アジア屈指の堅牢さと効率のよさで知られるイラン代表。近年は守備強度だけでなく、可変的な攻撃とセットプレーの巧さを組み合わせ、国際舞台でも安定して結果を残しています。本記事「サッカーイラン代表戦術・フォーメーション最前線」では、フォーメーションの基本と可変、ビルドアップからフィニッシュ、守備とトランジション、さらには高校・ユース現場で使える落とし込みまで、実戦に直結する視点で整理します。観戦の解像度を高めたい方、チームづくりに活かしたい指導者や選手に届くよう、平易な言葉で深みのある解説を心がけました。
目次
総論：サッカーイラン代表戦術・フォーメーション最前線の全体像
現在のチーム像と強み・弱み
イラン代表は「堅さ×効率」を土台にしながら、サイドの推進力とセットプレーで勝ち筋を作るチーム像が定着しています。強みは以下の通りです。
- デュエル強度：空中戦・接触局面に強く、ロングボールやセカンドボールでも優位を作りやすい。
- 守備の規律：中盤ブロックの間延びが少なく、相手の縦パスを弾く反復ができる。
- 決定機の質：クロスやカウンターで“厚みのあるPA侵入”を作り、少ないタッチで仕留める。
一方で課題もあります。
- 押し込まれた時の前進手段が単調になるリスク（ミドルゾーンでの前進に時間がかかる場面）。
- ハイプレス合戦での技術的精度の波（前向きでのファーストタッチや、狭い局面の意思疎通）。
- ライン間の人材バランス次第で、ボール保持のテンポを上げづらい試合がある。
フォーメーション選択の傾向
基本形は4-2-3-1が中心。対戦相手や起用選手によって4-3-3にスライドする選択も見られます。攻守のフェーズで可変し、守備時には4-4-2の中盤ブロック、攻撃時にはSBやボランチの位置を動かして2-3-5的な前線配置に移行するのが近年の主流です。状況次第で3バック化（3-4-2-1／5-4-1）も行い、終盤のスコアマネジメントに活用します。
キーワードで押さえる戦術思想
- 「コンパクトネス」：横も縦も詰める。間延びを嫌い、ライン間に侵入させない。
- 「外で勝って中で刺す」：サイドで数的優位を作り、最終局面はニア・ファーへ走らせる。
- 「トランジション即断」：奪った瞬間に最短ルートを判断、奪われた瞬間は即カウンタープレス。
- 「セットプレーの期待値最大化」：スローイン含め、静止球全般を得点源として扱う。
基本フォーメーションと可変の仕組み
4-2-3-1の基本配置と役割
GK—4枚の最終ライン—ダブルボランチ—トップ下—両ウイング—CFという標準形。守備の安定感と中盤の分業が明確で、相手のビルドアップを4-4-2化で迎え撃てるのがポイント。トップ下は「受け直し」と「背後への針」を両立し、ウイングは縦突破だけでなく内側レーンの受けにも関与。CFはポストと裏抜けの比率調整で攻撃の形を決めます。
守備時4-4-2／攻撃時2-3-5への可変
守備ではトップ下がCF脇まで出て4-4-2に。サイドは“縦ズレ”で外切りの守備を徹底します。攻撃になると、SBの一方が内側に絞って偽SB化し、ダブルボランチと合わせて中盤を3枚化。ウイングとIH的に振る舞うトップ下がハーフスペースを取り、最前線は2-3-5の5レーンを埋めて相手最終ラインを押し下げます。
4-3-3採用時の差分と狙い
4-3-3では中盤に「アンカー＋IH×2」を配置。アンカー前での前向き受けを作りやすく、ボール循環の安定度が増します。ウイングは内と外の走り分けが増え、SBのオーバーラップ／インナーラップを引き出しやすい。守備時はIHがサイドにスライドして4-1-4-1の形を取り、中央の密度を維持します。
3バック移行のケースとリスク管理
試合終盤のリード時や、相手CFの枚数に合わせて3バックへ移行することがあります。ウイングバックが縦に走れると一気に陣地回復が可能。ただし、外側の最終ラインが広がり過ぎるとインサイドで数的不利が起きやすいため、アンカーのポジショニングとCBのスライド速度が肝になります。
ビルドアップと前進手段
GK＋CBの1stラインでの原則
GKは繋ぐ・蹴るの両面を使い分けます。CBは相手の1stラインを見て幅と高さを調整し、縦パスのコースを作ることが優先。無理に通さず、SBやアンカーへの“外して外す”配球で前進の起点を作ります。
