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サッカーの熱中症予防・対策、夏を走り切る実践術

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夏は走力がモノを言う季節。でも、気温・湿度が高い環境では、準備が違えば結果も安全性も大きく変わります。この記事は、熱中症の基礎から、順化(暑さに慣れる)の設計、給水・栄養戦略、冷却テクニック、練習メニューの組み立て、当日のオペレーション、そして万一の対応までを一気通貫でまとめた実践ガイドです。今日の練習から取り入れられる、具体的で現実的な方法だけを厳選しました。

はじめに:夏のサッカーと熱中症リスクを正しく理解する

なぜサッカーで熱中症が起きやすいのか

サッカーは90分(練習でも60~120分)にわたって、ダッシュとジョグ、ターン、接触、意思決定が連続します。全身運動かつ屋外で日射を受けやすく、肌を覆うウェア(ユニフォーム・シンガード・ソックス)やスパイクも熱をこもらせます。さらに人工芝は路面温度が高く、地表近くの体感温度を押し上げます。これらが同時に重なることで、深部体温は上がりやすく、発汗による水分・電解質の損失も加速。結果として、パフォーマンス低下から熱中症へ進行しやすい条件が整います。

目的とゴール:安全に走り切るための実践的フレーム

  • 知る:熱中症の種類とサインを理解し、危険の早期気づきを可能にする
  • 整える:暑熱順化・体調把握・練習設計で「無理なく強度を出せる土台」をつくる
  • 補う:水分・電解質・栄養の具体的な補給ルールを持つ
  • 冷やす:事前・中・後の冷却方法を標準化し、チームで運用する
  • 備える:中断・中止の判断基準と緊急時対応(EAP)を共有する

この記事の使い方:練習前・当日・後日の3段階で活用

  • 練習前(1~2週間前):暑熱順化の計画、体調トラッキングを開始
  • 当日:給水・補食・冷却の動線をテンプレに沿って回す
  • 後日:リカバリーと翌朝チェックで微調整、データ(RPE・体重)で学習

熱中症の基礎知識:種類・症状・重症度

熱疲労・熱けいれん・熱射病の違い

  • 熱けいれん:大量発汗後のナトリウム不足などで起きる筋けいれん。ふくらはぎ・足裏・腹部に多い。
  • 熱疲労:脱水と循環不全で起きる倦怠感、めまい、吐き気、頭痛、集中力低下。現場で最も多い。
  • 熱射病:中枢神経症状(意識障害、会話のちぐはぐ、ふらつき)と高体温を伴う緊急事態。迅速な冷却と救急要請が必要。

初期サインと見逃しやすい症状

  • プレーの雑さ・判断の遅れ・イライラ増加
  • 鳥肌(悪寒)や皮膚が熱いのに汗が減る
  • 脛・足裏・腹筋のピクつき(前兆けいれん)
  • 立ちくらみ、視界のチラつき、頭痛
  • やたらと水だけを要求する(電解質不足の可能性)

重症化のメカニズムと時間軸

高温多湿+高強度で深部体温が上昇し、発汗で水分とナトリウムが失われます。補給が追いつかないと血液量が低下し、皮膚への血流が減って放熱が鈍化。さらに体温が上がり、脳機能に支障が出ます。短ければ数十分で症状が進むため、「早期気づき→即冷却→休止」の流れが重要です。

救急搬送が必要な判断ポイント

  • 反応が鈍い・会話が成立しない・倒れる
  • 歩行困難、ふらつきが強い、激しい頭痛や嘔吐
  • 皮膚が熱く乾いている・汗が極端に出ない
  • 体温が高いと推定される(測れれば高体温)

これらがあれば直ちに日陰で冷却を開始し、救急要請を検討します。重症疑いでは「まず冷やす」を最優先にします。

サッカー特有のリスク要因

ポジション別の負荷特性(SB/CMF/CF/CB/GK)

  • SB・CMF:走行距離とスプリント頻度が多く、熱負荷が高い。
  • CF:スプリント密度と接触が多く、瞬間的な発熱が大きい。
  • CB:スプリントは少なめでも、日射の直撃と声出し・集中の継続で自覚疲労が遅れて出る。
  • GK:全身は動かない時間もあるが、厚着・手袋・膝当て、人工芝の照り返しで体感温度が高い。

