋トレメニュー 安全・成長期対応の週3プラン
各セッションの流れ(ウォームアップ→メイン→補強→クールダウン)
- ウォームアップ(15分):RAMP法で動作準備
- メイン(25〜30分):その日の重点(下半身/体幹・上半身/弾性)
- 補強(10分):弱点補強・足部・バランス
- クールダウン(5分):呼吸・軽いストレッチ
試合週と非試合週の負荷調整
- 試合2日前:下半身の高負荷・ジャンプは避ける(技術中心)
- 試合前日:可動域・軽い活性化のみ
- 非試合週:Day1・Day3のボリュームを通常に戻す
デロード(軽めの週)の入れ方と判断基準
- 4週ごとに1週、総ボリュームを60〜70%に
- RPEを1段階下げ、ジャンプ回数も半分
- 睡眠不足・授業や部活の疲労が強いときも臨時デロード
ウォームアップ:RAMP法で15分の質を高める
Raise:体温を上げる(ジョグ・スキップ・シャッフル)
- 軽いジョグ1分→サイドシャッフル30秒→スキップ30秒×2周
Activate:臀筋・体幹・足部の活性化
- ミニバンド・ラテラルウォーク×10歩×2
- グルートブリッジ×10
- 足趾グー・チョキ・パー各10秒
Mobilize:股関節・足首・胸椎の動的可動域向上
- ワールドグレイテストストレッチ×左右各3
- 足首ロッキング(膝つま先前へ)×左右10
- 胸椎回旋(四つ這い)×左右8
Potentiate:スクワット・ランジ・加速の動作リハーサル
- テンポスクワット(3秒下ろす)×6
- リバースランジ×左右5
- スタンディングスタート10m×2(70%の強度)
週3メニュー詳細(60分×3回)
Day1 下半身+加速(スクワット系・ヒンジ・短距離加速)
- ゴブレットスクワット 3セット×8〜10回(RPE6〜7)
- RDL(軽ダンベル or チューブ) 3×8(股関節を引く感覚)
- ステップアップ(膝下の台) 2×8/脚
- カーフレイズ 3×12(トップで1秒止め)
- 10m加速 4〜6本(フォーム最優先、完全回復)
Day2 体幹+上半身+方向転換(プランク・プッシュ・ロウ・コーディネーション)
- プランク(肘) 3×20〜30秒
- プッシュアップ 3×6〜10(膝つき可)
- チューブロウ or オーストラリアンロウ 3×8〜12
- パロフプレス(チューブ) 2×8/側
- 方向転換ドリル(90°カット歩速→小走り) 3×20m
Day3 弾性系(ジャンプ)+片脚安定+ハムストリングス(ノルディック準備)
- ポゴジャンプ(つま先弾み) 3×15〜20回(静かな着地)
- スナップダウン→スティック(着地保持2秒) 3×5
- シングルレッグRDL(自重) 2×8/脚
- ハムストリングス・ヒールスライド(タオル) 3×6〜8
- サイドプランク 2×20秒/側
器具なし・自宅版の代替メニュー
- ゴブレット→バックパックスクワット
- RDL→ヒップヒンジ(壁タッチ)
- ロウ→タオルアイソメトリックロウ(引き合い10秒×5)
- チューブ系→自重アイソメトリクス(パロフは横向きプランクで代替)
ビギナー/中級者の回数・セット・休息ガイド
- ビギナー:2〜3セット、8〜10回、休息60〜90秒、RPE6
- 中級者:3〜4セット、8〜12回、休息60秒、RPE7〜8(フォーム完璧が条件)
エクササイズ解説とフォームの要点
スクワット(自重→ゴブレット):膝と股関節の協調
- 足幅は肩幅、つま先はやや外。膝はつま先と同じ向き。
- 胸は上、骨盤は過度に前傾・後傾しない。
- 下降3秒→下で止めずにスムーズに上がる。
ヒップヒンジ(RDL/ヒップスラスト):腰を反らないコツ
