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サッカーのハンド判定基準最新の境界線と回避術

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ゴール前のブロック、至近距離のクロス、転倒時の“支え手”――ここ数年のハンド判定は小さな差が勝敗を左右するほど繊細になりました。本記事では、競技規則(IFABの最新動向に基づく一般的な解釈)で押さえるべき“境界線”を、実戦で役立つ回避術まで落とし込みます。審判の視点に寄り添いながら、選手・指導者・保護者それぞれが今日から使える言葉とフォームに変換していきましょう。

はじめに:ハンド判定の“最新の境界線”を正しく掴む

なぜ今ハンド基準をアップデートすべきか

ハンドの取り扱いは、ここ数年で「意図があったかどうか」から「腕の位置・効果・動き」を重視する方向へ整理が進みました。特に、腕の範囲(腋の下ライン)、攻撃側の偶発的ハンドの扱い、倒れ込み時の支え手といった論点がアップデートの中心です。最新の傾向を押さえることは、無用なPKや警告を防ぐだけでなく、守備の寄せ・壁の作り方・ブロック技術の向上にも直結します。

本記事の使い方(実戦・指導・親の観点)

選手は「判断のポイント→フォーム→反復ドリル」の順で読むと実戦に落ちやすく、指導者は練習設計とチーム共通語彙づくりに活用できます。保護者は最新基準を知っておくことで、試合後の声かけが具体的になり、不要なストレスを減らせます。

ハンドの基本定義と“腕”の範囲:腋の下ラインが境界

腕の範囲=腋の下の下端を結ぶラインより下

ハンドの判定対象となる「手・腕」の範囲は、腋の下の下端を水平に結んだラインより下側です。このラインより上(肩〜上腕上部)は「肩」と解釈され、原則としてハンドにはなりません。実戦では、肩付近の接触は判定が割れやすい箇所なので、審判の視野と角度を想像して、当たった位置を冷静に説明できるようにしておきましょう。

手・腕での得点は無効(意図の有無を問わず)

攻撃側の選手が手や腕に触れたボールで直接ゴールした場合、意図の有無に関わらず得点は認められません。シュートの直前に腕に偶発的に当たったケースも同様に無効です。

ハンドの反則は原則として直接FK/PKで再開

ハンドの反則があった場所が自陣ペナルティエリア内ならPK、その他の場所なら直接フリーキックで再開します。追加の懲戒(警告・退場)は、SPA(有望な攻撃の阻止)やDOGSO(決定的機会の阻止)との関係で判断されます。

現行基準の要点まとめ:何がハンドで何がハンドではないか

“意図”よりも腕の位置と効果(体を不自然に大きくしたか)

評価の主軸は「腕の位置がプレー動作に対して自然か」「体を不自然に大きくしていないか」。肩より高い・体から大きく離れている・シュートやクロスの通り道を広げる位置は、ハンドが取られやすくなります。

手や腕がボール方向へ動いたか(動的要素)

腕がボールに向かって動いているかは重要な材料です。防御のために体幹に沿わせて畳む動きはセーフの材料になり、逆に外側へ張り出す動きはリスクを上げます。

状況に相応しい腕の位置か(プレー動作との整合性)

ジャンプ、スライディング、ターンなどの動作に“普通に伴う”腕の位置かを見ます。動作として自然でも、結果としてシュートラインを広げるほど大きく開いていれば反則になる余地があります。

攻撃側の偶発的ハンド:『直後の得点』に限定された扱い

同一選手が手・腕に当たった直後に得点なら反則

ボールが攻撃側の選手の手・腕に偶発的に触れ、その同一選手が直後に得点した場合は反則です。こぼれを自ら押し込む、腕に当たって即シュートなどが該当します。

ビルドアップ中の偶発的接触は原則不問

味方へのパスやドリブルの流れで偶発的に腕に当たっても、すぐに得点につながらなければ原則として反則ではありません。チームメイトがその後に得点しても、偶発的であれば継続されます。

