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サッカー守備プレスのかけ方・基本|全員で奪う連動術
「プレスは気合い」では勝てません。相手を追い込む角度、距離、そしてチーム全体の連動があってはじめて、ボールは“奪える”ようになります。本記事では、サッカー守備プレスのかけ方・基本を、今日から実践できる形で整理。ハイレベルな戦術用語を無理に並べず、現場で使える合図やドリル、失敗の直し方まで、具体的にまとめました。観る・寄せる・奪うが一本の線でつながると、チームは一気にアグレッシブになります。
導入:なぜ「全員で奪う」が現代守備の前提か
現代サッカーにおけるプレスの位置づけ
ボール保持の質が上がった現代では、1人の寄せでは外されます。プレスは「全員でボール周辺の時間と空間を奪い合う」チーム戦術で、攻撃の第一歩でもあります。ボールの移動より早く、次の受け手を消すスピード感が鍵です。
「守備から攻撃」への最短経路としての奪取
高い位置で奪えば、相手は整っていません。シュートまでの距離が短く、決定機が増えます。プレスは守備と攻撃の“境目”にある武器。奪う場所と奪った後の一手をセットで準備しておきましょう。
この記事のゴールと読み方
原理→トリガー→形→プロセス→ゾーン別→役割→ドリル→指標の順に、現場で再現しやすい道筋で解説します。気になる章だけ拾い読みでもOK。最後にチェックリストと実践手順を用意しています。
守備プレスの基本原則
ボール基準+仲間基準の二軸で圧縮する
「ボールに寄る」だけだと簡単に逆サイドへ逃げられます。ボール基準で一歩寄せつつ、仲間との距離(縦横8〜12mを目安)を保ち、三角・菱形を崩さないこと。これでパスコースを連続して消せます。
前進阻止と前向き阻止の優先順位
最優先は“前進させない”。縦パスを消し、前を向かせない。横に逃げる分にはOK、縦だけはダメ。この優先順位を全員で共有すると、迷いが減ります。
角度・距離・人数の三要素
角度は内→外に追い出すか、外→内に誘うかを統一。距離は1stが「触れる手前」、2nd/3rdは「一歩で届く」。人数はボールサイド過多(+1人)を基本に。数で勝つから奪えます。
背後と中央を同時に守るリスク管理
奪いに行くほど背後は空きます。背後は最終ラインとGKで管理、中央は中盤が“門”になる。無理なら撤退合図でラインを整える。この切り替えが失点を防ぎます。
プレスを始動させるトリガー
バックパス・横パスの体勢
ボールが後ろや横に動く瞬間は、相手の体が前を向いていません。全員で一歩前進し、次の受け手を先に消します。
受け手がタッチラインを背負う瞬間
外側に逃げ道がないので狙い目。内側の縦パスを遮断し、足元へ圧縮。二人目は逆足側からタッチラインへ追い込むとミスが出ます。
浮き球・ハイボール・高いトラップ
落下点と次の受け手を同時に潰す。1stは競る/身体を寄せる、2ndはこぼれ球ゾーンを先取り。高いトラップは足元が不安定なので一気に寄せましょう。
ボール保持者の視線と体の向きが下がった時
顔が下がると認知が狭くなります。寄せる距離を一歩詰め、パススピードを落とさせる。弱い足側へ追い込むと精度が下がります。
GKへのリターンと弱い足への誘導
GKに戻った瞬間は全員でラインアップ。蹴らせるコースを限定し、セカンド回収を準備。キッカーやCBの弱い足に運ばせる誘導も効果的です。
形と距離の作り方
チームの幅と奥行きの目安
ボールサイドは幅15〜25m、奥行きはライン間10〜15mを目安に圧縮。逆サイドは絞りすぎず、サイドチェンジに一人は準備。
ライン間の圧縮と縦ズレ管理
前線が出たら中盤も5m、最終ラインも3〜5mついて出る。誰かが出たら誰かが埋める“縦ズレ”でスペースを消します。
カバーシャドーと斜めアプローチ
寄せるときは体の向きで背後のパスコースを隠す(カバーシャドー)。真っ直ぐではなく、斜めから内側の縦パスを切って外へ誘導。
オフサイドラインの連動と背後管理
最終ラインは一直線ではなく“波打つ”連動。ボールサイドが出たら反対側はカバー。GKはスイーパーの位置で背後を消します。
3ステップで考える奪取プロセス
開始:1stディフェンダーのスピードと角度
最初の3歩は全力、最後の2歩で減速してステイ。角度は縦パスを切る足の向きで。フェイントで飛び込まないこと。
固定:2nd/3rdディフェンダーの遮断と誘導