サイドバックの立ち位置と偽SB化
SBは相手のウイングに対して外で幅を取る形と、内側で中盤化する形を使い分けます。偽SB化で中央に枚数を集めると、前向きに運ぶ選手が増え、二列目の反転スイッチが入りやすい。逆にワイドに張る場合は、タッチライン際での数的優位を作り、サイドの縦突破を狙います。
ダブルボランチの縦関係と縦パス
4-2-3-1の要はボランチの縦関係。片方が低い位置でビルドの出口、もう片方はライン間へ刺さる選択肢を提示。縦パスが入った瞬間に周囲が“壁→背後”の連鎖を作れると、前進の速度がガラッと上がります。
ハーフスペースの占有と3人目の動き
イラン代表はハーフスペースへの立ち位置が整理されており、内側で受けた選手に対して“3人目”のランが連動します。例えば、右ハーフスペースで受け→SBの外走り→逆サイドのウイングがファー詰め、といった三段活用でPA侵入の再現性を確保します。
ロングボールとセカンドボール回収
相手のプレッシャーが強いときは、迷わずCFに当てるロングボールを選択。狙いは“落ちる場所”をチームで共有し、二列目が前向きで拾うこと。落下点を囲う三角形の配置が整うと、こぼれ球から一気にフィニッシュまで行けます。
攻撃フェーズの型
右サイドのオーバーロードとサイドチェンジ
右は密集を作って相手を引き寄せ、逆サイドへ速いサイドチェンジ。縦に速いアタッカーがいれば深さを取り、いなければ一旦背面に落として二列目のミドルも選択肢に。相手が食いついた瞬間の“背中取り”が決定機に直結します。
左サイドのリレーショナルプレーと内外使い分け
左は選手間の距離を保った関係性のプレーが多く、内外の使い分けで相手SBを揺さぶります。IH的に振る舞う選手が内側で時間を作り、外ではSBが高い位置取り。内→外→中の三角攻撃で、PAラインを斜めに破ります。
ウイングの裏抜けとCFのポストプレー
ウイングは背後への初速と駆け引きが武器。CFはポストで時間を作り、後列の押し上げを待つか、引き付けてウイングのギャップ走りを解放します。CFが落ちた背後にトップ下が差し込む“逆さ三角形”の形は、イラン代表の典型的な得点パターンのひとつです。
クロス戦略：ニアアタックとファー詰め
クロスはニアへ勢いよく入り、ファーには遅れて詰めるのが基本。ニアのダートで相手を釣り、ファーで冷静に仕留めるか、ニアで触ってコースを変えるか。セカンドへのこぼれ球も加点源になるため、ボランチやIHのPA外待機も重要です。
ペナルティエリア侵入の再現性を高めるパターン
- ハーフスペース受け→SBの外走り→ニア・ファーの同時侵入。
- CFポスト→落とし→縦一閃のスルーパス。
- オーバーロード→スイッチ→逆サイドのワイド1対1。
守備ブロックとプレッシング
中盤ブロックのコンパクトネス
中盤は常に「距離の管理」。縦横ともに10〜15m程度の感覚を保ち、相手の縦パスを正面で受けさせません。外へ追い出してから挟むのが基本思想です。
プレッシングトリガーと限定方向
狙いどころは、相手の背向き受け・バックパス・タッチライン際の逃げ場なし。内側を切って外に限定し、奪ったら即カウンター。スイッチが入るとCFとトップ下が同時に圧力を掛け、ボランチが前を閉じます。
SB裏の管理とCBのカバーリング
SBが前に出た背後はCBとボランチでカバー。CBは相手ウイングの動きを早めに把握し、背走の準備を怠りません。GKもスイーパー的に一歩前へ。ここを怠ると一発で裏を取られます。
低守備ブロック時のPA防衛
低い位置では、ニアを閉じて中央のシュートコースを消すことが第一。カットバックに対してはPA外のゾーンに人を置き、シュートブロックの角度を意識します。弾いた後の二次波を止めるため、ラインの一歩上げ下げを全員で合わせます。
ファウルマネジメントと切り替え阻止
危険なカウンターの芽は“戦略的ファウル”で止める判断も。無闇に倒すのではなく、カバーが効く位置で軽く止め、カード管理と天秤にかけます。切り替え直後の3〜5秒でどこまで圧力を掛けられるかが重要です。
トランジション（攻守の切り替え）
カウンタープレスの優先順位
奪われた瞬間は、ボール保持者、最も近い前向きの受け手、内側のスイッチ役の順に抑えます。外に追い出すか、縦の前進を一旦止めて味方の帰陣を待たせます。
