「エラシコを今日から実戦で使いたい」。そのために必要なのは難しい足技より、負けない“基本”と、通用する“リズム”です。本記事では、エラシコのしくみをやさしく解説し、練習したその日から効果を体感できる3ステップの上達法を具体的にまとめました。道具も特別な環境も不要。失敗をすぐ直すコツ、ケガを避ける注意点、進捗の測り方まで一気通貫でお届けします。
目次
はじめに—今日から変わるエラシコの考え方
エラシコは「速い2タッチ」と「相手の重心をズラす時間差」で成立します。派手さよりも、正確なイン→アウト、止めて出るリズム、そして再現性。この3つを順に整えると、実戦での成功率が急に上がります。まずは全体像をつかみ、無理なく積み上げていきましょう。
エラシコとは?やさしく理解する基本
エラシコの定義と由来
エラシコは、同じ足で「インサイド→アウトサイド」と一瞬で連続タッチして、相手を内側へ誘ってから外へ抜けるフェイントです。海外では「Elastico」や「Flip Flap」と呼ばれ、歴史的にはロベルト・リベリーノ選手が広めたとされ、ロナウジーニョ選手やネイマール選手などが実戦で効果的に使い、世界的に知られるようになりました。(選手名は代表的な例であり、考案者については諸説あります)
何が“効く”のか—重心操作と視覚の錯覚
- 重心操作:最初のインタッチで相手の重心を内側へ倒させ、次のアウトタッチで外へ加速します。守備者の骨盤と膝が内へ向いた瞬間が刺さる合図です。
- 視覚の錯覚:ボールと足の動きが直前で反転するため、相手の視線は一瞬遅れます。踏み込み音や上半身の向きも「内に行く」予兆になり、外へ抜けやすくなります。
- 速度差:減速→一瞬の2タッチ→再加速の速度差が「置き去り」を生みます。同じスピードのまま行うと効きづらいのが特徴です。
似たフェイントとの違い(シザース、V字、ダブルタッチ)
- シザース:ボールの外側を跨いで体の向きで誘う。タッチは1回が基本。エラシコは同じ足で2タッチするため、より短い距離・時間で方向転換できます。
- V字(プルプッシュ):足裏で引いてインサイドで出す。後方から前方への向き直しに強い。エラシコは横方向の抜きに向きます。
- ダブルタッチ:イン→イン、またはアウト→アウトなど同じ面の連続。エラシコは面を変えるため、相手の目線と重心のズレを作りやすいのが利点です。
今日から実戦で効く3ステップの全体像
成功の3要素(角度・速度差・再現性)
- 角度:インタッチは相手の足の届かない角度へわずかに動かす(約15〜30度)。アウトは縦へ抜ける角度です。
- 速度差:減速→2タッチ→爆発の3段階。2タッチは接地時間を短く(各0.1〜0.2秒目安)。
- 再現性:歩幅・支持足・視線のパターンを固定し、どのスピード帯でも同じフォームで出せること。
必要な事前準備(ボール・スペース・シューズ)
- ボール:普段使い慣れた号数(高校・一般は5号)。空気圧は指で5〜8mm沈む程度。
- スペース:縦10〜15m、横5mあれば十分。壁があればリズム練に使えます。
- シューズ:人工芝はトレシューかAG、土・芝はHGなど、グリップが強すぎないものを。足首の自由度を確保します。
上達を早める心構え(小さく正確に→大きく速く)
最初はタッチを「小さく・静かに」。成功率が8割を超えたら「大きく・速く」へ。順番を守るほど、試合スピードでも崩れません。
ステップ1 基礎タッチを整える
イン→アウトの正確性を高める足元ドリル
- ドリルA:停止ボールでイン→アウト。片足のみで20回×2セット。膝とつま先は進行方向に。
- ドリルB:歩きながらイン→アウト。3歩に1回フェイント、15m×6往復。
- 接触面:インは母趾球側、アウトは小趾側。足首は軽く背屈させロック。
支持足の置き方と膝の向き—軸を作るコツ
- 支持足の位置:ボールの真横より5〜10cm後ろ。近すぎると窮屈、遠すぎると届きません。
- 膝の向き:インタッチ時はやや内、アウトタッチ直前に正面へ戻します。骨盤は正面キープ。
足首のロックと接地時間を短くするポイント
- ロック:足首を固める意識で「コツッ、コツッ」と短く当てる。蹴るのではなく弾く。
- 接地時間:各タッチ0.1〜0.2秒を意識。音が軽ければOK。重い音は当てすぎです。
30秒サーキット(壁あり/なし)で反復する方法
- 壁なし:マーカーを2m間隔で3つ。歩き→小走り→ジョグの速度で30秒×3本、休憩15秒。