人工芝・天然芝・土の違いが与える影響

  • 人工芝:表面温度が高く、足裏・下肢の熱負荷が強い。散水で一時的に低下するが再上昇が早い。
  • 天然芝:照り返しは弱いが湿度が高いと放熱がしづらい。
  • 土:粉じん・照り返しが強い。風が弱いと体感温度が上がりやすい。

ユニフォーム・シンガード・ソックスの蓄熱

通気性の低い生地やフィット感が強すぎるウェアは放熱を妨げます。シンガードとソックスの間は汗がたまりやすく、蒸れと熱がこもりやすい部位。可能な範囲で軽量・通気のある素材やメッシュ構造を選びましょう。

連戦・遠征・キックオフ時刻による差

  • 連戦:グリコーゲン・体水分の回復が追いつかず、熱負荷が蓄積。
  • 遠征:移動で軽い脱水になりがち。到着後の補給と軽運動で整える。
  • 昼キックオフ:WBGTがピーク帯に重なることが多く、リスク増。午前・夕方に調整できると安全。

湿度・風・日射の組み合わせリスク

同じ気温でも、湿度が高いと汗が蒸発せず、放熱が難しくなります。風は放熱を助け、日射は短時間で体表温を上げます。湿度高×無風×直射の組み合わせが最も危険です。

暑熱順化(アクライメーション)の計画

順化の基本原理と期間目安

暑熱順化は「体が汗をかきやすくなり、循環機能が適応する」プロセスです。一般的に7~14日で進み、心拍や主観的暑さが軽減、同じ強度でも余裕度が増します。

7〜14日での段階的負荷計画

  • Day1-3:低~中強度、短時間(30~60分)。日陰・風を確保。頻繁に休憩。
  • Day4-7:中強度、合計60~75分。高強度ドリルは短く、レストを長めに。
  • Day8-14:試合強度に近づける。セット数を徐々に増やし、試合当日を想定した給水・冷却をリハーサル。

強度・時間・休息の設計テンプレート

  • 高強度インターバル:ワーク:レスト=1:3~1:5を基準(例:30秒全力→90~150秒レスト)
  • 連続走やポゼッション:10~15分ごとに2~3分のクーリング休憩
  • 合計時間:最初の週は60分以内、2週目で90分程度まで

順化期に避けるべきトレーニング

  • ヨーヨーテストや長時間の連続タイムトライアル
  • 「罰走」など休憩なしの反復スプリント
  • 日射ピーク(11~15時)の長時間練習

順化の進捗を評価する主観・客観指標

  • 主観:同じメニューでの暑さ・きつさ(RPE)が下がる
  • 客観:固定ペースの心拍が下がる、回復が早い、体重減少が小さく安定
  • 行動:休憩中の座り込みが減り、集中が切れにくい

体調管理とセルフチェック

朝の体重・尿色・主観的疲労の3点確認

  • 体重:前日比±1%以内を目安。大きく減っていれば脱水の可能性。
  • 尿色:淡いレモン色が目安。濃ければ水分・電解質の不足。
  • 主観疲労:10段階で自己評価。7以上ならメニューを軽減。

睡眠・前日飲酒・発熱後の出場可否ガイド

  • 睡眠:7~9時間を確保。日中眠気が強い日は強度を下げる。
  • 飲酒:前日は控える。飲むなら少量・遅い時間は避けて、同量以上の水+電解質を。
  • 発熱後:平熱で24時間以上、食欲・睡眠が通常化するまで高強度は避ける。

月間の体調トラッキングシートの作り方

日付/睡眠時間/朝体重/尿色/主観疲労/RPE/練習時間/気温・WBGT/メモ(薬・体調)を1行で。週末に見返し、傾向を把握します。

薬・サプリメントが熱中症リスクに与える可能性

  • 注意が必要:抗ヒスタミン薬、抗コリン薬、一部の利尿薬、興奮作用のある成分(処方薬は医師に相談)
  • カフェイン:適量では大きな脱水は起きにくいが、高強度前の過量は避ける。
  • クレアチン:直接リスクを上げる根拠は乏しいが、増量期は体重増で負荷が上がる可能性。

水分・電解質補給の戦略

発汗量の推定と個別化(体重変化法)

