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夏の試合の暑さ対策:ピッチで潰れない準備と工夫

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炎天下のピッチで実力を出し切るには、走力や技術だけでは足りません。暑さとどう付き合い、体と頭をどれだけ守りながら90分をデザインできるか——これが夏の勝負を分けます。本記事では、科学的知見と現場の工夫をつなぎ、2週間前から当日・試合後までの「潰れない準備と運用」を一つのストーリーでまとめました。難しい言葉はなるべく避け、今日から実践できる形でお届けします。

はじめに:夏のピッチで『潰れない』ために

記事の目的と読了メリット

目的はシンプルです。暑さで失速・痙攣・集中切れを防ぎ、最後までパフォーマンスを維持すること。そのために、準備・補給・冷却・戦術・安全の5本柱を「計画」に落とし込みます。読み終える頃には、あなたの試合運用が具体的な手順に変わります。

夏の暑さがパフォーマンスと安全に与える影響の全体像

暑さは体温上昇と脱水を招き、心拍数の増加、判断スピード低下、スプリント回数の減少につながります。さらに放置すると熱中症(熱痙攣・熱疲労・熱射病)リスクが上がります。対策の鍵は「冷やす・飲む・食べる・休む・配分する」を計画化することです。

なぜ夏の試合は危険なのか:暑熱とパフォーマンスの科学

暑熱環境の評価指標(気温・湿度・WBGTの違い)

気温だけでなく湿度や日射の影響を含めた指標がWBGT(暑さ指数)です。一般的に、WBGT28以上で厳重警戒、31以上で危険域とされます。屋外の直射環境では体感がさらに上がるので、練習・試合の判断はWBGTを基準にしましょう。

身体の熱バランス:産熱と放熱のメカニズム

走る・跳ぶなどで筋肉が熱を生み(産熱)、汗の蒸発・皮膚血流で熱を逃がします(放熱)。湿度が高いと汗が蒸発しにくく、放熱が止まりやすい。つまり「同じ気温でも湿度次第で危険度は変わる」ということです。

パフォーマンス低下の要因(脱水・高体温・中枢性疲労)

  • 脱水:体重の2%喪失でもスプリント・判断が落ちやすい
  • 高体温:中枢がブレーキをかけ、出力と集中が下がる
  • 中枢性疲労:脳の温度上昇や電解質乱れで「やる気の出力」自体が低下

リスクを高める条件と個体差(体格・体調・順化度)

  • 体格:筋量が多い/体脂肪が多いと熱がこもりやすい
  • 体調:寝不足・胃腸不良・風邪気味はリスク増
  • 順化度:暑さに慣れていない時期は特に危険
  • その他:過去の熱中症歴・薬の影響(利尿など)

試合2週間前からの準備:『計画』が最大の暑さ対策

14日前からの逆算スケジュール

  • 14〜8日前:暑熱順化フェーズ(毎日または隔日で発汗する運動)
  • 7〜3日前:順化維持+戦術調整、給水・栄養のリハーサル
  • 2日前:ハイドレーション重点、睡眠の確保
  • 前日:移動・荷物・役割の最終確認、負荷は軽め

睡眠・体内時計の整え方(就寝/起床・光・カフェイン)

  • 就寝・起床を安定させる(±30分以内)
  • 朝の自然光/散歩で体内時計を同調
  • 試合前日の午後以降のカフェインは控えめにして睡眠確保
  • 昼寝は20分以内、遅い時間は避ける

ベースラインの把握(体重・安静時心拍・主観コンディション)

  • 朝の体重と安静時心拍、眠気/疲労の主観スコアをメモ
  • 体重の急減(1%以上)や心拍上昇は疲労・脱水のサイン

持参物と役割分担のチェックリスト

  • 飲料:水+スポーツドリンク(冷やして)+氷嚢・保冷ボックス
  • 電解質:ナトリウム含有飲料やタブレット
  • 冷却:アイスベスト/冷却タオル/ミスト/保冷剤
  • ウェア:替えシャツ・ソックス・通気性の良いインナー
  • 環境:テント/タープ、携帯扇風機、サンシェード
  • 救急:冷水バケツ/ビニール袋、体温計、連絡網
  • 役割:給水係、氷管理、WBGT確認、救急連絡

暑熱順化プロトコル:7〜14日で作る“暑さに強い身体”

順化の基本原則(頻度・強度・継続日数)

  • 頻度:連日〜隔日(合計7〜14日)
  • 時間:30〜90分(強度は会話ができる〜ややキツい)
  • 目的:汗をかく機会を増やし、発汗効率と循環機能を高める

