「5レーン」は、ピッチを縦に5つに分けて考えるシンプルな位置取りの原則です。複雑な戦術用語を使わなくても、味方との距離感と相手のずらし方が見えてきます。本記事では、攻守が整う配置と動き方を、実戦で使える言葉と具体例でわかりやすく解説します。
目次
- 導入:なぜ「5レーン」を学ぶと攻守が整うのか
- 5レーンとは何か:用語とピッチの分割方法
- 5レーンの基本原則:幅・高さ・深さのマトリクス
- レーン占有のルール:同一レーンの人数と縦列の原則
- 役割別の立ち位置と体の向き:SB/CB/DM/WG/CF
- フォーメーション別の適用例
- ビルドアップでの使い方(第1〜第3相)
- 攻撃の連携パターン:ハーフスペース活用の実戦例
- 守備での使い方:コンパクトネスとレーン封鎖
- トランジション(切り替え)で効く5レーン思考
- 相手の特徴別アジャスト:5バック/マンツーマン/ハイプレス
- セットプレーに活きる5レーン思考
- トレーニングメニュー:現場で使えるドリル集
- 計測と改善:KPIと動画分析チェックリスト
- 年代・レベル別の導入法
- よくある質問(FAQ)
- 用語集:5レーンと関連コンセプト
- まとめ:今日から実戦で使うための3ステップ
- あとがき
導入:なぜ「5レーン」を学ぶと攻守が整うのか
5レーンがもたらす3つの効果(判断のシンプル化・スペース活用・再現性)
5レーンは「どこに立つか」を決めやすくし、迷いを減らします。幅と高さが明確になり、相手の守備を横と縦の両方で広げられます。さらに、配置が整うため同じパターンを何度も再現でき、試合全体の安定感が増します。
「戦術ありき」ではなく「原則で整える」アプローチ
難しい戦術の前に、味方と被らない・三角形を作る・高さをずらすといった原則を共有することが先です。5レーンはルールを減らすための土台で、選手の良さを引き出す「制約のデザイン」と捉えてください。
5レーンはポジショナルプレーの前提条件か?誤解と正しい捉え方
5レーンは“必須の正解”ではありません。あくまで位置認知を助ける基準線です。ドリブル主体でも、カウンター主体でも、配置が整っていれば次の一手が速く、攻守の切り替えもスムーズになります。
5レーンとは何か:用語とピッチの分割方法
ピッチを縦に5分割する理由(外・ハーフスペース・中央)
左右の「外レーン」、中央の「中央レーン」、その間の「ハーフスペース」2つで5本。外は幅を取り、中央は最短距離、ハーフスペースは前進とゴールへの角度を両立できる“狙い目”です。
自陣/中盤/相手陣を重ねた“縦×横”のグリッド思考
ピッチを縦5×横3(自陣・中盤・相手陣)でざっくり15マスに分けて考えると、役割が見えます。自陣は安定、中盤は前向き、相手陣はフィニッシュと、ゾーンごとに意図を整理します。
実戦での引き直し方:ライン引きがなくても使える位置認知
線がない試合中は、タッチライン・ペナルティエリアライン・センターラインを基準に「自分は今どの帯にいる?」と定期的に確認。常に隣のレーンと高さがずれているかを意識します。
5レーンの基本原則:幅・高さ・深さのマトリクス
幅(ワイド)で相手を広げる/高さ(縦関係)でライン間を突く
幅取りがあると中央が空き、高さの差があると縦パスが刺さります。大外・ハーフスペース・中央の誰かが前に、誰かが背後を狙い、誰かが支点になる三角形を保ちます。
深さ(背後/足元)の二択を常に提示する
同じレーンにいる2人は「背後」と「足元」で役割を分け、相手の迷いを作ります。背後を脅かせれば、足元での前向き受けが楽になります。
同一レーンで縦並びを作りすぎない理由(視野・マーク・パスライン)
