「オフサイド」と聞くと、なんとなく難しそう……そんな印象はありませんか?実は、審判がどこを見て、どんな順序で考えているかを知れば、モヤモヤは一気に減ります。この記事は“審判目線”で、オフサイドと呼ばれがちな「戻りオフサイド」までをやさしく解説。選手もコーチも保護者も、同じ言葉で同じイメージを持てるようにまとめました。練習や試合で今日から使える具体例とチェックリストも用意しています。ルールを味方にして、プレーの選択肢と勝率を上げていきましょう。
目次
はじめに:オフサイド・戻りオフサイドを審判目線で学ぶ理由
なぜプレーヤーも審判の視点を持つべきか
オフサイドは「見る順番」と「言葉の定義」がすべてです。審判がどの順に確認し、どの言葉で整理しているかを知っておくと、判定が腑に落ちます。結果として、無駄な抗議が減り、プレーに集中できます。
ルール理解が判断・ポジショニングに与える効果
フォワードは「触らずとも影響になる距離感」を知れば、戻るルートの最適解が見つかります。ディフェンダーは「意図的プレーの判定軸」を理解すると、無理なクリアで相手をオンに戻してしまうリスクを下げられます。中盤は縦パス後の“再関与”のライン取りが速くなります。
この記事の読み方と到達目標
まずは骨子(定義)→次に「戻り」の境界→審判のチェックポイント→具体例→実戦の動き方→誤解の整理。読み終わる頃には、オフサイドを自信を持って説明・指導できる状態を目指します。
オフサイドの基本:まずはルールの骨子を正確に
オフサイドポジションの定義(位置の要件)
次のすべてを満たすと「オフサイドポジション」にいます。
- 相手陣内にいる(自陣ではオフサイドになりません)
- ボールより前にいる
- 相手の「第2の守備者」より前にいる
体のどの部分で数えるかは「手・腕以外の頭・胴体・足」。同じく守備者側も手・腕は数えません。
反則が成立する三要素:位置・タイミング・関与
反則は「ポジション(位置)」「タイミング(味方がボールに触れた瞬間)」「関与(相手やプレーへの影響)」の三拍子が揃ったときだけ成立します。オフサイドポジションにいるだけでは反則ではありません。
「攻撃側の第2の守備者」とは誰か
基本は「後ろから2番目の守備者」。ゴールキーパーが含まれることもあれば、含まれないこともあります。キーパーが前に出ていれば、フィールドプレーヤー2人が基準になることもあります。
同列はオンとされる理由
オフサイドは「前にいる」ことが条件。同列(同一線上)は“前ではない”ためオン(反則なし)です。グラウンドではミリ単位の差が出ますが、原則はこの考え方です。
IFAB競技規則第11条の要旨(用語と考え方)
- 関与は大きく3つ:プレーへの関与(ボールをプレー/触れる)、相手への干渉(視界や動きを妨げる等)、リバウンドなどからの利得(ポスト・守備者からのこぼれ等)
- 守備側の「意図的なプレー」があると、オフサイドの状況がリセットされることがある
- ただし「セーブ(ゴールを防ぐプレー)」はリセットになりません
戻りオフサイドとは何か:用語の正しい捉え方
「戻りオフサイド」は公式用語ではない
「戻りオフサイド」は俗称です。公式には「オフサイドポジションからプレーに関与したか」を判断します。戻っていようが、立ち止まっていようが、関与があれば反則になり得ます。
