サッカーのプレス回避戦術 ハイプレスをいなす現場で効くアイデア

相手のハイプレスを「怖い」から「利用できる」に変える。この記事は、そのための実戦的な考え方と具体手段をまとめたものです。難しい図解は使わず、現場でそのまま通じる言葉と手順で整理しました。今日から数メートルの余裕と数秒の時間を手に入れてください。

記事の狙いと前提

ハイプレスとは何か

相手が前線から連動してボール保持者とその周囲を圧縮し、前進を妨げてショートカウンターを狙う守備方法です。ボール奪取だけでなく「方向づけ」も狙いに含まれます。

プレス回避が勝敗に与える影響

前進できれば相手の背後にスペースが露出し、少ない手数で決定機に到達できます。逆に詰まると自陣でのロストが増え、失点期待値が跳ね上がります。

用語の整理（ビルドアップ/前進/脱出/回避）

ビルドアップ＝後方からの組み立て、前進＝ラインを越えること、脱出＝圧力帯から抜けること、回避＝奪われずに次の優位へつなぐ選択全般を指します。

成功の評価基準（安全/速さ/前進/保持）

安全が最優先、次に速さと前進。保持は目的ではなく手段で、危険を減らし優位を得るために使います。

ハイプレスの構造を見抜く

人基準プレスとゾーン基準プレスの見分け方

動き出しで人に吸い寄せられるなら人基準、配置でエリアを埋めて待つならゾーン基準。前者はローテで崩れ、後者は位置取りで裂けます。

方向づけ（外・内・縦・横）の意図を読む

相手の身体の向きと助走角で意図が読めます。外誘導なら内に、内誘導なら外に「一旦」見せて逆を突きます。

カバーシャドウとレーン封鎖

プレス時の背中の影でパスコースを消されます。影の端を使う、足元ではなく逆足側に置くと通りやすくなります。

プレスのトリガーと合図（バックパス・トラップタッチ等）

バックパス、浮き球処理、背面トラップ、タッチが足元に入る瞬間は圧が来やすい。あえて見せてワンタッチで外す設計を。

強度の波と間合いの変化を観察するポイント

15〜20秒で強度は波打ちます。最初の3秒は逃がし、4〜8秒で刺す、9秒以降は一旦やり直すなどテンポの計画を持ちます。

プレス回避の大原則（優先順位）

最短ではなく最適な前進を選ぶ

最短の縦より「触れる回数が少ない最適ルート」を選ぶ。相手のスプリントを2回強いらせる経路が有効です。

逆サイドの脅威化と時間の創出

逆サイドを常に「今行ける」状態に。逆のウイングやSBを高い位置で幅取りし、相手のラインを伸ばして時間を作ります。

3人目・3ラインの活用

出し手→受け手→第三者の順で一気に越える。最終ライン・中盤・前線の3ラインを連動させると一発で脱出できます。

身体の向き（オープンボディ/半身）と初速

半身で受けて前足で触り、初速を上げる。閉じた体の向きは自動的にプレスの餌になります。

受け手の肩チェックとスキャン頻度

受ける前2回、受けた後1回のスキャンを最低ラインに。肩越し確認でファーストタッチの方向が決まります。

味方と相手の同時可視化（視野の取り方）

相手2人と味方1人が同じ視界に入る位置へ移動。見る回数を増やすより、見える位置に立つことが先です。

配置と形でいなす（ビルドアップの型）

2-3/3-2の基礎と大外化

CB2＋中盤3、またはCB3＋中盤2で中央の角度を作りつつ、ウイングはタッチラインに貼って横幅で圧を伸ばします。

偽SB（インバート）で中盤数的優位を作る

SBが内側に入り、相手のFW＋IHに対して3対2を作る。外はWGが幅取りし、内外の二択で迷わせます。

アウトサイドCBの持ち運びで縦圧を外す

外側CBが運ぶと相手のIHが釣られ、背後の縦パスが通りやすくなります。5〜8mのドリブルで引き出しましょう。

ダブルピボーテ/シングルピボーテの使い分け

人基準にはダブルでズレを生み、ゾーン基準にはシングルでライン間に一人を残す。相手の出方で切り替えます。

サリーダ・ラボルピアーナの考え方（呼称と狙い）

中盤が最終ラインに落ち、SBが高い位置を取る形。中央での数的優位と前進角度を同時に確保します。

ゴールキックからの再開パターン設計（短く/長く）