練習前後に裸足・同じ服装で体重を測り、摂取量と排尿を記録。体重減少(kg)+摂取量(L)-排尿(L)が発汗量のおおよそ(1kg ≒ 1L)。これをもとに給水量を個別化します。

水・スポーツドリンク・経口補水液の使い分け

  • 水:軽い運動・短時間・補食と併用の場合
  • スポーツドリンク:炭水化物と電解質を同時補給。試合・高強度に適する。
  • 経口補水液:電解質濃度が高く、脱水時の回復向け。普段の大量摂取には向かない場合がある。

ナトリウム(塩分)補給の考え方

汗で失うのは水だけではありません。発汗が多い選手は、1時間あたり数百mg単位のナトリウム補給が有効な場合があります。目安として、暑熱下の高強度では300~600mg/時程度を起点に、味覚(しょっぱい汗・塩の結晶)や脚のつり傾向で調整。塩分過多や持病がある場合は専門家に相談を。

給水タイミング:前・中・後の実践ルール

  • 前:開始2~3時間前に500~600ml、直前に200ml程度。暑い日は電解質入りを。
  • 中:喉の渇きに任せつつ、1時間で0.4~0.8Lを上限目安。飲水タイムでは必ず一口+電解質。
  • 後:体重減少の150%を目安に、数時間かけて水+電解質で回復。

「飲み過ぎ」もパフォーマンスを落とす理由

水だけの過剰摂取は低ナトリウム血症のリスクになり、吐き気・頭痛・倦怠感を招くことがあります。水分と電解質のバランスを意識し、体重・尿色でコントロールしましょう。

栄養・補食:炭水化物・塩分・ミネラル

夏場のエネルギーマネジメントの基本

暑さで消耗が早く、胃腸も揺れます。こまめな炭水化物(消化の軽いもの)と適切な塩分で、血糖と循環をキープします。

練習60分前・15分前・ハーフタイムの補食例

  • 60分前:おにぎり小+バナナ、パン+少量のプロテイン飲料
  • 15分前:ジェルやゼリー飲料、スポドリ100~200ml
  • ハーフタイム:ゼリー、バナナ半分、塩入りタブレットと水

マグネシウム・カリウム等の位置づけ

けいれん対策として語られますが、まずはナトリウムと水分が優先。普段の食事で不足しない範囲を意識し、サプリは過剰摂取に注意。

消化に優しい補食の選び方

  • 低脂質・低食物繊維・常温~冷たいもの
  • 一口サイズで食べやすい包装
  • 甘すぎない味(ゆるい塩味のスープやおにぎり)

食欲が落ちる日の対処法(リキッド戦略)

ヨーグルト飲料、スムージー、冷やし甘酒、スポドリ+ゼリー、具の少ない冷製スープなどでカロリーと電解質を素早く補給。

ウォームアップとクールダウンの最適化

暑熱下のウォームアップ短縮と質の担保

時間を短く、内容を濃く。日陰でのモビリティ→動的ストレッチ→加速ドリル→技術ドリル。全体を10~15分に圧縮し、心拍と発汗をコントロールします。

動的ストレッチとボールドリルの配分

  • 動的ストレッチ:股関節・ハム・ふくらはぎ中心に3~5分
  • ボールドリル:パス&ムーブ、1~2タッチのテンポアップ
  • スプリント:距離短め、切り上げは早く

クールダウンでの能動的冷却と静的ストレッチ

  • 能動的冷却:日陰でミスト・扇風機+冷却タオル
  • 静的ストレッチ:心拍が落ち着いてから5~8分
  • 冷水で手首・首元を冷やしながら呼吸を整える

GK専用のアップ調整ポイント

  • 厚着の時間を短く、キャップや冷却タオルで頭部の放熱
  • ダイビング反復はセット短く、間にミスト休憩
  • 飲水タイムで手袋を外して手掌を冷やす

練習設計:メニュー・休息・強度管理

高強度ドリルの配置とセット数の見直し

高強度は練習前半に集中配置し、セット数を2~3割減。技術・認知のドリルと交互に挟み、体温の上がり過ぎを抑えます。

ワーク:レスト比の調整指針

暑熱下は1:3~1:5を基準。短いワークを正確に、レストは日陰と送風で「質のある休み」にします。

シャドー(日陰)・ミスト・アイスの導線設計

  • ピッチ脇に日陰ゾーンを作り、ベンチ・扇風機・ミストを集約
  • クーラーボックスはベンチ裏、取りやすい高さで
  • 氷袋・冷却タオルは人数分+αを用意

小学生・中高生・大人の負荷差別化

  • 小学生:セット短く、給水は10分ごと。声かけを増やす。
  • 中高生:順化を丁寧に。自走できるチェックリストを運用。
  • 大人:仕事・睡眠の影響が大。個々のRPEで即時調整。

