ビルドアップで第3ライン通す、図解でわかる要点

リード

ビルドアップで「第3ラインを通す」。言い換えれば、相手の2列目（中盤）を縦パスで突破し、前進の質とスピードを一気に引き上げることです。本記事は図解イメージを言語化しながら、誰でも再現しやすい原則と配置、トレーニングまでを一気通貫で整理しました。図はすべて文字で描くので、練習メモやホワイトボードにもそのまま転記できます。

導入：第3ラインを「通す」とは何か

定義とピッチ上の「ライン」の概念

第3ラインとは、後方から見て「最前線へ届く縦パスのライン」を指すことが多く、守備の列で言えば相手の2列目（MF）を越えて3列目（DF背後or最終ライン手前）へ通すことを意味します。単に距離が長いパスではなく、守備の横・縦の矢印を外して「ひとつ先の危険ゾーン」へボールを届ける発想です。

第3ラインがもたらす戦術的メリット

最大のメリットは前進スピードとゴール期待値の上昇です。相手の中盤を飛ばすことで、守備の戻り時間を奪い、数的優位や一時的な孤立（相手の）を作り出せます。加えて、相手CBを迷わせる（食いつかせる or 退かせる）効果で、足元と背後の両方の脅威を同時に提示できます。

図解イメージで押さえる全体像（文字で描くフレーム）

自陣       中盤              最終ライン/背後[CB]---[VOL]---[IH]---->[WG/CF]→→(背後)   ↘縦(第3L)   ↘落とし   ↗サードマン走

用語整理とフィールドの区分

縦3ライン・5レーン・ハーフスペースの関係

縦3ライン（DF- MF- FW）と、横方向の5レーン（左外/左ハーフスペース/中央/右ハーフスペース/右外）を組み合わせると、狙いの優先順位が明確になります。第3ラインを通すときは、中央〜ハーフスペースが最短で、外レーンは回避路や誘導に使います。

1st/2nd/3rdラインの基準と典型的な位置関係

1stライン＝自陣後方（GK/CB/SB）、2ndライン＝中盤（ボランチ/IH）、3rdライン＝最前線（WG/CF）。ビルドアップでは、1st→3rdを直接つなぐか、1st→2nd→3rdを「サードマン経由」で刺すのが基本です。

横ズレ・縦ズレの言語化図解テンプレート

横ズレ：相手MFの→→（横移動）を誘発して、逆サイドor内側を通す縦ズレ：相手DFの↑↓（前後移動）を強制し、背後or足元の2択を作る

原則：第3ラインを通すための5つの土台

角度・距離・体の向き：3点の整合性

受け手の体の向きがゴールに半身になり、パサーとの角度が45度前後、距離は8〜18m（守備強度で調整）が通しやすい“黄金帯”。体が閉じると後ろ向きのプレーが増え、縦パスの価値が下がります。