“直後”の判断とリセットの目安

“直後”の目安は、明確なプレーの区切り(相手方の明確な保持、明白な新しいフェーズへの移行、はっきりしたコントロールのやり直し)でリセットされます。ワンタッチ〜数タッチの短い連続でシュートに至る場合は「直後」と見なされやすいです。

守備側のハンド判定で重視される三本柱

体を不自然に大きくしたか(腕が肩より高い/横に広い)

肩より高い位置、体から横に張り出して通過帯を塞ぐ形は、ハンドのリスクが大幅増。ブロックの瞬間に「肘を軽く曲げて体幹に沿わせる」意識が安全です。

距離と反応時間(避けられたか否か)

至近距離で避ける時間がなかった場合は、反則でない判断が出やすい一方、距離があり準備できた場面では腕の整理が求められます。寄せの角度とステップで「避けられたはず」を減らしましょう。

身体動作との合理性(ジャンプ・スライド・ターンの連動)

動作として合理的な腕の位置かは重要な材料です。例えばジャンプ時の軽いバランス取りは許容され得ますが、肩上まで広がるとアウト寄り。スライディングでは支え手の扱い(後述)がカギです。

リバウンドと至近距離:接触の“不可避性”の見極め

自分の頭・体・足→腕への跳ね返り

自分の身体からのリバウンドで腕に当たるケースは、不可避性が高ければ反則ではない判断が出やすい領域です。ただし、腕が不自然に広がっていれば反則に傾きます。

相手の至近距離シュート/クロス→腕への接触

極端な至近距離の強いシュートで、反応する余地が乏しい場合はセーフになり得ます。とはいえ、事前に腕が広がっていれば「避けられた」とされることもあるため、初期姿勢の整理が最重要です。

ボール速度・視認性・体の向きが与える影響

審判は速度、視認性(視野に入っていたか)、体の向き(背中側の不意打ちか)を総合評価します。ブロック前に上体を半身にして視認性を確保し、最後に腕を畳む習慣がリスクを下げます。

倒れ込み時の“支え手”とその例外

支え手は原則不問となり得る理由

滑り込みや転倒の際、地面に手をついて体を支える“支え手”は、自然な動作として反則にならない場合があります。バランス維持と安全の観点が考慮されるからです。

例外:体から離れて体を拡大してしまうケース

支え手が体から大きく離れ、シュートやクロスの通り道を広げてしまうと反則に傾きます。手の着地点がボールラインを塞ぐ形になっていないかを意識しましょう。

スライディング時の手の置き方と転倒フォーム

理想は、着手は体幹の真下〜やや後方、指先は外ではなく前方へ。肩幅内で肘を曲げて衝撃を吸収すると安全かつセーフの材料になります。練習で“着地ポイント”を体に覚えさせておくのがコツです。

ゴールキーパーのハンド:エリア内外と特有の注意点

ペナルティエリア内のキーパーはハンドの反則対象外

自陣ペナルティエリア内では、ゴールキーパーは手でボールを扱ってもハンドの反則にはなりません(ただし他の反則は別)。

エリア外では他のフィールドプレーヤーと同基準

エリアの外に出れば、キーパーも他の選手と同じハンド基準が適用されます。ライン上はエリア内とみなされる点も押さえましょう。

味方のスローイン・意図的バックパスへの取扱い(間接FK)

味方からのスローインをキーパーが手で扱う、または意図的なバックパスを手で扱うと反則で、間接FKが与えられます。これはハンドではなく別の技術的反則として扱われます。

VARと判定プロセス:どこに介入し、どう再開されるか

VARが介入するハンドの典型(得点・PK・退場に直結)

ゴール、PK、直接退場(DOGSOなど)に関わる明白で重大な見逃し・誤りに限定して介入します。軽微な接触や主観差の小さい事象には原則介入しません。

オンフィールドレビューで見られるポイント

OFRでは、接触位置(腋下ラインより上か下か)、腕の位置と広がり、腕がボールに向かったか、距離と反応時間、支え手の合理性などが確認されます。

再開方法・警告/退場の整理(DOGSO/SPAとの関係)

