相手の最終ラインの一歩先に、味方が走り込む。その「未来の地点」にボールを置くのがスルーパスです。この記事では、スルーパス 練習メニューをやさしく解説|今日から通る一歩先の出し方というテーマのもと、今日から実践できるドリルからチーム連携、上達の見える化までを通しでまとめました。難しい戦術用語は控えつつ、現場で使える言葉とステップでお届けします。
目次
はじめに:スルーパスが「通る」理由
スルーパスの定義と目的
スルーパスは、相手の守備ラインや選手同士の間を「走る味方に向けて」通す前進パスの総称です。目的は、相手の背後やライン間のスペースに味方を走らせ、ゴールや決定機へ直結させること。単に縦に蹴るのではなく、受け手の動きと守備のズレを利用して、時間と空間を同時に奪います。
通る・通らないを分ける3要素(視野・タイミング・質)
- 視野:受け手・守備者・スペースの三点を同時に捉える。
- タイミング:受け手の加速トリガー(動き出しの合図)に合わせる。
- 質:出球のスピード、回転、コース(内外・足下/スペース)の適合。
この3つが揃ったとき、同じ技術でも急に「通り始める」ようになります。
用語の整理(縦パス・スルーパス・スプリットパスの違い)
- 縦パス:前方向へのパス全般。足下・スペースどちらも含む広い概念。
- スルーパス:走る味方の進行方向へ、守備の背後や間を通す縦パス。
- スプリットパス:2人の守備者の間(ライン間)を裂くパス。足下・スペース両方あり。
つまり、スルーパスは「動き出しに合わせる」性質が強いのがポイントです。
本記事の使い方と練習の前提
- 段階式:ウォームアップ→キックの質→認知→連携→ゲーム化の順に実施。
- 1メニュー10分目安:詰め込みすぎず、1つのテーマに集中。
- 計測習慣:成功率や前進距離の記録が再現性を高めます。
ウォームアップと準備
必要な用具とスペースの目安
- ボール1人1球、マーカー6〜12枚、ミニゴール(なければコーン2本で代替)。
- 個人:10×10m、ペア:15×20m、小グループ:20×30mを目安。
可動域と股関節を整える動的ウォームアップ
- ヒップオープナー(前進しながら股関節を外回し/内回し)各20m。
- スキップ+ニーアップ:腕振りと膝の引き上げで接地を軽く。
- ラテラルシャッフル:サイドステップで内転筋と外旋筋を活性化。
- レッグスイング(前後・左右)各10回。反動は小さく、徐々に可動域を拡げる。
ボールフィーリングを上げる導入ドリル
- 片足タップ→アウトサイドロール→インサイドロールを連続30秒×2。
- 足裏ストップ&プッシュ:利き足/逆足それぞれ30秒。
- ショートパス交換(8〜10m):ワンタッチ→ツータッチを交互に1分ずつ。
基本技術の土台づくり(キックの質)
インサイド・インステップ・アウト:使い分けと長所短所
- インサイド:正確性が高い。短中距離で足下/スペースに最適。読まれやすい角度になりやすい。
- インステップ:スピードと伸び。中長距離の背後狙いに有効。ミート精度が必要。
- アウト(足の外側):角度を隠せる。相手の重心と逆を突きやすいが習熟が要る。
バックスピン/サイドスピンの使い分けと出球の違い
- バックスピン:伸びて落ちる。背後スペースで止まりやすく、裏抜けに合わせやすい。
- サイドスピン:カーブで守備者を回避。外→中の通しや斜め背後に有効。
ボールスピードとコントロール距離の関係
速い出球はインターセプトを防ぐ一方、受け手のコントロール難度が上がります。受け手との距離・守備者との距離差・走行速度を見て「受け手の2歩以内で触れる速さ」を基準に調整しましょう。
浮き球とグラウンダーの判断基準
- グラウンダー:芝が短く、守備の足が出にくい場面、受け手が前向きで加速中。
- 浮き球:足が届く距離で横(面)を作られている時、相手の頭越し、荒れたピッチ。
視野と認知を鍛える
スキャンのタイミング(1st/2nd/3rd look)
