延長戦とアウェーゴール。どちらも“わかったつもり”で見ていると、いざという時に判断を誤りがちなルールです。本記事は、現在一般的に採用されている運用をベースに、誤解が生まれやすいポイントをやさしく整理。実戦にすぐ役立つチェックリストや戦術面のヒントまで、一気にキャッチアップできます。
目次
はじめに:この記事の結論と要約(30秒で把握)
今すぐ押さえるべき3ポイント
- 延長戦は「最大15分×2」。実施の有無やインターバル、交代枠は大会規定で決まる。
- アウェーゴールは大会によって採用/非採用が分かれる。UEFAは2021-22から廃止。
- 2試合制の勝敗判定は「合計スコア→(採用なら)アウェーゴール→延長→PK戦」が基本の流れ。ただし順序や適用は大会規定を必ず確認。
この記事で解決できる疑問
- 延長戦の時間、インターバル、交代枠、警告・退場の扱い
- アウェーゴールの定義、最新の採用状況、延長戦での扱い
- 2試合制の具体的な勝敗判定フローと特殊ケース
- 実戦での準備(体力配分、交代プラン、PK戦の設計)
- 大会要項で何をチェックすべきか
本記事の読み方ガイド
- 「延長戦の基本」「アウェーゴールの基本」で土台作り。
- 「2試合制の勝敗判定フロー」「Q&A」で誤解を一掃。
- 「戦術・準備」「チェックリスト」で実務に落とし込む。
延長戦の基本ルールを最新整理
試合時間とインターバル(延長前の短い休憩含む)
延長戦(エクストラタイム)は原則「15分×2」の最大30分。実施の有無や秒単位の運用は大会規定に従います。90分終了後に短いインターバル(延長前の小休止)が設けられるのが一般的で、長さやベンチからの指示可否も規定で決まります。延長の前後半の間にも、ごく短いブレイクが認められる場合があります。
決着の手順:90分→延長→PK戦の流れ
ノックアウトで多いのは「90分で決着→しなければ延長→それでも同点ならPK戦」という順序。ただし大会によっては延長を行わず90分から直接PK戦に入る方式も存在します。事前に「延長の有無・PK戦直行の可否」を必ず確認しましょう。
ゴールデン/シルバーゴールは現在採用されていない
延長戦で「先に点を取ったら即終了(ゴールデン)」や「延長前半終了までにリードしていれば終了(シルバー)」といった方式は、現在の主要大会では採用されていません。延長は原則、前後半フルで戦います。
交代枠と登録人数の考え方(大会規定に依存)
- 交代人数:近年は「90分で最大5人」が主流ですが、延長に入ると「さらに1人(計6人)」を認める大会もあります。追加枠の有無は規定次第。
- 交代機会(ウィンドウ):交代を行える回数は「プレー中の実施機会」が制限されます。多くの大会では90分中に3回、延長に入ると追加で1回の機会が設けられるケースが一般的。ハーフタイム、延長開始前、延長前半終了時の交代はウィンドウ数に含めない運用が広く見られます。
- ベンチ入り人数:登録上限は大会次第。トップ大会ほどベンチの枠が広く設定される傾向にあります。
- 脳振盪による追加交代などの特別措置を設ける大会もあります(通常の交代枠とは別扱い)。
延長戦での警告・退場・累積の扱い
- 警告(イエロー)と退場(レッド)は延長戦にも当然適用されます。90分の警告は延長に持ち越され、延長での2枚目は退場です。
- PK戦は「試合の延長ではなく、勝者を決める手続き」と扱われるため、PK戦中の警告の扱いは大会規定に委ねられます。一般的には、試合中の警告とPK戦の警告を通算して退場としない運用が広く存在しますが、必ず大会要項を確認してください。レッドはPK戦中でも退場です。
- 大会内での累積(たとえば次戦の出場停止)は、競技会規定に基づきます。
VARやGLTの適用有無は大会規定で決まる
- VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)やGLT(ゴールライン・テクノロジー)は導入の有無も適用範囲も大会規定次第。延長戦でも適用されるのが通例です。
