「サッカー南アフリカ代表の戦術と布陣を最新実例で読む」。このページでは、AFCON 2023(開催は2024年)とW杯予選の実例をもとに、南アフリカ代表のフォーメーションと戦い方を、練習現場でも使える形で読み解きます。難しい専門用語はなるべく噛み砕き、すぐにチームや個人練習に落とし込めるポイントを整理しました。
目次
この記事でわかること
南アフリカ代表の最新フォーメーションの全体像
南アフリカ代表は基本形を4-2-3-1(相手やメンバーで4-3-3寄り)に置き、守備時は4-4-2のミドルブロック、攻撃時は2-3-5または3-2-5へ可変します。国内王者Mamelodi Sundownsの選手が多く、共通理解の高さが土台です。
試合ごとに変化する可変と定点
可変の起点は主にSB(サイドバック)とアンカー。片側SBの内側化や、片方のIH(インサイドハーフ)が最終ラインに落ちる動きで、2→3枚化を使い分けます。定点は「ミドルブロックの幅圧縮」と「前線の5レーン占有」です。
練習現場で再現できるポイント
三人連動(縦パス→落とし→裏抜け)、サイドでの遅延守備、レストディフェンス(攻撃時の守備配置)の2+1などは高校・アマチュアでも再現可能。後半の「練習ドリル」で落とし込み方を解説します。
最新実例の範囲と前提
参照試合一覧(AFCON 2023〜24、W杯予選)
主な参照は以下です。
- AFCON 2023(2024年開催)ラウンド16:vs モロッコ(2-0)
- 準々決勝:vs カーボベルデ(0-0、PK戦勝利)
- 準決勝:vs ナイジェリア(1-1、PK戦敗退)
- 3位決定戦:vs DRコンゴ(0-0、PK戦勝利)
- W杯2026アフリカ予選:ベナン戦、ルワンダ戦、ナイジェリア戦 ほか(スコアは本稿の主眼ではないため割愛)
上記の試合から、形の再現性と相手別の微調整を抽出しています。
分析の視点(ボール保持/非保持/トランジション/セットプレー)
ボール保持(攻撃)、非保持(守備)、トランジション(切り替え)、セットプレーの4軸で整理。各フェーズでの原則と例外を明確にします。
用語と指標の定義
- 5レーン:ピッチを縦に5つの幅に分けた考え方。サイド・ハーフスペース・中央を重複なく使う指針。
- レストディフェンス:攻撃中にカウンターへ備える後方の守備配置。
- PPDA:相手のパスをどれだけ制限したかの目安。数値が低いほど前から守備。
- xG/被xG:得点/失点期待値。チャンスの質の指標。
監督ヒューゴ・ブロースの戦術思想とチーム文化
ゲームモデルの柱とリスク許容度
狙いは「堅実なブロック+明確なカウンター」と「遅攻でもシュートに行く分業」。無理なポゼッションでの自滅は避け、前進のルートは少数の原則に整理。背後を狙う場面と、繋ぐ場面の切替がはっきりしています。
Mamelodi Sundowns勢を軸にした連携の再現性
Williams、Mudau、Kekana、Mvala、Modiba、Mokoena、Zwaneらの共有言語がチーム全体のミスを減らし、可変の精度を底上げ。代表短期活動でも連係のズレが少ないのが強みです。
選手選考の基準と役割の明確化
「ポジションごとに担うタスク」が明瞭。前線は創造性と守備の両立、中盤は強度と配球、最終ラインは対人と背後管理、GKはショットストップ+配球。役割の重複を避けることで、交代時のパズルも組みやすくしています。
基本布陣と可変フォーメーション
ベースは4-2-3-1(4-3-3)
CFにMakgopa、トップ下にZwane、両翼にTauほか。ダブルボランチはMokoena+Sitholeの組み合わせがベースです。
守備時は4-4-2ミドルブロックに変形
トップ下がCF横に並び、両WGは中間ポジションで内側を締めつつサイドへ誘導。ライン間を消してから外に圧力をかけます。
攻撃時は2-3-5/3-2-5に可変
片側SB(主にModiba)が内側化し、アンカーと三角形を作って前進。もう一方のSBは幅を確保し、最前線は5レーンを埋めてハーフスペースに受け手を配置します。
主なポジション別ロール(GK/DF/MF/FW)
- GK:最後方の安全装置+配球の起点。背後管理とPKストップが強み。
- CB:対人とライン統率。片側は前に出てつぶし、もう片側はカバー。
- SB:外幅と内側化の両立。運動量で可変のスイッチを担う。
- MF:Mokoenaは前進の配球とミドル、Sitholeは強度とバランス。
- FW:Zwaneは間受けの名手、Tauは内外の出入り、Makgopaは基点と背後。
ボール保持:ビルドアップと前進の原則
第1フェーズ:GK+CBの安定化と片側SBの内側化
GK Williamsを含めた3〜4枚で第一ラインを安定。相手の1stラインを引きつけ、片側SBが内側に立ってアンカーと斜めの角度を確保します。
第2フェーズ:縦パス→落とし→裏抜けの三人連動
