フリーキックは、ただの「再開方法」ではありません。どの反則が直接FK(DFK)で、どれが間接FK(IFK)なのか。壁はどこまで寄せていいのか。クイックで蹴って良いのか。ここをスピーディーに判断できるかどうかで、勝敗に直結するシーンは想像以上に多いです。本記事は最新の競技規則に基づき、現場で迷いがちなポイントを一気に整理。判定→再開→カード(懲戒)の三段論法で、ピッチで即使える「最速判断フレーム」まで落とし込みます。
目次
この記事で一発理解できること
直接FKと間接FKの違いと判定ポイント
・接触のある反則の多くはDFK。接触がない妨害や技術的な違反はIFK。
・ハンドは原則DFK(守備側PA内ならPK)。ただしGKの自陣PA内のハンドは例外で違反ではありません(※バックパス等のGK固有の違反はIFK)。
・オフサイド、危険なプレー、GKの6秒などはIFK。
反則の種類→再開方法→カードの関係
・反則の「種類」でDFK/IFKを決定。
・接触の有無や場所(PA内/外)で再開(DFK/IFK/PK)を決定。
・プレーの質(不注意/無謀/過度な力)と影響(SPA/DOGSO)でカードを判断。
試合で役立つ最速判断フレーム
1) 接触はあったか? → 2) 反則は誰に対して?(相手/ボール/審判) → 3) どの再開?(DFK/IFK/PK) → 4) カードは?(なし/警告/退場)
フリーキックの基礎
直接フリーキックと間接フリーキックのルール差
・DFKは直接ゴールを狙える。
・IFKは一度味方が触れてからでないと得点にならない(主審は腕を上げてIFKを示し、ゴールやボールアウト時に下げる)。
得点に関する扱い(直接入ったら/自陣に入ったら)
・相手ゴールへ:DFKは直接入れば得点。IFKは直接入っても得点にならず、相手のゴールキック。
・自陣のゴールへ:DFK/IFKともに「直接」自陣ゴールに入ってしまった場合は得点とはならず、相手のコーナーキック。
ボールの設置・静止・キックの条件
・ボールは正しい位置に置き、静止させる。
・主審の笛が必要な場面以外は、明確に動けばインプレー。
・味方同士の小さなタッチでも「動いた」扱いになるため、合図の共有が重要。
9.15mと壁の扱い、攻撃側の壁1mルール
・守備側は9.15m(10ヤード)下がる義務。要求すれば主審が管理して「儀式的」再開に移行。
・守備側が3人以上で壁を作った場合、攻撃側は壁から少なくとも1m離れる義務(違反すると守備側のIFK)。
・主審が壁位置を管理する時は原則「笛あり」。
クイックリスタートと笛あり・笛なしの違い
・笛なし:攻撃側がすぐ蹴って良い。壁の距離が十分でなくても自己責任。
・笛あり(主なケース):カード提示や選手交代で一時停止した後、壁管理を行う時、主審が「笛で再開」を明言した時。
・クイックFKはチャンスを最大化できる一方、味方の準備不足やボール位置ミスはリスク。状況判断が命です。
直接フリーキック(DFK)になる反則
接触系:蹴る・足を掛ける・ジャンプ・チャージ・打つ・押す・タックル/チャレンジ
・相手を蹴る/蹴ろうとする、足を掛ける/掛けようとする、相手に向かってジャンプ、チャージ(肩・体当て)の不正、打つ/殴ろうとする、押す、無謀なタックルや後方からの危険なチャレンジ。
・これらは「不注意・無謀・過度な力」かで懲戒が変わる(後述)。
つかむ・ホールディング、スパイト・噛みつき・物を投げる
・相手をつかむ(ホールディング)はDFK。ユニフォームの引っ張りも該当。
・噛みつきやつば吐き、物を投げて相手に当てる/当てようとする行為は重い反則(懲戒は厳格)。
意図的なハンド(GKの自陣PA内の例外を含む)
・手や腕でボールに触れる意図的な行為は原則DFK。守備側PA内ならPK。
・GKは自陣PA内でのハンドが許可されるが、バックパスやスローイン受けなどGK固有の違反はIFKとなる(ハンドとは別枠)。
接触を伴う妨害(インピーディングwith contact)
・ボールがプレー可能距離にないのに、相手の進路を体で塞ぎ接触が発生した場合はDFK。接触がなければIFK(後述)。
不注意/無謀/過度な力の区別とカード基準
・不注意(Careless):精度や配慮を欠いた。通常カードなし。
・無謀(Reckless):相手の安全を顧みない。警告(イエロー)。
・過度な力(Excessive force):相手の安全を危険にさらす。退場(レッド)。
・加えて、攻撃の有望な機会の阻止(SPA)は状況により警告、明白な得点機会の阻止(DOGSO)は原則退場。PA内で「ボールにプレーしようとして」犯したDFK→PKのDOGSOは、軽減措置により警告となる(ホールディングやハンド等の非挑戦型は対象外)。
間接フリーキック(IFK)になる反則