短い再開は角度と3人目必須、長い再開はターゲットとセカンドゾーンの準備が軸。事前サインで瞬時に切替えます。

技術的ソリューション（個人技術）

レイオフ/ワンツー/壁パスの使い所

強い圧にはレイオフ、食いつきを利用するならワンツー。受け手は逆足で外へ置き、背後の3人目へつなぎます。

ターン技術（アウト→イン、逆足ターン、背負いターン）

相手が強く寄せる時はアウトで触ってインへ切替え。逆足ターンは影を外し、背負いターンは時間稼ぎに有効です。

ラ・パウサで時間を作るコツ

一瞬止める勇気が周囲の動きを引き出します。止める位置は足元ではなく相手の届かない外側へ。

ボールの置き所とファーストタッチの方向付け

相手の前足とは反対側に置く。タッチは次のパス角度を「開く」位置へ運ぶのが基本です。

ボディフェイントと縦推進の脅しで相手を縛る

縦へ行ける体勢を見せ続けると、相手の足は止まります。実際に2回に1回は縦推進を混ぜましょう。

GKの足元・キックレンジと選択肢拡張

GKは逆サイドのミドルレンジを通せると一気に楽に。浮き球と速いグラウンダーの2枚看板を磨きます。

パスの角度と高さの選択

斜めの分解パスと縦パスのタイミング

縦は引きつけ切ってから、斜めは相手の背中が向いた瞬間。縦→斜め→縦の三拍子で割ります。

ロングボールでの前進（ピン留めとセカンド回収）

1人がCBを釘付け、もう1人が落下点の前で準備。後方は扇形に構えてセカンド回収を厚くします。

ループ/チップ/スルーの使い分け

前向きな味方にはチップ、背中取りにはスルー、GKの前を越すには軽いループ。相手の重心で選びます。

対角スイッチと速いサイドチェンジ

強度の波が落ちた瞬間に対角。グラウンダー2本で移動させると精度と速度のバランスが取れます。

ミドルレンジの弾道コントロール

腰から先に振り抜き、膝下で弾道を調整。浮かせず速く、が合言葉です。

浮き球でラインを越えるアイデア

相手の足と足の間を通すループは有効。受け手は胸トラップではなくヘッドか大腿で前へ置きます。

数的不利でも解ける連係

3人目の動きと反対足レイオフ

プレス方向と逆足へのレイオフで影外し。3人目は最初から走り出し、触数を減らします。

アンダーラップ/オーバーラップの同時性

内外同時のランは相手の基準を壊します。ボールホルダーは最終瞬間まで判断を保持。

ローテーションでマーク基準を崩す

IHとWG、SBとIHなどの入れ替わりで人基準を剥がす。前もって頻度と合図を共有します。

フリーマンの創出と利用

誰も捕まえていない選手＝フリーマン。最短でボールを届けるだけでなく、次の出口まで用意します。

内外の縦ズレでライン間を開く

同じ高さに並ばない。内は降り、外は押し上げ、縦ズレで縦パスの道を作ります。

スクリーンとブラインドランの活用

マークの進路に体を置くスクリーンと、死角からのランで受ける。細かな反則は避け位置取りで勝ちます。

スペース管理とリスクバランス

レストディフェンスの初期配置

逆サイドSBは絞り、ボランチは背後の消失点を管理。ロスト時の即守備が機能します。

失ったときの即時奪回とファウルマネジメント

3秒カウンタープレスで遅らせ、危険なら戦術的ファウルで遮断。カードリスクは全体で共有します。

後方のカバーと背後警戒の優先順位

最優先は背後。前に出る守備は二人目のカバーが条件です。

スコア/時間/風向きでの判断基準

リード時は長く、ビハインド時は短く＋速く。風雨は浮き球の精度を落とすので足元基準へ切替えます。

「行く時・蹴る時・回す時」の合言葉

前進合図＝行く、圧が強すぎる＝蹴る、整理が必要＝回す。全員の判断を同期させます。

セットプレー・スローインからの回避

ゴールキック短く/長くのスイッチ基準

相手がマンツーで密着→長く、ゾーンで待つ→短く。GKとCBの手サインで即時切替えます。

スローインでのトライアングル形成と3人目

投げ手＋近く＋遠くで三角形。背中側の3人目が最終出口です。

キッカーと受け手の事前サインの作り方

手の数や胸のタップで合図を統一。合図は攻守で同じパターンにしないことがコツです。

