目次
サッカー練習試合で成果を出すコツと90分前の準備術
リード:練習試合を「本番の予行」から「成長の実験」へ
練習試合は、ただの通過点ではありません。うまくいかない所をあぶり出し、次の一歩を明確にするための「実験の場」です。この記事では、サッカー練習試合で実際に成果を出すためのコツと、キックオフ90分前からの準備術を具体的にまとめました。技術・戦術・フィジカル・メンタル・コミュニケーションを一本の線でつなぎ、試合後に「やり切った」「次が明確」の状態で帰れるように設計していきます。
この記事の狙いと「成果」の定義を合わせる
練習試合での成果とは?技術・戦術・フィジカル・メンタル・コミュニケーションの指標例
「成果」を勝敗だけに置くと、練習試合の価値が薄れます。測るべきは、次につながる再現可能な動きです。以下は指標の例です。
- 技術:ファーストタッチで前向きに運べた割合(例:受けた10回のうち6回以上)、パス成功率(難易度別)、シュートのミート率
- 戦術:前進パス割合(横パスに対する縦・斜めの比率)、プレスの開始タイミング一致度、サードマン(第三の選手)関与回数
- フィジカル:高強度スプリントの本数(自分の基準比)、加速・減速のキレ(主観RPEとセットで記録)
- メンタル:ミス後の次プレーまでの時間(3秒ルールなど)、セルフトークの質(否定→修正表現に変換できた回数)
- コミュニケーション:事前合図の徹底(合図→実行の一致回数)、守備ラインの声かけ(押し上げ・絞り・スライドの指示回数)
個人目標とチーム目標の整合を取る方法
個人の狙いがチームの狙いと逆向きになると成果は出にくいです。試合前に次の3行で整合をとりましょう。
- チームの優先:「前から奪う/中を締めて外に誘導/ロングカウンター」など1つに絞る
- 自分の役割:「2列目のスイッチ役」「ライン統率」「ビルドの起点」など具体化
- 測る数値:「前進パス3本/前半」「奪ってから5秒以内に縦1本」「オーバーラップ3回」など
コーチや家族と共有する共通言語の作り方
共通言語があると、試合後の会話が「評価」ではなく「改善」になります。用語と合図例を決めましょう。
- 用語共有:「前向きタッチ」「サードマン」「逆三角形」「トリガー(合図)」
- 数で話す:「縦パス割合」「ペナルティエリア進入回数」「被カウンター0」
- 短い合図:「ワン(足元)/ツー(裏)」「フリーズ(止まる)」「マン(寄せ来る)」
練習試合で成果を出すための設計図
仮説→実行→検証→改善の小さなサイクルを回す
練習試合はマイクロPDCA(Plan→Do→Check→Adjust)で回します。
- 仮説(Plan):「相手のSBが高い→その背後をFWが狙い、IHがサポート」
- 実行(Do):前半15分までに同じ形を3回試す
- 検証(Check):成功/未遂/失敗の原因を「判断・技術・環境」に分解
- 改善(Adjust):「合図を1拍早く」「トラップを外足に」「風向き考慮」など次の15分に修正
勝ち筋を可視化する「3つの場面」設定(ビルドアップ・トランジション・セットプレー)
- ビルドアップ:GK含め3人目で前進。内→外→内の順で縦パス角度を作る。
- トランジション:奪ったら「縦・横・戻し」の3択を3秒で決める。失ったら5秒間の即時奪回。
- セットプレー:コーナー2パターン、FK2パターンを固定。役割と二手目(こぼれ球対応)を準備。
ポジション別の役割優先順位マップの作り方
各ポジションで「まず守るべき」「次に狙うべき」を3段階で明確にします(例)。
- CB:1. 背後の消去→2. 縦パスの制限→3. 前進の起点
- SB:1. 絞りとライン統一→2. 幅取り→3. 裏取りとクロス
- IH/CH:1. 予防守備→2. 前向き受け→3. サードマン
- WG:1. 幅・深さの確保→2. 内外の使い分け→3. シュート/クロス品質
- CF:1. 起点確保→2. 裏抜け→3. プレスリード
- GK:1. ライン背後管理→2. 配球の角度作り→3. セットの統率
成果を最大化する90分前の準備術(逆算タイムライン)
90〜75分前:栄養・水分・カフェインの使い方(年齢・体重別の目安)
- 水分:体重×5〜7mlを目安に軽く補給(例:60kg→300〜420ml)。汗が多い人は少し増やす。
- 炭水化物:消化の良いものを20〜40g(バナナ1本、エネルギージェル1つ、あんぱん半分など)。
- カフェイン:活用する場合は体重1〜3mg/kgをキックオフ30〜60分前に。未成年は摂りすぎに注意し、敏感な人は控える/保護者と相談。初めては試合で試さない。
75〜60分前:ジョイントアクティベーションと可動域リセット
- 足首:壁ドリル(つま先から膝タッチ×左右10回)、カーフレイズ×15