スキャン（認知）と事前プランの作り方

受ける前に最低2回のスキャン（手前→奥）でDFの肩の向きと間合いを確認。t0で「通す/落とす/はたく」の3択を仮決めし、t1で上書きするイメージを徹底します。

タイミング：相手が片足になった瞬間を突く

守備者の踏み替え時（片足体勢）はリアクションが遅れます。パスの出所と走り出しを「相手の片足」に同期させると、同じスピードでも通りやすくなります。

優位性（数的/位置的/質的）を組み合わせる

• 数的：+1を作る（GK含む、IHの落ちる動き）
• 位置的：ハーフスペースで前向き獲得
• 質的：1対1に勝てるWGへアイソレート

リスク管理と即時奪回の配置

縦パスは奪われると危険。背後にカバー（アンカー1枚＋CBの距離短縮）、失って3秒の即時奪回でカウンター抑止。外側のセーフティレーン（SB）を常に1枚残します。

基本メカニズム：サードマンで通す

サードマンの定義と役割

パスの受け手（セカンドマン）ではなく、次に受ける第三者。縦パスの圧力を一瞬で背後へ転化させる役割で、角度と走り出しが命です。

縦パス→落とし→裏抜けの三角形

CB→IH（縦）→CF（落とし）→WG（背後）   前向き     ワンタッチ      斜め抜け

「落とし地点」は相手の足が届かない半身側へ。置き所10〜12時方向が基準です。

逆サイドのサードマン創出（オーバーロード→アイソレート）

片側に人数をかけて相手を寄せ、逆サイドに時間と空間を作る定番手法。逆サイドWGがサードマンとなり、背後ランを加速させます。

図解イメージ：CB→IH→WGの背後抜け

[CB]-→(縦)→[IH] -→(レイオフ)→ [CF]                         ↘(スルー)→ [WG→背後]