レビューでハンドが認定されれば、反則地点に応じて直接FKまたはPKで再開。DOGSOなら退場、SPAなら警告が基本線です。ハンドによるDOGSOは、原則としてペナルティエリア内でも退場の対象です。

試合シーン別“境界線”の具体例

クロスやシュートのブロック時(寄せの角度と腕位)

寄せる際は、半身でコースを限定し、最後の一歩で腕を畳む。肩より上に肘が跳ね上がるフォームは即修正。インフロントで足を伸ばし過ぎず、体幹で面を作ると腕の暴発を防げます。

守備壁の作り方(ジャンプ・手の位置・カバー役)

壁では両手を体幹前に重ねる(腹部〜胸の前)か、肘を軽く曲げ体側に沿わせるのが安全。ジャンプ時に腕が横に広がらないよう、事前に「上は頭、横はカバー役」の役割を決め、肩上に上がる腕をチームで抑制します。

競り合い・ターン・クリア時に起こりやすいグレーゾーン

競り合いではバランス取りの腕が相手の視線上に入ると危険帯。ターン時は遠心力で腕が開きやすいので肘の角度を決めておく。クリア時は踏み込みで腕が外へ張りやすく、前腕を体側に添える意識が有効です。

実戦でのハンド回避術(守備)

初期姿勢テンプレ:肘を軽く曲げて体幹に沿わせる

守備の標準姿勢は「肘90〜110度・親指を前・脇は軽く締める」。このテンプレに入っていれば、急なシュートにも腕が暴れにくく、セーフの材料になります。

距離管理と身体の向きで“見せない腕”を作る

1.5〜2mの距離で半身に構え、利き足で射線を消し、腕は体幹に沿わせる。真正面で止まるより、斜めに入りコースを限定すると、腕が当たる確率自体を下げられます。

ブロック動作の手順化:最後の0.3秒で腕を畳む

「見る→寄せる→足面を作る→腕を畳む」を合言葉に。特に最後の0.3秒で肘を体側へ滑り込ませる“畳み動作”を自動化すると、至近距離の事故を減らせます。

実戦でのハンド回避術(攻撃・ボール保持側)

“腕に当てに行く”のリスクと期待値

守備側の腕に当ててPKやFKを狙う発想は、最新基準では「至近距離でも腕が広がっていなければノーファウル」になり得るため、期待値が下がっています。無理に狙うより、コース作りとスピードで崩す方が効率的です。

カットバックとニア・ファー使い分けで判定を有利にする

低く速いカットバックは、守備の腕ではなく足元の判断を迫るため、ハンドリスクを相手に背負わせにくい一方で、こぼれを拾いやすい選択。ニアに強いボール→ファーに緩急で、腕に当てずに決定機を作れます。

ルール内での駆け引き:視線・助走・フェイクの活用

視線を外して逆を取る、助走の角度でクロス/シュートを読ませない、打ち切らずに一拍外す――これらは腕の開きを誘わずにコースを開ける駆け引きです。

トレーニングメニュー:反応とフォームでハンドを減らす

近距離リアクションドリル(視認→腕畳みの連動)

3〜5mでコーチが合図→ミニボール発射→選手は半身でコースに入り、最後の一瞬で腕を畳む。10本×3セット。合図を視覚・音声で変えて、反応の一般化を狙います。

スライディングブロックの段階練習

段階1:着手位置のみ反復。段階2:緩いパスでタイミング合わせ。段階3:実戦速度でコース封鎖。毎回、着手が肩幅内か、指先方向が前方かをチェックします。

ビデオレビューで“基準語彙”をチーム共有する

「腋下ライン」「不自然な拡大」「支え手」「反応時間」の語彙で静止画→スロー→等速の順に確認。目線合わせをするだけで、試合中の抗議や混乱が減ります。

育成年代への指導ポイント(選手・親・指導者)