危険なプレー(ハイフット等)
・相手に接触はないが、相手がプレーしづらくなる危険な動作(ハイフット、頭を低く入れるなど)。接触が発生すればDFKの反則へ格上げされ得る。
接触のない妨害(インピーディングwithout contact)
・ボールがプレー可能距離にない状況で、相手の進路を体だけで塞ぐ。接触がなければIFK。
オフサイドの反則
・ポジション自体は反則ではないが、プレーに関与・相手に干渉・利益を得たと主審・副審が判断した時点でIFK。再開地点は反則が確定した場所。
GK固有の反則:6秒・再触・バックパス・スローイン
・ボールを手で6秒以上保持。
・放した後、他の選手に触れる前に再び手で触る。
・味方が意図的に蹴ったボールを手で扱う(いわゆるバックパス)。
・味方のスローインを直接受けて手で扱う。
いずれもIFK。再開位置は反則地点。
攻撃側の壁1m侵入
・守備側が3人以上の壁を作った状態で、攻撃側が壁から1m未満に入るとIFK(守備側ボール)。
暴言・異議などで競技を停止した場合の再開
・暴言(侮辱的/差別的発言)は退場、異議は警告。いずれもプレーを止める理由がそれであれば再開はIFK。
トリッキーなバックパス(意図的なトリック)の扱い
・FKなどで味方が意図的にボールを蹴り上げ、頭や胸でGKへ渡し手で扱わせる等の「抜け道」は反スポーツ的行為。実行者が警告、再開はIFK(トリックが行われた地点)。GKが触れなくても違反となり得ます。
ペナルティエリア関連の特例
守備側のPA内のフリーキック:ボールがインプレーになる瞬間
・守備側に与えられたPA内のFK(およびゴールキック)は、ボールが蹴られて明確に動いた瞬間にインプレー。相手はボールがインプレーになるまでPA外にいる必要があります。
攻撃側のIFKがゴールエリア内のときの位置
・攻撃側に与えられたIFKの反則地点が守備側のゴールエリア内なら、最も近いゴールエリアライン上(ゴールラインと平行な6mライン上)に移して実施。守備側は9.15m確保が物理的に不可能なため、ゴールライン上(両ポスト間)に立つことが認められます。
PA内の反則の分岐:DFKはPKへ/IFKのままのケース
・守備側のPA内でDFKの反則が起きたらPK。
・IFKの反則(危険なプレー、GKの6秒、インピーディングwithout contact等)はIFKのまま。再開地点は反則場所(攻撃側IFKがゴールエリア内なら前項の特例)。
よくある勘違いとグレーゾーン
ハイフット=即ファウルではない:接触の有無で分かれる
・足が高いだけでは直ちにDFKではありません。相手がプレーを避けざるを得ない危険性があればIFK、接触があればDFKの反則へ。
肩と肩のチャージは合法か:強さ・方向・距離感の基準
・ボールがプレー可能距離にあり、正当な肩と肩のチャージは許容。背後からの体当て、腕を大きく使う、スピード差が危険なほど大きいなどはDFKやカード対象になり得ます。
触れたら全てハンド?意図・不自然さ・腕位置の整理
・意図がなくても、手や腕で不自然に体を大きくしてボールに触れればハンドになる可能性。至近距離の偶然や、腕が自然な位置で体に密着している場合は反則にならないこともあります。
ルーズボールへのGKチャージの可否
・GKもフィールドプレーヤーと同様にボールを巡ってチャレンジできます。ただし膝を突き出す、無謀な飛び込みはDFKやカードの対象。安全なアプローチが求められます。
オフサイドの『意図的プレー』とディフレクション
・守備側の「意図的プレー」はオフサイドをリセットし得ます。一方、反射的な当たり(ディフレクション)やセーブはリセットになりません。コントロールの意図と質が判断材料。
直接FK/間接FKの自殺点の扱い
・どちらも「直接」自陣ゴールに入れば得点にならず、相手のコーナーキック。落ち着いて味方に触れさせるか、外に逃がす判断が大切です。
アドバンテージと再開の関係
アドバンテージ適用の条件と主審のコール
・有望な攻撃が継続できると判断すれば、主審は「アドバンテージ」を示してプレー続行。適用は数秒以内に効果が見込める場合が基本。
適用後に戻すケースとカード提示のタイミング
・数秒で優位が消えた場合は元の反則地点に戻すことがある。
・カードは次のプレー停止時に提示可能。暴力的行為や二枚目の警告など、試合の安全や公正に重大な影響がある場合は原則すぐ停止して対処。
クイックFKを選ぶ/選ばない判断材料
・選ぶ時:相手が抗議中、GKのポジション不良、味方の配置が完成している。
・選ばない時:主審が笛再開を指示、カードで停止、キッカーと味方の意図が合っていない、ボール位置が微妙。
・「速さ」より「正確さ」で得点期待値が上がる場面も多いです。
実戦で活きるセットプレー思考
