試合で走り切るか、後半で足が止まるか。分かれ目は、実はボールを蹴る前に決まります。鍵は「いつ・何を・どれだけ食べるか」。ここでは、科学的な目安と現場で使える実践メニューを両立させた“高校生向けの正解”を、わかりやすくまとめました。今日から真似できる具体例をたっぷり載せています。
目次
結論:高校生の試合前メニュー「正解」の考え方
目的はエネルギー最大化と胃腸トラブル回避の両立
試合前の食事は「体内のガソリン満タン」と「胃腸を軽く」の両立がテーマです。サッカーはスプリントと有酸素のミックス。空腹だとパワーが出ない一方、重い食事は横っ腹の痛みや吐き気につながります。だからこそ、消化が速いエネルギー源を中心に、量とタイミングを設計するのが最短ルートです。
炭水化物中心+適量たんぱく質+低脂質・低食物繊維が基本
ベースは「炭水化物(主食)7割+たんぱく質2割+脂質1割」くらいのイメージ。脂質と食物繊維は消化が遅く、直前は控えめに。たんぱく質は筋ダメージ対策として少量に留め、主役はあくまで炭水化物です。
量とタイミングがパフォーマンスを決める
試合の3〜4時間前にしっかり、1〜2時間前に軽く、30〜60分前は液体中心で微調整。この「3段階」で、エネルギー切れも胃もたれも避けられます。炭水化物は体重1kgあたりの量で考えると失敗しにくいです。
試合前栄養の基本原則
炭水化物の目安量(1〜4g/kgを時間に合わせて)
- 3〜4時間前:2〜3g/kg(余裕がある日は最大4g/kg)
- 1〜2時間前:1g/kg前後
- 30〜60分前:0.5g/kgまでを液体やジェルで
例)体重60kgなら、3〜4時間前に120〜180g、1〜2時間前に約60g、直前に30gまでが目安。
たんぱく質の目安(0.2〜0.4g/kg)、脂質は控えめ
たんぱく質は試合前に取りすぎると胃もたれしやすいので0.2〜0.4g/kg(60kgで12〜24g)程度。脂質は最小限(揚げ物・脂身・生クリーム・チーズは避ける)にします。
水分・電解質の基準(体重あたりの水分量とナトリウム)
- 4時間前:5〜7ml/kg(60kgなら300〜420ml)
- 2時間前:尿の色が濃い・発汗予測が高いなら3〜5ml/kg追加
- 運動中:15〜20分ごとに100〜200mlを目安(暑い日はもう少し)
- ナトリウム:スポーツドリンクはNa 300〜700mg/L(おおよそ0.3〜0.7g/L)が目安
GIの使い分け(3〜4時間前は中GI、直前は高GI)
- 3〜4時間前:中GI中心(白米、うどん、バナナ)+低脂質で
- 30〜60分前:高GI(ゼリー、白パン、蜂蜜、砂糖入りの飲料)を少量
- 食物繊維が多い全粒粉・根菜・海藻は直前は避ける
タイミング別・実践メニュー例
前日夜の整え方(主食多め+低脂質+塩分を適切に)
消化の良い主食を増やし、脂質は控えめに。水分と塩分も意識して翌朝のコンディションを作ります。
- 例:ごはん大盛り+鶏むねの照り焼き(皮なし)+味噌汁+湯豆腐+果物(みかんやバナナ)
- パスタ派:トマトベースのパスタ(オイル少なめ)+パン少量+コンソメスープ
- 避けたい:唐揚げ・ラーメンこってり・ピザ・生クリーム系
試合当日3〜4時間前の主食メニュー
しっかり食べる最後のチャンス。炭水化物2〜3g/kgを目安に、低脂質・低食物繊維で。
- 和食:おにぎり2〜3個+うどん(小)+低脂ヨーグルト
- 洋食:食パン2〜3枚+はちみつorジャム+スクランブルエッグ(油少なめ)