戻っても反則が成立する/しない境界線
- 成立:戻りながら相手の視界を遮る、競り合いを試みる、ボールをプレーしようとする
- 不成立:戻りながらもプレーに関与せず、相手にも影響を与えない(距離・角度・動線が独立している)
関与がなければ反則ではないケース
オフサイドポジションにいた選手がスプリントで自陣方向に戻り、ボールにも相手にも近づかない場合、反則は取られません。審判は「距離」「角度」「視界」「守備者の意思決定への影響」を総合して見ています。
戻りながらの動きが影響を与えるケース
ボールに触れなくても、GKの視線上を横切る、DFのクリアコースに入る、チャレンジを匂わせてDFの選択を変えさせる――こうした「相手への干渉」は反則です。
審判が実際に見ているチェックポイント
副審の視線:タイミングと最終ラインの同時確認
副審は「ボールが味方に触れる瞬間」と「第2の守備者のライン」を同時に見る訓練をしています。フラッグは“関与が確定した”タイミングで上がります。
接触の有無よりも「関与」を優先して判定
触ったかどうかは一要素。重要なのは「相手のプレーに影響を与えたか」。視界の遮り、動きの妨害、チャレンジの試みも含まれます。
守備側の「意図的なプレー」と「跳ね返り(ディフレクション)」の区別
意図的なプレー=ボールに向けた明確な試みと、ある程度のコントロールが伴うアクション。単なる当たり(ディフレクション)や予期せぬ跳ね返りではリセットされません。
ゴールキーパーのセーブ(save)に関する扱い
枠内シュートやそれに準ずる防ぐ行為は「セーブ」。セーブはリセットにならず、元のオフサイド状況が継続します。
審判チームの役割分担と合図(フラッグワーク)
副審がオフサイドを示し、主審が全体の干渉レベルを最終確認します。競技レベルにより無線・アイコンタクトの使い方が変わります。
具体例で理解する:よく起きる判定シナリオ
例1:戻りながらボールを避けたが守備者の視界を妨げた
戻っていても、GKの視線上に位置しシュート軌道を遮る形なら「相手への干渉」で反則。
例2:戻りながらボールを追ってチャレンジを試みた
触れなくても、チャレンジの試み自体で干渉と判断されることがあります。DFが進路変更を余儀なくされたら要注意。
例3:守備者に当たってこぼれたボール(ディフレクション)
味方のパスがDFに当たってこぼれ、オフサイド位置の選手が拾う。単なる当たりならオフサイド成立。
例4:守備者の意図的なプレーで方向転換した場合
DFが明確にコントロールを試みたヘディングで方向を変えた場合などはリセットの可能性。ミスコントロールでも「意図的」ならオンに戻ることがあります。
例5:GKのセーブ後のリバウンドに関与した場合
セーブはリセットにならないため、最初のパス時にオフサイドだった選手がリバウンドを押し込むと反則です。
例6:味方が触れた後に再関与したフォワード
最初にオフサイドだった選手が、味方の別のタッチを経ても、守備側の意図的プレーがない限り状況は継続。再び関与すると反則。
例7:クロスに対して戻る走りとライン上の駆け引き
一度ラインの裏に出た選手がクロスに合わせて戻るときは、DF・GKの視界や動線を遮らない距離を確保。ファーに流れても“匂い”を消すのがコツです。
リセットの概念:守備側のプレーでオフサイドは解消する?