現実的なメニュー例(屋外ラン・室内バイク・補強)

  • 屋外インターバル:8〜12本(60〜90秒走/90〜120秒歩)
  • 室内バイク:扇風機弱めでテンポ走30〜45分
  • 技術+小ゲーム:短時間で心拍を上げ、休憩で冷却を挟む

代替手段(温浴・サウナ・厚着トレーニング)

暑さ環境が準備できない場合は、運動後の温浴(40℃前後で20〜30分)で「汗をかく時間」を作る方法もあります。反応には個人差があるため、無理は禁物。サウナや厚着はリスクが高いので短時間・低強度で。

安全管理(日々の体調・体重変動・RPE・中断基準)

  • RPE(主観的きつさ)記録、めまい・吐き気・悪寒は即中断
  • 体重減少が2%に近づく/超える時は補水・中止
  • 頭痛・立ちくらみ・汗が出ない等は危険サイン

水分・電解質・栄養戦略:“飲む・食べる”の設計図

試合48時間前からのハイドレーション計画

  • 48〜24時間前:こまめに水分摂取、尿の色が薄いかチェック
  • 試合4時間前:5〜7ml/kgの飲水(例:60kgなら300〜420ml)
  • 尿が濃い/少ない場合:2時間前に追加で3〜5ml/kg

電解質(ナトリウム)の考え方と目安

汗で失う主な電解質はナトリウムです。長時間・大量発汗では、ナトリウムを含む飲料が有効。スポーツドリンク(ナトリウム約400〜700mg/L)が使いやすく、発汗が多い選手はやや濃いめ(〜1000mg/L相当)を一部で使うこともあります。

炭水化物・カフェインの使い方(タイミングと量)

  • 炭水化物:試合3〜4時間前に1〜3g/kg、直前は消化に軽い30g程度
  • 試合中:合計30〜60g/時を目安(ジェル/ドリンク/グミで分割)
  • カフェイン:目安は3mg/kgをキックオフ60分前に。高校生は摂り過ぎ注意(総量を控えめに、夜間の睡眠優先)

個別発汗率の測定方法と給水量の目安化

  1. 運動前後で裸に近い状態で体重を測る(トイレは済ませる)
  2. 運動中に飲んだ量を記録、排尿があれば差し引く
  3. 発汗量(L)=体重減少(kg)+飲水量(L)−尿量(L)
  4. 発汗率(L/時)=発汗量÷運動時間(時)

これを基に、1時間あたりの目標摂取量(発汗量の60〜80%)を設計します。

給水のタイミング設計(アップ・前半・ハーフ・後半)

  • アップ:200〜300ml+口ゆすぎ(涼感と口渇低減)
  • 前半:給水タイムがあれば100〜200mlを数回に分ける
  • ハーフ:体重差をチェックしつつ200〜400ml+糖質
  • 後半:同上。吐き気がある時は少量頻回と冷却を優先

試合当日のルーティン:到着からキックオフまでの流れ

キックオフ時間帯別のコツ(朝・昼・夕方)

  • 朝:起床直後の補水+軽い糖質、アップ短め
  • 昼:直射・路面熱に注意、プレクーリングを強化
  • 夕方:日差しは弱まるが湿度に注意、冷却は継続

移動・会場到着後の優先順位(補水・日陰・装備)

  • 到着後すぐに日陰確保、靴を緩めて足の熱抜き
  • 冷水を少量ずつ、アイスベストや冷却タオルで体幹を冷やす
  • 芝・人工芝の熱をシューズ越しに確認し、アップの場所を調整

トイレと利尿のコントロール(カフェイン・冷房の扱い)

  • カフェインは量とタイミングを絞る(頻尿を避ける)
  • 冷房は冷えすぎ注意。外との温度差は5〜7℃程度まで

ウォームアップ最適化:短く、鋭く、冷やしながら

暑熱環境でのアップ時間と強度の再設計

  • 全体を通常より短く(10〜15分程度)+合間に冷却
  • 狙いは「神経系の立ち上げ」と「動きの確認」、持久的にやりすぎない

プレクーリングの実践(アイススラリー・アイスベスト)

  • アイススラリー(かき氷状の飲料)をキックオフ20〜30分前に200〜400ml
  • アイスベストや冷却タオルを頸・腋・腹部に当てる

人数・スペースが限られる会場での工夫

  • ジョグ最小、モビリティ→加速ドリル→2〜3本の短距離スプリント
  • ライン際でのシャドーとボールタッチを組み合わせ、省スペースで完結

試合中の対策:90分を戦い切るための実務

給水タイム/クーリングブレイクの最大活用

  • まず冷却(首・額・うなじ)、次に少量飲水、最後に戦術の再共有
  • ボトルは個人管理、口をつけない運用でロスを減らす

ポジション別エネルギー配分(DF・MF・FW・GK)