縦一直線は視野が被り、相手に1枚で2人を消されます。半身で受けられる斜めの位置関係(三角・菱形)を基本に、角度で優位を作ります。
レーン占有のルール:同一レーンの人数と縦列の原則
原則1:同一レーンは同一ラインに2人以上並ばない
横一直線はパスが読まれやすく、オフサイド管理も難しくなります。必ず一段ズレて受ける癖をつけましょう。
原則2:隣接レーンと高さをずらして三角形/菱形を作る
パスの出口が2つ以上ある形は奪われにくく、ボールを前に運べます。中盤は特に「三角形を常に維持」を合言葉に。
例外の使い方:意図的な重なりでフリーマンを生むタイミング
意図的に同一レーンへ集めて相手を吸い寄せ、逆サイドに時間を作るのは有効。圧縮→解放の順番をチームで共有します。
役割別の立ち位置と体の向き:SB/CB/DM/WG/CF
CB:外側誘導と内側突破の“二刀流”を可能にする立ち位置
CBは外レーン寄りで角度を確保し、相手を外へ誘導。内側へ刺す縦パスのレーンも同時に確保できる半身の構えを基本にします。
SB:タッチライン管理とインナーラップの判断基準
SBは幅取りの係と内側サポートを切り替えます。外で張る時は高く、内に入る時はIHと高さが被らないよう一段下がるのがコツです。
DM:ハーフスペースの支点化と背中の警戒(レストディフェンス)
DMはボールサイドのハーフスペースで前向きの支点に。攻撃時も背後のカウンターケア(相手FW+1人の数的優位)を忘れません。
WG:幅取りと内外のセルフローテーション
WGは最初に幅を取り、SBやIHの動きに合わせて内外を入れ替えます。内へ絞る時は背後かニアゾーンへのランで脅威を出します。
CF:背後脅威とポスト役の両立、レーン跨ぎの許容範囲
CFは中央レーン基準で、片方のハーフスペースへ流れるのは許容。流れた側と逆側のWGが背後へ走る連動を作ると厚みが出ます。
フォーメーション別の適用例
4-3-3:WGの幅取りとIHのハーフスペース占有
WGが外を張り、IHが同サイドのハーフスペースで前向き受け。逆サイドWGは二次加速で裏を狙い続けます。
4-2-3-1:トップ下の立ち位置ルールとSBの役割分担
トップ下は両ハーフスペースを横断。SBは一方が外高く、一方が内側低めでバランスを取るのが安定します。
4-4-2:2トップの縦関係とサイドMFの内外可変
2トップは必ず縦関係。ボールサイドのサイドMFは内に絞り、逆サイドは幅をキープしてサイドチェンジの受け皿に。
3-4-3:ウイングバックの高さ管理と3トップのレーン配分
WBはボールサイド高く、逆サイドは一段低く。3トップは中央+片側ハーフスペース+大外でバランスを取ります。
3-5-2:2トップのレーン分担とIHの前進ルート
2トップは中央+ハーフスペースに分担。IHは同サイドの外過密を作ってから、縦スプリントで背後へ。
ビルドアップでの使い方(第1〜第3相)
第1相:GK/CBの三角形と片側過密の作り方
GK-2CBで基本三角形。SBやDMを片側に寄せて過密を作り、相手を誘って逆サイドの時間を得ます。
第2相:中盤での前向き受けとライン間の“時間稼ぎ”
IHやトップ下がライン間で半身受け。ボールを置く位置で相手を外へ引き、次の味方が準備する時間を稼ぎます。
第3相:最終局面の裏抜け/カットバックの再現パターン
WGが外で縦突破→折り返し、IHがニア奥、CFがニア、逆WGがファー、SBがペナルティアーク付近の二次攻撃。役割を固定すると再現性が高まります。
サイドチェンジの基準速度とボール循環の目安
サイドチェンジは「2〜3本のパス、3秒以内着弾」を目安に。循環は同サイド3回以上停滞しない、を合図に切り替えます。
攻撃の連携パターン:ハーフスペース活用の実戦例
サードマン(三人目の動き)で中央を開ける
