サッカーのセンターバックが試合を動かすビルドアップのコツ。守るだけでは勝ち切れません。最終ラインから相手を揺さぶり、味方を前向きにさせ、ボールを前進させる。その起点に立てるのがセンターバック（CB）です。本記事では、今日から使える具体的なコツを、配置・体の向き・パス・キャリー・合図・リスク管理・練習法まで一気通貫でまとめました。難しい専門用語は噛み砕いて説明します。自分のチームの現実に合わせて、できるところから取り入れてください。
目次
はじめに：CBのビルドアップが試合を動かす理由
ビルドアップの定義と目的
ビルドアップとは、後方から意図的にボールを運び、前進と前向きの味方を作るプロセスです。目的は「前線に預ける」ことではなく、「優位を保ちながら前進する」こと。優位とは、時間やスペース、数、体の向きで勝つことを指します。
センターバックが主導するメリット
- ピッチを広く見られる位置にいるため、相手のズレや空白を早く見つけられる。
- パスとキャリーの選択肢が両サイド・中央に開けている。
- GKを足元の選手として使うことで常に数的優位を作りやすい。
試合の文脈とリスク管理の基本
- スコア、時間帯、相手のプレッシング温度を先に測る。
- 「失っても良い場所・悪い場所」を全員で共通化する。
- 縦に急ぐほど、守備に戻る距離が伸びる。安全な角度と距離から崩す意識を。
戦術の土台：配置と原則
GKを含む数的優位の作り方（2+1／3+1／3+2）
- 2+1：左右CB＋GK。相手1トップに対して常に2対1を確保。
- 3+1：左右CB＋アンカー＋GK。相手2トップでも前進の土台が安定。
- 3+2：3バック＋IH（インサイドハーフ）で、1列前に「前向きの出口」を2つ用意。
コツ：相手の最前線の数に対して「+1」を意識。GKを1人分のフィールドプレーヤーとして数える習慣をつける。
幅と高さの確保：SBの高さ、IH／アンカーの立ち位置
- SBは相手ウィングの背後 or 同ラインに立つと相手が横に広がる。
- IHは相手ボランチの死角（背中）に潜む。アンカーはCBのパスコースを2本に増やす角度。
レーンとハーフスペースの原則
中央・左右ハーフスペース・左右サイドの5レーンを重ならないように使う。ハーフスペースに立つ味方へパスが通ると前向きに仕掛けやすい。CBは「ハーフスペース→サイド→中央」の順で相手を動かすと、縦が開きやすい。
体の向きとファーストタッチ
オープンな体の向き（半身）を作る
- ボールと前方の2方向が同時に視野に入る半身を基本に。
- 受ける時、軸足のつま先を狙う方向へ。膝・腰・肩の向きも一致させる。
受ける前のスキャン：頻度とタイミング
- 味方がコントロールした瞬間＋自分にパスが出る直前の2回は最低限。
- 見るポイントは「相手の影（カバーシャドー）」「次の出口」「背後のラン」。
ファーストタッチで前進角度を作るコツ
- 相手の足が届かない外側へ置く（タッチ1m前後）。
- 縦に差したい時は、内→外の触りで相手をずらしてから。
角度と距離：味方を活かすサポートライン
三角形と菱形を常に保つ方法
- CB—IH—SBで三角形。アンカーが入ると菱形。
- 一人動いたら二人がずれる「連動のクセ」をチームに植え付ける。
アンダーラップ／オーバーラップの起点としてのCB
SBが内側に絞る（アンダー）か外側を回る（オーバー）か。CBはパスの助走と体の向きで予告する。斜め前への触りで、SBのランに合わせて速度とコースを合わせる。
フィードとサポートの最適距離・最短距離の使い分け
- 近い三角形でプレスを吸収→一気に最短距離（縦・斜め）で前進。
- 相手が人を見るなら長め、ゾーンなら短めで揺さぶる。
パスの武器と配球のコツ
縦パスを通す条件とサインの読み取り
- 受け手が相手の影から離れた瞬間、もしくは相手の重心が逆。
- 味方の手の合図・目線の変化・一歩の助走を見逃さない。
斜めのスイッチと逆サイドの活用
同サイドで詰まったら「逆サイド→同サイドに戻る」の二段構え。斜めに運ぶ球で相手の体の向きを逆にし、戻しの一発で突破。
第三の動き（アップ・バック・スルー）の使い方
- アップ：縦に当てる。
- バック：落とす。
- スルー：落としを前向きの選手が受けて前進。
CBは最初のアップの質（強さ・足元/逆足）で成功率が決まる。
楔パス→落とし→インサイドブレイクの連動
IHまたはCFに楔→落としを受ける選手がライン間で前向き→SBやWGが内側に差し込む。CBは落としの受け手が見えた段階で次の角度に体を作る。
ロブ／ドライブ／スライス／チップの使い分け
- ロブ：ライン越え。追い風は抑え目、向かい風は強め。
- ドライブ：速い対角。サイドチェンジで有効。
