サッカーチーム守備をコンパクトにする方法と5メートルの約束

はじめに：サッカーチーム守備をコンパクトにする方法と5メートルの約束の全体像

守備を“コンパクト”にするとは何か

コンパクトな守備とは、ボール周辺に人と圧力を集め、相手の選択肢を減らすことです。ポイントは「距離」です。個の寄せではなく、ライン同士・選手同士の距離が詰まっていること。これにより、ボールが動いてもチーム全体が短い移動で追従でき、奪ってからの攻撃も短いパスで出て行けます。

5メートルの約束が生む統一された距離感

「5メートルの約束」は、同列・縦列・斜めで並ぶ味方との距離を原則5mに保つ共通ルールです。これで判断が早くなります。近ければ寄せる、遠ければ埋める、切る方向はボールと味方の位置で決まる——迷いが減るため、チームが同じタイミングで動けます。

現代サッカーにおける重要性とメリットの整理

移動距離の削減：短い距離で連動でき、疲労を抑える
奪い所の明確化：縦パスやサイドで囲い込みやすい
攻撃への転換が速い：奪った後も近い距離で前進できる
個の弱点をチームで補える：カバーが効く距離にいる

コンパクト守備の定義と原理：幅・縦・深さの三要素

幅を詰める：ボールサイドの密度を高める理由

幅は「ボールがある側へ人を集める強さ」です。ボールサイドに5人を数えられる密度（SB、CB、ボランチ、SH/インサイド、CFの一方）が理想。逆サイドは外に張らず内側へ絞ることで、中央経由の展開を遮断します。幅を詰めると、相手は狭い角度でしか攻められず、パススピードも落ちます。

縦を詰める：ライン間距離15〜25mの目安

DF–MF間、MF–FW間がそれぞれ7〜12m前後、全体のライン間は15〜25mを目安に。ピッチや相手のキック精度で調整します。縦が詰まるほど、縦パスを受ける相手に即時プレッシャーがかかり、前進を止めやすくなります。

深さのコントロール：最後尾の背後管理とGKの役割

最後尾の背後をどれだけ空けるかはスピードとGKのスイーパー能力次第。ラインを上げるときはGKが背後をカバー、下げるときは連鎖的に全体が5m間隔で落ちます。深さは「押し上げ」と「ドロップ」の切り替えで管理します。

5メートルの約束とは：距離基準で整える判断スピード

5メートルの約束の定義と例外条件

定義：守備時、最も近い味方との距離を5m前後に保つ。例外は以下。

相手が背後へ走った瞬間：個で一時的に間隔拡張して追走
撤退フェーズ：一旦10mまで許容して陣形回復を優先
数的不利：内側の危険度が高い時は中央優先で距離を崩して可

誰と誰の距離を5メートルに保つのか（同列・縦列・斜め）

同列：CB–CB、SB–SH、ボランチ–インサイドなど横の隣と5m
縦列：FW–IH/ボランチ、SH–SB など上下の隣と5m
斜め：ボールサイドの三角形（例：SB–CB–ボランチ）の斜距離も5〜7m

この三方向の5mが作れると、二人目・三人目の奪いが発生します。

5メートルが崩れた時の最優先回復行動

内側を埋める（ゴールへ近いレーン）
次にボールサイドへ寄せる
最後に背後確認（ランナーの捕捉）

ライン間・横間距離の設計図：ブロック全体の“圧縮マップ”

DF–MF–FWのライン間距離：基準値と状況別の変動

基準：合計20m前後、状況で±5m。相手がロングボール主体なら5m拡大、足元主体なら5m圧縮。風向き・ピッチ状態でも微調整します。

横スライドの幅とスピード：ボールサイド5人の考え方

横スライドは「ボールが2タッチ動く間に1人分動く」が合言葉。最も遠い選手が動き出しの役割を持つと、全員が遅れにくくなります。ボールサイド5人の濃度がキープできるよう、逆サイドは内側に早めに寄ります。

逆サイドの締め方：遠いサイドの“絞り量”とタイミング

逆サイドはタッチラインから10〜15m内側に絞るイメージ。相手のサイドチェンジ動作（後ろ向きの準備、助走の長さ）を見て、1歩先に内側へ。ボールが浮いたらさらに3歩寄せるが、背後の縦走りには1人は残す。

