サッカー日本代表の試合を見ると、テレビのテロップでは「4-2-3-1」や「4-3-3」と表示されることが多いですよね。でも実際のピッチ上では、守備や攻撃、そして切り替えの瞬間ごとに、並びや役割がスムーズに変わっています。この記事では、日本代表が採用している可変フォーメーションの真意を、できるだけわかりやすく整理。観戦がもっと楽しくなり、チームや個人の練習にも落とし込みやすいヒントをまとめました。客観的な事実（試合映像から読み取れる配置や一般的な用語）と、筆者の見立て（戦術意図の解釈）は分けて記述します。
目次
導入—可変フォーメーションは「形」ではなく「仕組み」
可変の基本概念とポジショナルプレーの関係
事実：可変フォーメーションは、ボールの位置や相手の配置に合わせて選手の立ち位置や人数配分を柔軟に切り替える考え方です。近年の日本代表でも、攻撃では3-2や2-3の土台を作り、中盤と前線で数的・位置的優位を確保するシーンが多く見られます。これはいわゆる「ポジショナルプレー」の原則（幅・高さ・奥行きとレーンの占有）に沿った動きです。
見立て：可変は単なるポジションチェンジや奇抜な発想ではなく、「誰がどのタイミングで、どのスペースを管理するか」をチームで共有するための仕組み。役割の言語化と再現性の高さがカギになります。
形が変わる理由—人数配分とレーン管理の優位性
事実：可変の目的は、ビルドアップでの前進ルートを増やし、相手の守備ブロックに対してライン間・ハーフスペース・サイドのいずれかで優位（数的・位置的・質的）を作ることです。五レーン（左ワイド、左ハーフスペース、中央、右ハーフスペース、右ワイド）の考え方を用いると、どのレーンを誰が管理するのかが明確になります。
見立て：形が変わる「見た目」の裏にあるのは、相手のプレッシングの出口（外か内か）や、センターバックとボランチに対する制限の方向です。日本代表は外に起点を作ってから内に刺す、または内で引き付けて外へ逃がす切り替えが巧みです。
日本代表が可変を用いる主目的（攻守の優位性創出と試合運び）
事実：近年の代表は、攻撃ではサイドからの推進力とハーフスペースの侵入を両立させ、守備では前向きに奪いに行く場面と、中盤でブロックを作って跳ね返す場面を使い分けています。いずれも可変の枠組みがベースです。
見立て：可変は「試合運び」を整えます。先制後は安定した前進を、ビハインド時は前向きな人数配分を素早く選べる。ゲームのフェーズごとに、配置のダイヤルを回せるのが利点です。
日本代表の基本セットと可変の出発点
初期配置の基本—4-2-3-1と4-3-3の使い分け
事実：日本代表は試合前の表示上は4-2-3-1または4-3-3が多いです。守備の開始位置や相手の中盤構成、起用選手の特性によって使い分けが見られます。4-2-3-1はトップ下を軸にした守備のスイッチが入れやすく、4-3-3はインサイドハーフ（IH）が前向きに出やすい利点があります。
見立て：どちらも出発点に過ぎず、可変によって攻撃時は3-2または2-3へ変化し、守備時は4-4-2や4-1-4-1のような見え方に変わります。
ビルドアップ時の3-2化/2-3化の代表的パターン
事実：ビルドアップでは、以下のパターンがよく見られます。
- 3-2化：SBまたはアンカーが落ちて3枚最終ラインを作り、2枚の中盤で前方に角度を作る。
- 2-3化：CB2枚の前に、SBの片方＋ボランチ2枚で「三」の帯を作り、相手の1stラインの背後に立つ。
見立て：相手の1stラインが2枚なら3-2化、3枚なら2-3化がハマりやすい傾向。日本代表は相手の前線人数に応じて柔軟に使い分けます。
サイドバックの内外可変とアンカーの降りる動き
事実：SBが内側に入って中盤を増やす「インバート」、逆に高い幅を取ってウイングを内側へ誘導する「外張り」の両方が見られます。アンカーは状況により最終ラインへ降りて数的安定を作ります。
見立て：SBの内外は、ウイングの特性（縦への推進か内側での連携か）とセットで決まることが多いです。アンカー降りはプレッシャー回避の安全装置ですが、降り過ぎると中盤が薄くなるため、前後の連動が大切です。
近年の傾向で見られるライン間の占有方法
事実：トップ下（またはIH）がライン間の受け手になり、ウイングがハーフスペースへ差し込む動きが機能。CFは相手CBの間か背後を狙うことで、ライン間の受け手に前を向く時間を与えています。
見立て：ライン間の受け手が背後脅威とセットで初めて生きます。ウイングやCFが裏へ走る頻度が高いほど、ライン間のパスは通りやすくなります。