- 肋骨を軽く下げるイメージで背中をまっすぐ。
- お尻を後ろに引き、膝は少し曲げたまま。
- もも裏に伸び感、腰に痛みが出ない範囲で可動。
ランジ・ステップアップ:片脚の安定を育てる
- 前脚の土踏まずを潰さない。膝は内側に入れない。
- 上体は前に倒れすぎず、骨盤は正面。
カーフレイズと足部トレ(アーチ・足趾の使い方)
- 母趾球・小趾球・踵の三点を意識して押す。
- トップで1秒止め、下ろしはゆっくり。
ハムストリングス(スライダー/ノルディック準備ドリル)
- ヒールスライドはお尻を落とさず一直線を保つ。
- ノルディック本番は急がず、まずは斜度を浅く・可動を小さく。
プッシュ(プッシュアップ):肩甲帯の安定
- 手は肩幅、肘は45°目安。体は一直線。
- 下で胸が床に触れるギリギリまでコントロール。
プル(オーストラリアンロウ/チューブロウ):猫背対策
- 引く前に肩甲骨を軽く寄せて下げる。
- 肘は体側を通す。首は長く保つ。
体幹(アンチエクステンション/アンチローテーション)
- プランクは腰が反らない高さで。呼吸は止めない。
- パロフプレスは骨盤・胸郭を正面に固定して押し出す。
プライオメトリクスの安全導入(着地技術と段階)
- 静かな着地=正解のサイン。膝・股関節を一緒に曲げる。
- 段階:スナップダウン→ドロップ着地→小さな連続ジャンプ。
スプリント基礎:10m加速の姿勢・ピッチ・地面反力イメージ
- 前傾を保ち、足は体のやや後ろで地面を押す。
- 短い接地で“押して離す”。腕振りでリズムを作る。
成長期のケガ予防ガイド
オスグッド・シーバー病の早期サインと対応
- オスグッド(膝下の出っ張りの痛み・腫れ)、シーバー(踵の痛み)
- 対応:ジャンプ・ダッシュ量を一時的に減らす、アイソメトリック(壁座り20秒×5、カーフアイソ10秒×5)に置換。
ハムストリングス肉離れ予防:ヒンジと伸張性強化の両輪
- 週2回のヒンジ+伸張性ドリル(ヒールスライド、ハムブリッジ)
- スプリント再開は痛みゼロ・左右差なし・片脚RDLが安定してから。
足首捻挫の再発予防(バランス・エバージョン強化)
- 片脚バランス(目線正面)30秒×2/脚
- チューブで外反(エバージョン) 2×12
痛みがある日の置き換えメニュー(低衝撃・ROM中心)
- 自転車 or エアロバイク10分(軽め)
- 股関節・足首モビリティ、体幹アイソメトリック中心
12週間の進め方:漸進と習慣化
4週間×3ブロックの目安(基礎→発展→統合)
- 1〜4週:フォーム作り(RPE6)
- 5〜8週:回数増 or 負荷微増(RPE7)
- 9〜12週:複合ドリル追加(RPE7〜8、疲労管理を最優先)
反復・セット・休息の調整ルール(RPE6〜8中心)
- 楽に感じたら翌週+1〜2回、または+0.5〜1kg(安全範囲)
- フォームが崩れたら即座に回数を減らす or 終了
記録シートと自己評価(フォーム・疲労・睡眠)
- 今日のRPE、回数、痛みの有無、睡眠時間(目標8〜10時間)をメモ
競技スケジュールに合わせた調整術
試合前後48時間の負荷管理(ピーキングと回復)
- 試合−48h:下半身高強度は避ける、RPE6中心
- 試合−24h:モビリティ+短い加速の感触出し
- 試合+24h:ウォーク、呼吸、可動域回復
定期テスト期間の30分ショート版テンプレ
- WU 5分→メイン2種目(スクワット+ロウ)各2×10→体幹2×20秒→モビリティで終了
オフシーズン/インシーズンの違いと優先順位
- オフ:筋力・可動域の底上げ(ボリューム多め)
- イン:維持とケガ予防(ボリューム控えめ、質重視)
リカバリーと生活習慣の基本