体の向きと誘導：カバーシャドーで消す・奪う・運ばせない

半身の角度設定：内切り／外切りの使い分け

原則は内切り（中央を消して外へ誘導）。自陣ゴールに近いほど内切りの優先度が上がります。高い位置でのプレスでは外切りで相手を中央へ誘い、縦パスを引き出して挟む選択も有効です。

カバーシャドーで消すパスコースの優先順位

中央の縦パス
内側の斜めパス
同サイドのリターン

自分の背中で消せるコースを1本以上つぶしてから寄せる。これが5mの圧力を最大化します。

奪い所の共通理解：縦パス後・サイドライン・背向き

縦パスが入った直後、サイドライン際、背中向きの受け手——この3つはボールを奪いやすい場面。ここだけチームでギアを1段上げます。

トリガーと優先順位：動き出しをそろえる共通スイッチ

プレス開始トリガー（浮き球・背向き・弱い足・ファーストタッチ）

浮き球の収め：バウンド前に距離を詰める
背向き受け：背中側から圧をかけ、前を向かせない
弱い足へのトラップ：その足側へ寄せる
ファーストタッチが長い：一気に奪いにいく合図

5メートルの約束を守るための“守備の三手先”

今・次・次の次を同時に考える習慣を全員で共有します。今は寄せる、次は切る、次の次は拾う。5mの位置関係を保ち、常に一人が奪い、一人がカバー、一人が予測で拾う三角形を維持します。

遅れた時のリカバリー優先順位（内側→中央→背後）

出遅れたら、外ではなく内側から戻る。中央レーンを塞ぎ、次に自分のマーク、最後に背後ランの捕捉。真ん中が空くと一気に崩れるため、内側回復が先です。

最終ラインのコントロール：押し上げ・ドロップ・ラインアップ

押し上げの合図とGKのスイーパー機能

相手の背中向き、横パス、浮き球の後ろ向き処理——この3つは一気に押し上げる合図。GKは常にボールより5〜10m前のスペース管理を意識し、裏へのボールを回収してチームのラインを支えます。

背後管理：ランナーの捕まえ方とオフサイドのリスク管理

背後の走りは「受け渡し」を前提に。走り始めた瞬間に最も近い選手が優先して追走し、次の選手がカバーに入る。オフサイド狙いは一回で決めず、押し上げ→微ドロップ→再押し上げで相手のタイミングをずらします。

5メートルの約束とDFラインの段差解消

段差が出たら、低い選手が前へ3歩、横の選手は内側へ2歩で合流。これだけでラインの波形が平らになり、裏への一本を減らせます。

布陣別に見るコンパクト守備：4-4-2／4-3-3／3-4-2-1の要点

4-4-2：二枚ストライカーの分担とサイド圧縮

2トップは片方がCBへの圧、もう片方がボランチを切る。SHはSBに出る前に内を閉じ、ボランチはCBと10m以内を保つ。サイドへ出た瞬間、3人目（SB or CM）が5mで重なって囲い込みます。

4-3-3：アンカー保護とウイングの戻り幅

アンカーの両脇をIHが埋め、ウイングは内側5mに早めに寄る。SBが出たらWGが背後のレーンを消す。アンカーが孤立しない距離（CBと7〜10m）をキープします。

3-4-2-1：シャドーの縦ズレとウイングバックの内側絞り

シャドーの一枚が縦ズレでボランチを消し、もう一枚がCBに圧。WBは内側5mから外へ出る順番で、背中のCBと段差を作らない。3CBは横5〜7m間隔で裏のケアを分担します。

ゾーン別の運用：敵陣・中盤・自陣での“圧縮幅”を変える

敵陣ハイプレス：背後管理とGKのカバー範囲

圧は強く、背後はGKとCBのカバーで補う。最前線からの5m連結で、縦パスを誘って奪うイメージ。ロングクリアを許したら、最終ラインは一気に前進してセカンド回収を狙います。

中盤ブロック：ライン間20mの維持と中央締め

最もバランス重視。中央2レーン（ハーフスペース含む）を優先して閉じ、外で奪う。横スライドは「ボールより半身先行」で遅れを防ぎます。

自陣ローブロック：PAライン前の層を作る方法

PA前に二層（MFとDF）を置き、縦5〜7mで連結。外へ出たら内が詰め、クロスにはニア・中央・ファーの3点に人を配置。跳ね返し後の二次攻撃に備え、トップも内側15mに絞ります。