カウンターでの最短ルート選択
奪ったら最短距離でゴールへ。CFかウイングの背後ランへ早いボールを入れ、二列目が斜めにサポート。横パスでテンポを落とすより、縦に速くの意識を徹底します。
整える撤退守備と時間稼ぎ
無理に刺さらないと判断したら、一度戻してブロックを整備。敵陣深くでのスローインやファウル獲得も、時間と呼吸を作る手段です。
セットプレー最前線
CK攻撃：スクリーンとブロックの使い方
ファー側でのブロック、ニア側でのスクリーンが基本。走路を守る味方と、最後に飛び込むフィニッシャーを明確に分担し、飛び込むタイミングを統一します。セカンド狙いのミドルもプランに含めます。
FK攻撃：直接と間接の使い分け
直接FKのキック精度を脅威として見せつつ、間接ではオフサイドラインを崩す“遅れて出る”動きで背後を突きます。壁の外を回す低い速いボールも有効です。
守備セットプレー：ゾーン＋マンツーの併用
ゾーンで危険地帯を守り、主戦力にはマンマーク。ニアのクリアとPA外のこぼれ球対応を習慣化し、二次攻撃の芽を摘みます。
スローインを起点とした圧力
敵陣でのロングスロー、または短いスローインからの囲い込みで一気に圧力。タッチライン際は逃げ道が少ないため、二人目三人目でふたをして奪い切ります。
主要ポジション別ロールと適性
GK：ハイボール対応と配球のバランス
クロス対応の強さが前提。その上で、足元の配球を“繋ぐ・飛ばす”で使い分け、チームのテンポをコントロールします。
CB：対人とラインコントロール
空中戦・1対1の安定に加え、最終ラインの高さを全員に伝えるコーチング力が重要。サイドへ引き出された時の内側ケアも欠かせません。
SB：上下動と内外レーンの選択
走力と持久力に加えて、偽SBで内側に入る技術と判断。オーバーラップの質で局面をひっくり返します。
ボランチ：守備スクリーニングと配球
相手の縦パスを弾き、奪った後は前向きの選手に素早く渡す。縦パスと横スイッチの配合で試合を落ち着かせます。
10番／IH：創造性とプレス耐性
背中で相手を外し、狭い局面でも前を向けるかが鍵。ラストパスとPA侵入の両立で違いを生みます。
ウイング：推進力と守備貢献
スピードと駆け引きで背後を脅かし、守備では戻って二重の壁を形成。内側で受けての連携も求められます。
CF：フィニッシュと連携
ポストで時間を作り、背後への抜けで深さを与え、エリア内ではワンタッチで決め切る。味方を生かし自らも点を取る総合力が必要です。
データで読むサッカーイラン代表
ショット位置とxG傾向（数値は最新公表に準拠）
一般的な傾向として、PA内中央からのフィニッシュ比率が高い試合が多く、クロス起点や速いトランジションからのシュートでxGを積み上げる展開が見られます。詳細数値は大会や期間で変動するため、最新公表値の確認をおすすめします。
空中戦・デュエル・セットプレー関連指標
空中戦勝率やセットプレーの得点参加は強みとして語られることが多く、指標上でもそれが裏付けられるケースが少なくありません。対戦準備では、クリア後の二次局面まで含めて設計しておくと安全です。
プレス強度（PPDA等）の読み方と注意点
PPDAは相手やスコア状況で上下します。ミドルブロック中心でも、トリガーが入ると一気に圧を上げるため、単一の数値で「受け身」と判断しないことが大切です。
相手別アジャストメント
アジア内強豪へのアプローチ
ボール保持に長ける相手には、中央を閉じて外へ誘導。保持での“間延び”を作らせ、カウンターで刺します。後半の頭にギアを上げて先制／勝ち越しを狙うプランも有効です。
低ブロックを敷く相手への解法
外→中→外のリズムで相手のスライドを疲弊させ、PA内ではニア・ファー・カットバックの3択を均等に提示。ミドルシュートでブロックを引き出し、次のCKで仕留める循環を作ります。
ハイプレスを仕掛ける相手への解法
GKを絡めて数的優位を作り、片側で釣って逆サイドへ一気に展開。早めのロングで背後に落とし、セカンド回収の陣形を整えるのも現実的です。
終盤リード時／ビハインド時のゲームプラン
リード時は3バック化や、敵陣でのスローイン活用で時間を使う。ビハインド時は2-3-5の前線枚数を増やし、クロスとこぼれ球から押し込みます。交代カードはサイドの推進力を最優先。
実戦で活きる観戦ポイント
