この記事では、サッカーの「トラッキングデータ」を、現場で役立つ目線でわかりやすく解説します。選手やボールの動きを数値で読み解くことで、プレーの良し悪しを「なんとなく」から「理由がある」に変えられます。用語はシンプルに、今日から使える視点とチェックリストまで一気通貫でお届けします。
目次
- はじめに:なぜトラッキングデータが必要か
- トラッキングデータとは?基本の定義と仕組み
- 取得方法の種類(GPS/光学式/LPS)の特徴と選び方
- どんな数値が取れるのか:個人KPIの基礎
- チーム戦術を読む数値:集団・陣形KPI
- イベントデータとの統合:プレーと動きを重ねて読む
- ケーススタディ:90分を数値でたどる分析手順
- ポジション別の読み方と指導ポイント
- トレーニング設計への落とし込み
- コンディション管理と怪我予防での活用
- 導入ガイド:アマチュア・学校・育成年代で始めるには
- KPI設計とダッシュボード:迷わない可視化
- よくある誤解と落とし穴
- 法的・倫理的配慮とデータガバナンス
- 伸びしろを測る:ベンチマークと目標設定
- これからのトラッキング:AIと空間価値の最前線
- 用語集(クイックリファレンス)
- まとめ:明日の練習で試すチェックリスト
- おわりに
はじめに:なぜトラッキングデータが必要か
直感と数値の橋渡し
サッカーは感覚のスポーツですが、感覚だけでは見落とす事実が必ずあります。トラッキングデータは「速い・遅い」「寄せが甘い」といった印象を、速度・距離・タイミングといった客観数値に置き換え、議論の土台をそろえてくれます。コーチと選手の目線を合わせるための共通言語、と考えるとイメージしやすいはずです。
勝敗に直結する“運動量と位置”を可視化する意義
勝敗を左右するのは「どれだけ走ったか」だけでなく、「どこを、いつ、どの速さで動いたか」です。チームの幅・奥行き、ライン間距離、ボール奪回までの到達時間などは映像だけでは見切れません。トラッキングは、その空間と時間の使い方を定量化し、ゲームモデルの達成度を確かめる道具になります。
読者がこの記事で得られること
基本の仕組みから取得方法、個人・チームのKPI、活用ステップ、怪我予防やトレーニング設計まで、導入と運用の勘所を一気に学べます。最後には、明日の練習で使えるチェックリストも用意しました。
トラッキングデータとは?基本の定義と仕組み
トラッキングデータの定義(選手・審判・ボールの位置と速度の時系列)
トラッキングデータとは、ピッチ上の選手・審判・ボールの位置座標を時間とともに記録したデータです。位置の時系列から速度、加速度、移動方向などが導かれます。基礎は「いつ・どこに・どれだけ速く」いたかの連続記録です。
イベントデータとの違いと補完関係
イベントデータはパス・シュート・タックルなど「起きた出来事」。トラッキングは「出来事の間の動き」。両者は補完関係で、例えば「プレスが間に合わない」の原因が距離なのか、立ち位置なのか、タイミングなのかを合わせて検証できます。
座標系・サンプリングレート・精度の基本概念
座標系は通常、ピッチを長辺(x)×短辺(y)の直交座標に正規化します。サンプリングレートは1秒間の記録回数で、ウェアラブルは10〜18Hz程度、光学式は25Hz以上もあります。精度は機材と環境に依存し、数十センチ単位の誤差が生じる前提で解釈することが重要です。
取得方法の種類(GPS/光学式/LPS)の特徴と選び方
GNSS/GPSウェアラブル:利点・制約・屋外での注意点
利点は携帯性とコストの手頃さ。屋外のフルピッチで使いやすく、選手個別の負荷モニタリングに向きます。一方で高層建物や天候の影響、瞬間的な加速の推定誤差は残ります。装着位置のブレやジャージの上げ下ろしも精度に響くため、運用ルールを固定しましょう。
光学式(カメラ)トラッキング:精度・環境条件・設置要件
複数カメラで全体を追う方式。チーム戦術の可視化に強く、ボールとの同期が取りやすいのが特徴です。設置とキャリブレーションの手間、暗所・逆光・死角への配慮が必要で、固定スタジアムでの運用に向きます。
LPS/UWB(ローカルポジショニング):屋内外での活用と特徴
スタジアムや体育館内に基準局を置く方式で、短距離でも反応が速く、屋内競技やハーフピッチの練習に適しています。初期設営が必要ですが、加減速の検出に強いケースが多いです。
ハイブリッド手法と自動タグ付け(ボール・イベントとの同期)
ウェアラブルと光学を組み合わせ、ボール接触のタイムスタンプやイベントを自動で紐づけると分析の一貫性が増します。同期誤差(数フレーム)を許容範囲で管理し、同じ時計基準で収集するのがコツです。
現場で起こりやすい計測誤差と対策