- スライス：曲げて相手の背中に落とす。走り込みに合わせやすい。
- チップ：GK前や最終ラインの肩越し。狭い背後を突く。
キャリーでラインを割る
ドリブルで運ぶ判断基準
- 目の前の相手がパスコースを消すだけで奪いに来ない。
- 味方の背中に相手がつき過ぎている（人を見ている）。
誘いのタッチとプレスの釣り出し
わざとコントロールを「取りに来たくなる位置」に置く→食いついた瞬間に空いた背中へ。横への細かいタッチで「行くの？行かないの？」を作る。
キャリー後の配球とリスクヘッジ
- 運んだぶん、背後は薄くなる。逆CBやアンカーに「残る」声掛け。
- 配球は縦だけでなく、逆サイドの足元へ一度落ち着かせる選択も。
相手のプレス別・解法カタログ
マンツーマンプレスへの対処
- 相手を連れ出す「空走り」を入れる。受ける人と外す人を分ける。
- GKを絡めたワンツーで一人外す。
片側トラップ（サイド圧縮）への対処
- 内側のIHに一度入れて、即リターンで対角へ。
- タッチ数制限のつもりで速いテンポを保つ。
2トップ／3トップのハイプレス対応
- 3+2で中央に出口を2つ用意。1トップ分は必ず余らせる。
- 背後への早い対角ロブでラインを後退させ、陣形を伸ばす。
ミドルブロック相手の前進策
- ゆっくりとCB間で触り、相手を前に出させる「待ち」。
- ライン間のIHに斜め速い球→落とし→外の突破。
低ブロック相手のテンポ管理と崩しの前準備
- サイドチェンジの回数を増やし、SBの高さを維持。
- 逆サイドのWGに「背後の肩取り」を習慣化。
形の変化で突破口を作る
SBインバートでの3バック化
SBが中に入り、CB-SB-CBの3枚に。中盤に数を作り、相手のウィングを迷わせる。
アンカー落ちでの3-2化と縦ズレ
アンカーがCB間に落ち、IHが前へ。相手ボランチの背中が空いたら縦ズレで刺す。
外→中→外のリズムチェンジ
サイドで相手を寄せる→中でワンタッチ→外へ一気に解放。テンポ差で一人外す。
セットプレー明けの再配置で主導権を握る
リスタート後の数秒は相手が整っていない。SBの高さとIHの位置を素早く再配置し、逆サイドへ早い展開を。
コミュニケーションと合図
声かけと手の合図の使い分け
- 近距離は声、遠距離は手。片手は「止まれ」、手刀は「縦差しOK」。
- 目線の送りで次のパス先を予告する。
合図の共通言語（キーワード化）
- 「待て」＝呼び込む。「返せ」＝バック。
「肩」＝背後の肩取り。「スルー」＝第三の動き。
GK／DM／SBとの事前取り決め
- ゴールキックの第一形、相手が噛み合ったときの第二形。
- プレスが来たら「3-2へ移行」など、切り替え合図を一言で。
リスク管理とセキュリティ
失ってはいけないエリアの理解
自陣中央の高い位置（自陣PA前～ハーフ間の中央）は最危険。外で失うのはまだ戻しやすい。
カバーシャドーで消すべきライン
受けに来る相手の背後の「前向きの選手」へ通る線は身体で消す。寄せるときの斜めの入り方が大事。
カウンタープレスの準備とリトリートライン
- 縦差しの瞬間、周りは「前向き失ったら即3秒」のマインド。
- 越されたらどこまで下がるかラインを決めておく。
天候・ピッチ状態に応じたボールスピード調整
- 濡れたピッチ＝速い。足元狙いすぎず少し手前に。
- 凹凸＝足元は弾む。ボールを浮かせるチップやスライスも選択肢。
ゴールキックとリスタートの設計
ルールに基づく配置とバリエーション
ゴールキックはPA内で受けられる。相手の人数・高さに応じて、短く引きつける/中距離/ロングの3形を準備。
ショート／ミドル／ロングの使い分け
- ショート：引きつけて空いた背後へ。
- ミドル：2列目へ速い球で前向きを作る。
- ロング：相手が前をかけてきた時の逃がし。セカンド回収の配置セットで。
相手分析から導く初手の選択
相手がマンツーマンならGK経由の3+2。ゾーンなら一度ロングでラインを下げさせてからショートに切替えるなど、先に揺さぶる。
相手を動かすトリガーとフェイク
視線・体の向き・助走でつくる錯覚
見る＝そこに出すではない。視線は長い対角、体は縦、実際は足元へなど、ズレを作る。
逆足の見せ方とパススピード変化
逆足で触ってから利き足で蹴る「半拍」だけで相手は止まる。速い→遅い→速いのリズムで外す。
時間をずらす一拍（パウズ）の価値
受け手と出し手のタイミングを合わせるための「一拍」。走り抜ける時間を作る小さな停止が効く。
計測と振り返り（データと映像）
ライン間に通した回数と成功率の把握
試合後、縦パス本数／成功率をざっくりで良いのでカウント。狙いどころの見直しに直結。
プログレッシブパス／キャリーの可視化