中断・中止基準(コーチ用チェック項目)

  • WBGTの閾値超え(目安は後述)
  • 同時に複数の選手から頭痛・めまいの訴え
  • 風が止み、体感温度が急上昇
  • 冷却・給水の消費が想定を超える(回らない)

装備・ウェア・用具での暑さ対策

通気性・色・フィット感の選択肢

軽量・通気・速乾の素材を選び、過度にタイトなフィットは避ける。色は濃色よりも淡色が放熱に有利です(チーム規定の範囲で)。

帽子・ネッククーラー・アンダーウェアの可否

  • 帽子:試合中は基本不可(GKのキャップは可の場合あり)。練習・休憩中の着用は有効。
  • ネッククーラー:休憩時の短時間使用は効果的。安全性に配慮。
  • アンダー:薄手で通気の良いものを。二枚重ねは避ける。

冷却タオル・アイスベストの使いどころ

アップ前の短時間、ハーフタイム、交代直後に。アイスベストは事前冷却に有効ですが、動作の邪魔にならない場面で限定的に。

スパイクとソックスの熱管理

  • 人工芝では熱がこもりやすい。通気孔やメッシュのあるモデル、インソールの変更も検討。
  • ソックスは速乾性素材を選ぶ。替えの用意で蒸れを軽減。

冷却テクニック:プレー前・中・後

プレークーリング(事前冷却)の選択肢

  • アイススラリー(シャーベット状の氷飲料)を少量
  • 冷却タオルで首・脇・鼠径部を3~5分冷やす
  • エアコン下で静かに過ごし、体温上昇を抑えてピッチへ

ミッドクーリング(試合中)の現実解

  • 飲水タイムで電解質+一口氷(噛まずに口内冷却)
  • ベンチで扇風機+ミスト、手掌・前腕を冷やす

ポストクーリング(直後冷却)の要点

  • 日陰で送風+ミスト→冷水で首・脇を冷却
  • 冷水シャワーや下肢の冷却浴(10~15°Cにこだわりすぎず、涼しい水で)
  • 冷却後に静的ストレッチと補給へ

首・腋窩・鼠径部など効果的な冷却部位

太い血管が通る部位を狙うと効率的。首、腋窩、鼠径部、手首、前腕、こめかみを短時間ずつ。

冷水・氷・扇風機・ミストの組み合わせ

「濡らす(ミスト)→風を当てる→冷たい部位冷却」の順が効率的。汗+風も強力な放熱手段です。

試合当日の実践オペレーション

キックオフ3時間前からの行動計画

  • 3時間前:食事(炭水化物中心)+水分・電解質
  • 90分前:会場入り、装備チェック、少量補食
  • 45分前:短時間のアップ、事前冷却を挟む

アップ〜試合〜ハーフタイムの給水動線

  • アップ後:ベンチに戻って電解質を一口
  • 試合中:飲水タイムに定位置で素早く補給
  • ハーフタイム:ゼリー+スポドリ、首を冷やす

交代・飲水タイム活用のコーチング

短い言葉で「一口飲む→首冷やす→深呼吸→戦術確認」。行動の順番を固定化すると抜け漏れが減ります。

ベンチ裏の冷却ステーション設計

  • クーラーボックス(ドリンク・氷)/ミスト/扇風機
  • 冷却タオル、氷袋、予備ボトル、ゴミ袋
  • 日陰・風の通り道を優先配置

遠征時のクーラーボックス・備品リスト

  • ドリンク(スポドリ・水・経口補水液)、氷・保冷剤
  • 紙コップ、塩タブレット、ゼリー、バナナ
  • 冷却タオル、予備ユニ・ソックス、ゴミ袋、簡易体重計

キーパーソン別ガイド:選手・指導者・保護者

選手が持つべきセルフマネジメント思考

  • 朝の3点チェック(体重・尿色・疲労)で自分を客観視
  • 「のど渇いた?」と自問を習慣化、飲水を後回しにしない
  • 違和感は早めに申告。申告は「弱さ」ではなく「強さ」