ファウルをもらう/与えない身体の使い方(フェアプレー内)
・ボールと相手の間に体を入れる(シールド)。腕は広げすぎず、接触は胸・肩中心で安定。
・無理なターンや背後からの突進は無謀判定のリスク。接触予測と減速が大事。
笛前・笛後の準備:キッカー・壁・キーパーの役割
・キッカー:クイック可否の見極め、主審とのコミュニケーション、第二案(ショート/リスタート変化)の準備。
・壁担当:距離の主張は一度で。前進反則を誘うより、キーパー視界とブロック動線を整理。
・GK:笛ありの時は人員配置を明確化。IFKでは一人がタッチ阻止に飛び出す役割を決めると混乱が減ります。
間接FKの合図を見た瞬間のベストプラン
・主審の腕上げ=IFK。守備は「誰かが触るまで飛び出さない」原則を徹底。攻撃は1stタッチで角度と速度を作り、2ndでフィニッシュまでつなぐ二段構えが効果的。
ルール更新への備え
近年のIFAB改正で押さえるポイント
・守備側PA内のFK/ゴールキックは「蹴って明確に動いたらインプレー」に変更(ボールがPA外に出る要件は撤廃)。
・攻撃側の壁1mルールの明文化。
・ハンドの基準は「不自然に大きくする」「腕の位置」「直前の接触」など具体要素で説明される傾向に。
・PKでのGKの足位置は「少なくとも一方の足がゴールライン上またはその上方の線上」にあることが必要。
学校・年代別大会での適用差が出やすい部分
・交代ルール、ベンチ入り人数、用具規定などは大会要項で差が出やすい。
・審判人数(主審+副審の有無)によりオフサイドや接触判定の実務が変わる場合も。試合前に必ず共有を。
一発理解のための判断フロー
まず『接触の有無』で分岐する
・接触あり→多くはDFK領域(PA内の守備側反則ならPK)。
・接触なし→危険なプレー/インピーディング等のIFKを疑う。
相手・ボール・審判のどれに対する行為かを特定
・相手への不正接触→DFK。
・ボール処理に関わる技術的違反(GKの6秒/再触など)→IFK。
・審判への暴言などで停止→IFK+懲戒。
反則→再開→懲戒の三段論法で決める
・反則の種類でDFK/IFKを決定。
・場所でPK/通常FK/特例(ゴールエリアライン)を決定。
・プレーの質、不利の程度(SPA/DOGSO)、態度でカードを決定。
FAQ:現場で迷いやすいケース集
壁でのハンドとカードの有無
・壁の選手が腕でボールを止めればDFK(PA内ならPK)。不自然に体を大きくしていればハンドの可能性が高い。決定機阻止ならDOGSOで退場、単に有望な攻撃阻止(SPA)なら警告になり得ます。
GKがペナルティエリア境界でボールに触れたとき
・ラインはPAに含まれる。手がライン上の空間にあればPA内扱い。ボールや手の位置がPA外ならハンドの可能性(主審の角度と副審の位置が重要)。
間接FKが直接ゴールに入った場合
・相手ゴールに直接入ったら得点にならず、相手のゴールキック。自陣ゴールに直接入ったら相手のコーナーキック。
オフサイド後の素早い再開で注意すること
・守備側はボール位置を正確に。早すぎるリスタートで位置がズレるとやり直しのリスク。攻撃側はボールを離れ、遅延や異議での懲戒を避ける。
用語ミニ辞典
DFK/IFK
・DFK(Direct Free Kick):直接狙えるFK。
・IFK(Indirect Free Kick):味方のワンタッチを経て得点可能なFK。
インピーディング
・ボールがプレー可能距離にないのに、進路を体で塞いで相手を妨害する行為。接触なし→IFK、接触あり→DFK。
SPA/DOGSO
・SPA(Stopping a Promising Attack):有望な攻撃の阻止。通常は警告。
・DOGSO(Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity):明白な得点機会の阻止。原則退場。PA内でボールにプレーしようとして犯したDFK→PKのDOGSOは警告へ軽減。
ディフレクション/意図的プレー
・ディフレクション:反射的・偶発的な当たり。オフサイドのリセットにならない。
・意図的プレー:守備側がコントロールしようとしたプレー。条件を満たすとオフサイドをリセットし得る。
まとめ:判定を「遅くしない」ために
・接触の有無でまず二分。次に場所で再開方法を選ぶ。最後にプレーの質と影響で懲戒を決める。この順番を徹底すると、試合中に迷う時間が激減します。
・DFK/IFKの違い、PA内の特例、壁と距離、クイック再開の可否――セットプレーは知っているほど速く有利に。明日からの練習では、主審の合図(腕の上げ下げ、笛)と再開位置を言語化して確認し合うだけでも、チームの意思決定が一段とクリアになります。ルール理解を武器に、FKの一つひとつを得点とクリーンシートに変えていきましょう。
