トップ » ルール » サッカーPK戦のルールと基本|順番・先攻後攻の考え方

サッカーPK戦のルールと基本|順番・先攻後攻の考え方

カテゴリ:

リード:PK戦の「わかる」と「勝てる」は別物。ルール理解から差をつけよう

PK戦は運だけの勝負ではありません。国際サッカー評議会(IFAB)の競技規則に基づくルールを正しく理解し、順番の組み方、先攻・後攻の判断、そして当日の運用までを整えたチームほど勝率は上がります。本記事では、PK戦のルールと基本を「順番」「先攻後攻の考え方」にフォーカスして体系的に解説。現場で役立つチェックリストや練習の作り方までまとめているので、試合前の準備にも、当日の現場確認にもそのまま使えます。

PK戦の位置づけと全体像

なぜPK戦を正しく理解する必要があるか

PK戦は一発勝負の極限状況です。蹴る技術やメンタルが目立ちますが、実は「ルールの理解度」がボトルネックになります。順番の組み方、GKの足の位置、反則時のリテイク、人数調整(reduce to equate)など、細部の判断がそのまま勝敗に直結します。準備できる領域が多い分、知識の差が成果の差になりやすいのがPK戦です。

勝者を決定する方法としてのPK戦の役割

PK戦は延長戦でも決着しない場合に、迅速かつ公平に勝者を決める方法として採用されます。時間的・運営的な制約がある大会でも導入しやすく、試合全体の内容ではなく「最終的な勝者」を明確に確定できるのが強みです。一方で、流れや試合内容と切り離された勝負になるため、事前の設計力と試合運用が特に重要になります。

大会規定と競技規則(IFAB)の関係

基本はIFAB競技規則に従いますが、実際の適用は各大会規定が優先されます(例:交代枠やベンチ入り人数、VARの有無など)。本記事の内容はIFABの標準に基づいていますが、最終的には出場大会の規定を必ず確認してください。

PK戦の基本ルール(IFAB競技規則に基づく)

適用される状況:延長戦後・大会規定の定めがある場合

試合が引き分けで終了し、大会規定で「延長→なお同点ならPK戦」と定められている場合に実施されます。延長を行わずにPK戦へ直行する大会もあります。

キック数と勝敗の決し方(最初の5本+サドンデス)

原則「5人ずつ」が最初のラウンド。5人で決着がつかなければ、以後は1人ずつのサドンデス。理論上は全員が蹴り終わっても決着しない場合、再度2巡目(同じ順番である必要はないが、1巡目で蹴った選手が再び蹴れる段階に入る)に入ります。途中で残りキック数から逆転不可能になった時点で終了します。

対象選手の範囲と人数調整(reduce to equate)

PK戦に参加できるのは「延長終了時にフィールド上にいた選手(GK含む)」です。終了直前に一時的に外へ出ていた(治療・用具調整など)選手は対象に含まれます。
一方で、延長終了時点で一方のチームの人数が少ない場合、相手チームはPK戦に入る前に人数を同数まで減らします(reduce to equate)。どの選手を外すかはチームが選択し、主審に申告します。PK戦開始後に退場・負傷で人数が減った場合、原則として相手はさらに人数を減らす必要はありません。

キッカーの順番:重複不可・全員が蹴った後は再度可

同じ選手が2回続けて蹴ることはできません。まずは「その時点で参加資格のある全員」が最低1回ずつ蹴ってから、2巡目以降に入ります。なお、IFABは「順番表の事前提出」を必須としていませんが、実務上は混乱防止のためにチーム内でリスト化するのが定番です(大会規定や審判運用で提出を求められる場合あり)。

PK戦中の交代可否と例外(GK負傷等)

PK戦に入ってからの交代は原則不可です。例外として、GKが負傷等で続行不能になった場合に限り、交代枠が残っていればベンチの未出場選手と交代できる場合があります(大会規定に従う)。交代ができない場合は、フィールドプレーヤーがGKを務めます。いずれの状況でも「GKと他のフィールドプレーヤーは、いつでも立場を入れ替え可能」です。

開始までの手順とコイントス

審判の手順と主将の役割

両チームのキャプテンが主審と合流し、手順の確認を行います。対象選手の確認、使用ゴール、先攻・後攻の決定、選手の位置(センターサークル待機)などが示されます。キャプテンはチームに指示を的確に伝える役割を担います。