- PK戦へのVAR適用は大会により異なります(GKの位置や再蹴の判断など、適用対象が限定される場合も)。
アウェーゴールの基本と最新動向
アウェーゴールの目的と計算方法
アウェーゴールは、ホーム&アウェー2試合の合計スコアが同じになった場合に「相手のホームで多く点を取ったほうを勝者」とするタイブレーク。狙いは「アウェー側にも攻める動機づけ」を与えることです。採用される場合の基本は以下です。
- 2試合の合計スコアが同点→アウェーでの得点数が多いチームが勝ち上がり。
- アウェーゴール数も同じ→延長戦→PK戦の順で決める(大会規定による)。
延長戦時のアウェーゴールの扱いは大会次第
延長に入った後の得点を「アウェーゴールとして数えるか」は大会で分かれます。過去には「延長中のアウェー側の得点が通常より有利に働く」ことが議論され、ここを不採用(またはアウェーゴール制度そのものを廃止)にする動きが広がりました。必ず大会要項で「延長中のアウェーゴールの取り扱い」を確認してください。
UEFAは2021-22からアウェーゴール廃止
欧州サッカー連盟(UEFA)は、2021-22シーズンからクラブ大会でアウェーゴールを廃止。これにより、2試合制は単純に「合計スコア→延長→PK戦」で決まります。欧州を視聴・分析するうえで、ここは強く意識しておきましょう。
その他の地域・国内大会の傾向(採用/非採用の例)
- 世界的には「非採用」へシフトする流れが強まっています。
- 一方で、一部の国内カップ戦や昇降格プレーオフなどで、アウェーゴールが残る大会もあります。
- 同じ国・同じ主催者でも、年代別やカテゴリ別で運用が異なることは珍しくありません。
最新情報の確認ポイント(規定文の読み方)
- 「競技方法」「勝者の決定方法」の章を必ず確認。
- 2試合制の場合は「合計スコア同点時の手順」「延長の有無」「アウェーゴールの適用」「延長中の得点の扱い」をセットでチェック。
- 併せて「交代人数・交代機会」「VAR/GLT」「累積警告・出場停止」も確認。
2試合制(ホーム&アウェー)の勝敗判定フロー
合計スコア→タイブレーク適用の順序
一般的な読み方は次の通りです(大会規定が最優先)。
- 2試合合計スコアを比較
- 同点なら、(採用大会は)アウェーゴール数を比較
- なお同点なら延長(延長の有無は規定による)
- それでも決まらなければPK戦
具体例1:アウェーゴールが採用される場合の計算
第1戦:A 1-0 B(会場A)/第2戦:B 2-1 A(会場B)→合計2-2。アウェーゴールはAが「1」、Bが「0」。Aが勝ち抜け。
具体例2:アウェーゴールが採用されない場合の計算
同じスコアでも、制度がない大会では合計2-2のため延長へ。決まらなければPK戦です。
具体例3:延長戦での得点がどう影響するか
アウェーゴール採用大会でも「延長中の得点はアウェー扱いしない」という規定なら、延長の得点は単純に合計スコアへ加算されるだけ。逆に「延長中もアウェー扱い」と明記されていると、延長のアウェー側ゴールが決定打になり得ます。ここは大会ごとに差が出やすい最重要ポイントです。
特殊ケース:中立地・無観客・会場変更時の扱い
- 「ホーム/アウェー」は原則として大会が定める“チームの扱い”で決まり、観客数や移動距離、スタジアムの物理的所在地では決まりません。
- 中立地開催でも、規定上“ホーム扱い”“アウェー扱い”が付与されていれば、その指定に従って計算されます。
- 安全上や天候上の理由で会場が変更になっても、規定が“扱い”を維持すると定めていれば、従来の指定が有効です。
大会別の実情と確認のコツ
日本国内(プロ・アマ・学生)の一般的な傾向
- 国内主要カップ戦は「単発(1試合決着)」が多く、延長→PK戦の流れが基本。