自陣FKでの安全な再開手順

一度横へ、相手が出た背中に縦。蹴る前にレストディフェンスを整えるのを徹底します。

相手のセットプレスを外す位置取り

壁の外側にワンクッションを置き、逆サイドの幅で逃げ道を確保します。

実戦で効く具体パターン集

アップ・バック・スルー

前→戻し→裏抜けの三手。人基準を逆手に取る基本形です。

プルバックで逆を取る

縦への見せから足元へ引く。相手の重心を前へ運んで逆を突きます。

偽9の落ちとウイングの裏抜け

CFが中盤化し、CBを釣った背後へWGが走る。3人目の縦パスが鍵です。

サイドでの数的優位→逆サイド即スイッチ

局所で2対1を作り、相手が寄った瞬間に対角へ。最短2本で決め切ります。

CB→IH→SBの内回しで前進

内側を経由して外を解放。IHは半身で受け、即時に外へ展開します。

縦→横→縦のリズム変化

縦で刺し、横で休ませ、再度縦で加速。相手の強度波に逆らわず崩します。

相手タイプ別の攻略

マンツーマン気味のハイプレス

ローテと引き付けが効きます。長短の蹴り分けで一気に剥がしましょう。

カバーシャドウ重視のゾーン

影の端で受け、斜めの角度で突破。ライン間に立つ人の質が勝負です。

GKまで追い切る全体押し上げ

背後の広大なスペースを即時に狙う。GKの対角ロングとCFのピン留めが肝です。

斜め限定の片側圧縮

圧縮側へ一度入り、逆へ抜ける二段構え。内外のランで出口を増やします。

5バックのジャンププレス

WBが出た背中のスペースを素早く使う。CBのスライド前に刺します。

前線3枚のトリガー連動型

バックパスで一斉に来るタイプは、縦ワンツーとGK経由の対角で分解します。

年代・レベル別のアレンジ

高校〜大学での現実解と制約

練習時間が限られるので「3つの合言葉」と「GKの蹴り分け」に絞って浸透を優先します。

社会人・アマチュアの週2練習向け設計

ロンド＋再現ゲームの二本柱。定例の合図セットを毎週繰り返します。

少年年代の安全な導入

背後ゼロの配置は避け、ロストしても守れる形で。個の技術は方向付けと体の向きから。

人数が揃わない日のメニュー代替

3対2＋フリーマンや、L字ロンドで角度の学習。GKは壁に向けた蹴り分け反復を。

個の技術差が大きいチームでの最適化

役割固定でミスの高コスト化を防ぎ、出口役だけ自由度を上げる設計が有効です。

トレーニングメニュー

4対2/5対3ロンドの目的別バリエーション

1タッチ縛りで角度学習、2タッチ縛りで体の向きを学習。守備のトリガーを明確に。

3ゾーン前進ゲーム（制限付きルール）

各ゾーン2タッチ以内、ライン越えは3人目必須など、現象を強制します。

GK含むビルドアップ回避ドリル

GKの対角/ミドル/足元を織り交ぜ、合図で短長を即時切替。セカンド回収を数値化します。

フィニッシュ付き波状前進（段階的負荷）

前進→脱出→即フィニッシュを一連で。守備強度を段階的に上げます。

定量化ドリル（成功率・時間・回数）

脱出成功率、所要秒数、縦パス本数を記録。改善点が明確になります。

ゲーム形式に落とすスケジューリング

ロンド→制限ゲーム→11対11で再現。週ごとにテーマを固定します。

コミュニケーションと合図

キーワード集（縦！逆！寄せ！）

「縦！」「逆！」「回せ！」「時間！」など短く統一。言語の省エネが意思決定を速くします。

手のサインと視線の使い方

対角＝両手開き、長い＝親指上、短い＝手の平下。視線で空間を指し示します。

役割分担とキャプテンの判断

切替基準は主将とGKが管理。迷ったら安全優先を合言葉に。

ベンチからの情報伝達

相手のトリガーと強度の波だけを簡潔に。多情報は混乱を生みます。

試合中のマイクロ調整（その場修正）

SBの内外、ピボーテの位置、WGの高さを5m単位で調整。即時に影響が出ます。

映像分析・データの活用

試合前のスカウティング項目

プレスの基準、人かゾーンか、トリガー、GKのライン。再現性の高い癖を集めます。

PPDA等の指標の読み方と限界