- 1st look(受ける前):背後・ライン間・味方の位置をざっくり把握。
- 2nd look(トラップ直前):受け手と守備者の距離、走る余地を確認。
- 3rd look(出す直前):受け手の加速トリガーとオフサイドラインを最終チェック。
視線で読まれない体の向きと首振り
視線をボールに置きつつ、上体と骨盤の向きで「外へ出す気配」を作り、首振りで中央や背後を確認。視線の一点固定は読まれます。体の向きとステップで情報を隠す意識を。
背後スペースの判定とライン間の見つけ方
- 最終ラインの「肩の向き」がゴール側を向いたら背後が狙い目。
- 中盤ラインの「間隔が縦に割れた瞬間」がライン間。受け手の足下へ。
受け手の「トリガー」を見抜くコツ
- 最初の一歩が前に出る、肩が開く、腕が振り出す=加速合図。
- DFがボールウォッチした瞬間=背後へ差し込みやすい。
受け手の動きと連携
裏抜け・斜めのラン・カーテンランの使い分け
- 裏抜け:最短で背後。直線は読まれやすいので「小さな内外のフェイク」を挟む。
- 斜めのラン:オフサイドを避けつつ視界に入りにくい。ボール保持者との角度を確保。
- カーテンラン:味方の背後を通過してマーカーを連れ出す。3人目のためのスペース創出。
ワンツーと3人目の動きで通しやすくする
縦パス→落とし→スルー(3人目ラン)は定番。中央で詰まる時ほど3人目がカギ。最初の落としの質(スピードと置き所)で通過角度が決まります。
コミュニケーション(声・合図・事前の取り決め)
- 声:裏、足下、時間、待て等の短いキーワードを統一。
- 合図:手の合図やアイコンタクトで事前共有。
- 取り決め:サイドで外→中→裏は「1本目足下、2本目裏」などルール化。
オフサイドラインの理解と駆け引き
受け手はボールが蹴られた瞬間にラインより後ろならOK。出し手は「蹴るモーションで受け手をライン上に誘い、実際はワンテンポ遅らせる」など緩急でズラします。
個人メニュー(1人でできる)
壁当てで通す角度と強度を学ぶ
- 壁から8〜12m。コーンで60〜80cmのゲートを作り、ゲート→壁→ゲートと通す。
- インサイド、インステップ、アウトを各1分。命中率70%以上を目標。
コーンドリルで「狙ったゲート」を通す
- コーン3組のゲート(近・中・遠)を斜めに配置。番号を決めて狙い撃ち。
- 歩数カウントで助走一定化。出球の再現性を高める。
視野トレーニング:番号呼び&カラーコール
- 友人に背後で番号や色を呼んでもらい、首振り→確認→指定ゲートへ。
- 1タッチで間に合わなければ2タッチ可。正確さ優先。
室内・狭いスペースでの代替メニュー
- ミニゲートに対するフットサルボールでのパス精度練習。
- 片足バランス+ワンタッチパス(ソファーや的に軽く)。関節に無理はしない。
ペアメニュー(2人でできる)
タイミング合わせのゲート通し
- 出し手12m、受け手はオフサイドライン役のコーンと並走。合図で斜めに加速。
- 出し手は受け手の2歩先へ。10本中7本成功を目標に距離調整。
受ける足を指定して通すドリル
- 受け手の右足/左足の外側に置く。声で「右/左」を宣言。
- 次は無言で合図(手や身体の向き)だけで通す。
浮き球/グラウンダー切り替えドリル
- 受け手が腕を上げたら浮き球、下げたらグラウンダー。出し分けを素早く。
- 弾道は低めのチップキックから。受け手は最短で前進し1タッチで前を向く。
誘いパスとフェイクでズラす練習
- 一度足下に見せるタッチ→アウトで裏。出し手の体の向きを演出。
- 受け手は止まるフェイク→一気に加速。メリハリ重視。
小グループメニュー(3〜6人)
3人目の関与で角度を作るトライアングル
- 三角形配置。A→B(落とし)→Cへスルー→Cがフィニッシュのゲート通過。
- 落としの置き所を「Cの通しやすい角度」に限定。左右交互に回す。
ミニゴールを使った制限付きポゼッション