意図的なプレーの判断基準(距離・体勢・視認・コントロール)
- 距離:十分に反応する時間があったか
- 体勢:バランスを保った状態でのプレーか
- 視認:ボールを見て選択できていたか
- コントロール:狙いを持ったプレーか(完全な成功は必須でない)
ヘディング、スライディング、ブロックの難しい境界
ヘディングでのクリアは、狙って当てにいったなら意図的。一方、至近距離のスパイクからの跳ね返りはディフレクション扱いになりがち。スライディングも、到達できずに当たっただけなら意図的とは言いにくいです。
トラップミスはリセットになるのか
コントロールしようとした意図が明確なら、ミスでも意図的プレーに分類されることがあります。結果より意図がポイント。
セーブはリセットにならない理由
セーブは「ゴールを防ぐ特別な行為」として区別されます。枠内へのシュートやそれに準ずるボールを止める・弾く行為は、意図的プレーではなく、状況は継続します。
ボールの軌道変化だけでは足りない場合
わずかな接触でコースが変わっても、守備者の主体的選択がなければディフレクション。リセットにはなりません。
プレーヤー別の実戦判断と動き方
フォワード:戻りの最短ルートと関与回避
- ライン裏に出たら“直角に”タッチライン側へ逃げると干渉を避けやすい
- GKの視線上(ボール—ゴールの線)は避ける
- 「触らない」「寄らない」「被らない」を合言葉に
ウイング:クロス時の二段目の動きと死角管理
一度オフに出たら、ボールラインより後ろに戻ってから二段目で侵入。ニア側に残ると視界妨害になりやすいので、ファーへのスライドが安全です。
インサイドハーフ:縦パス後のスイッチと受け直し
縦パスに合わせて一度外し、味方の落とし・折り返しで再度受け直す。関与の連鎖の“起点時刻”を意識しましょう。
ディフェンダー:ラインコントロールと「意図的プレー」のリスク
焦って足先で当てるだけのクリアはディフレクション扱いになりやすい。落ち着いて面で弾くか、はっきりタッチへ逃がす選択を統一しましょう。
ゴール前セカンドボールの危険地帯マネジメント
セーブ後のこぼれはオフサイドが残っている可能性大。マークの優先順位を「オンの選手>オフの選手」で瞬時に切り替える声がけを。
よくある誤解と正解
誤解1:「戻ればオフサイドではない」
戻っていても相手への干渉があれば反則。戻る方向は免罪符ではありません。
誤解2:「GKより後ろにいなければオン」
基準はGKではなく「第2の守備者」。GKが前に出ていれば、フィールドプレーヤー2人の位置が基準になります。
誤解3:「自陣なら絶対オフサイドにならない」
判定の瞬間(味方がボールに触れた瞬間)に自陣ならオフサイドにはなりません。そこから相手陣に入って受けても反則ではありません。
誤解4:「ボールに触れていなければ関与していない」
視界を遮る、競り合いを誘発する、進路を塞ぐなどは立派な「相手への干渉」。触らなくても反則になり得ます。
スローイン・コーナーキック・ゴールキックにおける例外
スローイン・ゴールキックではオフサイドになりません。コーナーキックも同様にオフサイドになりません。
リスタートと罰則の実務
間接フリーキックの再開位置の決まり方
- プレーへの関与(ボールをプレー/触れる):その触れた位置
- 相手への干渉:干渉が起きた位置
- 守備側ゴールエリア内なら、守備側は自陣ゴールエリア内のどこからでも再開可能
相手に干渉した場合の反則地点の考え方
視界妨害や進路妨害などは、その影響が起きた場所が反則地点になります。副審は位置修正の合図も併用します。
反スポーツ的行為が重なるケース(警告・退場の可能性)
オフサイドそのものにカードは基本ありませんが、笛後のボール蹴り出しや不用意な接触、侮辱的言動などがあれば警告・退場の対象です。
オフサイド後のプレー継続と素早い再開の注意点
守備側はボールを置いて素早く再開可能。攻撃側はボールに触れない・妨げないが鉄則。余計な接触はカードのリスクになります。
競技レベル別の運用差と現場対応
学校・少年年代で重視される安全と教育的観点
接触が増えそうな「戻り関与」には早めの笛で安全を優先。言葉での説明を丁寧にして学びにつなげます。
アマチュアカテゴリーのスピードと副審の限界
完全な同時確認は難しい場面も。事前にライン統一の声がけ(キーパー含む)を仕込んで、グレーを減らしましょう。
