試合の流れをよくする最後のひと押しは、技術や戦術だけではありません。審判とのコミュニケーション次第で、判定の理解度が上がり、無駄な警告やストレスを減らし、プレーに集中する時間が増えます。本記事は「審判とのコミュニケーションのコツをシーン別に実例解説」。試合前から試合後まで、実際に使える短い言葉と立ち居振る舞いを、具体的な場面とともに整理しました。今日から真似できる“言葉の準備”で、チームのパフォーマンスを底上げしましょう。
目次
- 審判とのコミュニケーションの基本原則と期待できる効果
- シーン別:試合前の準備と挨拶で差をつける
- シーン別:前半0〜15分の『基準探り』と信頼構築
- シーン別:ファウル直後の伝え方—熱を下げて要点を刺す
- シーン別:オフサイド判定への対応—副審との距離感
- シーン別:ラフプレー・危険なタックルが出たとき
- シーン別:セットプレー前の事前予告と合意形成
- シーン別:リスタート(FK/CK/スローイン/ゴールキック)
- シーン別:警告・退場時のふるまい—損しない受け方
- シーン別:抗議の線引きと絶対NG
- シーン別:ベンチ・スタッフと第4の審判の活用
- シーン別:VARやテクノロジーがある試合での留意点
- シーン別:アウェイ・荒天・ローカルルールへの適応
- 役割分担:キャプテンと一般選手の『誰が話すか』設計
- 言葉遣いと非言語の技術—トーン・距離・目線の3要素
- 心理戦ではなく信頼構築へ—長期的に得するコミュニケーション
- よくある誤解と事実チェック
- そのまま使えるフレーズ集(日本語+簡易英語)
- 練習で磨く:コミュニケーションのトレーニング法
- 保護者・観客のふるまい:ジュニア年代での良い見本
- チェックリスト:試合前・試合中・試合後の実践項目
- まとめ:審判と共につくる良い試合—今日から変えられる一歩
審判とのコミュニケーションの基本原則と期待できる効果
審判は敵ではない:安全・公正・スピードの三拍子を共有する
審判の最優先は「安全」、次に「公正」、そして「スピーディーな進行」。この三拍子を共有できる選手は、審判と目的が一致しやすく、やり取りが短く済みます。感情をぶつけるより「安全・公正・スピードを助ける言葉」を選ぶと、試合の温度は落ち着き、微妙な場面でも意図が伝わりやすくなります。
- 安全:危険プレーの予防、相手の熱を下げる声かけ
- 公正:基準の確認、同様の場面の継続性を丁寧に質問
- スピード:リスタートの合意形成、無駄な抗議の削減
ルール理解が土台:最新競技規則と大会要項の把握
会話の精度はルール理解に比例します。最新の競技規則と大会要項(交代枠、飲水、VARの有無、延長の有無など)を確認すると、伝え方が具体的になります。「主観」ではなく「規則」と「大会運用」に基づく質問は、審判も受け取りやすいのが実情です。
原則3つ:敬意・簡潔・適切なタイミング
- 敬意:呼びかけは「主審さん」「副審さん」。語尾は丁寧に。
- 簡潔:10秒以内・1メッセージ。長尺は誤解を生みます。
- タイミング:死球中 or 再開前。プレー中の声がけは基本NG。
シーン別:試合前の準備と挨拶で差をつける
主審・副審へのスマートな声かけ実例
入場前後のひと声は、その試合の“空気”を決めます。短く、意図を合わせるのがコツです。
- 実例:「本日よろしくお願いします。安全最優先で、基準は早めに共有いただけると助かります。」
- 実例(副審へ):「オフサイドの干渉判断、早めに合図いただけたら合わせます。」
キャプテンが確認すべき3点(ピッチ・用具・運用)
- ピッチ:スリッピーな箇所や水たまりの有無、コーナー付近の状態
- 用具:スパイク・テーピング・アクセサリーの基準
- 運用:飲水タイム、ボールの数とボールパーソン、追加タイムの示し方
コイントス前後のやり取り:基準のヒントを拾う
主審はその日の傾向を短く伝えることがあります。言葉の端々から“基準”を拾いましょう。
- 質問例:「密集でのホールディングは早めに止めますか?」→「止めます」の返答なら、セットプレー前に声かけ強化。
- 質問例:「アドバンテージは積極的ですか?」→再開の合図を待つ意識が強まる。
シーン別:前半0〜15分の『基準探り』と信頼構築
ファーストコンタクトの印象づけフレーズ
最初の接触プレー直後に落ち着いた一言を。短く、評価ではなく“確認”で入ると好印象です。