先攻・後攻の決定方法

主審によるコイントスを行い、勝ったチームが「先に蹴るか、後に蹴るか」を選びます。これは重要な戦略判断になるため、事前に方針を決めておきましょう。

使用ゴールの選定と安全配慮(観客・天候・ピッチ状況)

使用ゴールは主審が安全性・ピッチ状態・照明・観客スタンドの状況などを考慮して決定します。状況によってはコイントスを用いることもあります。風の向き、芝の荒れ、ペナルティーマークの状態などは微差ながら成功率に影響します。

順番表の提出と確認のベストプラクティス

規則上、事前提出は必須ではありませんが、現場運用としては「順番表」を作るのがベターです。番号・名前・利き足・得意コースを簡潔に記載し、キャプテン・コーチ・記録係が共通認識を持てる形に。変更が生じた場合は即時共有し、審判にも分かりやすく伝えます。

順番の組み方の基本戦略

1〜5番の役割設計(流れ・心理・期待値)

一般的な設計は以下の考え方が多いです。
– 1番手:チームの「成功率が最も高い人」。先攻ならリードを作り、後攻でも流れを切らない役割。
– 2番手:安定型。1番手の勢いを繋ぐ。
– 3番手:比較的プレッシャーが低い局面が多いため、成功率のバランサー。
– 4番手:勝負所。スコア状況が緊迫しやすく、メンタル強者を配置。
– 5番手:同点維持や決めれば勝ちの可能性高。キラータイプやキャプテン格を置くチームも多い。
ただし、5番手まで回らずに終わるケースも珍しくありません。「早期決着リスク」を前提に、上位3人に成功率の高い選手を多めに配する設計は合理的です。

サドンデスを見据えた配置と“誰を残すか”の考え方

サドンデスは「はずせない時間」です。1巡目で温存し過ぎると、そこまで到達せずに終了するリスクがあります。2巡目以降に自信のある選手を少なくとも2名は確保しつつ、1〜3番に成功率の高い選手を並べるバランスが実務的です。

疲労・利き足・性格を踏まえたバランス設計

延長を走り切った選手は呼吸が浅く、判断のブレが出やすいことがあります。足が攣り気味の選手や、直前に長距離スプリントを繰り返した選手は外す選択も検討。利き足の偏りはGKに読まれやすくなるため、左右のバランスも意識します。性格面では「ルーティンを崩さないタイプ」を上位に置くのが安定します。

ゲーム内データ(当日の出来・対GK相性)の反映

当日のシュート精度、相手GKの動きの癖、VARの有無、ピッチ状態などを踏まえ、直前で順番を微調整します。例えば相手GKが常に先出しで飛ぶタイプなら、冷静に中央系を突ける選手を厚めに。風雨が強いなら、強く正確に蹴れる選手を上位に配置するなど、当日要因を反映しましょう。

先攻・後攻の考え方

一般に言われる“先攻有利”の根拠と注意点

複数の研究で「先攻の勝率が55〜60%前後」と言われることがあります。スコアを追わせる心理的圧力が主因と考えられています。ただし、戦力やメンタルの差、環境要因によって逆転し得ます。先攻を引けたからといって油断は禁物、後攻でも十分勝てます。

自チームの特性(GK/キッカー/メンタル)で変わる判断

GKのセーブ率が高い・相手研究が進んでいる・自軍のキッカーが安定しているなら先攻志向が合理的。逆に「後追いのほうが落ち着く」「GKが相手の1本目を見てから読みを掴む」などの特性があるなら後攻も選択肢です。定量(成功率)と定性(メンタル)の両方で意思決定を。

環境要因:観客の圧・風雨・芝・照明と影響

強い向かい風や滑る芝は、助走と踏み込みに影響します。照明の眩しさや観客の密度・位置も心理に作用。使用ゴールが選べない前提でも、状況に応じた助走速度・コース選択の微調整は可能です。

先攻を取れなかった場合の対処とマインドセット

「後攻=不利」と決めつけないこと。一本ごとに集中をリセットし、相手の成功・失敗に左右されないルーティンを徹底。GKは「1本止めれば流れが変わる」と捉え、次のキッカーの傾向を素早く共有します。

キッカーのルールと注意点

助走とフェイントの許容範囲

フェイントは「助走中」は許容されますが、蹴る直前に完全停止して相手を欺く行為は反則(遅延行為・非紳士的行為)とされ得ます。ステップを小刻みにする、視線で揺さぶるなどは合法の範囲です。

二度蹴り・完全停止などの反則とその扱い

ボールは前方へ動いた時点でインプレー。自分で二度触れる(ポスト/バー/GKから跳ね返ったボールを自分で触る)は不可です。違反があれば、そのキックは「失敗」として扱われ、必要に応じて警告されます。

