サッカーのビルドアップ初心者向け解説：後方から繋ぐ基本思想

「サッカーのビルドアップ初心者向け解説：後方から繋ぐ基本思想」へようこそ。怖さよりも、意図と準備で安心して運ぶこと。そのための土台を、今日から使える言葉と手順でまとめました。図や映像がなくてもイメージしやすいよう、具体例と合図（コールワード）で整理しています。

イントロダクション：なぜ後方から繋ぐのか

本記事のゴールと読み方

目的は「後方からの前進を、意図して選べる状態」にすることです。形だけ真似るのではなく、なぜその配置・判断なのかを言語化して自分のものにしましょう。章ごとに短い要点と合図を用意しているので、練習前の確認にも使えます。

ビルドアップの定義と誤解を解く

ビルドアップは「後方から前進し、優位を作って前向きの選手に届ける一連のプロセス」。ショートパスだけが正解ではありません。相手の圧と自分たちの配置に応じて、繋ぐ・運ぶ・蹴るを選び分けるのがビルドアップです。

後方から繋ぐことのメリット・デメリット

• メリット：主導権を握れる、良い体の向きで前進できる、全員が関与し成長する。
• デメリット：失い方が悪いとカウンターの危険、技術と距離感に精度が必要。

ビルドアップの基本思想：三つの優位（数的・位置的・質的）

数的優位：GKを含めた＋1の発想

相手の前線人数より一人多い状態を“作る”のが起点です。GKをフィールドプレーヤーとして数えることで、最終ラインで+1を確保し、プレスの1stラインを外しやすくします。

位置的優位：相手の背後・間・ライン間を使う

相手の肩越し（背後）、二人の間（レーンの間）、中盤と最終ラインの間（ライン間）に受け手を置くと、相手は迷います。迷いが時間を生み、余裕が質を上げます。

質的優位：強みのある選手へボールを運ぶ

ドリブル突破、キック精度、背負いの強さなど、強みが発揮される場所に運ぶのが狙い。チームは「誰がどこで強いか」を共有しましょう。

縦ズレ・横ズレを意図的に作る方法

• 縦ズレ：CFの降り、IHの浮き直し、CBの持ち上がり。
• 横ズレ：SBの内外移動、WGの幅取り、逆サイドの高い位置取り。

配置と形：最終ラインの作り方と可変

2CB＋1DMでの3バック化（偽3バック）

DMが最終ラインに落ちて3枚化すると、相手2枚のプレスに+1が確保されます。落ちる“タイミング”はボールが片側へ寄る瞬間が目安です。

サイドバックの高さ調整（外高/内低/偽SB）

• 外高：相手のSBを引きつけて背後を作る。
• 内低：中盤で数的優位を作り前向きの出口を確保。
• 偽SB：内側に入り、CBとDMの近くで循環を安定。

4-3-3/4-2-3-1/4-4-2での初期配置

4-3-3はハーフスペースにIHの角度が作りやすい。4-2-3-1はDMの2枚でセンター安定。4-4-2はWGの戻りでライン間が閉じやすい分、SBの可変が鍵です。