2ndは内側のレシーバーを消し、3rdはこぼれと背後。ボールの出口を限定して“そこで詰まらせる”のが固定の目的です。
奪取:ボールサイド過負荷と回収
数で包囲して、触る・当てる・こぼれを拾うの三段。インターセプトが第一、無理なら接触でタッチに逃がしてスローインを取りにいく。
奪取後の「最初の一手」
奪って3秒が勝負。縦の速い一手、逆サイドへの展開、ファウルを受けてセットプレーの3択を事前に共有。迷いを消します。
ゾーン別プレス戦術
ハイプレスの狙いと前提条件
相手陣で奪ってショートカウンター。前提はラインの高さ、GKのスイーパー能力、背後のスプリント準備。交代枠と走力管理もセットで。
ミドルプレスでの圧縮とトラップ
自陣と中盤の境界で圧縮し、サイドや背中向きへ誘導。ボールが外へ出たら一気に包む“トラップ”を繰り返します。
低い位置からのジャンププレス
低ブロックでも、合図で一気に前へ“ジャンプ”。縦パスに合わせて前進し、受け手が背中向きの瞬間に圧力をかけます。
相手のビルドアップ形への合わせ方
相手の2CB+GKか、3枚化かでプレスの枚数と角度を調整。アンカーを消すのか、サイドで引っかけるのかを事前に決めておきます。
サイドか中央か—奪いどころの設計
タッチラインを味方にするサイド圧縮
外は逃げ道が少ないので奪いやすい。内を消して外へ追い込み、二人目がタッチラインと体で挟み込みます。
中央封鎖と縦パス制限
中央は一発で崩れるので、縦パスは最優先で封鎖。背中でアンカーを消し、受け手が背中向きなら一気にスイッチ。
サイドチェンジ対策と逆サイドの準備
逆サイドは“やや絞って”準備し、長いボールが出た瞬間にスプリント。中盤の一人はスライドせず、常に反転役を残します。
プレストラップの作り方と解除法
意図的に一度内に誘い、縦を切って外で挟むのが基本トラップ。外されたら無理をせず解除コールで撤退、隊形を整えます。
ポジション別の役割と連動
CF/ウイングのスイッチとアプローチ角
CFはCB間のボール移動に合わせて“スイッチ”。ウイングはSBへ斜めの角度で寄せ、内側の縦パスを切りながら外へ誘導。
インサイドハーフ/ボランチの遮断責任
内側の受け手(アンカー/インサイド)を背中で消し、縦パスの瞬間に前を取る。遅れたらファウルも選択肢にして、カウンターを止めます。
サイドバック/センターバックのチャレンジ&カバー
SBは外で潰す担当、CBはその背中をカバー。CBが前に出たら、逆CBとSBで背後を管理。縦ズレは声で共有。
GKのスイーパー能力とコーチング
背後の長いボールはGKが回収。ラインを押し上げる声、サイドチェンジの合図、カウントダウン(3・2・1)で全体を前へ。
即時奪回(カウンタープレス)の基本
ロスト直後の最短ルールと考え方
失った瞬間の5秒は“奪い返しタイム”。最も近い3人はボールへ、遠い選手は縦パスの受け手を消す。全員が一歩前へ。
レストディフェンスの配置
攻撃中からカウンターに備える配置。後方に最低2枚+中盤1枚を残し、相手の速い選手を視野に入れておく。
リスクとファウルマネジメント
外されたときは“遅らせファウル”で時間を作る判断も必要。カードや位置を考えて、危険地帯では無理に足を出さない。
取りきれない時の撤退合図
「戻る!」の一声で全員が自陣へスプリント。最終ラインからのカウントダウンでブロックを再形成します。
コミュニケーションと言語化
現場で使うコールワード例
- 「切れ内/外」:内か外を切る方向の指定
- 「寄せ待て」:1stは待ち、2ndが来る合図
- 「スイッチ」:マークの受け渡し
- 「ジャンプ」:ラインごと前進
- 「戻る」:撤退合図
体の向き・指差しなど視覚合図
片手で縦パスコースを指差し、体でカバーシャドーを示す。声が届かない距離でも伝わるよう、ジェスチャーを統一。
ベンチとGKからのガイドライン
ベンチは相手のビルドアップの“型”を即時に共有。GKはラインの高さ、背後の危険、残り時間に応じたリスク許容度をコール。
個の守備技術とフィジカル
加速と減速のコントロール
最初の3歩は速く、最後の2歩で減速して姿勢を作る。止まれるから、次の一歩が出ます。足幅は肩幅より少し広く。
サイドステップと半身の作り方
相手との距離は腕一本。半身で内を切りながら外に誘導。サイドステップで並走し、触れる距離を維持します。
インターセプトとタックルの使い分け
狙えるなら先に触る(インターセプト)。遅れたら無理に足を出さず、二人目のタックルへつなぐ。我慢がタックルを生かします。