- 「今ので基準わかりました、合わせます。ありがとうございます。」
- 「当たり強めOKですね、了解です。」
接触の基準を尋ねる質問テンプレ
- 「腕の使いはどこまでOKでしょう?」
- 「背後からのチャージ、強さの目安を教えてください。」
- 「引き続き同じ基準で見てもらえますか?」
荒れそうな兆候の共有と予防の声がけ
熱が上がる前に“共助”で止めると、審判は安心します。
- 「9番と当たりが増えそうです。早めに声をお願いします、こちらも抑えます。」
- 「スパイクが滑っています。危険なら早めに止めてください。」
シーン別:ファウル直後の伝え方—熱を下げて要点を刺す
感情を鎮める3秒ルールとワンフレーズ
倒れた直後は3秒呼吸→10秒以内で1メッセージ。
- 「背中を押されています。次も見てください。」
- 「ボールに行ってます。足裏ではありません。」
キャプテン経由で伝えるべき場面の見極め
- 連続して同じ選手・同じ反則が続くとき
- カードの可能性がある接触が増えたとき
- 審判が明らかにヒートしているとき(人数を絞る)
キャプテンの一言:「同じ形が続いています。次は注意で止められますか?」
納得できない判定への質問テンプレ(実例付き)
- 実例:「接触の起点はどちらでしたか?」
- 実例:「腕の幅が原因ですか?それとも背中の押しですか?」
- 実例:「次に同じ場面が来たら、私たちは何を直せば良いですか?」
シーン別:オフサイド判定への対応—副審との距離感
尊重を示しつつ確認する一言のコツ
- 「今のライン、最終DFより前でしたか?次合わせます。」
- 「視界遮られてないですか?確認だけお願いします。」
干渉・二次プレーの解釈を問う安全な聞き方
- 「プレーに関与の判断でしたか?動きだけなら調整します。」
- 「GKの視界妨害が理由ですか?ポジション修正します。」
繰り返しの場面での改善要望の出し方
ライン設定の会話は短く具体的に。
- 「相手がラインを上げる合図が早いです。手の合図を一拍早めてもらえますか?」
シーン別:ラフプレー・危険なタックルが出たとき
安全確保を最優先に伝えるフレーズ例
- 「足元が滑って危険です。早めに止めてください。」
- 「足裏が続いています。選手を守るための注意をお願いします。」
相手の熱を下げる『共助』のコミュニケーション
- 相手へ:「落ち着こう、次はボールだけ。」
- 主審へ:「こちらも抑えます。注意の合図をお願いします。」
カード基準の確認と線引きの理解
- 「今のは無謀ですか?不必要な力ですか?次の基準を共有ください。」
- 「累積の場合は、次で警告でしょうか?」
シーン別:セットプレー前の事前予告と合意形成
押し合い・ホールディングの注意喚起の仕方
- 「18番と組み合いが強いです。先に注意をお願いします。」
- 「こちらも手は使いません。双方で抑えましょう。」
GK保護の観点を共有する一言
- 「GKへの接触が増えています。ジャンプ時の手の干渉を見てください。」
壁の距離・合図の整理と再発防止
- 「9.15mまでお願いします。壁の合図は笛後でOKです。」
- 「主審の合図で再開、相手の前進は止めてください。」
シーン別:リスタート(FK/CK/スローイン/ゴールキック)
素早い再開の許可を確認する簡潔な聞き方
- 「クイックでいいですか?」/「Quick restart OK?」
- 「笛待ちですか?」/「Wait for the whistle?」
ボール位置の修正依頼と落とし所の見つけ方
- 「1m戻しますか?」→「ここでOKです。」の合意を取りに行く。
- 「副審の位置に合わせます。指示ください。」
遅延行為アラートとカード回避のコミュニケーション
- 「相手の遅延が続いています。次は注意をお願いします。」
- 自チームへ:「カードを避けよう。ボールを置いて離れる。」
シーン別:警告・退場時のふるまい—損しない受け方
受け手の最小限のリアクションと安全弁
- 「了解です。次は気をつけます。」—言い切って離れる。
- 体の向きは半身、手は下げる、距離は1.5m以上。
キャプテンの収拾手順(隊形・言葉・時間)
- 隊形:当事者を外へ、残りは円形で距離を取る。
- 言葉:「この話は終わり。次の準備。」
- 時間:10秒で区切り、次の再開へ。
切り替えを促すショートフレーズ集