- 股関節:ヒップエアプレーン×各8、バンドでモンスターウォーク×20歩
- 体幹:デッドバグ×8、プランク20秒×2
- 肩甲帯:スキャププッシュアップ×10、T/Y/Wのバンド動作各10
60〜45分前:加速・減速・方向転換のためのウォームアップ
- ラン系:ジョグ→スキップ(A/B)→ハイニー→バットキック 各20m
- 接地:ポゴジャンプ×20、横ポゴ×10、スプリント3本(60〜80%)
- 減速:5mダッシュ→3歩で減速×4、スティック(止め)で姿勢確認
- 方向転換:5-5シャトル×3、Tドリル×2(強度は70〜80%)
45〜30分前:技術リハーサル(ファーストタッチ・パス・シュート)
- ファーストタッチ:外足/内足/背後への置き直し 各8本
- パス:対面10mでワンタッチ→ツータッチ→ダイレ(強弱/左右)各20本
- シュート:中央からのインステップ、ニア/ファーの選択各5本(本数は少なめ、質重視)
30〜15分前:戦術確認と合意形成(初期配置・トリガー・合図)
- 初期配置:キックオフ/相手GKのビルド時の並びを1パターンで統一
- トリガー:相手の背向き/浮き球/サイドライン際→プレス開始
- 合図:声+手(指差し)で二重化。「ツー=裏」「スリー=スイッチ」など
15〜0分前:メンタル閾値調整(呼吸・セルフトーク・キックオフ準備)
- 呼吸:4-2-6呼吸×5セット、またはボックス(4-4-4-4)×4セット
- セルフトーク:「準備OK→最初の一歩→ボールを奪う→顔を上げる」の4語ループ
- キックオフ準備:最初のプレーを1つ決める(例:ファーストタッチで前向き/最初のプレスをリード)
ミスを成果に変える思考とコミュニケーション
ミスの分類(判断・技術・環境)と即時修正の手順
- 判断ミス:選択がズレた→次は選択肢を1つ減らす(縦優先などのルール)
- 技術ミス:トラップ/キック精度→次は強度を落として確実に、体の向きから修正
- 環境ミス:風・ピッチ・相手特性→立ち位置や強度を1段階調整
手順は「事実→原因→次の行動」を3秒で言語化(心の中でもOK)。
試合中に有効な情報共有フレーズ集(短く・肯定的・具体)
- 「内・外・裏!」(方向と選択を即決)
- 「時間ある!」(落ち着かせて前向きタッチを促す)
- 「ライン上げる!3・2・1」(カウントで同期)
- 「次、縦優先」(原則をその場で再共有)
- 「ワン・ツー・スリー」(動き出しの合図)
レフェリーへの接し方とフェアプレーの実利
- 敬意が実利:冷静なコミュニケーションは次の判定説明を得やすい。
- 求めるのは説明:「どの接触がファウルでしたか?」と具体の質問を短く。
- 不用意な抗議は損:相手にリスタートの時間を与え、カードリスクも上げる。
ポジション別・練習試合で狙う具体目標
GK:ビルドアップ起点率とセーブ後の配球精度
- 起点率:後方からの前進成功の最初のパスに関与を30%以上
- セーブ後の配球:味方に収まるスロー/キック80%以上
- 背後管理:ライン背後のスイーパー対応3回は先手で処理
DF:前進阻止・ライン統率・デュエル成功率
- 前進阻止:相手の縦パスをインターセプトor遅らせる回数を前半で3回
- ライン統率:「上げ」「絞り」「スライド」の声かけ10回以上
- デュエル:空中/地上で60%以上の勝率を目標
MF:前進パス割合・前向きタッチ・サードマン活用
- 前進パス割合:全パスのうち縦・斜め前を40%以上
- 前向きタッチ:受けて前向きに入る回数を半数以上
- サードマン:壁当て→裏抜けの連携を前半で2回以上試す
FW:シュート品質(xG的視点)とプレストリガーの徹底
- シュート品質:中央寄り/ペナルティエリア内のシュートを最低2本確保(角度と距離を重視)
- プレストリガー:相手が背向き・トラップ長い・浮き球の3条件で迷わずスタート
- ポストプレー:1タッチ叩きで前進に繋げる回数を3回
サイドプレイヤー:クロス品質・幅取りと内側侵入の使い分け
- クロス品質:味方に届く/シュートにつながるクロスを2本
- 幅と内側:サイドラインに張る時間と内側侵入の時間を5:5で使い分け
- 逆サイドの絞り:ボールと逆のサイドで二列目のケアを3回
90分間で疲れないための負荷管理
前日の睡眠・食事・補食の基本
- 睡眠:就寝前90分はスマホ刺激を減らし、就寝7〜9時間を目安
- 食事:夕食は炭水化物+たんぱく質+少量の脂質(消化良く)
- 補食:当日朝は炭水化物中心、開始2〜3時間前に軽食、直前は少量でOK
RPEと心拍を用いた自己管理(簡易チェック法)
- RPE(主観的運動強度)で0〜10の自己評価。ウォームアップは4〜6、本番は状況に応じて6〜9。