- 消化重視:おかゆ(梅/鮭)+卵豆腐+バナナ
試合当日1〜2時間前の軽食メニュー
胃に負担をかけずに炭水化物1g/kg前後を補給。固形ならよく噛んで少量ずつ。
- アンパンやクリームなしの菓子パン半分〜1個
- バナナ1本+ゼリー飲料
- カステラ1切れ+スポーツドリンク
キックオフ30〜60分前の最終調整(液体中心)
液体やゼリーで0.3〜0.5g/kgの炭水化物を素早く。喉が渇く前に少しずつ。
- スポーツドリンク(糖濃度6〜8%)150〜250ml
- ゼリー飲料(炭水化物20〜30g)
- 蜂蜜を少量塗った白パン一口+水
ウォームアップ中・直前の補給
口が乾くのを防ぎ、血糖低下を避ける目的で少量ずつ。
- スポーツドリンクを10〜15分おきに数口(100ml程度)
- 暑い日は氷入りで冷却も兼ねる(冷たすぎは腹痛の人は注意)
ハーフタイムの補食(20〜30g炭水化物)
後半に向けたブースト。消化が早く、口当たりの良いものを。
- バナナ半分〜1本
- ゼリー飲料1つ
- 一口ようかんや小さめ羊羹
試合直後30分のリカバリー(炭水化物+たんぱく質)
グリコーゲン回復と筋修復を早めます。
- 炭水化物:1.0〜1.2g/kg(60kgで60〜72g)
- たんぱく質:0.25〜0.35g/kg(60kgで15〜21g)
- 例:おにぎり2個+プロテイン200ml、カカオ少なめのココア+パン、牛乳200ml+バナナ+カステラ
具体メニュー(家庭・学校・コンビニ別)
家で作る定番(ごはん・うどん・おかゆ・低脂ヨーグルト)
- おにぎり(鮭・梅・昆布など)…具は少なめ、海苔は消化に不安があれば薄めに
- うどん(温・冷)…天ぷらは無し、刻みネギ控えめ
- 卵とじおかゆ…消化優先の万能メニュー
- 低脂肪ヨーグルト+バナナ…朝でも食べやすい
- カステラ/どら焼き(小)…高GIで直前にも使える
寮・部室での簡単メニュー(おにぎり・カップうどん・果物)
- 常備:個包装の羊羹、ゼリー飲料、バナナ、塩タブレット
- カップうどん(あっさり系)+おにぎり1個
- インスタントみそ汁(具少なめ)+食パン1〜2枚+ジャム
コンビニで揃える場合の組み合わせ(予算別)
〜800円プラン
- おにぎり2個+バナナ1本+スポーツドリンク500ml
〜1,000円プラン
- 鮭おにぎり1・梅おにぎり1+低脂肪ヨーグルト+ゼリー飲料+スポーツドリンク
〜1,500円プラン(遠征や連戦向け)
- おにぎり3個+あっさりサンドイッチ(ハム卵など)+果物カップ+ゼリー飲料2つ+スポーツドリンク2本
500円以内で整える節約プラン
- 食パン(6枚切2枚)+ジャム小袋+バナナ1本+水(ペットボトル)
- または:おにぎり2個+水+塩飴
体重別・試合時間別の量の目安
体重50/60/70kgの炭水化物量の具体例
- 3〜4時間前(2.5g/kg):50kg=125g、60kg=150g、70kg=175g
- 目安:白米1杯(150gで約55g炭水化物)、おにぎり1個(約40g)、うどん(1玉で約60g)
- 1〜2時間前(1g/kg):50g、60g、70g
- 目安:バナナ1本(約25g)+ゼリー(約25g)=50g
- 30〜60分前(0.5g/kg):25g、30g、35g
- 目安:ゼリー1つ(20〜30g)+スポーツドリンク少量
午前キックオフと午後キックオフの調整
- 午前(9〜11時):起床後すぐに軽く(バナナ+ヨーグルト)、移動中にパンやおにぎり、会場でゼリー