CFやトップ下へ縦を刺し、即座の落としで前向きの味方へ。落とし役の視野を開けるため、周囲が対角にポジションを取るのがポイントです。
サイドチェンジとハーフスペース活用(Teboho Mokoenaの配球)
Mokoenaはサイドチェンジとミドルの使い分けが秀逸。相手が圧縮してきた側とは逆へ素早く展開し、空いたハーフスペースに前向きの受け手を作ります。
Themba ZwaneとPercy Tauの間受けと内外の使い分け
Zwaneは最終ラインと中盤の間で受け、ターンかワンタッチで前進。Tauはワイドで幅を作りつつ、内側への鋭い斜め走りで最終局面を加速させます。
ターゲットCF(Evidence Makgopa)の起点化
Makgopaは背負いと背後の両方を使えるタイプ。前線で時間を作り、二列目が押し上げる呼吸を整えます。
フィニッシュワーク:崩しの型と再現性
ハーフスペースへの5レーン占有
中央に固執せず、ハーフスペースで前向きに受ける回数を増やします。ここでのワンタッチと縦横のコンビネーションがシュートへ直結。
SBのインナー/アンダーラップとWGの幅取り
WGが幅を固定すると、SBが内外からPAへアタック。内側を走るインナーラップは相手の目線をズラし、カットバックが生きます。
クロスの質とPA内の人数管理
ニア・ファー・カットバックの3択を明確にし、PA内は最低2.5枚(CF+逆サイドWG+遅れてくるIH)を確保。残りはレストディフェンスを形成。
遅攻でもシュートに到達するまでの分業
配球(Mokoena)、間受け(Zwane)、フィニッシュ(Tau/Makgopa)と役割を切り分け、崩れたら一度外に出してやり直します。
非保持:守備ブロックとプレス設計
ミドルブロックの幅圧縮とサイド誘導
中央の通路を閉じて外へ誘導。外でスイッチが入ると、SBとWGが挟む形で奪取を狙います。
プレッシングトリガー(逆戻し、背向けレシーバー、浮き球)
後ろ向きの受け手、GKへのバックパス、浮き球の滞空に合わせて一斉に前進。トリガーが曖昧なときは無理に出ません。
最終ラインのカバーシャドーと背後管理
前に出るCBの背後はSBかもう一方のCBがカバー。ボール保持側の逆サイドは一歩絞ってカウンターの芽を摘みます。
カウンタープレスの初動と犯すべきファウルの基準
失って5秒は即時奪回を試み、抜けられそうなら戦術的ファウルで遅延。危険地帯手前で止める判断を徹底します。
トランジション:奪ってから速く、失ってから整う
攻撃転換:第一ランナーと第三の動きの連鎖
奪って最初に走るのは幅か背後。二番目はボール保持者のサポート、三番目は逆サイドの絞りでスピードを保ちます。
守備転換:5秒間ルールとレストディフェンス2+1
攻撃時に2CB+アンカー(2+1)を残し、失って5秒は前向きに圧力。それで無理なら素早くブロックを再形成。
相手のカウンターに対する遅延とサイドでの止血
中央で勝負させず外に逃がし、数がそろうまで時間を稼ぐ。スライドの距離が短くなるよう、初期配置を丁寧にします。
セットプレー戦術
直接FKとミドルレンジ(Mokoenaのキックレンジ)
Mokoenaは直接FKとミドルの脅威。壁越えとニア強打の両方を持ち、相手のラインを下げさせます。
CKのマンゾーン併用とニア/ファーの使い分け
マンマークとゾーンのハイブリッド。ニアで触って流し込む形と、ファーでの折り返しからの二次攻撃を使い分けます。
ロングスロー/スローイン後の二次攻撃
セカンド回収の配置が整っており、PA外のシュートと再クロスの両睨み。崩れた陣形を即座にレストディフェンスへ戻すのも特徴です。
最新実例で読む試合別の戦術ポイント
vs モロッコ(AFCON 2023 ラウンド16):堅守速攻と遅攻の切替
ミドルブロックで中央を消し、奪ってからの直線的な前進が刺さりました。終盤は落ち着いて遅攻に移行し、FKから追加点。守→攻→遅攻の切替がハマった好例です。
vs カーボベルデ(準々決勝):GK Ronwen Williamsの影響とPK戦
拮抗した展開でWilliamsがビッグセーブを連発。PK戦でも存在感を発揮。守備的な試合運びでもGKがゲームプランを成立させる典型でした。
vs ナイジェリア(準決勝):終盤の構造変更と同点への道筋
押し返される時間帯に、SBの内側化を強めて中盤数的優位を確保。遅攻を辛抱強く続け、PK獲得につながるライン間攻略を作りました。
vs DRコンゴ(3位決定戦):疲労下のゲーム管理とブロック維持
疲労が濃い状況でもブロックを崩さず、サイドで時間を作る判断が徹底。PK戦を見据えた選手交代と時間管理が光りました。
個の役割と相互作用:キープレイヤー解説
Ronwen Williams(GK):ビルドアップ参加と守護範囲
ショットストップに加え、足元で時間を作れるのが強み。高い位置まで守備範囲を広げ、背後のスペース管理を助けます。