よくあるのは装着のズレ、機器の再起動忘れ、スタート・ストップの時刻ずれ。対策は「装着者とチェック係の分担」「キックオフ時の同期合図」「同一ピッチでのキャリブレーションの徹底」。雨天時は防水ケースと予備ベストを準備しましょう。
どんな数値が取れるのか:個人KPIの基礎
総走行距離と速度帯(ウォーク/ジョグ/ハイスピード/スプリント)
総走行距離は活動量の全体像。加えて速度帯を分けると強度の質が見えます。例として、ウォーク〜ジョグ、ミドル、ハイスピード(約19.8km/h以上)、スプリント(約23〜25km/h以上)など。チームで統一基準を決め、比較の土台を固定しましょう。
ハイスピードラン・スプリント回数と持続時間
回数だけでなく、1回あたりの持続時間や連続発生の間隔が重要です。短いスプリントが連続するのか、長いハイスピードが続くのかで、必要な持久力と筋出力が変わります。
加速・減速(加速度/減速度)の頻度と強度
ゲームの負荷は加減速に表れます。一定のしきい値(例:±2〜3m/s²以上)を超えた回数や合計値を追うと、筋・腱への機械的負荷を推定できます。速度だけでは見えない「効いた場面」を拾えます。
最大速度・反復スプリント能力の近似評価
試合中に出た最大速度は、スピードの上限と技術の両方の指標。さらに、短時間に繰り返したスプリントの回数や落ち込み率を見れば、反復スプリント能力の近似評価が可能です。テストデータがあれば併用が望ましいです。
方向転換・停止再加速の負荷(メカニカルロードの考え方)
方向転換の角度や停止→再加速の頻度は、試合のタフさを物語ります。合計ベクトル変化量や急激な方向変換回数を指標化すると、筋骨格系の負担管理に役立ちます。
ポジション別活動量プロファイルの作り方
同じ90分でも、CFとSBでは求められる動きが違います。3〜5試合の平均値を基準に、試合コンテキスト(相手・スコア・天候)をメモしてプロファイルを作成。これが個人の目標設定とトレーニング処方の基準になります。
チーム戦術を読む数値:集団・陣形KPI
チーム幅と奥行き、コンパクトネスの定量化
幅は最も左右に開いた選手の距離、奥行きは前後の最大距離。守備時にこれらが小さいほどコンパクト。さらに凸包面積(外側を囲った面積)で陣形の広がりを測る方法もあります。
ライン間距離と最終ラインの高さ
DF-MF間、MF-FW間の距離を一定間隔で測ると、縦のつながりが見えます。最終ラインの平均位置は、守備の高さとリスク選好のバロメーターです。
チーム重心(セントロイド)の位置と移動スピード
全選手の平均位置(重心)がどこにあるか、どれくらいの速さで前後に動くかを追うと、試合の流れや押し引きが客観化できます。得点直前は重心が前傾するなど、パターンが現れます。
レーン占有率とサポート距離の分布
縦5レーンや7レーンで見た分布は、幅取りと中央の使い方の癖を示します。ボール保持者から5〜15mのサポート距離分布は、パスの選択肢の多さと角度の質の手がかりです。
プレッシング密度と到達時間の近似指標
ボール保持者の周囲一定半径内の守備人数や、最初のプレッシャー到達までの時間を測ると、プレス強度を定量化できます。映像の印象を補完する、便利なチーム指標です。
守備ブロックのスライドとギャップ検出
ボール移動に対するブロック全体の横スピードや、ライン間の急拡大は危険サイン。連続的に見ることで、スイッチの遅れや個別のズレを早期に発見できます。
イベントデータとの統合:プレーと動きを重ねて読む
ボールタッチのタイムスタンプと走行データの同期
パス受けの瞬間に受け手が静止か動き出しか、タッチ前の2秒で速度がどう変化したかを見ると、受け方の改善点が具体化します。同期は同一時刻基準で揃えるのが鉄則です。
パスネットワーク+ポジショニングの組み合わせ
パスの矢印だけでなく、そのときの相対位置と幅・奥行きを重ねると、ネットワークの意味が深まります。安全な横パスが増える背景が、立ち位置なのかプレス回避なのかが見えてきます。
ショット前後の走路とマークの崩れ
失点シーンはショット直前の10〜15秒で、守備者の視野角と走路が乱れがち。誰がどこで減速したか、誰が二者択一で迷ったかを数値で確かめると、再発防止につながります。
カウンタープレスの成功率と回収位置
ボールロスト直後の5秒間に、何m以内で何人が圧力をかけ、どのゾーンで回収できたか。回数だけでなく、平均回収距離がゴール方向に近いかをセットで見ましょう。
PPDAなどイベント指標との併用で注意すべき前提
PPDAはパス本数依存の指標。相手のビルドアップ志向や試合状況に影響を受けます。トラッキングで到達時間やライン高さを合わせて解釈することで、誤読を避けられます。
ケーススタディ:90分を数値でたどる分析手順
目的設定と仮説立案(例:プレス強度の維持)