ボールインプレーの瞬間とリバウンドの禁止

PK戦ではリバウンドはありません。ボールが止まる、フィールド外に出る、GKが確保する、主審が反則で中断するなどでそのキックは終了します。ポストやバー、またはGKに当たってからゴールに入れば得点は有効です(他者の介入がない限り)。

蹴り直し(リテイク)が発生する主なケース

代表的には、GKの前進などの反則があり、その影響下で得点に至らなかった場合にリテイクとなるのが一般的です。逆にキッカー側の反則(不正なフェイント等)があれば、得点は無効となり、原則そのキックは失敗扱いとなります。

ゴールキーパーのルールと戦い方

少なくとも片足をゴールライン上に置く義務

キックの瞬間、GKは少なくとも片足の一部がゴールライン上(またはその真上)になければなりません。両足とも前に出ると反則です。

前進・早い動きの反則と判定の考え方

明らかな前進は反則。得点になればゴールが認められ、得点にならなければリテイクが命じられるのが原則です。初回は警告ではなく口頭の注意に留める運用が一般的で、繰り返せば警告対象になります。

GKの交代・負傷時の扱いとキック参加の可否

PK戦中の交代は原則不可ですが、GKのみ負傷等の例外が認められる場合があります(大会規定に依存)。また、GK自身がキッカーとして蹴ることも可能です。GKとフィールドプレーヤーはいつでも役割を入れ替えられます。

合法的な準備動作(小刻みなステップ・手の動き)の工夫

ライン上での小刻みなステップ、腕の揺れ、視線の誘導は合法。タイミングをずらす、コースを読ませない工夫は効果的です。反則にならない範囲で存在感を最大化しましょう。

反則・判定・リテイクの整理

キッカー側の反則と結果(得点取り消し等)

不正なフェイント、二度蹴り、合図前のキックなどは原則「得点無効・失敗扱い」。状況により警告の対象にもなります。反則が明らかな場合、やり直しではなく「失敗記録」になる点を押さえておきましょう。

GK側の反則と結果(得点・失敗・セーブ別の扱い)

GKがラインを外れるなどの反則があり、かつ得点にならなかった場合、多くはリテイク。得点になった場合はゴールが認められます。繰り返せば警告対象です。

他の競技者の侵入(アタッカー/ディフェンダー)の影響

ペナルティーエリアやアークへの侵入は反則。攻撃側の侵入で得点=やり直し、失敗=失敗記録。守備側の侵入で得点=得点認定、失敗=やり直し、が一般的な取り扱いです。審判の判定に従い、抗議で流れを乱さないことが大事です。

警告・退場が出たときの進行手順

PK戦中に退場が出ても続行します。原則として相手が人数をさらに減らす必要はありません。警告累積(大会規定による出場停止)とPK戦の進行は別物として処理されます。

人数差や退場者がいる場合の取り扱い

reduce to equateの実務(対象選手の選定と申告)

延長終了時点で人数が多い側が、PK戦開始前に人数を同数へ減らします。外す選手は「そのPK戦には参加不可」になります。キャプテンが主審に番号を申告し、確認を受けてから開始します。

GKを含めた人数計算と順番表の作り直し

GKも人数に含まれるため、誰を外すかでキッカーの巡り方が変わります。直前に人数が変動したら、順番表も即時に書き換え、キッカーへ周知。混乱を避けるため、コーチと記録係で二重チェックしましょう。

同一選手が2回目以降を蹴れる条件とタイミング

全員が1回ずつ蹴り終えてから、同一選手が2回目以降を蹴れます。2巡目以降の順番は固定ではなく、その都度選べます(直前のキッカーと連続でも可)。

試合運用とコミュニケーション

順番表の作成・共有・視認性を高める工夫

ボードや大きめの紙に「番号・名前・利き足・得意コース」を明記。汗や雨に強いペンを使用。キャプテン・コーチ・GKがすぐ一瞥できるように。変更時は太枠・矢印で視覚的に分かるようにします。

審判との確認ポイント(先攻後攻・ゴール・反則基準)

開始前に「先攻後攻・使用ゴール・侵入/ラインの基準・リテイクの扱い」を確認。審判団との不要な摩擦を避けるため、質問は端的に、最終判断に従うスタンスを全員で共有します。