指導者のリスク評価とアナウンス例

例:「今日はWBGT28で高リスク。セットは短く、飲水は10分ごとに取ります。頭痛や足のつりはすぐ申告。無理はさせません。」

保護者の前日準備・当日の見守りポイント

  • 前日:睡眠確保、朝食とボトル2本(スポドリ+水)
  • 当日:尿色・顔色チェック、帰路のリカバリー飲料
  • 洗濯:速乾素材の用意、替えソックス常備

チーム全体で共有すべき連絡体制

  • 緊急連絡網(救急・保護者・施設)
  • EAP(緊急対応計画)の掲示と役割分担
  • WBGTや天気の当日朝共有

ジュニア・高校生の留意点

発達段階と体温調節の違い

子どもは汗腺の機能が未熟で、体温調節が大人より苦手。暑さには特に配慮が必要です。

部活動の長時間練習への対策

  • 90分を超える場合は小分けの休憩と給水を増やす
  • 午前・夕方へ練習時間をシフト
  • WBGTに応じてメニューを短縮

学業・睡眠・食事との両立マネジメント

テスト期間や睡眠不足が続いた週は、強度を落とす勇気を。朝食で炭水化物+タンパク質、牛乳や味噌汁など「飲める栄養」も活用。

成長期のけいれん・脱水リスク

身長が伸びる時期は疲労やけいれんが出やすい傾向。塩分・水分・睡眠を特に意識し、痛みは無理しない。

施設・環境管理とWBGTの活用

WBGT(暑さ指数)の見方と閾値

WBGTは気温・湿度・日射・風を加味した指標です。目安として、25~28は注意、28~31は厳重警戒、31以上は運動中止を検討する水準とされます(地域・競技団体の基準に従って判断してください)。

日陰・風通し・散水の環境改善

  • 簡易テントや日陰の確保、風向きを考えたレイアウト
  • 散水は一時的に有効だが、再上昇を見越して計画的に

人工芝の表面温度を下げる工夫

  • 試合前の散水、セット間の短時間散水
  • シューズ内の熱対策(通気インソール、替えソックス)

屋内練習場を使う際の注意点

風が弱いと熱がこもることがあるため、送風・換気・こまめな給水を徹底。WBGTは屋内用値を参照。

テクノロジー活用:データで守る安全とパフォーマンス

心拍・主観的運動強度(RPE)の併用

同じメニューでも暑い日は心拍・RPEが上がるのが自然。閾値を1段階(RPE1~2)下げて設計すると安全です。

GPS/加速度データで強度をコントロール

走行距離、スプリント回数、高強度メートルを見て、暑熱日はターゲットを控えめに。翌日のRPEと組み合わせて微調整。

暑さ指数アプリ・気象情報のルーティン化

前日夜・当日朝・直前の3回チェックを習慣に。時間帯の変更やメニュー短縮の判断材料にします。

簡易体重計・尿色チャートの現場運用

ベンチ裏に体重計と尿色表を置き、選手が自分で記録。見える化で行動が変わります。

アクシデント対応:緊急時の初期対応とEAP

現場での一次評価(反応・呼吸・皮膚・体温)

  • 反応・会話の状態、呼吸の速さ・浅さ
  • 皮膚の温かさ・汗の有無、顔色
  • 立てるか・ふらつきの有無

迅速冷却(冷水浸漬・アイス)の実行プロトコル

  • 可能なら冷水浸漬(上半身~体幹)で迅速冷却
  • 難しければ首・腋窩・鼠径部を氷・冷水で集中的に
  • 日陰・送風・濡れタオルを併用、「まず冷やす」を最優先

救急要請の基準と通報テンプレート

基準:意識障害、けいれん、嘔吐が続く、会話困難、立てない。テンプレ:「サッカー会場の〇〇グラウンド北側、成人男性、意識がはっきりしない、熱中症疑い、冷却開始済み、AEDはベンチ裏」。

チームの緊急対応計画(EAP)を作る

  • 役割分担(通報・冷却・誘導・選手対応)
  • 住所・AED設置場所・救急動線の掲示
  • 年に1回はリハーサル

練習後のリカバリーと翌日へのリセット

30分以内の補給計画(糖質+電解質)