マンツーマンプレスへの形の当て方

マークを連れ回し、空いたスペースに3人目を差し込むのが基本。人が動いてスペースを開け、ボールは逆へ運びます。

保持の原則：幅・深さ・間と距離感

幅と深さで相手を広げる基本

片側に寄せて逆サイドを使うには、常に幅と深さを確保すること。最前線は相手最終ラインを押し下げ、後方は広げます。

サポート角度：三角形と菱形の使い分け

三角形はシンプルな前進、菱形は循環とスイッチに有効。ボール保持者の斜め前後にサポートを置き、平行にならない配置を心がけます。

体の向き（半身）とファーストタッチの方向

半身で受け、ファーストタッチで前を向く。受ける前のスキャンで“空いている足”に置けば、次のアクションが速くなります。

パススピード・グラウンダーの質・リズム

速すぎず遅すぎず、“相手を動かす速さ”。足元か逆足か、奥行きに“置く”イメージで。強弱のリズムがズレを作ります。

認知・判断・実行：スキャンとトリガー

スキャン（首振り）の頻度とタイミング

受ける前に2回、受けた後に1回が目安。味方・相手・スペースの順に見る癖をつけましょう。

自チームの前進トリガー（縦付け合図）

• CFが降りてフリーの合図。
• IHが背中から抜けてライン間でフリー。
• SB内側で数的＋1が見えた瞬間。

相手のプレストリガーを見分ける

バックパス、横パス、トラップ流れの逆、GKへの戻し。相手の“来る合図”を共有し、逆を突く準備を整えます。

前進・循環・やり直しの判断基準

• 前進：前向きのフリーが見える。
• 循環：片側が詰まっても逆が空く見込み。
• やり直し：前後のライン間が詰まり、背後の脅威が出せない。

具体的パターン：後方からの前進モデル

アップ・バック・スルー（縦付けの基本連鎖）

CFへ当て（アップ）、落とし（バック）、3人目へ縦（スルー）。縦・横・縦のリズムで1stラインを外します。

サードマン（三人目）でライン間を攻略

受けて落とす人は囮。決定的なのは三人目の角度とタイミング。走り出しは落としの「半拍前」が目安です。

壁パス（ワンツー）とリターンの質

リターンは相手の足が届かない側へ。返す足、強弱、置く位置で前向きの時間を作ります。

サイドチェンジとスイッチで圧を逃がす

2本で変える（CB→IH→逆SB）か、1本の長い対角。蹴る前に逆サイドが準備できているかの合図（手、声）を必ず。

逆三角形（▽）で前向きを作る受け方

ボール保持者の斜め前と斜め後ろにサポート、背後にCF。▽で受けると前向きの選択肢が増えます。

役割別ポイント：GK/CB/SB/DM/IH/WG/CF

GK：ポジショニング、足元、長短の判断

CBと縦一直線にならず、少し外す位置で角度を作る。短い選択がない時は、ターゲットとセカンド回収の準備を整えてから長いボールを選びます。

CB：運ぶドリブルと相手1stライン突破

相手が出てこないなら運ぶ。出てきた瞬間、背中の味方へパス。相手の“どちらの足”で来るかを見て逆へ。

SB：タッチライン/インサイドの可変運用

外で幅を取り相手SBを広げるか、内側で数的優位を作るか。ボールサイドは内、逆サイドは高く外、など役割分担を明確に。

ボランチ（DM）：背中の敵と身体の向き

常に肩越しに背後を確認。半身で受け、前進かやり直しを最短で決める“スイッチマン”です。

インサイドハーフ：ハーフスペースでの前向き創出

ライン間で受ける、背後へ刺す、外へ流れて数的＋1を作る。三役を使い分け、三人目の起点になります。

ウイング：幅取りと背後脅威の両立

足元の幅取りで相手SBを釘付けにし、タイミングで背後へ。外に立つほど内側にギャップができます。

センターフォワード：楔・落とし・裏抜けの三本柱

身体を当てて楔、落として三人目、相手が出た瞬間に裏。落とす方向を“味方の進行方向”へ置くのがコツ。

局面別攻略：ゴールキック/流れの中/リスタート

ゴールキックからのビルドアップ（2019/20のルール変更要点）

• ボールは「蹴られて明確に動いた瞬間」にインプレー。
• 味方はペナルティーエリア内で受けられる。
• 相手はインプレーになるまでエリア内に入れない。

CBは広く、DMは落ちる/残るを使い分け、SBは内外で可変。相手のプレス人数に合わせて+1の形を作ってから再開します。

流れの中でのやり直し（バックパスの質）

やり直しは“逃げ”ではなく“前進の準備”。戻す足は次の方向が作れる足へ、相手の矢印を逆へ向けます。

相手のハイ/ミドル/リトリートへの対応

• ハイ：+1を明確化、縦1本かサードマンで背後へ。
• ミドル：IHの間受けとサイドスイッチで前進。
• リトリート：運ぶドリブルとミドルレンジの楔でライン間を広げる。