トランジションでのコンパクト回復：攻守の切り替え3秒ルール

奪われた瞬間の内側圧縮と5メートルの再構築

失った直後の3秒はボールに最も近い3人で囲い、背中側2人が内側を埋める。全員が最寄りの味方と5mを作ることに集中。戻る前に縮める、が合言葉です。

カウンタープレスと撤退判断の境界線

相手が前向きでフリーな場合は即撤退。背向き・浮き球・味方が外側優勢ならカウンタープレス継続。失敗したらファウルで止めるのではなく、内側の進路を切って遅らせます。

奪った瞬間の“ずらしながら休む”ポジショニング

奪った直後は、5mの三角形を保ちながら1本ずつパス角度を変える。相手の最短奪回コースを外しつつ、味方は息を整える時間を作ります。無理な縦突破より、角度をずらす小パスで落ち着かせるのが安全です。

制約付きトレーニングメニュー：守備をコンパクトにする方法の実践

5メートル縛りロンド（3v3+3ジョーカー）

設定：20×20m。守備側は常に最寄り味方と5m±1mを厳守。ボール奪取で1点。狙い：距離感の体内化、二人目三人目の連動。

縦25m×横40mの中盤ブロックゲーム

設定：4v4+3フリーマン。DF–MF–FWのライン間を20mで固定マーカー。守備は横スライド時に逆サイドの絞りを数える（「3」コールで3人が内側へ）。狙い：ライン間維持と横間圧縮。

サイド圧縮スライド（8v8+2GK）トランジション付き

設定：ハーフコート横を狭めて45m。ボールサイド5人ルール、奪ってから10秒でゴールを目指す制約。狙い：サイドでの囲い込みと攻守転換の再圧縮。

5メートルの感覚を養うドリル：距離感を“体内化”する練習

目測キャリブレーション（5m・8m・12m）

最初に実測で距離を確認してから、目を使って並ぶ反復。誤差±0.5m以内を合格とし、声出しで修正。週に一度で精度が上がります。

一歩・二歩・三歩の共通距離単位化

チームで「大股一歩＝1.5m」を目安に統一。コーチが「2歩寄せ」でほぼ3mの共通理解が生まれ、現場の伝達が速くなります。

声かけテンプレートで距離を読む（“1歩詰める”など）

「内1歩！」：内側へ1.5m寄る
「外切る！」：外へ誘導、内のレーンを消す
「背中！」：ランナー確認の合図

コーチングワードと意思統一：言葉で距離と方向を合わせる

単語リスト：寄せる・切る・絞る・待つ・押し上げ・背中

短い単語で共通理解。「寄せる＝距離を詰める」「切る＝通さない角度」「絞る＝内へ寄る」「待つ＝正対で時間を作る」。単語を減らすと迷いも減ります。

数で測る指示：1・2・3で圧縮段階を共有

1＝保持（構える）、2＝圧（距離5m完成）、3＝奪い（トリガー作動）。ベンチからも簡単に伝わります。

主将・GK・ボランチの役割分担

主将：強度コントロール（1/2/3の宣言）
GK：背後と押し上げの合図、ラインの段差修正
ボランチ：中央の距離管理、奪い所の事前合図

よくある失敗と修正法：ギャップ・段差・寄せ過ぎの対処

スライド遅れで中央が空く問題の修正

遠い選手のスタートを0.5秒早くするため、「ボールが動いたら自分も1歩」を徹底。ボールが止まってから動く癖をなくします。

寄せ過ぎて背後を使われる現象の抑制

寄せる人が角度を作り、背後ケアの人が5mで待つ。二人で「寄せる・待つ」の役割を分けると、無謀なチャレンジが減ります。

二人同時プレスの“被分断”を防ぐ間合い

同時に行くなら、二人の距離を3〜5mに。離れて突っ込むと一発で剥がされます。必ず三人目の拾い役を置くこと。

データで見るコンパクトネス：簡易指標と現場での可視化

ライン間距離・横間距離の簡易測定方法（GPS無しでも可）

練習でコーンを使い、DF–MF–FWの各ラインを10m間隔で並べて開始。映像で静止画を撮り、コーン間との比率で距離を推定。試合ではハーフライン・PA・センターサークルなどの既存ラインを基準に目視推定します。