- 「次の1プレーに全集中。」
- 「呼吸して、整えて、再開。」
- 「リスク0で前進。」
シーン別:抗議の線引きと絶対NG
一言で要点→繰り返さない→引き下がる
- 「要点は1つ」→「返答を聞く」→「ありがとう」→離れる。
ボディランゲージの危険サインと代替行動
- 危険:指差し、詰め寄り、両手を大きく広げる、背後から話す。
- 代替:胸の前で片手、距離を保つ、正面から短く。
侮辱・差別・威嚇が招く最悪の結末
侮辱・差別的発言・威嚇は競技規則上の重大反則になり得ます。即時の厳しい罰則に直結するため、絶対に避けましょう。
シーン別:ベンチ・スタッフと第4の審判の活用
第4の審判を窓口にしたクールダウン
- 「今の場面の基準だけ教えてください。選手に伝えます。」
- 第4経由で主審へ過度に要求しない。情報整理が目的。
交代手続きの伝達・ボード確認の抜け漏れ防止
- 交代は事前申告→ボード確認→センターライン整列→主審の合図。
- 「次のリスタートで交代希望です。」と早めに伝える。
ベンチからの情報伝達のルールとマナー
- 指示は冷静・短く・罵声なし。テクニカルエリア遵守。
- 第4の審判への抗議を繰り返さない—記録に残ることがある。
シーン別:VARやテクノロジーがある試合での留意点
介入範囲の理解と『レビュー要求』の限界
VARの対象は主に得点、PK、退場、誤認識などの重大事象。選手がレビューを要求しても手続き上、直接の影響は限定的です。要求より「情報提供」を優先しましょう。
- 「相手の手に当たっています。番号はxx、位置は中央。」
レビュー時のふるまいと再開手順の確認
- レビュー合図中は距離を取り、外野にならない。
- 判定後:「再開はドロップボールですか?フリーキックですか?」
テクノロジーなしの試合との差分対応
テクノロジーがない試合は「見え方の限界」を理解。角度と距離を意識し、誤解を減らすための短い確認を増やしましょう。
シーン別:アウェイ・荒天・ローカルルールへの適応
環境が判定傾向に与える影響の読み取り
荒天・硬いピッチでは接触の危険度が上がり、基準が厳しめになることがあります。序盤で“当たり方”を調整しましょう。
ピッチコンディションの共有と安全対策
- 「左サイドが滑ります。スパイクの確認をしています。」
- 「スローイン付近に水たまり。再開位置を少し内側でよいですか?」
大会運営ルール(飲水・交代枠・延長)の事前確認
- 「飲水は何分で入りますか?」
- 「延長・PK方式の有無を最終確認させてください。」
役割分担:キャプテンと一般選手の『誰が話すか』設計
話者の一本化が生む信頼と効率
審判は“誰と話せば整理されるか”を求めます。基本はキャプテン一本化。副話者はGKと最終ラインのリーダーに限定しましょう。
役割チェンジの合図(言葉・ジェスチャー)
- 言葉:「俺が行く」「任せて」→他は口を挟まない。
- ジェスチャー:胸に手→話者を示す。
中盤・最終ライン・GKの連携プロトコル
- 最終ライン→副審:オフサイド・位置の確認
- 中盤→主審:接触・アドバンテージの確認
- GK→主審:セットプレーの安全、時間管理
言葉遣いと非言語の技術—トーン・距離・目線の3要素
丁寧語・短文・主語の工夫で誤解を減らす
- 「〜してください」より「〜で大丈夫ですか?」の確認形が有効。
- 主語は「私たち」。責める主語は避ける。
手の位置・体の向き・アイコンタクトの最適解
- 手は胸より下、指差ししない。
- 体は半身、1.5〜2mの距離。
- アイコンタクトは1秒、長く睨まない。
呼吸と声量のコントロールで感情を整える
- 4秒吸って4秒吐く→声を出す。
- 声量は観客向けではなく審判向けのボリュームに。
心理戦ではなく信頼構築へ—長期的に得するコミュニケーション
『圧をかけない』が判定の安定を生む理由
圧は一時的に有利に見えても、全体の基準を乱しやすく、チームに跳ね返ります。静かで具体的な会話は、判定の一貫性を高める方向に働きやすいです。
感情のエネルギーマネジメント(自他双方)
- 味方の熱→内側で受け止めて外へ出さない。
- 相手の熱→一言で冷ます。争点から離す。
チーム全体での一貫性と内部ルール
- 「話者はキャプテン、他は10秒ルール」などの事前合意。
- 練習から同じ言葉を使い、試合で迷わない。
よくある誤解と事実チェック
『主審は話を聞かない』は本当か?