攻撃フェーズの可変（ビルドアップ〜フィニッシュ）
第一列の数合わせ—2CB維持か3枚化か
事実：相手の前線人数に応じ、「同数は避けて＋1」を作るのが原則です。相手が2枚で来るなら3枚化、1枚なら2CB維持でもOK。日本代表はGKを絡めた擬似＋1の作り方も巧みです。
見立て：3枚化のメリットは安全性、2CB維持のメリットは中盤の厚み。試合展開（押し込みたい/引き出したい）で選択が変わります。
中盤の「箱形（box）」と「逆三角形」で作る優位
事実：ボランチとIH/トップ下で四角形（box）を作ると、縦横のパス回しが安定。逆三角形（アンカー1＋IH2）にすると、ライン間侵入と前向きの反転がしやすくなります。
見立て：相手のアンカー周辺を起点に崩すなら逆三角形、サイドから内へ刺すスイッチを狙うなら箱形が有効。日本代表はこの切り替えがスムーズです。
ワイドの固定化とインサイド化—ウイング/IHの立ち位置
事実：ウイングの一方をワイドに固定し、逆サイドのウイングがインサイド化（ハーフスペース侵入）する非対称の配置がよく見られます。IHはボールサイドでサポートし、逆サイドIHはセカンドラインで受けてスイッチを担います。
見立て：非対称は相手の横スライドに負担をかけ、逆サイドの大外でフリーを作りやすくします。日本代表はここでのテンポ変化（保持→一気の縦）が得点機につながることが多いです。
最前線の役割分担—9番の流動と背後脅威の両立
事実：CFはCB間/サイドへ流れて引き付け役になりつつ、裏抜けの脅威も維持します。もう一人（ウイングやIH）がラインブレイク担当になることで、相手最終ラインを釘付けにします。
見立て：CFが流れるとき、逆サイドのウイングやIHが「9番化」するルールを持つと、ゴール前の枚数が減りません。
トランジション直後の五レーン占有で押し込む
事実：奪った直後に五レーンを素早く占有して幅と奥行きを同時に確保する動きは、日本代表のカウンターからの継続攻撃でよく見られます。
見立て：一度相手が自陣に戻る前に、レーンを埋めて「二次攻撃」へ。可変のスピードがそのままシュート数に直結します。
守備フェーズの可変（ハイプレス〜リトリート）
ハイプレスのトリガー—サイド誘導と外切りの基準
事実：日本代表は相手CB→SBへのパスや、GKの弱い足側へのトラップでスイッチを入れることが多いです。ウイングは内側を切りながら外誘導、CFはバックパスを制限して逃げ道を消します。
見立て：サイドに誘導し、タッチラインと味方で「2対1の囲い込み」を作るのが狙い。最初の外切りの角度が命です。
中盤ブロックの3-1/2-2切替と縦ズレの設計
事実：中盤は3-1（前に3、後ろに1）または2-2（横並び）へ可変。相手のボランチやインサイドの数に合わせて、縦ズレ（前後の入れ替わり）でマークを受け渡します。
見立て：3-1は中央封鎖、2-2はサイド圧力の強化に向きます。日本代表は相手の前進ルートを見ながら、柔軟に形を整えます。
サイド圧縮と逆サイドロックで奪い切る
事実：ボールサイドで数的優位を作り、逆サイドは高い位置から消極的にロック（パス先を監視）することで、相手のスイッチを遅らせます。
見立て：奪い切る意識が高く、ここからのショートカウンターが日本代表の強み。最前線の走力と切り替えの速さが得点に直結します。
守から攻への即時可変—再配置の速さを担保する原則
事実：奪った直後、SBやIHが一気に高い位置を取り、CFとウイングの間に斜めのランニングが入ることで、一気に五レーンが埋まります。
見立て：最初の3秒で「誰が幅/高さ/奥行き」を担当するかを固定化しておくと再現性が上がります。
相手別ゲームプランと可変の使い分け
3バック相手へのプレス設計と背中取り
事実：相手の3バックに対しては、前線3枚を合わせるか、2枚＋IH前進で数を合わせます。WBの背中をウイングで狙い、背後の広いスペースへ攻撃を仕掛けるのが定石です。
見立て：ボールサイドWBの背中へ早い斜めの走りが効きます。日本代表はここでのスピードアップが鋭いです。
2ボランチ相手の中盤制圧—中間ポジションの活用
事実：相手がWボランチなら、トップ下/IHがその「間」（中間ポジション）に立ち、前向きで受けられる角度を確保します。
見立て：受け手が背後を見せるだけで相手の重心が下がり、サイド前進の時間が生まれます。可変で中間に立つ人を増やすのがポイント。
低ブロックへのアプローチ—幅と高さの再配置
事実：低ブロック相手には、SBが高い幅を取り、ウイングが内側にポジションを移動してゴール前の枚数を確保するパターンが機能します。