PPDAや守備回収地点の分布で傾向を把握

相手パス1本あたりのプレッシャー数（PPDA目安）や、ボール回収地点のヒートマップを作ると、圧縮の効きやすいゾーンが見えます。高い位置に回収が増えるほど、コンパクトが機能している可能性が高いです。

映像チェックリスト：フレームごとの距離評価

ボール保持者への距離は2〜4mか
隣の味方とは5mか
DF–MF–FWの合計が20m前後か

セットプレーとリスタート時のコンパクト：二次攻撃の抑止

クリア後の5メートル再結集と内側優先

クリア後は全員が中央に5mで集合。まずPA前中央を固めてから外へ。散らばったまま外へ出ると二次攻撃を受けやすくなります。

スローイン守備での距離とトラップの種明かし

近い選手で即圧、背中側が内を閉じる。相手が足元で受けたら体を内向きにしてライン際へ誘導。5mの三角を保てば、サイドでの囲い込みが安定します。

FK/CK後のラインアップと背後警戒

跳ね返した直後に一気に押し上げ、ラインをそろえる。逆に相手ボールの二本目が来そうなら、5m連結のまま一時的に深さを確保して弾き返します。

年代・レベル別の適用：高校・大学・社会人・育成年代のポイント

高校年代：走力を“方向性”に変える練習設計

走れる分、無駄走りが増えがち。5mの声かけと三角形の維持を徹底し、走る方向を合わせる練習を優先します。

大学・社会人：可変システムへの移行と微調整

相手の形に応じて、4-4-2⇔4-3-3の守備切替を採用。アンカー脇の距離やWBの絞り量など、5mを基準に微調整するとスムーズです。

育成年代：距離と言葉のセット習得

「1歩」「内」「背中」の三語でOK。測る→動く→言う、を遊び感覚で繰り返します。まずは体に入れることが最優先です。

試合運用とベンチマネジメント：時間帯で変える圧縮度

開始15分のリスク管理と圧縮幅

入りはライン間を25mにして様子見でも可。相手の縦精度を見極め、いけると判断したら20mへ圧縮。押し上げの合図はベンチが出しましょう。

リード時・ビハインド時の5メートル運用の違い

リード時：横の5mを強め、外で時間を使わせる
ビハインド時：縦の5mを強め、縦パスに対して前向きの圧を増やす

交代選手への“最初の3アクション”指示

最寄りの味方まで5mに寄る
内側のレーンをひとつ消す
背中のランナーを一度確認

Q&A：よくある疑問に答える

相手が幅を最大化してくるときの守り方

逆サイドは完全に捨てず、内側15mに絞りながらスライド速度を上げる。ロングサイドチェンジが来た瞬間、ボールが落ちる前に到達できる位置取りをキープします。

個の守備が弱い選手の活かし方

ファーストに行かせず、二人目・三人目のポジションを担当させる。体の向きとカバーシャドーを徹底し、奪い切り役は別の選手が担います。

審判基準やピッチ環境が影響するときの調整

接触に厳しい基準なら、寄せの速度は落とし、角度で奪う。雨や荒れたピッチでは、相手のコントロールが乱れやすいので、奪い所のトリガー（ファーストタッチ長い）を強めます。

チェックリスト：明日から使える“5メートルの約束”実行確認

試合前ルーティン（共通キーワード・距離確認）

コール「1/2/3」「内1歩」「背中」
5m・8mの目測確認（ウォームアップ時）
布陣ごとのボールサイド5人の役割確認

前半・後半での自己評価ポイント

ライン間が20m前後に収まっているか
逆サイドの絞りが10〜15mできているか
奪い所で強度を上げられたか（トリガー共有）

試合後の振り返りテンプレート

良かった5mの場面（映像時間を記録）
崩れた理由（内側・中央・背後のどれ）
次戦に向けた単語の絞り込み（3語まで）

まとめ：5メートルの約束で、守る前に“整える”

コンパクト守備の本質は、個の寄せではなく、距離で整えてから奪うこと。幅はボールサイド5人、縦は合計20m、深さはGKと連動。これらを可能にするのが「5メートルの約束」です。言葉を減らし、三角形と体の向きを揃えるだけで、守備のスピードはチーム全員で速くなります。明日の練習から、まずは目測5mと「1/2/3」の共通コールを導入してみてください。小さな約束が、チームを大きく変えます。