高PPDA＝圧が弱い可能性ですが、位置と質までは示しません。映像と併用が前提です。

クリップの作り方と共有の手順

成功3本・失敗3本・修正案1本で1セット。選手別に短く共有します。

個人別レビューでの改善点抽出

体の向き、最初の一歩、視線の位置を定点で確認。本人の言葉で再定義します。

次戦へのフィードバックループ構築

試合翌日→整理、2日目→修正ドリル、3日目→ゲームで検証の流れを固定化します。

よくあるミスと修正法

ボール保持者だけを見る問題

視線の矢印を意識し、相手2＋味方1を同時視野に。受け手が立ち位置を変えて助けます。

ファーストタッチで閉じる癖

半身で受け、外へ運ぶタッチを習慣化。逆足で受ける練習を増やします。

中央固執で逆サイドが死ぬ

中央が詰まったら即対角。幅の選手に最低1度は触らせます。

逃げの横パスの連続

横は次の縦のために。横→縦の約束をチームで共有します。

GKの準備不足と立ち位置

CBより半歩外、前目で角度を作る。常に逆サイドの選択肢を持ちます。

同一リズムで読まれる配球

タッチ数と間合いを揺らし、速→遅→速の緩急で予測を外します。

メンタルとゲームマネジメント

失敗直後のリセット手順

合言葉→深呼吸→役割確認の3ステップ。次のプレーに集中します。

プレス耐性を上げるセルフトーク

「半身・角度・逆」を心の中で唱える。自己指示は簡潔に。

時間帯ごとのリスク調整

立ち上がりは安全、相手の疲労が見える中盤で前向き。終盤はスコア基準で。

先制後と劣勢時の方針

先制後は相手の焦りを利用し、二度と背後を消す。劣勢時は長短のミックスでテンポを上げます。

不安定な流れを切る時間稼ぎの合法的手段

スローインのやり直し、ボール交換、靴紐の確認など、ルール内で呼吸を整えます。

用具・環境の影響

ピッチ状態とバウンド対応

荒れたピッチは浮かせず足元へ。最初の5分で転がりと摩擦を確認します。

スタッド選択と安定性

滑る日は長め、硬い日は短めで足元の安定を確保。初速と切り返しに直結します。

ボールの空気圧・弾み

高圧は弾み、低圧は重い。蹴り分けとトラップの基準をアップで調整します。

風雨・暑熱時の対策

風上は足元、風下は対角の浮きを禁止。暑熱時はプレー間の水分補給を徹底します。

ナイター/昼間の視覚環境差

ナイターは対角の認知が遅れがち。事前に照明の影と見え方を確認します。

ミニFAQ

「相手のハイプレスが強すぎて繋げない」時の最初の一手は？

長短のスイッチを宣言し、ターゲット＋セカンド回収で一度背中へ出します。相手の最終ラインを下げるのが先です。

GKが苦手なときの代替案は？

CBの片側に寄せ、SBが内に入る偽SBで角度を増やす。タッチ数制限で判断をシンプルにします。

左右非対称の配置は有効？

有効です。相手の基準が崩れ、トリガーが遅れます。レストディフェンスのバランスだけ注意を。

セーフティに蹴る基準は？

背後ゼロ、正対で受けられない、カバーが不在の3条件が揃ったら即セーフティです。

プレッシャー下での判断を速くするには？

スキャン頻度の習慣化と、合図の共通化。練習で「制限」を設けて意思決定を鍛えます。

まとめと次の一歩

今日から試せる3つの実践

半身で受ける、横は縦のために使う、合言葉「行く・蹴る・回す」を共有。この3つで景色が変わります。

チームに浸透させる導入計画

初週は合図と配置、2週目はパターン2つ、3週目はゲームで検証。週ごとにテーマを固定します。

試合当日のチェックリスト

相手の基準確認、風向き、GKの蹴り感、逆サイドの高さ、レストディフェンスの初期位置。これだけは必ず共有を。

継続的学習のための参考リソース

試合映像のセルフ分析と数値化（脱出成功率・時間）が最強の先生です。毎週の記録を残しましょう。

あとがき

ハイプレスは「恐れる対象」ではなく「空間を露出させる仕掛け」です。相手が勇気を持って前に出るほど、背後は広くなります。今日、合図と言葉を整え、明日、形と角度を整え、週末には「いなす喜び」を体で確かめてください。現場で効くアイデアは、繰り返しと共有から生まれます。