Khuliso Mudau / Aubrey Modiba(SB):運動量と内外の走路
Mudauは縦への推進力、Modibaは内側化の巧さが際立ちます。試合の流れに応じて内外を走り分けます。
CB陣(Grant Kekana / Mothobi Mvala ほか):対人とライン統率
前に出て潰す勇気と、カバーリングの呼吸が良好。セットプレーでも競り合いに強く、終盤の凌ぎに貢献します。
中盤(Teboho Mokoena / Sphephelo Sithole):守備強度と配球の両立
Mokoenaは展開力とミドル。Sitholeは球際と広いカバー範囲。二人の役割が補完関係にあります。
前線(Themba Zwane / Percy Tau / Evidence Makgopa):創造性と決定力
Zwaneの間受け、Tauの内外の出入り、Makgopaの基点化。三者の距離感が良いときにチャンス量が増えます。
交代策とゲームマネジメント
追う展開:スピードと幅を足すスイッチ(Thapelo Morena, Mihlali Mayambela など)
サイドの推進力を上げて、裏と幅を同時に突く狙い。斜めのランを重ね、クロスとカットインの二択を迫ります。
守る展開:中盤の枚数調整と時間管理
IHを一枚増やして中央を固め、サイドでの遅延を徹底。スローインやリスタートで落ち着きを取り戻します。
延長・PKを見据えた交代とリスク分散
PKキッカーの順番と脚の残り具合を考慮。負荷の高いSBやWGを早めにリフレッシュして、走力を最後まで維持します。
データで補強する評価(2024年基準)
被xG・クリーンシート率の評価軸
被xGを低く抑えられるか、複数試合でクリーンシートを積み上げられるかが堅守の目安。AFCONでは無失点試合を重ね、守備モデルの再現性が示されました。
PPDA/プレス成功率の目安
前から奪う場面は選択的で、PPDAは極端に低くない傾向。出るときはトリガーを厳守し、出ないときはブロック維持に徹します。
セットプレー得点/失点の比率と傾向
直接FKの脅威とCKのニア/ファー使い分けは明確。守備面でもマンゾーン併用で大崩れを避ける設計です。
現場で再現するための練習ドリル
2-3-5可変を体感するポジショナル鬼ごっこ
グリッドを5レーンに分割。攻撃側は2-3-5の形で保持、守備側は中央を閉じて外誘導。制限時間内に10本連続パスで得点とし、SBの内側化のタイミングを学びます。
縦パス→落とし→裏抜けの三人称ドリル
CF、トップ下、WGの三角形で繰り返し。縦→落とし→スルーを左右交互に反復し、最後はカットバックでフィニッシュ。ワンタッチの質を重視。
ミドルブロックのサイド圧縮トレーニング
守備ブロック対保持の7v7+フリーマン。外に誘導→タッチラインを「味方」にして2人で挟む。奪ったら3秒以内に縦へ。
FK/CKのルーティン設計とKPI
ニアでのフリック、ファーでの折り返し、ショートコーナーの3パターンを固定。毎試合の「ファースト接触率」「二次回収率」をKPIにします。
よくある誤解を解く
“身体能力頼み”ではなく構造で守る
ミドルブロックとプレッシングトリガーは計画的。個の強さは生かしつつ、まずは構造で失点を減らします。
“ロングボール主体”ではなく状況適応
背後狙いは有効な手段の一つ。押し込める相手には遅攻で崩し、相手が前がかりなら背後で仕留めます。
“引いて守るだけ”ではなくトランジションで刺す
守備→攻撃への移行が速く、第一ランナーの質が高い。引くだけで終わらないのが今の南アフリカです。
直近のアップデート:W杯予選と親善試合の示唆
相手別のプラン変更(3つのスイッチ)
1)SB内側化の強度、2)前線のプレッシャーの高さ、3)カウンター時の人数。相手のビルドアップ能力に応じてスイッチを切り替えます。
メンバー固定化のメリット/デメリット
メリットは再現性の高さ。デメリットはプランBのバリエーション不足になりがちな点。交代カードの質が重要です。
若手台頭とポジション争いの影響
スピード系ウイングやボックス・トゥ・ボックス型の台頭で、遅攻と速攻の切替幅が拡大。既存主力との相互作用がチーム力を押し上げています。
まとめ:南アフリカ代表から学べること
守備から攻撃へ“つながる”設計
ミドルブロック→奪って速攻→遅攻のやり直し。段階が接続されているから、無理がありません。
可変の原則を固定化する重要性
2-3-5/3-2-5への移行は、SBと中盤の合図を固定すると安定。迷いが減り、個の判断が活きます。
育成年代・アマチュアでも再現可能なポイント
三人連動、サイド遅延、レストディフェンス2+1、セットプレーのルーティン。今日から取り入れられる要素が多いのが魅力です。
最新実例から見えるのは、「無理をしないで強みを出す」南アフリカの現実的な強さ。自分たちのチームに合う部分を切り取り、練習メニューへ落とし込んでみてください。