形づくり：ビルドアップの配置テンプレート

2-3/3-2/3-1-3の作り方と使い分け

2-3はSB高めで中盤厚く、3-2はCB3枚で安定、3-1-3は間で受ける10番を明確化。相手の枚数と矢印で可変しましょう。

GKを含めた+1の発想と安全地帯の設計

GKを数的+1として使い、プレスの一線目を外します。GK-DF間は8〜12m、DF間は12〜18mでボールスピードとトラップ時間を最適化。

SBの中入れ（インナーラップ）とWGの幅の連動

SBが内側に立つと、相手の中盤が迷い、ハーフスペースの縦が開きます。WGはタッチラインに張り、幅の脅威を保ちましょう。

CFのレイヤー操作（背中→足元→背中）

まず背中で最終ラインを下げ、次に足元で受け、最後にまた背後へ抜ける。「背中→足元→背中」のリズムがDFの重心を崩します。

相手別攻略：よくあるプレッシングへの解き方

4-4-2：2トップの矢印をずらす縦抜け

CBが運び、片方のFWを固定。逆側ボランチに立たせて2TOP間の縦レーンを作り、IHがそこへ顔を出して前向きに。

4-2-3-1：トップ下の縦切りを利用する偽装

アンカーを囮にしてSB or 逆IHへスイッチ。トップ下が切った矢印の外側で前進し、次の縦刺しを準備します。

3-4-3：外限定の逆手取り（外を見せて内へ）

ワイドに誘ってからCBが内へ運ぶ。CHの背中に立つIHへ速い縦、落とし一発で第3ライン突破を狙います。

図解イメージ：縦パス偽装→逆サイドの第3ライン突破

左で密集(偽装縦)→相手スライド→CB(斜めスイッチ)→右WGが内に絞って第3L受け→背後

ポジション別の要点とミニ原則

GK：誘いの度合いと逆足クリアの基準

誘いは1人まで。2人目が詰めたら逆足クリア。視線は中央→外→背後の順でサーチし、最短で外す習慣を。

CB：運ぶドリブルと『針の穴』の見極め

相手の足幅が広がるまで運ぶ→針の穴に通す。無理なら外→内の順で段差を作るのが安全です。

SB：内外のポジショニング切替と第三者化

外で幅、内で人数。受け手になるより「次の受け手（サードマン）」を作る動きでリズムを前に進めます。

ボランチ：ハーフターンの角度と背面認知

受ける時は半身で45度。背面のCBとWGの位置を常に把握し、落としと縦刺しを両立させます。

IH/10番：現れて消えるタイミング操作

見える→消える→また見える。相手の視界から一瞬消えて、縦パスの瞬間に現れると前向きが取れます。

WG/CF：幅と深さの両立、背後の脅威を維持する走法

静止せず「行くふり→止まる→また行く」。最終ラインの認知負荷を上げ、縦パスの通り道を広げます。

技術スキル：通すためのボール扱い

グラウンダーパスの質（回転・スピード・着弾点）

弱スライス回転で直進性と足元の収まりを両立。味方の前足インサイドに着弾、スピードは守備者の届く一歩先を通過する強度が基準です。

ワンタッチ方向づけとレイオフの置き所

レイオフは相手の逆足側へ。受け手が前を向ける角度（10〜2時）に置き、次のパスラインを開きます。

レシーブのプロテクト（C字受けと屏風）

C字で相手を遮り、腕と肩で距離を確保。身体を“屏風”にしてボールを視線から隠し、一瞬の前向きを作ります。

ステップワークと体の向き（半身/正対の使い分け）

半身で前進、正対でキープ。受ける直前に小刻みステップで重心をニュートラルに保ち、どちらにも出られる準備を。

トリガーとフェイク：相手の矢印を作ってから通す

フェイクの3種（視線/体幹/タッチ）

• 視線：外を見る→内に通す
• 体幹：肩を外へ向ける→縦差し
• タッチ：外へ誘導タッチ→逆足で内パス

引き付けの限界値とボールロストの境界線

「相手の1.5人目が動いたら放す」が目安。ペナルティは中央のボールロスト＞外のロスト、中央は無理しないが原則です。

逆差しとレイオフの合図（合致シグナル）

合図は「見る→合う→出す」。受け手の首振りと一歩目が合致した瞬間が最速。迷いがある時は落として再加速します。

図解イメージの言語化テンプレート

俯瞰図の言語化（点・矢印・距離を文字で表す）

[A]-10m-[B]→15m→[C]A=CB, B=IH, C=WG（矢印はパス、距離は目安）

時間軸の記述法（t0→t1→t2）

t0: CB運ぶ/2TOP分断t1: IH出現/縦刺しt2: CF落とし/WG背後

役割の記号化（A=CB、B=IH、C=WG など）

記事やメモではA=CB、B=VOL、C=IH、D=WG、E=CF…と固定すると、共有が早くなります。

トレーニングメニュー：個人/少人数/チーム

個人：スキャン→方向づけ→通すの連結ドリル

マーカー3本（手前・中央・奥）。コーチの指示で奥→手前を視認→半身トラップ→前向きグラウンダー。10本×3セット。

2〜3人：サードマン連携と背後ランの同期

A→B（縦）→C（落とし）→B（裏抜け受け）条件：Bは片足タッチの瞬間に走る

6〜8人：条件付きポゼッション（縦パス制約）

3タッチ以内、縦パス入れたら1点、レイオフ経由で+1点。5分×3本で前進の意識を定着。

