本記事の狙いと読み方

記事のゴール

ゴールは3つです。1つ目、CBの対人守備に必要な「原理原則」を理解する。2つ目、迷いを減らすための「立ち位置と距離感の基準」を持つ。3つ目、プレー前後に振り返るための「判断基準とチェックリスト」を手に入れる。読みながら、自分の試合映像や次の練習を具体的に想像してみてください。

対人守備の定義

ここでの「対人守備」は、1vs1の局面そのものだけでなく、相手FWや中盤に対して主導権を握るための立ち位置・距離・身体の向きのコントロールを含みます。奪う・止める・遅らせる・進路を限定するなど、相手の選択肢を減らす一連の働きの総称と捉えてください。

活用方法（練習・観戦・指導）

• 練習：今日のテーマを1つに絞り、基準（距離・角度・声）を数値化。
• 観戦：自分やチームの「初動（0.5秒）」に注目。遅らせたか、勝負したか。
• 指導：原則→基準→例外の順で伝える。映像の静止画で「立ち位置の線引き」を確認。

CBの役割の全体像

最終ラインの責任範囲

CBの守備は「最後に止める人」ではなく「最初に危険を減らす人」。中央のゴール前を最優先に、左右へのカバー、背後のスペース管理、クロス対応、ラインコントロールまでが責任範囲です。ボールの位置と味方の枚数に応じて、担当を素早く切り替えます。

チャレンジ＆カバーの原則

一人がボール保持者や受け手に寄せ（チャレンジ）、もう一人が背後とこぼれ球を守る（カバー）。この二人の距離はおおよそ6〜10mを目安に、相手の速度と味方の圧力で調整します。どちらがどちらかを事前に決めすぎず、ボールの移動中に声で確定させるのが現実的です。

リスク管理の優先順位

• 最優先：中央のゴール前（シュートコース／スルーパス）
• 次点：背後のスペース（裏抜け）
• 三番手：サイドの前進（遅らせればOK）

この順番を共有しているだけで、迷いとズレは激減します。

ボール・人・スペースの三原則

守備判断は「ボール（今ある危険）・人（次の危険）・スペース（起こり得る危険）」の3つで整理。ボールへ寄せるのか、人をマークするのか、スペースを消すのかを0.5秒で選び、切り替え続けます。

対人守備の原理原則

まずゴールを守る

ゴール方向とシュートコースを消す身体の向きが最優先。相手を外側へ追い出す軌道で下がり、中央を通す選択を最小化します。シュートブロックは軸足の前に面を作るイメージで、むやみに足を投げないこと。

前進させない・前向きにさせない

相手に前を向かれると選択肢が増えます。受け手がいるなら背中から軽く圧をかけ、体を乗り越えられない距離でバウンドを待つ。ボール保持者には外足でのタッチを誘い、ライン際へ誘導します。

優先順位（遅らせる→奪う）

数的不利や広いスペースではまず「遅らせ」。時間を作って仲間を戻します。数的同数〜優位、かつ相手のタッチが大きい瞬間に「奪う」。奪う前提の寄せはファウルや背後露出のリスクが高いので、スイッチの基準を決めておきましょう。

身体の向きとステアリング

「半身」で構え、片方のコースを意図的に開けて誘導（ステアリング）。踏み替えの回数を減らし、重心を低く。相手の利き足側を閉じ、弱い側へ流すと奪取確率が上がります。

立ち位置と距離感の基準

基本の間合い（侵入距離の管理）

相手の加速1歩目に対して、こちらが2歩以内で触れる距離が理想。遠すぎると前進を許し、近すぎると一発で外されます。自分の初速と相手の初速で微調整しましょう。

縦ズレ・横ズレの幅

CB同士の縦ズレは1〜3m、横ズレはボールサイドCBが半歩前、逆CBは半歩後ろが基本。MFとのライン間距離は8〜12mが目安。これで楔（くさび）と裏の両方に反応できます。

ハーフスペースとサイドの位置取り

ボールサイドのハーフスペースは「待つ位置」。内側を閉じながら、外へ誘導できる角度で立ちます。サイドに出たらSBが出るまで遅らせ、内側のカバーを最優先。中を閉じる手順を崩さないことが肝心です。

3〜5m／1.5〜2mの目安

• 受け手に対する予防的距離：3〜5m（前向きにさせない）
• 勝負距離：1.5〜2m（触れる／ブロックできる）

相手のトラップ方向で距離を一段階詰めるかキープするかを決めます。数値はあくまで目安で、相手の速度・自分の加速で前後させましょう。

バックステップとアプローチ角度

真後ろに下がると一発で外されやすいので、内側を閉じる斜めのバックステップで距離を管理。アプローチは外切り70％、内切り30％の意識。相手の利き足・味方の位置で逆も使い分けます。