睡眠・朝食・水分補給のベースライン
- 睡眠は8〜10時間、起床就寝を一定に
- 朝食は主食+たんぱく質+果物 or 乳製品
- 運動前後でこまめに水分補給
たんぱく質・カルシウム・エネルギー摂取の目安
- たんぱく質:体重1kgあたり約1.2〜1.6g/日(例:50kg→60〜80g)
- カルシウム:乳製品・小魚・青菜などを毎日
- 十分なエネルギー摂取は成長と回復の土台
ストレッチ・セルフケア・入浴のタイミング
- 運動後:静的ストレッチ10分
- 入浴:就寝90分前までに済ませ、深部体温を下げて眠りやすく
よくある誤解と失敗例
重さ至上主義にならない(フォームが最優先)
回数を伸ばす前に動画でフォームを確認。軽くても正確なら実力です。
体幹=腹筋だけではない(抗運動の考え方)
反る・ねじる・横に倒す「動きに抵抗する」練習がプレーの安定に直結します。
反動・反復のやりすぎで関節を痛めるケース
反動を使うと関節に偏ったストレス。テンポ(下ろし3秒)でコントロールを。
SNSの派手メニューを真似しない理由
難度とリスクが高いものが多いです。段階を踏めば十分伸びます。
チェックリストとコミュニケーション
セッション前チェックリスト(睡眠/痛み/疲労度)
- 睡眠7時間以上/食事は済んだ?
- 膝・踵・腰に痛みはない?
- 今日の体調スコア(1〜5)=3未満なら軽めに
セッション後の振り返り3問(達成・難度・痛み)
- 1. できたことは? 2. 難しかった点は? 3. 痛みや違和感は?
保護者・コーチと共有したい進捗と注意点
- RPE・回数の推移、痛みの有無、試合前後の疲労度
ミニマム装備と家トレ環境の作り方
ミニバンド・スライダー・軽ダンベルの選び方
- ミニバンド:薄い〜中強度を2枚。切れ目がないかチェック。
- スライダー:タオルで代用可(床との相性を確認)。
- ダンベル:片手2〜6kgから。段階的に上げる。
床・照明・換気・安全スペースの基準
- 滑らない床、十分な明るさ、1.5m以上の空間、換気を確保。
片付けルールと習慣化の工夫
- 開始5分前に準備・終了5分で片付け。曜日・時間を固定してルーティン化。
Q&A:成長期の筋トレでよくある質問
筋トレで背は伸びなくなる?
適切なフォーム・負荷管理・休養が守られていれば、その心配は一般的には不要です。痛みを無視する、過度な高重量など“不適切”な方法を避けましょう。
いつからダンベルを使っていい?
自重で正確なフォームが安定してから。目安はスクワットとヒンジでRPE6・10回×3セットを余裕をもってできること。最初は片手2〜4kg程度でOK。
体重が軽くても当たり負けしない方法は?
股関節主導のヒンジ、片脚安定、体幹のアンチ系(反らない・ねじれない)が鍵。体重を増やす前に「力を地面に伝える技術」を身につけると効果的です。
まとめと次のアクション
まず2週間やってみるチェックポイント
- 痛みゼロ・フォーム安定が最優先
- RPE6中心、動画で自己確認
- 記録を取り、睡眠と食事を整える
次に強化するならこの3種目(スクワット・ヒンジ・プランク)
- スクワット:下半身の土台づくり
- ヒンジ:スプリント・方向転換の原動力
- プランク:キックと接触に強い体幹
無理せず継続するコツ(習慣化・目標設定・記録)
- 曜日固定の週3枠を先にカレンダーに入れる
- 目標は「正確な10回×3」をまず達成、次に+1回
- 小さな進歩を記録し、月1でデロードを忘れない
サッカー中学生の筋トレメニューは、「安全・成長期対応」が軸です。週3プランを無理なく回し、試合と学校生活にフィットさせながら、着実に強く・速く・しなやかに。まずは今日、フォームを整えるところから始めましょう。