- 壁あり:ワンバウンドパス→トラップ→エラシコ→パスを30秒。利き足/逆足を交互に。
- 合図:30秒の最後の5秒を「速く・大きく」に切り替え、試合の爆発を再現。
ステップ2 フォームとリズムを作る
減速→フェイント→加速の3拍子を体で覚える
カウントは「1(減速)-2(イン→アウト)-GO(加速)」。減速は母指球で軽くブレーキ、GOはつま先で地面を引っかくように前へ。止まりすぎると間合いを詰められるので、減速は「7割まで落とす」が目安。
上半身と視線の使い方(バレない伏線の作り方)
- 肩:インタッチ前に肩をわずかに内へ落とす。落としすぎると読まれるので2〜3cmの意識。
- 胸:常にゴール方向。胸が外へ向くと外へのタッチが浅くなります。
- 視線:ボール→相手膝→スペースの順。相手膝が内へ落ちた瞬間にアウトで刺す。
一歩目で相手を剥がす腰・肩の向き
- 腰:アウトタッチと同時に腰を進行方向へ回し、骨盤から移動開始。
- 肩:進行方向の肩を前へ出す。これで一歩目の幅が伸び、相手のリーチ外へ出られます。
リズム可変トレ(1-2の裏拍/テンポずらし)
- 裏拍:メトロノームBPM80で「タッ(裏)-タ(表)-GO」。裏でイン、表でアウト。
- テンポずらし:1回目ゆっくり、2回目は超速。守備者のタイミングを外す練習です。
ステップ3 実戦化—相手・角度・状況で使い分け
対人の距離感(1.5m・1m・0.5m)で選ぶタイミング
- 1.5m:誘いのインを大きめに。相手に「触れそう」と思わせる距離で実施。
- 1m:標準距離。インは小さく、アウトを鋭く縦へ。
- 0.5m:接触が近いので、インは触れない程度に最小。アウト直後に体でブロック。
タッチライン際/中央/カウンターでの最適解
- タッチライン際:アウトはライン沿いへ。ボールをラインに“挟む”意識で失いにくく。
- 中央:アウト後の視野確保が重要。次のパスコースを作ってから仕掛けます。
- カウンター:減速を短く、2タッチも短く。長いモーションは追走に捕まりやすいです。
左足でも出せる左右対称の作り方
- 鏡練習:壁を正面に置き、右でできた形を左でも同じ歩幅・同じ肩の落としで再現。
- 比率:練習比は右:左=6:4から開始。2週間で5:5へ。
守備者タイプ別(足の長いCB/俊敏SB/前からくるボランチ)
- 足の長いCB:距離1.5mで誘いを長く。アウトは相手の軸足外側へ。
- 俊敏SB:テンポずらしで裏拍を使う。2回連続は読まれるので別解を混ぜる。
- 前からくるボランチ:減速を見せず、移動中に小さくエラシコ。接触回避を最優先。
よくある失敗と瞬時の直し方
ボールが足から離れる——触り方と歩幅の微調整
- 原因:足首が緩い/ボール側の歩幅が大きい。
- 対策:タッチ前に軽く背屈→指先で弾く。歩幅は30〜40cmに縮める。
体が流れる・次の一歩が出ない——減速と重心の置き場
- 原因:減速不足で体が前へ倒れる。
- 対策:イン前に母指球で小ブレーキ。頭を支持足の真上に戻してからアウト。
読まれる・止められる——同じモーションからの別解
- 選択肢A:イン→アウトの代わりにイン→イン(ダブルタッチ)。
- 選択肢B:インだけ見せて縦へ加速(フェイント省略)。
- 選択肢C:エラシコ風のモーションから足裏ストップ→パス。
自主練メニュー(1人/2人/チーム)
1人でできる5分ルーティン(ウォームアップ→反復→仕上げ)
- 1分:足首・股関節モビリティ(足首回し、ハーフランジ)。
- 3分:歩き→ジョグでエラシコ反復(利き足20回、逆足20回×2)。
- 1分:全力の「減速→2タッチ→5m加速」を左右5本ずつ。
パートナー対面ドリル(受動→能動→制限付き)
- 受動:相手は棒立ちで距離1m。形の確認。
- 能動:相手は片足だけ出す制限。タイミングの見極め。
- 制限付き:2タッチ以内で突破→3秒以内にシュートかパス。
ミニゲームへの落とし込み(タッチ数制限・ゾーン設定)
- タッチ数制限:3タッチ以内で前進。エラシコ→前進の再現性が高まります。
- ゾーン設定:サイドゾーンで1対1強制。成功で追加点などゲーム化。
ケガ予防と身体づくり
足首・膝を護るモビリティ3種と活性化エクササイズ
- 足首:膝つま先同方向のアンクルロック(前方に膝を出す可動域確認)×10。
- ふくらはぎ・腓骨筋:カーフレイズ内外10回ずつ。