判断基準のフレーム

相手・味方・ボール・スペースの四象限

見る順番を固定します。1ボール、2相手（危険な人）、3スペース（背後/逆サイド）、4味方（数と距離）。この順で0.5秒でスキャン。優先対象を常にアップデートします。

スキャンと情報更新のタイミング

• 相手のトラップ前（体の向き）
• ボールが離れた瞬間（次の受け手）
• 自分の歩幅を変える時（寄せ/下がる切替）

視線はボール“だけ”を追わず、周辺視で受け手を捉える癖を。

仕掛ける／遅らせるの分岐

• 仕掛ける条件：数的優位、相手の視線が下、タッチが大きい、味方のカバー確保。
• 遅らせる条件：劣勢、広いスペース、相手が前向き、味方の整列待ち。

迷ったら遅らせる。全体の失点確率を下げる選択です。

ファウルマネジメント

止めるための軽いファウルと、カードやPKに直結するファウルは別物。ユニフォームを一瞬「ピン」と引いて減速させる、腕で幅を作るなど、危険を最小化する技術を持ちましょう。背後からの足掛けは避け、正面で体を当ててコースを切ります。

局面別の対人対応（1vs1）

前向きで受けられそうな場面

背中の情報を取りながら、受け手に対して斜め前に立ち、内側を封鎖。楔が入る瞬間に前へ半歩アタックし、前向きの一歩を遅らせます。二人目の到着時間を稼ぐのが目的です。

背を向けた相手への制限

無理に体を入れ替えに行かず、ボールと相手の間に「壁」を作る感覚。外足でのターンを誘い、サイドへ押し出します。相手が体を開く瞬間に、片足（遠い足）でボールへ触る余地を準備。

サイドでの孤立対応

1vs1で孤立したら、縦を切るか内を切るかを即決。基本は内切り（中央優先）。相手が縦へ行く力が強いなら、二人目が戻る時間を稼ぎながら縦を遅らせます。倒しきらず、並走して角度を奪うのが安全です。

中央バイタルの遮断

シュートコースの面を作り、パスコースには足ではなく体でブロック。相手の利き足側に一段階寄ると、ミドルの選択を減らせます。飛び込まず、軸足前に手を添えて体の接触を先に作るのが安定。

ペナルティエリア内の駆け引き

足は出さない、体で動線を塞ぐ。クロスに対しては「ボール＜人」の順で確認。自分の被る相手の肩・胸に先に触れ、ジャンプの主導権を奪いましょう。手は背中ではなく腕の外側に置いて幅を作ると反則リスクが下がります。

空中戦とクロス対応

体の当て方とジャンプ準備

ジャンプは助走よりも「踏み切りの質」。相手より0.2秒早く地面を押し、腕で空中の幅を確保。接触はボールの落下点に入る直前に胸で軽くヒットし、後跳ねを防ぎます。

ボール・人・ゾーンの優先度

ニアゾーンはボール優先、中央は人優先、ファーは状況で選択。ゾーンで立つ選手は背後のランナーを常にカウントし、視線をボール→人→ボールの順で切り替えます。

セカンドボールの設計

ヘディングのクリア方向は外・高・長が基本。味方の二列目が拾える場所へ落とす意識を持ち、ペナルティアーク前に1枚立てる習慣を。CB同士で「誰が競り、誰がセカンド」を明確に。

ニア／ファーの守り分け

ニアは一歩目勝負。前に出る姿勢でスペースを先取り。ファーは相手の背中側に立ち、クロスが上がる直前に内側へ入り込み、ランニングジャンプで上に乗られない位置を確保します。

ラインコントロールと背後管理

オフサイドラインの操作

押し上げはGKの準備と味方の圧力が条件。サイドに出たボールにはラインアップ、中央に入ったら安全にドロップ。全員が同じトリガーで動くことが重要です。

裏抜けへの予防と対応

予防は肩の向きとスタート位置。相手の肩より半歩内側、斜め後ろに立ち、縦パスの出どころにプレッシャーがない時はラインを下げておく。出た後は並走し、GKとの分担で角度を消します。

GKとの連携距離

GKとCBの距離は12〜18mが目安。スルーパスのボールにGKが出られる範囲を保ちます。背後に流れたらGKコール、残るならCBコールなど、短い言葉で役割を固定。

押し上げ／下げのトリガー

• 押し上げ：相手が後ろ向き、横パス、味方が数的優位、ロングボールの出どころに圧。
• 下げ：相手が前向き、無圧の配球者、スプリンターの走り出し、味方の一人が出遅れ。