- 3対2+ミニゴール2基。縦突破のみ得点。ライン間通過で追加点。
- タッチ制限2〜3でテンポを作る。
数的優位を見つけるゲートゲーム
- エリア内に複数ゲート。味方2人対守備1人の局面を作り、スプリット→前進。
- ゲート通過で1点、背後ゲートは2点。狙いの優先順位を学ぶ。
制限時間・タッチ数制限のバリエーション
- 5秒以内に前進ゲート通過で加点。意思決定のスピード向上。
- 片側だけフリーマン配置で前進の角度を固定化→成功体験を積む。
チーム練習への接続
縦ズレを作るビルドアップからのスルー
- CB→IH→FW落とし→WG裏へ。相手中盤の縦ズレ発生がトリガー。
- IHは半身で受け、次の角度を作ってから刺す。
サイドでの外→中→裏のパターン
- SB→WG(外)→IH(中)→FW(裏)。2本目でスピードアップ。
- 相手SBの視線がボールに固定された瞬間に背後。
ブロックの背後を狙うトリガー共有
- 相手のプレススイッチ(縦に出てきた瞬間)を合図に空いた背後へ。
- 逆サイドのWGは一列目から裏へ「先に動く」。
セットプレーで使うスルーパスの設計
- CK/間接FKでショート→角度をずらして低いスルー。合図は手の形で統一。
- 壁の外側を回すサイドスピンでニア裏を狙う。
ポジション別の狙いと練習
FW:最後の一歩と駆け引きの質を上げる
- ライン上フェイク→一歩下がる→再加速。最初の3歩を全力で。
- ワンタッチフィニッシュのゲートを背後に設置して精度を上げる。
ウイング:外→中の斜め通しと背後アタック
- タッチライン沿いで受け、内側に置くファーストタッチで角度を作る。
- 外切りドリブル→アウトで斜め裏へ。読まれにくい。
インサイドハーフ/10番:半間からのスプリットパス
- CBとSBの間、CHとCBの間を割る。半身で受けて素早く縦を選択。
- ゲート小さめで「通過コースの精度」を最優先に。
ボランチ:縦パスで前進を促すリスク管理
- 縦→横→縦のリズムで相手のスライドを遅らせる。
- 失った瞬間のカバー位置を決めてから刺す。二列目の即時奪回を前提に。
SB/CB:深い位置から裏を刺す配球と角度作り
- サイドチェンジのモーションから低いスルー。長い助走で読ませない。
- 相手WGの背中を通す弾道。サイドスピンで外から内へ曲げる。
戦術的理解を深める
相手ブロックの種類と狙うスペース
- 4-4-2:CHの横、CB-SB間の溝。斜め通しが効く。
- 4-3-3:アンカー脇と最終ライン背後。半間の受け手を作る。
- 5バック:WBの背中とCB間。サイドで外→中→裏の素早い連携。
読まれにくいフェイクと体の向き
- 踏み込みの幅を同じに保ち、インサイド/アウトの出し分け。
- トラップで逆足に置く→同サイドに通す「逆矢印」でDFの体重を逆へ。
リスク管理:失っても即時奪回できる配置
- 出し手の背後にカバーを1枚。サイドなら内側の出口を閉じる位置取り。
- 縦パス後に「前向きの守備」を作るため、近くの2人は即時圧縮。
天候・ピッチ状況別の選択(芝・人工芝・土)
- 天然芝短:グラウンダーが速い。強度はやや弱めでも届く。
- 人工芝:バウンドが素直。速さが出やすい分、受け手前でやや減速。
- 土:イレギュラー多め。浮き球やバックスピンで調整。
失敗から学ぶチェックリスト
通らない典型例と修正ポイント
- 強すぎ:受け手から離れすぎ。次は「2歩先」基準に。
- 弱すぎ:DFが追いつく。助走を一定化、足首を固定。
- 読まれる:体の向きが早い。最後に「逆足に置く」フェイクを追加。
ミスが続く時の判断の引き算
- 難度を下げる:距離短縮→角度広め→受け手のスピード落とす。
- 選択肢を2つに限定:足下か背後のどちらかに集中。
自主練の自己分析シートの作り方
- 項目:視野(スキャン回数)、タイミング(合図との一致)、質(コース/速さ)。
- 10本単位で○×記録。成功要因/失敗要因を1行でメモ。