見立て：クロスの質も大切ですが、折り返しの「落とし場」を先に作ること。ペナルティアーク付近のIHやトップ下が鍵です。
ビハインド時/リード時の可変レバー
事実：ビハインド時は2-3の中盤厚みで押し込み、リード時は3-2で安定化する選択が見られます。
見立て：時間帯によってアンカーの高さ、SBの内外を明確に切り替えると、試合のテンポをコントロールしやすくなります。
キープレーヤーの特性と役割適合
SB/CBのビルド能力が可変の自由度を決める
事実：SBが内側で受けられる/運べると、2-3化がスムーズ。CBが運ぶ力に長けていると、相手の1stラインを一気に突破できます。
見立て：最終ラインの運ぶ力が高いほど、前線の配置は自由になります。日本代表はここでの質が全体の可変を支えています。
アンカーとIHの重心設定—前向き/後ろ向きの配分
事実：アンカーは守備の保険と前進の起点の両方を担い、IHはゴール前の脅威とライン間支配を行います。
見立て：アンカーが前向きに配球できる試合は、日本代表の攻撃がスムーズ。IHが背後へ走る頻度を上げると、相手が下がり中盤が空きやすくなります。
ウイングとCFの相互作用—外流れと内走りの連動
事実：ウイングが内側へ入る時、CFが外へ流れて相手CBを引き出す動きが見られます。逆にウイングが幅を取り続ける時は、CFがニアと背後の出し入れで脅威を作ります。
見立て：二人の相互作用が崩しのスイッチ。誰が最後にゴール前へ飛び込むかを決め切るルールが重要です。
交代選手で起こる可変の再定義
事実：交代でウイングやIH、SBのキャラクターが変わると可変の起点が変化します。スピード型が入れば裏狙いが増え、ボール保持型が入れば中盤での停車時間が長くなります。
見立て：交代は「可変の再定義」。残り時間とスコアに合わせて、幅・高さ・奥行きの担当を再配分します。
データ視点で見る戦術傾向の読み解き方
PPDA・フィールドTilt・ハイリカバリーの意味
事実：PPDA（相手のパス1本あたりに許した守備アクション数）はプレス強度の目安。フィールドTilt（相手陣内でのプレー割合）は主導権の可視化。ハイリカバリー（高い位置でのボール奪取回数）は即時奪回の成果を示します。
見立て：数値が全てではありませんが、日本代表が前向きな守備を見せた試合はPPDAが低く、ハイリカバリーが増える傾向。可変の狙いと数字の関係性を観戦メモに残すと理解が深まります。
パスネットワークで可変の「跡」を辿る
事実：パスの太さと位置関係から、誰がどのレーンを管理し、攻撃の傾向がどちらに偏っているかが見えます。
見立て：SBが内側で太い線を作っていればインバート傾向、ウイングとSBの距離が近いなら外循環が強め…といった読み解きが可能です。
ショットクオリティ（xG/xT）で評価する攻撃の質
事実：xG（期待得点）はシュートの質、xT（期待スレット）はパスや運びの脅威を定量化した指標です。公開データ/レポートでは試合単位の傾向が分かることがあります。
見立て：単なるシュート数より、どこから、どのように作ったかを見ると、日本代表の可変がゴール期待値にどう寄与したかが見えてきます。
公開データ/可視化の活用と注意点
事実：データは収集元や計測方法でブレがあります。同じ指標でもサイトごとに数値が違うことがありえます。
見立て：複数ソースで傾向をつかむ、試合映像と付き合わせるのがベスト。数字は「補助線」として使いましょう。
よくある誤解と真意
「フォーメーション固定=安定」という誤解
事実：固定形だけでは相手の出方に合わせにくく、前進や守備で詰まる場面が増えます。
真意：安定は「固定」ではなく「再現性」から生まれます。同じ原則で何度でも形を作れることが重要です。
可変は個の自由ではなく集団原則の運用
事実：自由に動き回ることと、原則に沿ってズレることは別物です。
真意：可変は「約束事の集合」。自由は原則の上に成立します。
ポジションチェンジとポジショナルは別物
事実：ポジションチェンジは役割交換、ポジショナルはスペース管理の原則。
真意：日本代表の強みは、交換しても「誰かが空いたレーンを必ず埋める」仕組みがあることです。
可変と戦術的柔軟性—頻度より再現性
事実：形をコロコロ変えること自体は目的ではありません。
真意：必要な時に必要な形へ素早く移れる再現性こそが柔軟性。頻度より「質」。
観戦のチェックリスト（テレビ/スタジアムで実践）
キックオフ直後—初期配置と立ち上がりの狙い
- 4-2-3-1か4-3-3か、トップ下/IHの位置は？
- 最初のロングボール/ショートビルドの選択は？