スポドリ+ゼリーorおにぎり。汗が多い日は経口補水液を少量取り入れると回復が早い。

入浴・シャワーと体温リバウンドの管理

まずは常温~やや冷たいシャワーで体温を落としてから入浴。熱い湯は回復後に短時間。

睡眠環境(室温・寝具・水分)の最適化

  • 室温26~28°C、扇風機で送風
  • 就寝前にコップ1杯の水+少量の電解質
  • 寝具は速乾・通気性重視

翌朝チェックで負荷を微調整する

体重・尿色・疲労を見て、強度を1段階調整。回復が遅い日は技術中心に切り替えます。

休む勇気:体調不良時の出場可否とリターン・トゥ・プレー

休養判断の客観指標と基準例

  • 体重減少が2%超、尿色が濃い、頭痛・めまいあり→強度を下げる/休む
  • 発熱・嘔吐・意識混濁→出場不可、医療機関へ

熱中症後の段階的復帰プロトコル

  • 症状が完全消失→日常生活で問題なし→軽運動→中強度→高強度の順
  • 各ステップ24時間以上、再発兆候があれば戻る

再発を防ぐためのチェックポイント

  • 順化の再実施、給水・塩分の見直し
  • 装備の通気性改善、練習時間の再設定

チーム内での共有と再教育

事例を匿名で振り返り、チェックリストとEAPをアップデート。行動が変わるまで繰り返します。

よくある誤解Q&A

水だけ飲めば大丈夫?への回答

大量発汗時は電解質、とくにナトリウムも失われます。水だけでは薄まって不調の原因に。水+電解質をセットで。

汗をかかない方が良い?への回答

汗は体温調節の重要な仕組み。むしろ「暑熱順化で効率よく汗をかける」ことが目標です。

氷で冷やすと筋肉が固まる?への回答

局所に長時間の強いアイシングは一時的にパフォーマンスを落とす可能性があります。事前・途中の冷却は短時間・体幹中心に。試合後の回復には有効な場面があります。

塩タブレットは必須?への回答

必須ではありませんが、汗が多い選手や長時間では有効なことがあります。食事やスポドリと組み合わせ、取り過ぎに注意。

実践チェックリストとテンプレート

選手用セルフチェック表(毎朝/練習前/後)

  • 朝:体重、尿色、疲労(0~10)
  • 前:ボトル2本、補食、冷却タオル、替えソックス
  • 後:体重、尿色、頭痛・めまいの有無、翌朝記録

コーチ用中止判断フローチャート

  • WBGT確認→閾値超え?→時間変更or短縮
  • 症状者の発生→複数同時?→即中断・冷却・再評価
  • 水・氷・日陰の不足→メニュー縮小or中止

保護者用準備物リストと確認表

  • スポドリ・水、ゼリー、おにぎり、冷却タオル
  • 替えシャツ・ソックス、帽子(移動・休憩用)
  • 保冷剤、ゴミ袋、タオル

チーム備品・運用テンプレート(共有用)

  • クーラーボックス×2、氷、予備ボトル、紙コップ
  • ミスト、扇風機、テント、体重計、尿色表
  • EAP掲示、役割分担表、WBGT計の運用ルール

まとめ:夏を走り切るための優先順位

最小限で最大効果の3アクション

  • 朝の3点チェック(体重・尿色・疲労)を毎日
  • 飲水は電解質とセット、1時間0.4~0.8L目安で調整
  • 日陰・風・冷却の動線をチームで整える

今日から始める1週間の導入プラン

  • Day1-2:短時間×頻回休憩、セルフチェックを習慣化
  • Day3-4:給水・補食・冷却をテンプレ通りに運用
  • Day5-7:高強度ドリルを短く導入、WBGTで判断を練習

次の試合に向けたアップデート点

  • ポジション別の補食・冷却タイミングを最適化
  • 個別の発汗量からボトル容量と電解質量を調整
  • EAPの見直しと物品補充をルーティン化

おわりに:安心して夏を楽しむために

熱中症対策は「気合い」ではなく「設計」です。順化・給水・冷却・練習設計・EAPという基本をチームで共有すれば、夏でも安全に、そして強く戦えます。今日の一本、今日の一口、今日の一歩の工夫が、最後のワンプレーを支えます。準備で勝ちましょう。

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