11人：ゲーム形式の制約ルールと段階的解放

前半は「第3ライン通しでのみ得点カウント」、後半は自由。制約→解放で試合再現性を高めます。

評価指標と難易度調整（成功基準の設計）

• KPI：第3ライン試行回数/成功率/前進に要した時間
• 難易度：接触許可/制限タッチ数/プレッシャーの距離で調整

年代・レベル別の適応と注意点

高校年代：運ぶ勇気とリスク設計の教育

まずはCBが運ぶ勇気を。失っても即時奪回の配置をセットで教え、失敗を恐れない設計にします。

大学/社会人：再現性とデータでの裏付け

狙いどこ・合図・人選を固定化。映像と数値で検証し、微調整を積み重ねます。

育成年代の親ができるサポート（声かけと観点）

結果より「前向きで受けられたか」「スキャンできたか」を褒める。判断プロセスに目を向けましょう。

よくある失敗と改善チェックリスト

受け手が止まる問題と動き直しの規律

止まる→狙われる。原則「パスの度に半歩ズレる」。見え続けないで、消える→現れるを徹底。

近所パス連発で縦が消える現象の原因

原因は角度不足と体の向き。受ける前に外向き→半身へ修正、斜めの位置取りで縦レーンを開けます。

CBの視野固定を解くスキャンルーティン

2タッチに1回、肩越し確認。前→横→背後の順で視線を走らせるルール化が有効です。

ボランチの背中狙われ問題の回避策

受ける前のチェックと、片足受けをやめる。体の向きをオープンにして第一歩を前へ。

試合分析と改善の手順

映像の切り出し：縦パストライ数/成功数のタグ付け

「第3Lチャレンジ」「レイオフ」「背後ラン」をタグ化し、前進に関与した人数も記録。

KPIの設定（第3ライン到達率/前進時間/失陣率）

前進1回に要した秒数と、直後の失陣率（奪われカウンター）を並べて評価。速いだけでなく安全も両立します。

週次レビューの進め方と練習への落とし込み

映像3本だけを深掘り→原則へ翻訳→次の練習制約に反映。少数事例の反復で習慣化します。

セットプレー・リスタートで第3ラインを通す

キックオフの一手：偽装の2手目で縦通し

一旦外へ→戻し→内で前向き縦。相手の矢印が外を向いた瞬間に中央突破を。

ゴールキック/GKスローの型と配置誘導

片側に寄せて逆のCBに落とす→IHが内で待つ→第3Lへ。距離と角度をテンプレ化しておくと成功率が上がります。

サイドライン際のスローインから背後へ

足元→落とし→斜め背後の3手で一気に。受け手はライン側に身体を入れて守るのがコツ。

コンディショニングとメンタル

視覚認知・判断速度のトレーニング

カラーコールやナンバーコールと組み合わせた受け→前向きのドリルで、視る→決める→実行の速度を底上げ。

疲労時の意思決定を支えるルーティン

「スキャン→半身→シンプル」を合言葉に。疲れたら原則へ戻るルーティンでミスを減らします。

怯まず通すマインドとチームの共通言語

「通すなら走る、走るなら通す」。言葉を短く共有し、躊躇を消す文化を作りましょう。

ルール・審判の傾向を味方にする

接触基準の傾向と受け手の身体の使い方

流れを重視する審判なら、軽い接触は流れる前提で“先に体を入れる”。接触の強度でリスクを調整します。

オフサイドライン管理と走り出しのタイミング

パサーのモーションと同時に一歩目。一直線ではなく斜めの“外→内”でラインブレイクが安全です。

よくある質問（FAQ）

低いブロック相手に第3ラインは通るのか？

距離が縮む分、直接は減ります。外→内、落とし→スルーの“第二解”で3手先に通す設計に切り替えましょう。

雨や芝でボールスピードが変わる時の対処

濡れ芝は速い→受け手の前足へ弱めに。重い芝は強めにインパクト、回転を薄くして伸びを出します。

体格差がある相手への現実的なアプローチ

足元の競りを避け、前向きと背後の“空間勝負”へ。レイオフを短く、背後ランを長く設定します。

まとめと次の一歩

今日から使えるチェックリスト（5項目）

• 受ける前に2回スキャンしたか
• 半身・角度・距離が整っていたか
• 相手が片足の瞬間に出せたか
• 通した後の即時奪回配置があったか
• サードマンの走りと合図が一致したか

練習設計テンプレートと進化の道筋

制約（縦必須/レイオフ1点）→成功体験→映像で原則化→自由化の循環で定着。図解を言語化して、誰が見ても同じイメージを共有できるようにしていきましょう。

用語ミニ辞典

サードマン/レイオフ/ハーフターン/オーバーロード/アイソレート

• サードマン：第三の受け手。縦→落とし→抜けの“抜け”担当。
• レイオフ：ワンタッチの落としパス。次の人が前向きになる置き所が肝。
• ハーフターン：半身で受けて前向きを確保する体の向き。
• オーバーロード：片側に人数をかけて相手を寄せる。
• アイソレート：相手を散らして1対1を作る。

1st/2nd/3rdラインと5レーンの要点

• 1st/2nd/3rdライン：後方→中盤→最前線のレイヤー概念。
• 5レーン：左外/左HS/中央/右HS/右外。中央とHSが第3Lの最短経路。