テンポ管理:間合い・時間稼ぎ・集中の維持

不要な遅延は警告や相手への余計な情報提供につながります。キッカーはルーティンを崩さず、合図後は適切なテンポで実行。GKは間を調整しつつ、反則にならない範囲で存在感を出します。

記録係・通訳・スタッフの役割分担

記録係は成功/失敗、順番、相手GKの動きやキッカーの傾向を即時にメモ。通訳が必要な場では審判とのやり取りを簡潔に支援。スタッフは用具(ボール、スパイク、ペナルティーマークの確認)や水分補給を素早く整えます。

練習メニューとメンタルの整え方

個人ルーティンの設計(呼吸・視線・キーワード)

深呼吸2回→ペナルティーマーク確認→視線を狙いへ→キーワードでスイッチ、のように手順を固定。助走歩数、置き足、視線移動も毎回同じにすることで、プレッシャー下でも再現性が上がります。

圧力を再現する練習法(記録・ランキング・罰則)

全キックを記録し、成功率の可視化とランキングを実施。勝敗条件を設定(外したらラインダッシュ、成功でポイントなど)して心拍上昇状態でも決め切る癖をつけます。観客役の声出しや時間制限を加えるのも効果的です。

コース決定の原則とスカウト情報の使い方

「自分の最強コースを決めておく」が基本。相手GKの傾向(先出し、片側に強い、身長・リーチ)を事前に共有し、当日も更新。コースを直前で変えるのはリスクが高いので、原則はプランAを貫く、GKの明確な動きが見えた時だけプランBへ。

GK向け:読みと反応の融合ドリル(法的制約内で)

助走の角度・肩の向き・軸足の置き方から予測する「読み」と、片足をラインに残したまま反応する「技術」をセットで鍛えます。片足ライン残しのスタート練習、ステップ→セーブ→リカバリーの連続ドリルなどを定常化しましょう。

よくある誤解とFAQ

ABBA方式は採用されている?(現状の標準方式)

ABBA方式(テニスのタイブレーク型)は一部で試験導入されたことがありますが、現行の標準はABAB(交互)です。大会規定に特段の記載がなければABABと考えるのが一般的です。

途中で順番を変えられる?申告と制約

IFABは事前の固定順を義務づけていません。各キックごとに次のキッカーを選べます。ただし、同じ選手は全員が1回蹴るまで2回目は不可。審判の進行を妨げないよう、速やかに申告できる体制にしておきましょう。

交代はできる?GK・負傷時の例外

PK戦中の交代は不可が原則。GKが負傷等で続行不能のときだけ、交代枠が残っていれば交代できる場合があります(大会規定による)。それ以外はフィールドプレーヤーがGKを務めます。

GKも蹴ってよい?順番と2巡目の扱い

GKもキッカーとして蹴れます。順番に制限はありません。全員が1回蹴った後は、GKを含めて2巡目以降に再度蹴ることが可能です。

同点が続いたらどうなる?サドンデスの続行

5人ずつで同点ならサドンデス。全員が1回ずつ蹴り終えるまで続き、それでも同点なら2巡目に入ります。極端なケースではGK同士の対決や、さらに3巡目以降まで続行することもあります。

まとめ:勝敗を分けるのは“理解と準備”

先攻後攻・順番設計・反則基準の要点整理

ポイントは3つ。
– ルール理解:対象選手、5本+サドンデス、GKの足位置、リテイク、reduce to equate。
– 戦略設計:1〜3番で土台を作り、4・5番に勝負強さ。サドンデス用の切り札を2名確保。先攻はやや有利だが環境と自軍特性次第。
– 運用精度:順番表の可視化、審判との確認、テンポ管理、記録とフィードバック。

次戦に向けたチェックリストと実行プラン

チェックリスト(試合前)
– 大会規定を確認(交代例外、方式、VARの有無)
– キッカー候補の成功率データと当日状態を最新化
– GKの対策(ライン管理、読みと反応ドリル)
– 順番表(1〜5+サドンデス案)を用意し共有
– 役割分担(記録係・伝達・用具)を決定

当日運用
– コイントス戦略(先攻/後攻の判断基準を事前合意)
– 使用ゴール・ピッチ状態の簡易チェック
– 審判と基準確認(ライン・侵入・リテイク)
– ルーティン徹底、遅延や抗議で流れを乱さない
– 逐次記録→次キッカーへ即時フィードバック

PK戦は偶然の勝負に見えて、実は「準備した分だけ強くなる」フェーズです。今日からできる最小単位の改善を積み上げて、勝率を1%ずつ引き上げていきましょう。

RSS