- 午後(13〜15時):3〜4時間前に主食多めの食事、1〜2時間前は軽食、30〜60分前にドリンクで微調整
連戦・延長戦を見据えた設計
- ハーフタイムと試合間に20〜30gの炭水化物を複数回
- 終了後すぐの回復食は必須。その後2〜4時間で体重×1.0〜1.2g/hの炭水化物を継続
ポジションとプレースタイル別の微調整
スプリント回数が多い選手(FW/WG)の炭水化物戦略
高強度の反復に備え、直前の高GIをやや手厚く。30〜60分前にゼリー+スポーツドリンクで合計30g程度、ハーフでも20〜30gを。
走行距離が長い選手(MF)の水分・電解質管理
発汗量が大きい傾向。ナトリウム入りドリンク(300〜700mg/L)をメインに、15〜20分ごとに100〜200mlを目安に摂る。暑い日は塩タブレットを併用。
対人強度が高い選手(DF/CF)のたんぱく質設計
当日は消化負担を抑えつつ、前夜と試合直後はたんぱく質をしっかり。直前は10〜15g程度まで、終了後0.25〜0.35g/kgを目安に。
環境別アレンジ(暑熱・寒冷・遠征)
暑い日の水分・塩分・冷却の考え方
- ドリンクの糖濃度は6%前後にすると吸収が速い
- 氷入りのボトル、冷感タオル、首筋の冷却で体温上昇を抑える
- 塩分(Na)300〜700mg/Lを目安。汗の味が濃い人は高めを選択
寒い日の温かい主食と体温維持
- 温うどん、雑炊、味噌汁+おにぎりで内側から温める
- 冷たい炭酸飲料は避け、常温〜温かい飲み物を
移動・遠征時の持ち運びと衛生管理
- 常温で持てる主食(おにぎり、パン、羊羹、ゼリー)を優先
- 夏場は保冷剤と保冷バッグを活用、乳製品・生ものは短時間で
- 手指消毒と個包装の活用で食中毒を予防
胃腸が弱い人・食物アレルギーへの配慮
消化にやさしい食品選びと調理法
- 柔らかい主食(おかゆ、うどん、食パン)を中心に
- 油は最小限、加熱して温かい状態で
- 生野菜・海藻・きのこ・雑穀は直前は控える
低FODMAPの考え方と使いどころ
ガスや腹部不快感が出やすい人は、直前だけFODMAPが低い食品に切り替える方法があります。
- OK例:白米、うどん、バナナ、みかん、きゅうり少量、硬めのチーズ少量
- 注意例:玉ねぎ・にんにく・りんご・牛乳(乳糖)・小麦の一部製品
乳糖不耐・小麦アレルギーの代替案
- 乳糖不耐:乳糖ゼロ牛乳、ヨーグルトでも乳糖低めのもの、豆乳
- 小麦アレルギー:おにぎり、米粉パン、米粉麺、十割そば(そばアレルギーの人は不可)
NG例とよくある失敗
脂質・食物繊維の摂りすぎで消化遅延
- 唐揚げ・カツ丼・こってりラーメン・大量のサラダや海藻は直前に不向き
タンパク質偏重でエネルギー不足
鶏むね・卵・魚は大切ですが、主食不足だと走り切れません。試合前は主食優先。
水だけ・濃すぎるスポーツドリンクの落とし穴
- 水だけ:長時間では低ナトリウムのリスクやパフォーマンス低下
- 濃すぎ:糖濃度8%を超えると胃もたれ・吸収遅延のリスク
エナジードリンク・サプリへの安易な依存
カフェイン量が多い飲料は未成年には推奨されません。初めてのサプリを本番で試すのもNG。使うなら事前に練習でテストし、保護者・指導者と相談を。
科学的根拠に基づく数値ガイド
炭水化物・たんぱく質・水分の推奨レンジ
- 試合前の炭水化物:1〜4g/kg(時間に応じて調整)
- たんぱく質:0.2〜0.4g/kg(直前は少なめ)