自陣→敵陣へ一気に距離を稼いだパス／運びをメモ。どのサイドが効いたかが分かる。
映像で見るスキャン回数と体の向きの検証
受ける前の首振り回数、受けた瞬間の体の角度をチェック。上手くいった場面を真似るのが近道。
トレーニングドリル（チーム／個人）
4対2→6対3の段階的ロンド
- 条件：受ける前に2回スキャン、縦パスは片足限定など制約を追加。
- 狙い：半身・角度・テンポの習得。
3+2ビルドアップのポジショナルゲーム
CB2＋GK＋アンカー＋IHで対2～3枚のプレス。3本つないだらサイドのゲート通過で得点。
スキャン制約付きパス回し
首振りジェスチャーをコーチが確認してからでないと得点にならないルール。見る癖を定着。
2タッチ／1タッチの制約ゲーム
自陣は2タッチ、敵陣は1タッチなどゾーンで制約。テンポと判断の切替を体で覚える。
狙いを持ったロングフィード練習
ドライブ・ロブ・スライスの3種類を的当てで。風向きとバウンドを合わせる癖を。
よくあるミスと修正法
同サイドで詰まる・背後を消す
原因：味方が同一レーンに重なる。
対策：反対サイドの幅を高く維持。中の一人は背後待ちに切替。
視野が狭い／ファーストタッチが重い
原因：受ける前に見ていない、止めてから考える。
対策：受ける前2回のスキャン、触る前に次の足を決める。
縦に急ぎすぎる・逆サイドを死なせる
原因：同じタイミング・同じ強さのパス。
対策：一度戻す勇気、対角の早い展開で相手の体の向きを戻させる。
引き込み過ぎの自殺的ドリブル
原因：運ぶ距離が長い、背後の保険がいない。
対策：残る人を決めてからキャリー、2タッチ以内で配球。
年代・レベル別の留意点
高校・大学カテゴリーの現実解
プレッシャーが速い試合が多い。GKを絡めた3+2が安定。ロングとショートのミックスで相手を伸ばす。
社会人／アマチュアでの再現性重視
練習時間が限られる。合図の共通言語とゴールキック形の固定化でミスを減らす。
育成年代への教え方と段階
まずは半身とスキャン→三角形作り→アップ・バック・スルーの順。距離は短く、成功体験を積ませる。
用具・環境の工夫
ボール・スパイク・ピッチ条件の影響
硬いピッチ＝バウンド高い→足元狙いすぎ注意。スタッドは滑らない程度に短めを選ぶと回しやすい。
コーン配置で角度と距離感を習得
5レーンにコーン。CB—IH—SBの距離を15～18mで固定して反復。
雨天・強風時のキック選択とスピード管理
追い風は抑える、向かい風は強め・低め。濡れた芝はドライブ有利。止まるピッチはチップで背後を突く。
ミニFAQ（よくある質問）
「縦に差す」か「回す」かの判断基準は？
受け手が前向きにできるなら差す。できないなら回して相手を動かしてから。前向き＝相手の重心が逆・背中が向いている時が合図。
相手の10番に消されるときの打開策は？
背中に立つIHを2枚にして選択肢を増やす。もしくは一度SBへ外してから内へ戻す「外→中」の二段で消しにくくする。
左右の足の使い分けと弱点補強の優先順位は？
逆足は「止める・短く運ぶ・10～20mの速い球」を優先して習得。長い球は助走と体の向きで補える。
身長やフィジカルが劣る場合の工夫は？
競る回数を減らす配球と角度作り。先に落下点を占有、相手を背負わず前向きに。ロングでは味方のセカンド回収配置をセットで。
まとめ：試合を動かすCBの思考チェックリスト
キックオフから終盤までの優先順位
- 前半立ち上がり：安全に数的優位を確認（GK活用）。
- 中盤：相手のズレを作るフェイクとテンポ変化。
- 終盤：スコアに応じて縦のリスク調整、逆サイドの解放で時間管理。
10のチェックポイントと次の一手
- 受ける前に2回スキャンしたか？→してないなら一度回す。
- 半身で受けたか？→体の向きを先に作る。
- 相手最前線に+1の数的優位があるか？→形を3+1/3+2に変更。
- 同サイドで詰まっていないか？→対角へ速い一本。
- 縦差しの受け手は前向きになれるか？→なれないならアップ・バック・スルー。
- 背後の保険はいるか？→キャリー前に「残る」を確認。
- 天候・芝に合わせてボールスピードは適正か？→強弱を調整。
- 合図は共有できているか？→一言で次の形へ切替。
- ゴールキックのバリエーションは使い分けられたか？→相手の出方で初手を変える。
- ライン間通過の意図は明確か？→数本続けて通らないなら外→中で再設計。
あとがき
ビルドアップは「正解の形」ではなく「原則の積み重ね」です。半身・スキャン・角度・テンポ。この4つが揃えば、どんな相手にも一手目で優位を作れます。まずは自分の得意な一本（縦差し、対角、キャリー）を武器にし、そこから引き出しを増やしてください。最終ラインから試合を動かす楽しさを、次の試合で体感できますように。