- 臀部:モンスターバンド歩き10歩×2。減速時の膝ブレ防止に有効です。
グリップとすね当ての選び方の注意点
- グリップ強すぎ=捻挫リスク増、弱すぎ=滑る。普段のピッチに合わせて選択。
- すね当ては薄型で固定が安定するもの。ズレは接触時の怪我につながります。
疲労時のフォーム崩れチェックとクールダウン
- チェック:タッチ音が重い/アウト後に体が外へ流れる。
- クールダウン:ハムストリング、腸腰筋、ふくらはぎを静的に各20〜30秒。
上達を可視化するKPI
タッチ時間・成功率・突破後の継続率の測り方
- タッチ時間:動画のコマ送りでイン→アウトの間隔(目安0.2〜0.4秒)。
- 成功率:対人またはマーカー抜きでの成功/試行×100%。まずは70%→80%→85%を目標に。
- 継続率:抜いた後3m以上前進できた割合。実戦力の指標になります。
スマホのスロー撮影チェックリスト
- 角度:正面と真横の2視点。膝の向きとタッチ距離を確認。
- 音:タッチ音が軽いか。重ければロック不足。
- 一歩目:アウト直後の歩幅が伸びているか(通常の120%目安)。
14日間の進捗表サンプルと目標設定
- 1〜4日:基礎ドリルと30秒サーキット。成功率70%。
- 5〜9日:リズム可変と対面受動。成功率75〜80%。
- 10〜14日:制限付き対人とミニゲーム。継続率50%超を目標。
プロの動きから学ぶ観戦ポイント
走るスピードを落とす“間”の作り方
トップ選手は「減速の一歩」が上手い。歩幅を1枚分短くして相手の踏み出しを誘い、その瞬間に2タッチへ。ボールよりも足音と肩の角度で“間”を作るのが共通点です。
同じモーションからの3択(エラシコ/ダブルタッチ/縦突破)
助走・肩の落とし・視線を同じにしておき、最後の0.2秒で選択を変えると読みづらい。練習では3択を1本ずつループさせると、試合で自然に切り替えられます。
守備者の重心を読む視線の配り方
ボールではなく相手の軸足膝と骨盤を見る。膝が内に落ちた、骨盤が回った、つま先が開いた——この3サインのどれかが出たらGOです。
よくある質問(Q&A)
小さい足/大きい足で差は出る?
足の大きさより「足首のロック」と「歩幅調整」の影響が大きいです。ボールと足の接地面は母趾球・小趾側を使えれば十分。タッチ距離を体格に合わせて微調整しましょう。
人工芝と土、どちらが練習に向く?
人工芝はグリップが安定し反復に向きます。土は滑りやすい分、減速と体のバランス感覚が磨かれます。最初は人工芝でフォーム、慣れたら土で実戦対応、が無難です。
左利きはどう練習する?
基本は左右対称です。利き足で形を作り、同じ肩の落とし・同じ歩幅を鏡写しにして逆足へ移します。最初は成功率重視で小さく、徐々に速度と距離を上げましょう。
1週間トレーニングプラン例
月〜日の負荷配分(技術→対人→回復)
- 月:ステップ1(基礎タッチ+30秒サーキット)。
- 火:ステップ2(リズム・フォーム)。
- 水:軽めの対面ドリル(受動→能動)。
- 木:休養またはモビリティ中心。
- 金:制限付き対人+ミニゲーム。
- 土:ゲーム形式で使用場面の確認。
- 日:回復(ジョグ、可動域、動画振り返り)。
試合前日の調整と当日の使いどころ
- 前日:5分ルーティン+低強度で10回の成功体験。疲労を残さない。
- 当日:前半は相手を観察。1対1が孤立するサイドで最初の1回を成功させ、自信と流れを作る。
まとめ 今日から始めるチェックリスト
練習開始前の3項目(スペース・靴・目的)
- スペース10〜15m確保。
- ピッチに合ったシューズと固定されたすね当て。
- 今日の目的を1つだけ(例:タッチ時間0.2秒短縮)。
練習後の振り返り3項目(成功率・動画・次の課題)
- 成功率を記録(%)。
- 動画でタッチ音・膝向き・一歩目をチェック。
- 次回の1点課題をメモ。
次のステップ(逆足・スピード帯・試合での再現)
- 逆足で同じ歩幅と肩の落とし。
- 歩き→ジョグ→スプリントへ速度帯を段階アップ。
- ミニゲームで「1試合1回のトライ」から始め、成功体験を積む。
おわりに
エラシコは「速い2タッチ」と「相手の重心を読む目」で決まります。派手さは後からついてくるもの。まずは小さく正確に、次にリズムを、最後に実戦化。今日の5分が、次の試合の1回を変えます。さあ、ボールを持って外へ出ましょう。