- ホーム&アウェーを採る大会では、アウェーゴールの採用有無が大会や年代で分かれることがあります。
- 学生・アマチュアでは、運営上の配慮から延長を省略してPK直行とする大会もあります。
国際大会(代表戦・クラブ大会)の一般的な傾向
- UEFAはアウェーゴール廃止。延長・交代枠の運用は各大会規定に従います。
- 他地域の大会でもアウェーゴール非採用が増えていますが、完全に統一はされていません。
- 若年層や予選ラウンドは、日程・移動の制約から特有の運用(延長省略など)を設ける場合があります。
リーグ戦とカップ戦で異なるタイブレーク
- リーグ戦は勝点制が基本で、順位の並び替えは「得失点差」「総得点」「当該チーム同士の対戦成績」など。アウェーゴールをリーグ順位のタイブレークに使わない大会が一般的です。
- カップ戦は一発勝負か2試合制かで大きく変わり、延長やアウェーゴールの有無も大会によって異なります。
大会要項のどこを見ればよいか(必須項目チェック)
- 競技方法:試合時間、延長の有無、PK戦直行の可否
- 勝者の決定:2試合制の場合の手順、アウェーゴール採用の有無、延長中の扱い
- 選手エントリー:ベンチ入り人数、交代人数、交代機会、特別措置(脳振盪等)
- 規律:警告・退場の扱い、累積、次戦の出場停止
- テクノロジー:VAR/GLTの導入有無と適用範囲(PK戦含むか)
よくある誤解をゼロにするQ&A
延長戦に入るとアウェーゴールは必ず無効になる?
いいえ。延長戦でのアウェーゴールの扱いは大会規定次第です。採用を続け、延長中もアウェー扱いする大会も、完全に不採用の大会もあります。
延長戦での交代は“追加枠”が必ずある?
必ずではありません。90分で最大5人+延長で1人の「計6人」を認める大会が増えましたが、延長での追加枠を設けない大会もあります。ウィンドウの数(交代機会)も規定で異なります。
PK戦のゴールは公式記録の得点に計上される?
一般的に、PK戦の得点は試合の得点には計上されません。マッチレポート上は「延長の末◯-◯、PK◯-◯で勝者」と表記され、個人の得点記録に加算されないのが通常です。
アウェー扱いは観客数や移動距離で決まる?
いいえ。大会が定める“扱い(designation)”で決まります。中立地でも「ホーム扱い」「アウェー扱い」が明示されることがあります。
中立地開催でもアウェーゴールが適用されることはある?
あります。2試合制で中立地開催となっても、規定上の扱いが付与されていれば、その指定に基づいてアウェーゴールが計算されます(制度を採用している大会に限る)。
戦術・準備:延長戦を見据えた実務
体力配分と交代プランのひな型(90分→120分想定)
- 前半:立ち上がりの無駄走りを抑え、プレスの強度とライン設定を計画的に。高温多湿や連戦時は特に出力をコントロール。
- 後半:勝負どころ(60〜75分)にギアを上げられるよう、走力の高いサイドやIHの交代を準備。
- 延長:前線の推進力とセットプレーの高さ、PKキッカーの質を両立する交代を優先。
- 交代の窓口:飲水タイムやインターバルを活用し、走力低下の明確な選手から順に。延長前に計画的に1枚を残す選択も有効。
延長戦の戦い方:先に仕掛けるか、PK戦を見据えるか
- 仕掛け型:延長前半からテンポを上げ、相手の足が止まる前に決め切る。カウンターの背後ケアを徹底。
- 耐える型:ブロックを下げ、リスクを抑えながらセットプレーに賭ける。PK戦に自信があるチームに向く。
- どちらを選ぶにも、ベンチと選手で「合図」と「基準(何分まで、走行距離/心拍の閾値)」を共有しておくと迷いが減ります。
PK戦の設計:キッカー順・GK準備・心理的ルーティン
- キッカー順:1番目と5番目に自信のある選手を置くのが定番。相手GKの傾向(先動き/後出し、手の長さ)を短時間で共有。