CB→IH→WGのリターンでサードマンのCFに通すなど、三人目が前向きで受ける形を狙います。
オーバーロード&アイソレーション:作って、離す
片側に人数を集め相手を吸い寄せ、逆サイドWGを孤立させて1対1を作る。寄せる→離すの順です。
アンダーラップ/インナーラップの使い分け
WG外→SB内のアンダーラップは中央侵入に、SB外→WG内のインナーラップは背後脅威に。相手SBの視線を外す方向に走ります。
ハイレーンとローレーンの入れ替え(ローテーション)
高い位置の選手が下り、低い位置の選手が入れ替わりで背後へ。マークを混乱させ、縦パスの角度を生みます。
クロスの質を上げる“5人目”の進入タイミング
クロス時はニア、ニア裏、ファー、ペナルティスポット、トップ(アーク)に5人目が遅れて突くと二次回収が安定します。
守備での使い方:コンパクトネスとレーン封鎖
外切り/内切りの統一とハーフスペース管理
チームで「外へ追い込む」か「内を封鎖する」かを統一。ハーフスペースに“誰が出るか”を事前に決めます。
プレスのトリガー:背面パス/浮き球/逆足受け
後ろ向きのバックパス、腰高の浮き球、逆足トラップは狙い目。全員の合図を1つに絞ると出遅れが減ります。
タッチラインを“味方”にする追い込み方
外レーンに誘導し、縦・内側を同時に消して二方向だけを残す。二人目が“出口”を閉じて奪取します。
レストディフェンス:攻撃時に残す人数と配置の目安
相手の前線人数+1人を背後に残すのが目安。CB+DMの三角で中央を閉じ、逆サイドSBが保険に回ります。
トランジション(切り替え)で効く5レーン思考
奪った直後:レーン跨ぎの最短前進と安全確保の天秤
奪った瞬間は「縦・逆・保持」の三択。縦が無理なら逆レーンへ通して外す、なければシンプルに保持でOKです。
失った直後:5秒ルールの誤解と実際的な再奪回
「5秒」は目安であって義務ではありません。最も近い2〜3人で即時圧力、後ろは背後警戒で深追いし過ぎないこと。
ファウルマネジメントと戦術的リスク分散
危険なカウンターは反則にならない範囲で遅らせる判断も必要。カードや位置を踏まえ、チームで基準を共有します。
相手の特徴別アジャスト:5バック/マンツーマン/ハイプレス
5バック相手:最終ライン固定化への対処(逆サイドの時間作り)
片側でWBを釘付けにし、逆サイドへ速い展開。ハーフスペースで受け手を作るとライン間が裂けます。
マンツーマン相手:ローテーションと空走でフリーを生む
入れ替わりと空走(ボールを触らない走り)でマークをずらす。味方が空けたスペースに三人目が差し込みます。
ハイプレス相手:第1相の“3対2”を作る配置と長短の使い分け
GKを含めて3対2を作り、1人を必ずフリーに。足元の短い繋ぎと背後の長いボールを使い分けてプレスを外します。
ミラー対応:同形対決で差がつく基準の統一
同形は個の勝負になりがち。高さのズレ、背中のケア、三角形の維持といった“基準”の徹底で差が出ます。
セットプレーに活きる5レーン思考
CK攻撃:ファー/ニア/ニア裏のレーン分担と二次攻撃
ニア叩き、ニア裏のスクリーン、ファーの折り返しの三段構え。こぼれ球の回収位置も事前に決めます。
CK守備:ゾーン/マンツー混合での担当レーン設計
中央ゾーンを2〜3人で守り、危険なランナーにはマンツー。ニアの第一列は弾く、ファーは回収に備えます。
FK/スローイン:再開後3秒の配置を整えるテンプレ
再開直後に三角形を1つ作る、背後ランを1本入れる、逆サイドは幅を確保。3秒で攻守の形を整えます。
トレーニングメニュー:現場で使えるドリル集
4対2+外レーン“出口固定”ロンド(サードマン徹底)
- 条件:外レーンからのみ前進可。中央→外→前進を徹底。