試合前のスタメンから読み解く可変の伏線
SBのタイプ（内に入れるか、外で勝負するか）とボランチの組み合わせで可変の方向が見えます。ウイングの利き足も、内外の使い分けのヒントです。
前半20分までに見分けたいボール前進のルート
右で密集を作るのか、左で関係性を積むのか、あるいはCFに直接当てるのか。最初の20分で前進の“第一解”を見つけ、相手の修正とその上書きを観察しましょう。
交代とシステム変更のサイン
サイドの選手交代はギアチェンジの合図。CB追加やボランチ→IHの変更は、3バック化や2-3-5強調のサインになりがちです。
高校・ユース現場への落とし込み
再現可能なドリル例（ポゼッション／トランジション）
- 3対2＋サーバーのハーフスペースドリル：受け→壁→背後の3人目を徹底。
- 7対7＋フリーマンのサイドチェンジ制限ゲーム：片側で釣って逆へ展開。
- 奪って5秒カウンター：奪取地点から5秒以内にPA侵入を目指す制限付きゲーム。
個人戦術に転用できるチェックリスト
- 受ける前にスキャンできているか（背中の敵／味方）。
- 縦・横・背後の3択を常に提示できているか。
- 守備で「外切り」と「内切り」を使い分けられるか。
- クロス時にニア／ファー／PA外のバランスを保てているか。
親がサポートできる視点と練習環境づくり
映像を一緒に観て、良かった場面を具体的に言葉にすることが上達の近道です。壁あてやラダーなど、自宅でできる反復練習の時間を確保し、休養と栄養もセットで整えましょう。
対策ガイド：イラン代表を攻略するには
セットプレー対策と空中戦の準備
守備ではニアの潰し役とPA外の二次対応を明確に。攻撃では相手のゾーンの綻びを狙い、ショートコーナーでズレを作るのも有効です。空中戦は競らずに“落下点を先取る”工夫も必要。
中盤の圧力に対する回避策
中央で潰し合うより、ハーフスペースに人を立て、ワンタッチで外す。GKを使って数的優位を作ることで、最初のラインを超えやすくなります。
サイド攻防で主導権を握る方法
SB裏の背後は常に突く意識を。相手SBが内側に入る偽SBなら、外で幅を最大化。外に張るSBなら、内側のレーンで逆を取る走りを用意します。
よくある誤解と事実関係
「守備一辺倒」ではない攻撃の多様性
堅守のイメージが強い一方、実際は可変で前線5レーンを埋めるなど、攻撃の手数も多彩です。カウンターとポゼッションの両輪を使い分けます。
「ロングボール頼み」評価の検証
ロングボールは手段の一つであり、セカンド回収とセットプレーへの移行を含めた“期待値設計”。短いパスワークで前進できる準備も持ち合わせています。
「可変は少ない」説の再点検
SBの内外の使い分け、ボランチの縦関係、3バック移行など、局面に応じた形の変化は明確です。相手とスコアでギアを変える柔軟性があります。
これからの進化ポイントと展望
若手台頭とシステム適応
推進力のある若手サイドアタッカーや、前向きに運べる中盤が増えるほど、2-3-5の破壊力が上がります。選手の特性に合わせた微調整が進むでしょう。
国際試合での経験値が与える影響
強度の高い相手との試合は、判断速度とプレー精度を引き上げます。プレッシング耐性や終盤の試合運びに好影響をもたらします。
テクノロジーと分析の活用余地
トラッキングデータや身体負荷の可視化が進めば、プレッシングの発動点や交代の最適化がさらに洗練されます。セットプレーのルーティンもデータで微調整が可能です。
まとめ
重要ポイントの再整理
- 基盤は4-2-3-1、状況で4-3-3や3バックへ可変。
- ハーフスペース占有と3人目の動きで前進し、サイドの厚みで仕留める。
- 守備は中盤ブロックのコンパクトネスと明確なトリガー。
- トランジションは即断即決、セットプレーは強み。
- 高校・ユースでも再現できるドリルとチェックリストで落とし込み可能。
次に読むべき参考情報と学びのステップ
まずは1試合を「前進の第一解」と「可変の方向」に注目して見直しましょう。次に、CKとスローインだけを切り出して観ると、得点の“仕掛け”が見えてきます。最後に、実練習では3人目の動きとセカンドボール回収のドリルを反復。これらを積み重ねると、「サッカーイラン代表戦術・フォーメーション最前線」の視点が、日々のプレーに直結していきます。