- GK準備:助走の速度に合わせたステップ、軸足の読み、蹴り足の開きと肩の向きの観察。事前スカウティングがあればベンチから直前に提示。
- 心理:全員同じルーティン(呼吸→合図→ボールセット→視線)を徹底。外しても切り替える合言葉を決めておくと連鎖を防げます。
高校・ユース年代での練習メニュー例
- 延長対応のインターバル走:4分走×4本→2分レスト→4分走×2本(可変)で後半以降の出力維持に慣れる。
- 終盤シナリオゲーム:75分経過想定スコアからの15分ゲーム×2本。交代カードの使い方とセットプレー設計を実戦化。
- PKルーティン練:練習の最後に毎回5人×2セット。疲労下での再現性を高める。
ルール変更の背景とリスク管理
アウェーゴール廃止が進む理由と影響
- 理由:延長でアウェー側が有利になり得る非対称性、遠征環境の改善で「アウェー不利」の相対低下。
- 影響:ホーム&アウェー両方で「点を取りに行く姿勢」が求められ、延長・PK戦での勝負が増える傾向。
試合密度と選手保護(延長戦の負荷)
- 延長は走行距離・高強度走の増加を招き、怪我リスクも上がります。連戦では交代枠の使い方が結果と健康を左右。
- 主催者は選手保護の観点から交代枠拡大や日程配慮を進めるケースが増加。
公平性と興行価値のバランス
- VAR/GLT導入やアウェーゴール廃止は、公平性とわかりやすさを重視する流れの一部。
- 一方で「延長なしでPK直行」の採用は、運営・放映・集客のバランスも影響します。
試合前後で役立つチェックリストと運用
キックオフ前に確認すべき7項目
- 延長の有無と延長前のインターバル時間
- アウェーゴール採用の有無(延長中の扱いを含む)
- 交代人数・交代機会(延長での追加枠の有無、脳振盪ルール)
- VAR/GLTの適用範囲(PK戦に適用するか)
- 警告・退場・累積(次戦の出停条件)
- ベンチ入り可能人数と登録方法
- 会場特有のレギュレーション(クーリングブレイクなど)
ベンチで共有する意思決定フロー(延長/PK想定)
- 後半60分時点:延長視野の交代温存or勝負に出るかを決定。
- 後半終了時:延長に入る場合の交代カード優先順位(走力→セットプレー→PKキッカー)。
- 延長前半10分:仕掛け継続orPK狙いへ切替を合図。
- 延長後半開始前:PKキッカー5人+予備2人、GKの左右傾向最終確認。
選手・保護者へ短く伝える説明テンプレ
- 延長ありの場合:「90分で決まらなければ延長30分、それでも同点ならPKで決めます。」
- アウェーゴール採用の場合:「2試合合計が同点なら、相手のホームで取った得点が多いほうが勝ちです。」
- 非採用の場合:「2試合合計が同点なら延長、まだ同点ならPKになります。」
まとめとアップデートの追い方
公式ソースと更新タイミングを追跡する方法
- 競技規則:IFAB(サッカー競技規則)は毎年改定が施行されます(新シーズン開始前に更新されるのが一般的)。
- 大会規定:主催団体(国内はJFAや各リーグ、国際は各連盟)が公開する「大会要項」「規定集」を毎シーズン確認。
- 主催者のリリース:交代枠やVAR適用など、シーズン途中での例外運用が発表される場合があります。
来季以降に備える情報収集ルーティン
- プレシーズンに「延長・PK・アウェーゴール・交代枠・VAR/GLT」をひとまとめでチェック。
- 直近の公式通達や審判委員会の見解も併せて確認(PK戦での反則や再蹴の基準など)。
- ベンチ用に1ページの要約資料を作成し、試合当日に再確認。
おわりに
延長戦とアウェーゴールの理解は、“知っているかどうか”で戦い方が変わる分野です。最新の大会規定に目を通し、ベンチでの意思決定フローと交代プランまでセットで準備しておけば、終盤の1プレーに迷いがなくなります。今日の試合から、まずは「延長の有無」「アウェーゴールの扱い」だけでも必ず確認して臨みましょう。勝負の分かれ目は、準備の質にあります。