  • DF:ラインコントロールと予測で無駄走りを削る
  • MF:ポジショニングで受ける角度を作り、切り替えで最短距離
  • FW:プレスはトリガーを限定、スプリントは質を担保
  • GK:給水タイムでコア冷却、守備陣の声かけで集中維持

セルフモニタリングと声かけ(症状の早期察知)

  • めまい・寒気・吐き気・足の痙攣の前兆があれば、即申告
  • チーム内で「顔色・動きの鈍さ」を相互チェック

交代・ローテーションの戦略(前後半での配分)

  • 序盤の無駄なハイプレスを抑え、後半にスプリント枠を残す
  • WBGTが高い日は早め・細かめの交代で安全優先

冷却戦略の三層構造:プレ・ペリ・ポストを分けて考える

プレクーリング/ペリクーリング/ポストクーリングの違い

  • プレ:試合前に体温を下げておく(アイススラリー・ベスト)
  • ペリ:試合中の合間に局所冷却(頸・腋・内腿)
  • ポスト:試合後に素早く体温を落とす(冷水・冷風・影)

氷嚢・冷却タオル・ミストの使い分け

  • 氷嚢:頸・腋・鼠径部など大血管部位に
  • 冷却タオル:広い面を冷やして涼感と汗拭き取りを両立
  • ミスト:蒸発冷却を促す。風と組み合わせると効果的

試合後の回復食・回復水・体温管理

  • まずは冷却(影・風・冷水)、心拍が落ちてから固形物
  • 水分+ナトリウム補給、炭水化物1.0g/kg+たんぱく質20〜30g目安
  • 熱いシャワーは避け、ぬるめの水で体温を整える

装備・ウェアでできる差分づくり

素材と色の選び方(通気・吸汗速乾・反射)

  • 通気・吸汗速乾素材を優先、濃色は熱を持ちやすいので状況で使い分け
  • インナーはメッシュ系、背面の風抜けを確保

ソックス・シューズ・インソールの通気とフィット

  • 足裏が蒸れると体感温度が上がる。通気孔や薄手ソックスを検討
  • インソールは汗で滑らない素材、取り外して乾かせるもの

圧着ウェア/テーピングの注意点(熱のこもり対策)

圧着アイテムはサポート性がある一方、熱がこもることがあります。暑熱時は面積や厚みを見直し、通気を優先しましょう。

日焼け止めとグリップ/汗のバランス

  • 汗に強いタイプを選び、手には塗りすぎない(ボール/グリップ対策)
  • 顔は目に入らないよう少量を複数回に分けて

戦術とメンタルのアジャスト:走り勝たずに勝つ方法

保持率・プレス強度・ブロック位置の再設計

  • 保持で休む時間を作る。サイドチェンジで相手を走らせる
  • プレスはトリガー限定、ミドルブロックで背後を消す

トランジション管理とカウンターの選択

  • 奪った直後、全員が一斉に走るのは最小回数に。質を高める
  • リスク管理で戻りの距離を短縮

スローイン/セットプレーの時間管理と用意

  • 給水タイム直後のセットは狙い目。合図と配置を事前共有
  • スローインは近短でボールロストを避け、走行量を抑える

セルフトークと注意配分で“焦り”を抑える

  • 「呼吸・姿勢・視野」の3点リセットを合図化
  • 失点後は30秒の共通フレーズで落ち着きを取り戻す

指導者・保護者のための安全チェックリスト

WBGTを基準にした開催判断と中止基準

  • WBGT28以上:強度・時間・休憩を大幅調整
  • WBGT31以上:原則中止を含めて再検討

症状別の初期対応(熱痙攣・熱疲労・熱射病)

  • 熱痙攣:塩分と水分、ストレッチと冷却
  • 熱疲労:涼しい場所で休ませ、冷却と給水。回復が遅い場合は医療機関へ
  • 熱射病疑い(意識障害・ふらつき等):直ちに冷却と救急要請

迅速な冷却の手順(冷水浸漬・大量冷却・救急要請)

  • 冷水浸漬が最優先(可能なら全身、難しければ頸・腋・鼠径部)
  • 冷水・氷水を衣服の上からでもかける、扇風機で気化を促す
  • 救急(119)へ。原則「冷やしてから搬送」が重症時の基本