- 狙い:三人目の意識、体の向き、素早い角度作り。
5レーン制約ゲーム(同一レーン2人縦並び禁止)
- 条件:同一ラインでの縦並び禁止、三角形が途切れたら相手ボール。
- 狙い:高さのズレ、占有バランスの自動化。
ハーフスペース侵入からのカットバック反復
- 形:外→内(ハーフスペース侵入)→折り返し。
- 役割:ニア・ニア裏・ファー・アーク・二次回収の5人を固定。
可変SBドリル:外→中→外の時間差走
- SBが外で受け→IHへ落とし→内に絞って再加速→外へ解放。
- 狙い:相手SBの視線をずらす、時間差の創出。
ゲーム形式の評価観点(占有率/前進回数/背後試行)
- 外レーン使用率、ライン間前進回数、背後へのラン試行数をカウント。
- 数値で良かった局面を振り返る癖をつけます。
計測と改善:KPIと動画分析チェックリスト
KPI例:最終3分の1進入、サイドチェンジ成功率、背後走回数
1試合あたりの相手陣最終3分の1進入回数、サイドチェンジの到達率、無ボールの背後ラン回数を追います。
動画で観るポイント:縦関係/逆サイドの準備/体の向き
受け手が半身か、逆サイドの幅がいつ用意されたか、三角形ができているかを停止画で確認します。
よくあるエラーと修正コーチングの声かけ例
- 縦並び→「一段下がる/一段上がる、角度つけよう」
- 幅不足→「逆サイドは今から準備」
- 背後脅威ゼロ→「誰が背中を脅かす?」
年代・レベル別の導入法
中学年代:幅と三角形の徹底
「外に1人、間に1人、斜めに1人」。合言葉は“幅・角度・前向き”。
高校・大学:ハーフスペースの時間創出とローテーション
ライン間の半身受けと、2人の入れ替わりでマークを外す。数的同数でも前進できる感覚を育てます。
社会人・アマチュア:シンプルなルール選択で再現性を担保
「同一ライン縦並び禁止」「逆サイドは常に準備」の2ルールから。短時間でも効果が出ます。
よくある質問(FAQ)
5レーンは固定的?選手の自由度はどれくらい?
固定ではありません。基準線として使い、味方と被らず三角形を保てるなら自由に動いてOKです。
サイドに寄せられた時の中央攻略の戻し方は?
外で時間を作り、内側へサードマン。逆サイドの幅準備→中央リターン→縦、の順で解放します。
ドリブラーが多いチームでも機能する?
機能します。むしろ配置が整うと1対1の場面を作りやすく、二次攻撃の回収率も上がります。
用語集:5レーンと関連コンセプト
ハーフスペース/内外可変/サードマン
ハーフスペース:外と中央の間。内外可変:外と内を入れ替える動き。サードマン:三人目の関与で前進する発想。
オーバーロード/アイソレーション
オーバーロード:局所的に数的優位を作る。アイソレーション:狙いの選手を1対1にするために周囲を空けること。
レストディフェンス/ライン間/高さの非対称
レストディフェンス:攻撃時に残る守備の保険。ライン間:相手MFとDFの間。高さの非対称:縦関係のズレ。
まとめ:今日から実戦で使うための3ステップ
チーム内ルールの最小セットを決める
「同一ライン縦並び禁止」「幅の準備」「誰かが背後」を最小ルールに設定します。
練習の制約で原則を“見える化”する
5レーン制約ゲームや外レーン出口固定ロンドで、形が崩れたら即リセット。身体に覚えさせます。
試合後にKPIで振り返り、1つだけ改善する
毎試合ひとつのKPIを選び、改善点は1つに絞る。小さな前進を積み上げるのが近道です。
あとがき
5レーンは「速くて賢い」判断の土台です。難しく考えず、まずは立ち位置のズレと三角形。そこにあなたの得意技を載せれば、チームはもっと前へ進めます。明日の練習から、ひとつだけ実験してみてください。