環境対応：ピッチ・天候・相手特性

狭い/広いピッチでの距離感修正

狭いピッチでは縦の連鎖（アップ・バック・スルー）を短い距離で素早く。広いピッチではサイドチェンジを織り交ぜて相手を走らせます。

強風・重い芝・人工芝の影響と対処

強風は低く速いグラウンダー、重い芝はタッチ強めと距離短め、人工芝はボールが走る前提でファーストタッチを柔らかく。

対人に強い相手/機動力の高い相手への工夫

対人が強い相手には“受け手を動かすパス”。機動力には“逆と裏”で走らせ、判断の負荷をかけます。

リスク管理と守備遷移（トランジション）

レストディフェンスの配置と人数管理

ボールサイド背後を抑えるCB＋逆SB＋DMで最低2.5枚。自分たちが前進中でも、奪われた瞬間の守備を常に用意します。

ロスト直後のカウンタープレス（即時奪回）

一番近い2人が寄せ、後ろの1人が出口を塞ぐ“三角封鎖”。5秒で奪い返せなければ撤退の合図へ切り替えます。

ロングに逃げる判断：どこで、誰へ、なぜ

中央で背後の出口がない時、逆サイドのターゲットへ。セカンド回収の人数と位置が整った瞬間に“蹴る勇気”を持ちます。

中央リスクとサイドリスクの天秤

中央は奪われると致命傷、しかし最短。サイドはカバーが効きやすい。状況に応じて“どこで失っても良いか”をチームで共有。

コミュニケーションと言語化のルール

コールワード（縦/はがす/戻す/変える）の統一

短く、全員が同じ意味で使える言葉に統一。例：「縦！」「はがす！」「戻す！」「変える！」で意思決定を速くします。

合図・身振り・視線の共有

片手の指差しでパス先、手のひらで“落とし”、視線で“裏”。声が届かない距離でも通じる合図を決めておきましょう。

ポジティブな声かけで意思決定を加速

「ナイスアイデア」「次は逆」が次の解決策を生みます。否定より修正を、短く前向きに。

トレーニング設計：個人/小集団/チーム

個人：壁当て・方向づけトラップ・1stタッチの習慣

• 壁当て左右各50本（体の向きと逆足も）。
• 前へ置く/外へ逃がす1stタッチを15分。
• 受ける前の首振り→タッチ→パスを一連で。

小集団：ロンド設計（条件設定で目的を明確化）

3対1→4対2→5対2と段階化。条件例：2タッチ以内、スイッチ必須、サードマン通過で得点など。狙いを一つに絞ると効果的です。

チーム：段階的ビルドアップゲーム（制限付き→解放）

自陣のみ2タッチ、GK経由で得点2倍、逆サイド経由で+1点など。制限で意図を強調し、最後は解放して実戦に近づけます。

1週間プラン例と負荷管理のポイント

• 試合2日前：形と原則の確認（中負荷）。
• 試合前日：スピードと合図（軽負荷）。
• 試合翌日/翌々日：個人技術と振り返り（可変）。

よくある失敗と具体的な修正方法

距離が詰まり過ぎる/広がり過ぎるの是正

詰まりは“縦30m横40m”を目安に拡げる。広がり過ぎは“三角の距離15〜20m”で再設定。合図は「広げる」「寄る」。

サポート角度が平行になる問題

平行は禁止ワードに。必ず一人は斜め後ろ、もう一人は斜め前に。菱形を意識してズレを作ります。

縦に急ぎ過ぎて失うクセの矯正

「前向きでなければ循環」をルール化。縦→横→縦の3手を最短で描き、無理な直通を減らします。

同サイドで詰まる→逆サイド解放の習慣化

3本以内に逆へ変えるルール。逆サイドの準備（幅と深さ）ができたら、視線と体の向きも先に逆へセット。

分析と振り返り：データと映像の使い方

前進率・ライン間進入・ファイナルサード到達の指標