カバーリングとスライド

チャレンジャーの背中の保護

一人が出た瞬間、もう一人は背中と斜め裏を守る位置へ。背後のスルー、ワンツー、リターンの全てに触れる角度をとります。視線はボールと人を交互に。

シャドウカバーと二枚目の奪取

直線上に立つとパスを通されるので、受け手の背後に影のように立つ「シャドウカバー」。跳ね返ったボールを二枚目で奪う準備を、半身でいつでも前へ出られる形で整えます。

サイドバックの裏の管理

SBが出たらCBはハーフスペースを埋め、背後のランニングを追尾。相手WGとSBの入れ替わりに惑わされず、危険度で優先順位を決めます。

逆サイドCBの準備

ボールサイドが出たら、逆CBは中央を締めつつ半歩ドロップ。サイドチェンジに対して中→外の順で対応。ペナルティスポット前の守備を空けないこと。

タイプ別FWへの対策

ターゲットマンへの対応

競り合いは早めの体当てと、相手の踏み切り足を制限。ジャンプ前に胸で接触を作り、頭を自由にさせない。落下点を味方に落とさせる誘導が効果的です。

裏抜け型の管理

走り出しの初動を見逃さない。身体の向きを半身で後ろへ作り、相手が加速した瞬間に同時スタート。ラインを無理に維持せず、GKと分担して角度を消します。

ドリブラーの制限

利き足を切り、弱い足側へステアリング。接触を嫌がるタイプには早い圧、当たりに強いタイプには遅らせと二人目で対応。股抜き対策は内側の足を引き、面でブロック。

偽9番・降りるFWへの対処

つられて出過ぎない。受け渡しを中盤と事前に決め、ライン間に降りたら「背中の人」を優先して捕まえる。前が空くなら、逆CBがカバーを強めます。

ポストプレーヤーとの駆け引き

背負われたら体を密着、ボールが離れた瞬間に前へ差し込んでインターセプト。反転を許さず、パスの角度を限定します。

ボール奪取の技術

タックルとブロックの使い分け

タックルは「触れる確信」がある時だけ。基本はブロックで進路を塞ぎ、相手のタッチに合わせて足を差し入れる。倒れず、次のプレーに残るのが上級の守りです。

インターセプトの条件

出どころに無圧、受け手が視線を外に向ける、パススピードが弱い、カバーが確保。四つのうち二つ以上そろったら狙い目。外した時の背後ケアを同時に準備。

身体接触の質（ヒット／ピン）

ヒット＝相手の動きを止める接触、ピン＝位置を固定する接触。ヒットはボールが離れた瞬間、ピンはクロス前のポジショニングで使い分けます。反則にしない手の置き方を身につけましょう。