- 心拍:最大心拍の目安は「220−年齢」。ウォームアップは60〜75%、出だしは過度に上げすぎない。
クレバーに走る:加速コストを下げる動き方
- 初動:足を前に「投げ出す」より、地面を後ろに「押す」意識
- 姿勢:胸を少し前、骨盤を立て、接地時間を短く
- 予測:ボールと相手の次の一歩を読む→走り出しを半歩早く
セットプレーで「1点」を取りに行くチェックリスト
役割の固定・合図の共通理解・二手目の準備
- 役割固定:キッカー/ニア走り/ファー詰め/ブロック役/セカンド回収を固定
- 合図:手の上げ方や番号で種類を統一
- 二手目:こぼれに対するシュート/展開/ファウルリスク管理を事前確認
実行直前のトリガーワードと配置確認
- トリガー:「ニア優先」「入れ替え」「ファー待ち」など短く
- 配置:マークの確認は名前呼び+目を見る。オフサイドラインの意識統一
失敗時の即時修正プロトコル
- 原因を即判定:ボールの質/走り出し/マーク/相手の対応
- 次の1回で変える:ボールの落とし所を1mずらす/走り出しを半歩早く/ブロックの位置調整
練習試合後24時間の振り返りテンプレート
5行レビュー:事実・良かった・課題・次の仮説・予約行動
- 事実:数字で(前進パス5/12、シュート3本、被カウンター2)
- 良かった:再現したい点を1つ
- 課題:1つだけ
- 次の仮説:どう直すか(合図を早く、体の向きを先に作る等)
- 予約行動:次の練習でやるメニューと時間を決める
映像がなくてもできる記憶リプレイ法
- プレーを3つだけ選び、開始位置→体の向き→相手の位置→選択肢→結果を紙に書く
- もしもの分岐を1つだけ追記(次はこうする)
コーチに送る簡潔な報告メッセージ例
「今日の狙いは前進パス割合40%。結果は36%。原因は体の向き作りの遅さ。次回は受ける前にスキャン1回増やします。練習で対面パス→ターン→前進を10分入れたいです。」
保護者ができるサポート(干渉しすぎないために)
観戦中・帰路・翌日の関わり方
- 観戦中:指示より応援。合図はチームに任せる。
- 帰路:「一番楽しかった場面は?」から。評価は選手本人の言葉を待つ。
- 翌日:復習の時間確保を手伝う(30分の壁打ち/ジョグ等)
栄養と睡眠の現実的サポート
- 水分と補食を用意(バナナ、ゼリー、サンドイッチなど消化の良いもの)
- 就寝前のスマホ時間を一緒に区切る工夫
メンタルの土台づくり(習慣と環境)
- ミスを責めない言葉:事実→次の行動にフォーカス
- 練習の「開始・終了」の時間を安定させる
よくある失敗と回避策
ウォームアップで疲れ切ってしまう
強度は70〜80%で止める。スプリントは本気2本まで。本番前は「キレを残す」。
目標が抽象的で評価できない
「良いプレーをする」ではなく「前半で縦パス3本」「裏抜け5回」を数で。
緊張で固まる・集中が切れる
呼吸ルーティン+最初の1プレーを決めておく。タイムアウト感覚で「靴紐を結ぶ=リセット」の行動を一つ。
水分・エネルギー不足によるパフォーマンス低下
90分前に300〜500ml、ハーフで200〜300ml。甘すぎないものを選び、喉が渇く前に少量ずつ。
新しいスパイクやテーピングのトラブル
当日デビューは厳禁。前日までに15〜20分の軽い運動で慣らす。テーピングは練習で試す。
90分前チェックリスト(印刷して使える)
持ち物チェック
- [ ] ユニ/ソックス/すね当て/スパイク(紐・スタッド確認)
- [ ] 水/スポドリ/補食(バナナ・ゼリー等)
- [ ] タオル/替えシャツ/テーピング/絆創膏
体調・栄養チェック
- [ ] 睡眠7時間以上
- [ ] 90分前に水分300〜500ml、軽食20〜40g炭水化物
- [ ] 体調OK(頭痛・腹痛なし)
ウォームアップチェック
- [ ] 関節の可動域リセット(足首・股関節・肩)
- [ ] 加速/減速/方向転換を各1セット
- [ ] 技術リハーサル(タッチ・パス・シュート)
戦術・個人目標チェック
- [ ] チームの優先1つ・自分の役割1つ・測る数値1つ
- [ ] トリガーと合図の言葉を確認
メンタルチェック
- [ ] 呼吸ルーティン完了
- [ ] 最初のプレーを決めた
- [ ] セルフトークの4語ループ準備
まとめ:練習試合を“実験の場”に変える
練習試合で成果を出すコツは、事前に「何を測るか」を決め、90分前から体と頭をそれに合わせて準備し、試合中はミスを材料にその場で小さく修正し続けることです。技術・戦術・フィジカル・メンタル・コミュニケーションをつなぐチェックポイントを少数精鋭で持てば、毎回の練習試合が次の成長を運んできます。今日の1本、1歩、1声を積み重ねて、明日の本番に強い自分を作っていきましょう。