プロレベルとVAR:介入基準とオンフィールドレビュー
得点・PK・一発退場・選手間違いに関連する明白な誤りが介入対象。オフサイドは事実確認(位置)が中心で、干渉は主審の総合判断が尊重されます。
ラインテクノロジーがない環境でのベストプラクティス
- 副審は常に最終ラインと平行をキープ
- ベンチは「オン・オフ」のコールを整理して選手に過剰な誤情報を与えない
- キャプテン経由で冷静に確認する文化を作る
練習に取り入れる判断トレーニング
ランニングラインの矯正ドリル(戻りの習慣化)
マーカーで“オフサイドゾーン”を作り、侵入したら必ず外へ直角に抜ける→再侵入の二段動作を反復。声がけは「離れて、角度!」。
視界の妨害を避ける体の向きと間合い
シュートラインに対して身体を縦向きにし、GKとボールを結ぶ線から45度外へ。2m以上の間合いを目安に。
コーチングワードで意思統一(オン・オフ・リセット)
- 「オフ!」=今は関与しない
- 「オン!」=ラインクリア、関与OK
- 「リセット!」=守備側の意図的プレー後、再関与可の合図(判断は慎重に)
マーカーを使った「関与/非関与」の認知トレーニング
ボールライン・最終ライン・視界ラインの3本を置いて、干渉を起こさずに抜けるルート取りをゲーム形式で学びます。
試合で揉めないためのコミュニケーション術
主審・副審・第4の審判員の連携と役割確認
キックオフ前に「干渉の基準」「セーブ/意図的プレーの合図」を共有。交代や怪我対応の分担を明確に。
キャプテンへの説明の手順と用語のシンプル化
説明は「位置→タイミング→関与」の順で短く。「同列はオン」「セーブはリセットなし」などキーワードで伝えます。
保護者・観客への配慮とチーム内の共通理解
試合前のミニレクチャーや配布資料で基本語を共有。ベンチからの冷静なガイドが選手を守ります。
抗議を減らすための事前ミーティングと共有資料
週1回、動画1本+3問クイズでアップデートを確認。迷ったら「位置・タイミング・関与」に立ち返る合意を取っておきましょう。
FAQ:これもオフサイド?現場のよくある質問
なぜ「同列はオン」なのかを直感的に理解する
「前にいる」ことが条件だから。同列は“前ではない”。線上はオンです。
守備者がタッチライン外に出た場合の数え方
許可なく外に出た守備者は、原則としてオフサイドの数え方ではライン上にいるものとして扱われます(状況により懲戒の対象になることもあります)。
GK不在時の「2人目の守備者」の解釈
GKでなくてもOK。単純に後ろから2番目の守備者が基準になります。
自分のハーフで戻る動きはどう扱われるか
味方がボールに触れた瞬間に自陣なら、オフサイドにはなりません。そこからの戻りは自由ですが、相手への妨害は避けましょう。
意図的なプレーの判断で迷ったときの優先順
- セーブかどうか(セーブならリセットなし)
- 時間・距離・体勢・視認の余裕があったか
- コントロールの意思が読み取れるか
最新の競技規則アップデートを追う方法
IFABの公式資料・通達の読み方
毎年公開される競技規則と補足資料(通達・Q&A)を一次情報として確認。要旨→事例→動画の順に追うと理解が深まります。
年度改正で変わりやすいポイント(用語と解釈)
「意図的プレー」「干渉」「セーブ」の言い回しや例示が更新されることがあります。言葉の定義が変われば基準も変わります。
チームでのアップデート共有のコツ(ミニテストと動画)
5分動画+3問クイズを月1回。ポジション別に事例を変えて、実戦に置き換えます。
まとめ:審判の視点を身につければ、オフサイドは武器になる
今日から実践できる3つの行動
- 「位置・タイミング・関与」で判定を言語化する
- 戻るときは“視界ライン”から外れる(直角に抜ける)
- 守備は慌てて当てない。面で弾くか、はっきり外へ
ミスを減らすための合言葉
「同列はオン」「セーブはリセットなし」「触らずとも干渉あり」。この3つをチーム共通語に。
次の試合で試すチェックリスト
- キック直前に最終ラインを“見る癖”をつけたか
- 戻るときにGKの視線上から外れたか
- こぼれ球でオフの選手に惑わされず、オンの選手を優先マークできたか
審判目線で整理できると、オフサイドは敵ではなく味方になります。ルールの言葉と順番を揃えて、プレーの質とチームの説得力を一段上げていきましょう。