足の出しどころとリスク管理

遠い足で刺す、近い足で支える。股の間は最終手段。ペナ内は「面」でブロックし、転ばない守備で事故を減らします。

フィジカルとスキルの鍛え方

俊敏性と初速の強化

5〜10mのショートスプリント、リアクションダッシュ、ラダーで足の回転を高める。週2回、合計10〜15分でも効果は出ます。

方向転換とヒップワーク

シャッフル→クロスステップ→バックステップの連続ドリル。股関節の可動域を広げ、低い重心での切り返しを反復。

コンタクト強度の養成

メディシンボールの胸パス、片足スクワット、相撲スタンスの押し合い。接触に負けない「体の芯」を作ります。

頸部・空中戦の筋力づくり

ネックブリッジの軽負荷版、等尺性の首トレ。ジャンプ前に肩甲帯を固める意識で、空中での安定感が増します。

メンタルとコミュニケーション

予測力と落ち着き

予測は「次の一手を3つ」用意する習慣から。落ち着きは「呼吸」から。1プレーごとに鼻から吸って口から吐くリズムを整えると意思決定が安定します。

合図と言語化のルール

• 押し上げ＝「アップ」
• 下げ＝「ドロップ」
• 入れ替わり＝「スイッチ」
• キーパー処理＝「キーパー」

短く、統一した言葉で。先に言った方が主導権を取れます。

キャプテンシーと秩序づくり

最終ラインは小さなリーダーが二人必要。ボールサイドが瞬間の指示、逆サイドが全体の整列を担当。役割を事前に決めておくと混乱が減ります。

ミス後のリセット術

ミスは起こる前提。手を叩く、視線を上げて次の相手を指差す、短い合言葉を使うなど、行動で切り替えを作りましょう。

トランジション（奪われた／奪った直後）

ネガトラでの遅らせの徹底

奪われた瞬間の最初の2秒は遅らせ優先。ファウルに依存せず、進行方向と前向きを消す。内へ通さない角度での並走が安全です。

ポジトラの即時前進と安全選択

奪った直後は安全に前進。サイドへ出す、背後へクリア、キーパーへ戻すなど、リスクを管理。無理な中央は避けます。

ファウル戦術の線引き

止める必要がある場面はあるものの、位置とタイミングを厳選。ハーフウェー付近で背後カバーがある、カウンターの芽を摘む時に限定。カードとセットで考えます。

セットプレー守備の基本

マンマーク・ゾーン・ハイブリッド

マンは人への集中、ゾーンはスペースへの集中。現場ではハイブリッドが主流です。役割を固定しておくと迷いが減ります。

スクリーン対策とポジショニング

ブロック（スクリーン）には「外側から回る」「先に触る」「相手と自分の間を狭める」で対応。助走をつぶされない位置取りを準備。

セカンドボール対応の配置

ペナルティアーク、ニア外、ファー外に1枚ずつ。クリアの方向と連動して人を置くと回収率が上がります。

よくあるミスと修正ポイント

突っ込み過ぎの是正

足から行く癖は「半歩我慢」で改善。タッチを見てから動く、体から当てるを徹底。

間合いの一定化を避ける

常に同じ距離だと読まれます。1.5m→2.5m→1.5mと強弱をつけて、相手のタッチを崩します。

背後無警戒の防止

スキャン不足が原因。3秒に1回、必ず背後と逆サイドを確認するルール化を。

ファウルの質を高める

後ろからの接触は避け、正面でスピードを落とす。腕は広げず、体の幅で止めるとカードリスクが減ります。

クリアの方向性

中央へは出さない。タッチライン外、高く、長く。味方が拾える方向へ送る意識を持ちましょう。

練習メニュー例とチェックリスト

1vs1制限付きドリル

10×15mのグリッド。攻撃は3タッチ以内、守備は外へ誘導の制限付き。寄せる角度と距離を数値で確認します。

2vs2＋フリーマンのカバー練習

中央にフリーマン（中盤役）を置き、CBのチャレンジ＆カバーを反復。出る・残るの声を短く統一。

クロス対応の波状トレーニング

左右から交互にクロス。ニア→中央→ファーの順で役割を入れ替え、セカンド回収までセットで行います。

個人チェックリスト（試合前後）

• 試合前：声のキーワード、オフサイドラインの基準、利き足の把握。
• ハーフ：裏抜けの回数、前を向かれた回数、セカンド回収率。
• 試合後：仕掛けた成功/失敗、遅らせた場面の結果、ファウルの質。

映像分析の見方

トリガーと予備動作の抽出

相手の配球前の視線、踏み替え、利き足の作り方などの「予備動作」を切り出してメモ。自分の初動が合っていたかを確認します。

失点の原因連鎖の特定

失点は一つのミスではなく連鎖。最初の遅れ、ライン間の距離、二人目の到着、ブロックの面までを時系列で追い、どこで止められたかを特定します。

個人とユニットの評価軸

• 個人：距離・角度・身体の向き・声・初動の方向。
• ユニット：チャレンジ＆カバーの距離、ラインの上下、クロス時の役割分担。

年代・レベル別の押さえどころ

高校年代の重点ポイント

間合いと身体の向きの基礎徹底、背後管理の声掛け、ファウルの質。走力差が出やすいので、遅らせの意思決定を最優先に。

大学・社会人での差分

ラインコントロールとセットプレー精度が勝敗を左右。映像での自己分析と、相手のタイプ別対策の引き出しを増やしましょう。

指導者が見るべき指標

「前を向かせた回数」「裏抜けを許した前提条件」「二人目の距離」「クリア方向の妥当性」。結果より過程の再現性を評価軸に。

家庭でのサポート方法

試合後の責めない会話、短時間の映像振り返り、睡眠・食事・首回りのケア。継続できる環境づくりが最大の後押しです。

まとめと次のアクション

今日から実践できる3点

• 距離の基準：予防3〜5m、勝負1.5〜2mを声に出して意識づけ。
• 角度の基準：内を閉じ、外へステアリング。半身で構える。
• 声の基準：アップ／ドロップ／スイッチ／キーパーを統一。

練習への落とし込み手順

1. 原則の共有（5分）：優先順位と距離・角度。
2. 制限付きドリル（15分）：1vs1と2vs2。
3. 局面再現（15分）：クロス・裏抜け・バイタル。
4. ゲーム（20分）：合図の言語化と映像メモ。

参考指標の記録法

「前を向かせた回数／防いだ回数」「裏抜け対応の成功率」「セカンド回収率」「ファウルの質（位置・カード）」。試合ごとに簡単に記録して、次の練習テーマを決めましょう。

あとがき

CBの対人守備は「才能」より「基準の共有」と「小さな積み重ね」で大きく伸びます。距離・角度・声。この3つを揃えるだけで、失点の確率は確実に下がります。今日の練習から一つだけでも取り入れて、次の試合で手応えを感じてください。継続が、最強の武器です。