会場での連絡体制と役割分担

  • 責任者・救急係・氷/水担当・WBGT測定・保護者連絡の分担
  • 会場住所・集合場所・AED位置を掲示

環境の工夫:会場とベンチを“涼しくする”方法

天然芝と人工芝の熱差と対処(散水・シューズ選択)

  • 人工芝は表面温度が高くなりやすい。散水で一時的に低下
  • 通気性の高いアッパーのシューズ、熱で柔らかくなりすぎないアウトソールを選ぶ

ベンチ配置・日陰づくり・風の通り道の確保

  • タープで日陰を作り、風上から風下へ通り道を確保
  • 地面の照り返しを避け、保冷ボックスは直射を避ける

給水ステーションの設計(動線・量・温度)

  • 選手の動線上に個人ボトルを。氷水で飲料を冷やす
  • ボトル識別(色・名前)でロスタイムを削減

遠征・合宿時の宿泊環境(空調・入浴・洗濯)

  • 部屋の温度・湿度管理、カーテンで朝日を調整
  • 汗で濡れたウェアは即洗濯/乾燥、翌日の体温上昇を抑える

よくある失敗とその処方箋

『喉が渇いたら飲む』の落とし穴

渇きの感覚は遅れてやって来ます。計画的な少量頻回の飲水に切り替えましょう。

アップのやりすぎ/走りすぎで前半に失速する

アップは短く鋭く。神経系を起こし、体温は“冷やしながら”上げるのがコツです。

塩分/カフェイン/冷却の“やりすぎ”リスク

  • 塩分:摂りすぎは胃腸トラブルの原因。濃度は段階的に試す
  • カフェイン:量とタイミングを守る。睡眠を犠牲にしない
  • 冷却:氷を当て続けて痛みや凍傷に注意。適度に位置を変える

暑さで集中が切れる局面の対処

  • 「視野を広げる→深呼吸2回→キーワード復唱」の3秒ルーティン
  • 給水時に次のプレーの優先順位を1つだけ決める

データで振り返る:次戦に活かす簡易モニタリング

体重変動・尿比重・心拍・RPEの基本

  • 体重:前後差で脱水量を推定(1kg=約1L)
  • 尿の色・量:濃い/少ないは脱水サイン
  • 安静時心拍:平常より高い日は負荷調整
  • RPE:主観の推移をグラフ化

ポジション別/時間帯別の走行データの見方

  • 前後半のスプリント数と高強度走行を比較
  • 給水タイム後のパフォーマンス回復の有無

個人とチームのフィードバックループの作り方

  • 練習→試合→振り返り→修正→再テストのサイクル
  • 「暑さ対応KPI」(体重差、飲水量、主観、痙攣の有無)を定点観測

FAQ:現場からの質問に答える

塩タブレットは必要?量は?

発汗が多い人・塩の白い跡がユニに残る人には役立つ場合があります。目安は飲料と合わせてナトリウム400〜700mg/L程度から。まずはスポドリを基本にし、タブレットは足りない時の補助として少量ずつ試してください。

水とスポーツドリンクの使い分けは?

短時間・涼しい環境なら水でもOK。暑熱・長時間・高強度ではスポドリが有利。胃がもたれる場合は水と半々に割る、または冷やして少量頻回で。

アイスバスがない場合の代替は?

大きめのバケツやタブトラッグに冷水+氷で足首〜膝下の浸水、全身は冷却タオルとミスト+扇風機の併用。頸・腋・鼠径部の集中的冷却でも体温低下を助けます。

筋痙攣が起きやすい人の個別対策は?

  • 事前の発汗率測定で給水・ナトリウムを調整
  • カーボとミネラルを前日から十分に
  • アップで収縮-伸張リズムを確認、ハム・ふくらはぎの準備を丁寧に

まとめ:明日から実行できるアクションリスト

今日から始める3つの習慣

  • 朝の体重・心拍・尿の色をメモ
  • 日中はこまめに少量の飲水、夜は睡眠最優先
  • 練習ごとに発汗率を1回は測っておく

試合前日・当日のチェックポイント

  • 前日:飲料・氷・日陰装備・役割分担の最終確認
  • 当日:WBGT確認、アップ短縮、プレクーリング、給水計画の実行

チームで共有したい運用テンプレート

  • 給水・冷却ルーティン(誰が何分に何をするか)
  • 緊急時の連絡網と冷却手順フローチャート
  • 試合後の振り返りシート(体重差・飲水量・症状)

おわりに

夏の試合は、準備の差がそのまま勝敗と安全に反映されます。暑さを「敵」にせず、コントロールする対象として扱う。今日の一歩が、90分の最後の一歩を軽くします。あなたとチームの“潰れない夏”を、ここから作っていきましょう。

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