動画で見るべき3つの指標(視野・体向き・出球)
- 首振り:受ける前/出す前の回数とタイミング。
- 体向き:半身で受けているか、最後の一歩で角度を隠せているか。
- 弾道:受け手の2歩先に止まるか、DFの足の届かないコースか。
計測と上達の見える化
KPI例(成功率・前進距離・決定機創出)
- 成功率:意図した受け手がプレッシャー下でも前を向けた割合。
- 前進距離:スルーパス後にボールが前進した合計メートル。
- 決定機創出:シュート/決定機につながった回数。
週次プランと負荷管理
- 週3回:技術(個人)→連携(ペア/小グループ)→ゲーム化の順。
- RPE(主観的運動強度)で7/10以上が続く日は本数を20%減らす。
テストメニューと合格基準
- 15mゲート通し20本:目標成功14本以上(左右/弾道ミックス)。
- ペアの裏抜け10本:オフサイドなし+受け手2タッチ以内で前進7本以上。
メンタルルーティンと集中のスイッチ
- 呼吸3回→狙いの言語化(「2歩先、低く速く」)→助走一定化。
- ミス後はリセットワードを決める(「次の一本」)。
安全とコンディショニング
怪我予防(ハムストリングス・股関節)
- ノルディックハム(補助あり)週2回。少回数でOK。
- ヒップヒンジ系(グッドモーニング/ブリッジ)で後鎖を活性化。
クールダウンと翌日のケア
- 心拍を落とすジョグ3分→静的ストレッチ(ハム/腸腰筋/内転筋)。
- 軽い可動域ドリルで翌日の張りを軽減。
過負荷を避けるボリューム設計
- 高強度の裏抜けドリルは合計40〜60m×6〜8本で様子見。
- 疲労が強い日は技術中心(角度とコースの精度)へ切替。
成長期への配慮と保護者のサポート
- 痛みが出たら中断。特に膝周り・踵周りは無理をしない。
- 水分/睡眠/食事(炭水化物+たんぱく質)で回復を後押し。
よくある質問
足が遅いとスルーパスは無理?
足の速さは有利ですが必須ではありません。角度とタイミングで優位を作れます。受け手の「斜めのラン」と出し手の「アウトサイドの出し分け」で十分通せます。
相手が引いて守る時の通し方は?
ライン間→落とし→背後の3人目を徹底。幅を取り直して相手の横スライドを増やし、ズレた瞬間に刺すのがコツです。
フィジカルが強い相手への工夫
体を当てられる前に出す。受け手は「背中を預ける前に一歩外へ」ずらしてマークを剥がします。ボールは足下ではなく2歩先へ。
キック精度が不安な時のメニュー優先順位
- 壁当て(角度/強度)→ゲート精度→ペアのタイミング→小グループの3人目。
- 弾道はまず低く速く、次にサイドスピン、最後にチップの順で習得。
今日から始める15分メニュー
5分ウォームアップ
- ヒップオープナー20m×2+レッグスイング各10回。
- ボールタップ30秒×2+ショートパス1分。
5分ドリル(個人/ペア)
- 個人:ゲート通し(近→中→遠)各40秒×2。
- ペア:タイミング合わせのスルー10本。合図→2歩先に置く。
5分ゲーム形式
- 2対1のゲートゲーム。通過で1点、背後通過は2点。タッチ2制限。
進捗の記録方法
- 成功本数/合図一致率/前進距離(歩数で可)をメモ。
- 次回の1つだけ改善点を書く(例:助走一定化)。
まとめ:一歩先が見えるとパスは通る
明日につながる復習ポイント
- 視野→タイミング→質の順に確認。2歩先基準を忘れない。
- 体の向きで角度を隠す。最後の一歩で決める。
- 3人目を絡めれば通る確率は一気に上がる。
継続のコツと次のステップ
- 今日の15分を積み重ねる。週ごとにKPIを1つだけ更新。
- 小さな成功体験(ゲート成功率、タイミング一致)を記録して再現。
- 慣れたら動画でチェックし、首振りと弾道を微修正。
スルーパスはセンスだけでなく、準備と仕組みで「通る」ようになります。視野・タイミング・質を今日から整えて、一歩先にボールを置く感覚を育てていきましょう。