自陣から中盤へ抜けた割合、ライン間に入れた回数、ファイナルサード侵入回数を計測。結果だけでなく“どの形で”達成したかを紐づけます。

連続パスとパススピードの可視化

3本以上の連続回数、奪われたパスの速度帯を把握。遅さ由来のロストを減らす改善に直結します。

映像チェックリスト（開始位置/向き/選択/結果）

• 開始位置：誰がどこで触ったか。
• 向き：半身か、視線はどこか。
• 選択：前進/循環/やり直しの根拠。
• 結果：前向きで次につながったか。

年代・レベル別の落とし込み

初学者への段階的導入（安全な方向の徹底から）

まずは“相手から遠い足”へ止める、“遠い味方”へ出す。安全な方向を徹底し、徐々に縦の意図を加えます。

育成年代での優先順位（認知→技術→戦術）

首振りで情報を集める→1stタッチとパスの質→配置と可変。順番を守ると伸びが安定します。

体格差が大きい試合での現実的アプローチ

無理に足元を続けず、三人目とサイドチェンジで走らせる。セカンド回収を“意図的に拾う”配置を用意します。

家庭でできるサポートと自主トレ

短時間でできる視野確保ドリル

家族が左右で番号を出し、トラップ前に読み上げる“首振りゲーム”。5分でも効果が出ます。

リフティング/壁当てのメニュー化

• リフティング：右/左/太もも/交互を各50回。
• 壁当て：右イン/左イン/アウト/足裏で各30本。

試合後のポジティブな振り返りの促し方

「何がうまくいった？」から始め、「次は何を試す？」で締める。映像があれば1場面だけを一緒に確認。

ケーススタディ：後方から繋いで前進するまでの改善プロセス

初期診断→ボトルネック特定→練習処方の流れ

診断：ロストの原因は技術か距離感か認知か。特定：平行サポート多発。処方：菱形固定とサードマン限定ゲームで矯正。

3週間での変化例（指標ベースの仮想ケース）

• 前進率：45%→63%
• ライン間進入/試合：8回→15回
• ロスト直後5秒奪回：22%→39%

定着のためのチェックポイント

形が崩れても合図が継続しているか。個人の向きと1stタッチが乱れていないか。疲労時も選択がシンプルか。

FAQ：よくある疑問への短答

GKがショートキックを怖がるときの支援

角度を作るのはCBとDMの仕事。GKは2つ以上の短い出口が見えたときだけ実行、なければ合図してやり直し/長い選択へ。

ロングキックが苦手なときの代替策

CBの持ち上がり＋IHの斜め降りで縦の距離を短縮。サードマンと短い対角で“実質のロング”を再現します。

相手が完全マンツーで来る場合の打開

GKを使って+1、片側へ寄せて大きく逆、CFの流動で空いた背後へ。人を動かしてスペースを使う発想に切り替えます。

まとめ：明日から実行するためのチェックリスト

試合前の合意事項5つ

• +1の作り方（誰が下りる/上がる）。
• 合図の言葉と身振り。
• レストディフェンスの人数と位置。
• やり直しの基準と長い選択の条件。
• セットプレー後の初期配置。

練習で最初に整える3つの原則

• 幅・深さ・菱形。
• 半身と1stタッチで前向き。
• 前進/循環/やり直しの言語化。

継続的に伸ばすための次のステップ

映像と言葉で振り返り→制限付きゲームで意図を強調→解放して実戦で検証。小さな成功を積み、合図の速度を1つ上げましょう。

後書き

後方から繋ぐ怖さは、準備と共通言語で薄まります。配置で+1を作り、認知で時間を生み、実行で質を上げる。今日の練習は「菱形を崩さない」「半身で受ける」「合図を速く」の3つに絞ってみてください。積み上げれば、ゴールまでの道筋がシンプルに見えてきます。