多くの主審は試合を円滑にする情報は歓迎します。聞かれにくいのは「タイミングが悪い」「メッセージが長い」「感情的」のときがほとんどです。
『大声で得する』の錯覚と反作用
大声は“抗議の継続”と受け取られやすく、逆効果になりがち。短く、落ち着いた声が最も通ります。
『早めの一言』で変わる現実的な範囲
判定は変わらなくても、次の判定の一貫性と再発防止は変えられます。ここにリターンがあります。
そのまま使えるフレーズ集(日本語+簡易英語)
確認・質問:基準・距離・位置を聞く
- 「基準はこれで合っていますか?」/ “Is this the standard today?”
- 「笛を待ちますか?」/ “Wait for the whistle?”
- 「ここで再開で良いですか?」/ “Restart from here, OK?”
- 「腕の使いはどこまで?」/ “How much arm use is allowed?”
安全の訴え:危険プレー・報復の予防
- 「危険が増えています。注意をお願いします。」/ “Danger is increasing. Please warn.”
- 「報復を止めたいです。声をください。」/ “We want to stop retaliation. Please call it.”
感謝・切り替え:ゲーム進行を助ける一言
- 「ありがとうございます。合わせます。」/ “Thank you, we’ll adjust.”
- 「了解です。切り替えます。」/ “Got it. We’ll move on.”
練習で磨く:コミュニケーションのトレーニング法
紅白戦でのロールプレイ(主審役を立てる)
- 選手が主審役を担当し、合図・距離・言葉を再現。
- 10秒以内のメッセージ練習。動画で振り返り。
ケーススタディとルール小テストの回し方
- 週1回、映像1本→3問のクイズ→解説→言い方の練習。
審判講習・交流会への参加メリット
- 審判の視点を知ると、要求が具体化。信頼が加速します。
保護者・観客のふるまい:ジュニア年代での良い見本
タッチラインからの声かけの線引き
- プレー促進の声はOK、判定への野次はNG。
- 短く前向きな言葉:「いいトライ!」「切り替えよう!」
判定への不満を子どもに伝播させない方法
結果ではなく取り組みを評価する声かけが、審判への過度な不満を抑えます。
試合後の声かけとSNS時代の配慮
- 「ナイスファイト。次に活かそう。」
- 判定に関する個人攻撃の投稿はしない。映像の切り取りにも注意。
チェックリスト:試合前・試合中・試合後の実践項目
試合前の5チェック(事前合意と挨拶)
- 基準のヒントを質問したか
- ピッチ・用具・運用の確認
- 話者の一本化を共有
- セットプレーの注意点を共有
- 丁寧な挨拶と敬語の徹底
試合中の5チェック(簡潔・一本化・切り替え)
- 10秒1メッセージを守る
- プレー中は話さない
- 危険の予防を優先
- 副審とは距離と合図を尊重
- カード時は最小リアクション
試合後の5チェック(感謝・振り返り・共有)
- 審判団へ感謝を伝える
- 基準の気づきをチームで共有
- 次戦への改善1つを決める
- 映像とメモで検証
- SNSでの感情的発信を控える
まとめ:審判と共につくる良い試合—今日から変えられる一歩
最小の言葉で最大の理解を得る
敬意・簡潔・タイミングを押さえれば、判定は“通りやすく”なり、選手は“集中しやすく”なります。
『敬意→合意→一貫性』のサイクル
丁寧な一言から合意を作り、その合意を次の場面へつなぐ。これが試合全体の安定を生みます。
次の試合に向けた行動宣言
- 試合前に基準のヒントを1つ聞く
- 10秒1メッセージを全員が徹底
- セットプレー前に安全のひと言を入れる
審判と丁寧につながることは、勝つための準備の一部です。言葉の質を磨き、試合の質を一段引き上げましょう。