- 水分:4時間前に5〜7ml/kg、必要に応じて2時間前に3〜5ml/kg追加
- 運動中補給:15〜20分ごとに100〜200ml目安
糖濃度とナトリウムの目安
- スポーツドリンクの糖濃度:6〜8%
- ナトリウム:300〜700mg/L(暑い日は上限寄り)
カフェイン摂取の注意点(未成年の扱い)
- 高校生は基本的に無くても戦えます。まずは炭水化物・水分・塩分が優先
- どうしても使う場合は事前に練習でごく少量から。夕方以降は睡眠に影響
朝が早い試合日のモデル1日プラン
前夜〜起床〜会場到着までの流れ
- 前夜19:00:主食多めの夕食(ごはん大盛り+あっさりおかず)
- 前夜21:30:水分300ml+軽いストレッチ、就寝
- 起床(試合3.5〜4h前):バナナ+低脂ヨーグルト+水200ml
- 移動中(試合2.5〜3h前):おにぎり1〜2個+スポーツドリンク少量
キックオフ前60分までの食事・補給テンポ
- 試合2h前:菓子パン半分〜1個 or カステラ1切れ
- 試合60分前:ゼリー飲料(20〜30g炭水化物)
- ウォームアップ中:10〜15分ごとに数口のドリンク
試合後〜次戦へのつなぎ方
- 試合直後30分以内:おにぎり+牛乳 or プロテイン+バナナ
- 2時間以内:主食中心の食事をもう一度、塩分と水分も補う
チェックリストとテンプレート
前日準備チェックリスト
- 主食多めの夕食を準備した
- 当日の携帯食(おにぎり、ゼリー、羊羹、バナナ)を用意
- ボトル2本(スポーツドリンク/水)を冷やした
- 保冷バッグ・保冷剤・塩タブレットを用意
当日の持ち物リスト(食事・補食・水分)
- おにぎり2〜3個、パン1〜2枚(または菓子パン)
- ゼリー飲料2つ、羊羹1〜2個、バナナ1〜2本
- スポーツドリンク1〜2本、水1本、塩タブレット
- ウェットティッシュ、使い捨てスプーン/袋
個人差を埋める記録テンプレート
- 食事内容(量・時間)/体重の変化(試合前後)
- 尿の色(薄い=OK/濃い=水分不足)
- 体感(胃もたれ・足つり・集中力)とパフォーマンス
保護者・指導者ができるサポート
朝食準備と声かけのコツ
- 「全部食べて」より「これだけ先に」(主食優先)の声かけ
- 食欲がない日は液体から(ココア薄め、スープ、ヨーグルト)
学校・部活動でのルールづくり
- 試合前の揚げ物禁止、スポーツドリンク持参可などの共通ルール
- ハーフタイム用の補食をチームでシェア
医療・栄養の専門家に相談するタイミング
- 繰り返す足つり、極端な胃腸トラブル、体重の大きな変動がある
- アレルギーや持病で食事設計が難しい
まとめ:自分の「正解」を作る
再現性・体感・安全性で評価する
数値は土台。最終的には「毎回同じように出せるか(再現性)」「胃腸が平気か(体感)」「安全か(衛生・リスク管理)」で判断しましょう。
小さく試して改善を繰り返す
練習試合やトレーニングでメニューと量をテスト。1つずつ変えて、結果をメモし、ベストを更新していくのが王道です。
大会本番に向けたルーティン化
当日の動きはシンプルに。前夜の食事、朝のメニュー、補食のタイミング、ハーフの内容まで、チェックリストに沿った「勝ちルーティン」を固めましょう。
あとがき
食事はトレーニングの一部。派手さはないけれど、最後の5分で走り勝つための最も確実な投資です。今日から、自分の身体で検証をはじめてください。正しく食べて、正しく強くなる。あなたの“正解”は、必ず見つかります。