可変のスイッチが入る合図—SBの位置/アンカーの高さ
- SBが内側に入った瞬間、中盤は2-3化しているか。
- アンカーが落ちたら誰がライン間を埋めるか。
同サイド圧縮→逆展開の前触れを見抜く
- ボールサイドで数的優位を作った後、逆サイドのウイング/SBがフリーになっていないか。
- トップ下/IHが中継地点に立っているか。
交代後に変わるレーン占有とプレスの形
- ワイドが内へ、IHがより高く、など非対称の変化。
- プレスの開始位置が上がった/下がったか。
トレーニングへの落とし込み（部活/クラブ/親子で）
3-2/2-3の配置感覚を養うポジショナルドリル
人数：8〜10人／エリア：縦40×横35m目安
- 守備2〜3人に対し、ビルド側は3-2か2-3を宣言してボール循環。
- 条件：縦パス→落とし→前進を組み込む。SB役は内/外を交互に体験。
狙い：最終ラインの＋1作りと、中盤の受ける角度を体に覚えさせる。
五レーン占有ミニゲーム—幅・高さ・奥行きの原則
人数：5対5＋フリーマン／エリア：縦45×横35m
- 五レーンにコーンで仕切り、同レーン2人は原則NG（例外はフィニッシュ局面）。
- 得点2倍ルール：逆サイドのハーフスペースからのシュート。
狙い：占有のバランスと逆サイドの価値を理解する。
即時奪回を支える合図とボディシェイプ
- 合図は「ボールの移動中に前進」「タッチライン側へ外切り」。
- 体の向きは外切りで内側を閉じる。二人目は背後のパスコースを消す。
狙い：ハイリカバリーの再現性を上げ、カウンターの質を高める。
役割を簡素化して再現する練習設計
- 可変の要素を1つに絞る（例：今日はSBインバートのみ）。
- 成功/失敗を即座に言語化（「誰がどのレーンを空けた/埋めた？」）。
試合で試すシンプルな可変レシピ
SBインサイド化での3-2形成—手順と注意点
- 手順：ボールサイドSBが内へ→逆SBは幅を確保→アンカーはやや前に位置。
- 注意：SBが内へ入る瞬間、背後のケアをCBとアンカーで共有。
アンカーの降りて3バック化—メリット/リスク
- メリット：前進の安定、相手2トップへの＋1。
- リスク：中盤が薄くなる。トップ下/IHのサポートを一段前へ。
ウイングのハーフスペース侵入ルール
- SBが外幅→ウイングは内へ（ペナルティエリア角を目印）。
- CFが流れた時は逆サイドIHが「9番化」。
セットプレー後のリスタート配置で優位を継続
- CK/FK後、即座に五レーンを再占有。こぼれ球の二次攻撃を前提にポジション復帰。
- バイタルの「落とし場」にIH/アンカーを配置して回収と再前進。
リスク管理とコンディション調整
可変時に空くスペースの保険—カバーリング設計
- SBインバート時の背後は、CBのスライド＋アンカーのコース遮断。
- 中盤が前進したら、逆サイドIHは残ってセカンドボール係。
走行距離と強度のマネジメント—強度配分の考え方
- ハイプレスの波を時間帯で設定（前半15分・後半立ち上がりなど）。
- ウイング/CFの全力スプリント回数を意識して分散。
ローテーションと役割の再現性の両立
- 交代選手にも「幅・高さ・奥行き」の担当を明確に伝達。
- チーム全体で同じ原則用語を共有（例：外切り/内切り、差し込み、固定/可動）。
試合状況によるリスクテイクの閾値設定
- リード時：3-2で安定、フルバックの高さは片側だけ。
- ビハインド時：2-3で押し込み、逆サイドロックを緩めて枚数をかける。
まとめ—日本代表戦術から学べることと次の一歩
観る/練る/実行するを循環させる
観戦で可変の合図（SBの内外、アンカーの高さ、五レーンの占有）をチェック→練習で1要素ずつ再現→試合で実行し、再度観て修正。この循環が上達を加速させます。
チームの文脈に合わせた可変の最適化
選手の特性や相手の出方で、同じ「可変」でも最適解は変わります。日本代表のアイデアを「型」として借りつつ、自分たちに合うスピードと深さに調整しましょう。
上達のための短期・中期・長期の目標づくり
- 短期：3-2/2-3の土台と五レーン占有を体に入れる。
- 中期：即時奪回と逆サイド展開のスイッチ精度を高める。
- 長期：相手別プラン（3バック/2ボランチ/低ブロック）を使い分ける引き出しを増やす。
可変フォーメーションは「形」ではなく「仕組み」。日本代表が見せる攻守のスピードと再現性は、原則を共有し、状況に合わせて役割を入れ替えられるからこそ生まれます。今日からの観戦とトレーニングに、ぜひ取り入れてみてください。