恐怖心を減らす安全なブロックフォーム

顔面への恐怖で腕が跳ね上がる事故を防ぐため、顎を引き、前腕で胴体を軽くガードするフォームを反復。安全が担保されると腕は自然に落ち着きます。

『体を大きくしない腕』を習慣化する合図と言葉掛け

合図は「脇しめ・肘まげ・腕そえ」。短い言葉で統一すると、ベンチからのコーチングも一貫します。

試合後フィードバックの型(責めずに改善点を特定)

「どこで視認できた?」「最後の畳みはできた?」の二問で事実確認→次に「次はどうする?」で選手自身の解を引き出します。責めずに行動へつなげるのがポイントです。

審判とのコミュニケーションとメンタルマネジメント

落ち着いて理由を尋ねるフレーズ例

「当たった位置は腋の下より上か下か教えてください」「腕の位置が広がっていた判定ですか?」と、基準語を使って短く確認しましょう。

キャプテン経由での確認手順

主審への直接的な詰問は避け、キャプテンを通じて事実確認。感情より情報を優先し、次のプレーに備える時間を確保します。

判定が割れた後のチームメンタルの保ち方

セットプレー対応の合言葉を決めておく(例:「フェンス・マーク・セカンド」)。ルーチンに入れば、判定の揺れによるパフォーマンス低下を最小化できます。

よくある誤解Q&A(ハンド判定のグレーを減らす)

肩に当たったら必ずノーハンド?境界の見分け方

腋の下の下端ラインより上は肩扱いで、原則ハンドではありません。ただし、実戦では角度で誤認も起こるため、当たり所と軌道を落ち着いて説明できると良いです。

至近距離なら絶対セーフ?“避けられたか”の視点

至近距離でも、事前に腕が広がっていれば「避けられた」と判断されることがあります。初期姿勢と最後の畳みが最優先です。

手を後ろに組めば安全?機動力とリスクのトレードオフ

後ろ組みは一見安全ですが、重心制御とストライドが落ち、逆に被弾エリアが増えることも。基本は体幹沿い、状況により背面も選択、が実戦的です。

最新動向の追い方:毎シーズンのアップデートに備える

IFAB・JFAの公式情報の確認ポイント

毎季の競技規則改正要約と「解釈・ガイドライン」を要チェック。腕の範囲や攻撃側偶発ハンドの扱いなど、微修正が出ることがあります。

大会要項・競技規則のローカル差分チェック

大会によってはローカルな運用差がある場合も。大会要項・競技規則の付記を事前に読んで、チームで共通理解を作りましょう。

ルール改定がプレー選択に与える影響のチェックリスト

守備:壁の腕位置/寄せの角度/支え手の着地。攻撃:クロス高さ/カットバック頻度/ブロックの誘い方。年次で微調整していくのが理想です。

まとめ:境界線を知り、リスクを減らし、強みを伸ばす

守備の三原則(位置・距離・連動)のおさらい

位置=腕は体幹沿い、肩より上に出さない。距離=1.5〜2mで半身に構える。連動=最後の0.3秒で腕を畳む。この三点で多くの事故は減らせます。

試合前セルフチェックルーティン

「脇しめ・肘まげ・腕そえ」「半身・射線・足面」「最後は畳む」。ウォームアップで声に出して反復すると、本番で無意識に出ます。

一貫した練習で“無意識でも安全な腕”を作る

判定基準は毎季微調整が続きますが、「腕の位置・効果・動き」を整えるフォーム作りは普遍です。基準を知り、習慣に落とし、無駄な反則を武器に変えていきましょう。

あとがき

ハンドは「知っているだけ」で減らせる反則の代表です。境界線をチームの共通言語にして、判定に振り回されないゲーム運びを手に入れてください。次のトレーニングから、まずは“最後の0.3秒で腕を畳む”。ここから始めましょう。

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