反則を避けるコンタクト技術
肩で当てて、腕は広げない。足はボールに、体は相手の進行方向に入れる。倒すのではなく、進路を“塞ぐ”意識を。
ありがちな失敗と修正
1stだけが出て孤立する
原因は後ろの準備不足。出る合図と同時に中盤・最終ラインも3〜5m前進するルールを徹底。1stが我慢する選択肢も共有。
背後のケアが遅れる
最終ラインとGKの距離が開くと一発でやられます。GKの立ち位置を高く、CBは互いにカバーの意識を強める。
スイッチのタイミングが合わない
受け渡しはボールの移動中に。遅れるなら“受け渡さない”で最後までつく判断もOK。基準を試合前に決めておく。
サイドチェンジで振られる
逆サイドの準備がゼロだと走らされます。常に一人を残し、長いボールの予測歩を入れる。ボールが上がった瞬間に全員がスプリント。
トレーニング設計とドリル例
誘導の原則を学ぶ2対2+サーバー
中央にサーバー1人、攻守2対2。守備は内を切って外へ誘導し、タッチラインで奪う。合図と角度を反復します。
遮断と回収を学ぶ4対4+2フリーマン
サーバーを縦に配置。守備はフリーマンの受けを背中で消し、ボールサイド過負荷で回収。奪ったら3秒でシュート。
ハーフコート6対6のハイプレス波状
相手GKからスタート。バックパスのたびに全員で前進し、サイドでトラップ。外されたら撤退の合図までをセットで練習。
認知トリガー反応ドリル
コーチが「横」「下がる」「浮き球」などコールし、選手は即座に適切なアクションを選択。視線と体の向きもチェック。
フィジカル連動:反復走と回復
15〜20mの反復ダッシュ+30秒回復をセットで。プレスは“止まる体力”も必要。減速の質を上げる補強も行いましょう。
試合準備と分析の指標
相手の長所を消すゲームプラン
相手の得意ルート(アンカー経由、SB高位置、ロングボール)を一つ消すだけで効果大。消し方の優先順位を明確に。
キックオフ・スローイン後の整列ルール
最初の10秒は全員前向きの共通ルール。スロー後は“内切り外圧”の原則で素早くトラップを作る。
データで見る守備強度(PPDAなど)
PPDAは相手のパス数に対する自チームの守備アクション数の指標。数値が低いほど前から守れている傾向。自チームの狙い(ハイかミドルか)に合っているかを確認材料に。
試合中の調整と交代の使い方
走力が落ちたら、まずミドルプレスへ移行。交代はウイングやIHなど“スイッチ役”を優先。合図の質を保ちます。
年代・レベル別の適用ポイント
高校・大学・社会人での強度差
高校は合図の統一を最優先。大学以上はラインの押し上げと背後管理の精度に投資。社会人は交代と運動量管理を設計に入れる。
少年年代への落とし込みと安全配慮
用語は簡単に。「内切り」「外誘導」など2語で伝える。接触プレーは安全第一、タックルより角度と距離の学習を重視。
アマチュア環境での再現性を高める工夫
練習時間が短いなら、トリガーと言葉の共有に集中。動画共有やボードでの確認、ミニゲームでの反復が効率的です。
実装チェックリスト
プレス前提条件の確認項目
- GKのスイーパー位置は適切か
- 最終ラインの高さと連動は保てているか
- 背後スプリントの準備はあるか
トリガー共有の合意度
- バックパス/横パスで前進の合図が出るか
- 受け手の背中向きで一気に寄せられるか
- GKリターンでラインアップできるか
背後管理と撤退合図の徹底
- 「ジャンプ」「戻る」のコールが統一されているか
- 逆サイドの準備役が常にいるか
- 無理なときにファウルで止める基準は共有されているか
まとめ—明日からの実践手順
週次スケジュールへの落とし込み
前半は原則とトリガーの確認、後半はゾーン別のゲーム形式。週1本は反復走と減速トレをセットで。前日練習は合図の最終確認だけに絞ると効果的です。
試合後レビューと改善サイクル
映像のチェックポイントは「開始の角度」「固定の遮断」「奪取後の一手」。PPDAなど簡易指標も一緒に振り返り、次週のテーマを1つに絞る。
継続のためのチームルール
コールワードの統一、スプリントの回数目標、撤退合図の即応。この3点をチームルールに。全員で奪う意識が根付けば、結果は自然とついてきます。
おわりに
プレスは“勇気の走り”ではなく、“揃った合図と形”のスポーツです。今日の練習から、トリガーの共有と距離感の徹底を試してみてください。全員で同じ絵を見られたとき、守備は攻撃に変わります。