まず「何を確かめるか」を一つに絞ります。例:前半はプレスが効いたが後半に落ちた—その要因が到達時間か、ライン高さか、交代後の連携か、仮説を立てます。
データクリーニングと外れ値チェック
重複データ、装置のドロップ、非アクティブ時間(ベンチ・治療)を除外。速度ゼロの連続や異常な急加速はフラグを立て、分析から外すか補正します。
時間帯別(0-15/15-30…)とフェーズ別(攻/守/トランジション)の分解
15分刻みとフェーズで切るだけで、見え方が一気に変わります。守備フェーズのハイスピードと加速回数、攻撃フェーズのサポート距離など、フェーズ適合の指標を選びます。
キーモーメントの抽出と前後30秒の動線比較
得点・失点、決定機、カードの直前直後30秒を重ねて走路を比較。成功時と失敗時の違いを、距離・角度・人数で言語化します。
結果をコーチング言語へ翻訳するテンプレート
「事実(数値)→解釈(なぜ)→行動(次にどうする)」の順に整理。例:「失点1の直前、最終ラインが7m低下(事実)→縦スライドが遅れた(解釈)→SBはスプリント閾値を超える戻りを指示、IHは内側圧縮を優先(行動)」。
ポジション別の読み方と指導ポイント
CF/ウイング:裏抜けタイミングと幅取りの定量化
最終ライン裏へ走る前の加速タイミング(ボールホルダーの持ち上がりに対する秒差)と、タッチラインとの距離が鍵。外に広げて内を空ける動きがどのくらい再現できているかを数値で確認します。
インサイドハーフ/ボランチ:サポート角度と前進支援距離
受け手に対する角度(約90〜120度の範囲)と距離(5〜12m)を維持できるか。前進時の連続サポート距離が長い選手は、前進の安定装置になりやすいです。
SB/CB:ラインコントロールとリカバリー走の閾値設定
最終ラインの同期(上下動の標準偏差)と、背後対応の初動速度がポイント。リカバリー走は個人のスプリント閾値で測り、発生回数と平均距離を管理します。
GK:守備範囲・スイーパー対応の初速と距離
背後ボールへの最初の3〜5mの初速、スイーパー対応の平均回収距離、ライン背後のカバー頻度が、チームの高さを支えます。被裏抜け時の到達時間とセットで評価しましょう。
交代選手のインパクト測定(短時間での指標選択)
短時間では、スプリント頻度/10分、加速回数/10分、プレス到達時間の変化に絞ると効果が見えやすいです。ボール関与回数は文脈依存なので、走力系と併読が無難です。
トレーニング設計への落とし込み
ゲームモデルとKPIを連動させるドリル設計
「やりたいサッカー」から逆算してKPIを選び、そのKPIが必ず出るドリルを組みます。例:高いプレス→短い回復時間の反復スプリントが起きる設定に。
速度帯・加減速・方向転換を再現するメニューの組み立て
コーンドリルではなく、ボールと相手を入れた条件付きゲームで出現させるのが近道。角度90度以上の方向転換が増えるルールづくりがポイントです。
小規模ゲームでの負荷コントロール(ピッチサイズと人数)
ピッチをやや縦長にするとハイスピードが増え、正方形に近づけると加減速が増えます。人数を減らすほど個人負荷は上がる傾向。サイズ×人数の組み合わせを意図して設計しましょう。
マイクロサイクルの負荷配分とモニタリング
試合後48時間は負荷を落とし、中盤でピーク負荷、前日は調整へ。トラッキングで速度帯と加減速をチェックし、週内の過不足を埋めます。
反復測定→フィードバック→再設計のサイクル
毎回少量でも測り、すぐ返し、次のメニューを微調整。この小さなサイクルが、長期的な伸びを作ります。
コンディション管理と怪我予防での活用
急性/慢性負荷比(ACWR)の考え方と限界
直近1週間の負荷を直近数週間の平均で割る指標。急上昇はリスクサインになり得ますが、万能ではありません。個人差とコンテキストを必ず合わせて判断しましょう。
個人しきい値の設定(速度帯・加速度の初期値決定)
同じ数値でも体格やポジションで負担は違います。プレテストや過去試合の上位値を基準に、個別の速度帯・加速度しきい値を設定します。
リターン・トゥ・プレーで見る指標の例
復帰段階では、総距離よりもハイスピード距離、強い加減速の回数、方向転換の分布を優先。試合基準の80〜90%を安全に再現できるかを目安にします。
主観的疲労(RPE)との組み合わせ
数値と本人の感覚は両輪。RPEや睡眠・筋痛スコアを一緒に見て、乖離が大きいときは練習設計を見直します。
試合間隔が短い時の負荷調整の実務
2〜3日サイクルでは、移動日と回復日を明確に分け、スプリントは短く質重視。ハイスピードは最小限に、技術・戦術の整理に時間を使います。
導入ガイド:アマチュア・学校・育成年代で始めるには
予算別の選択肢(ウェアラブル/光学/ハイブリッド)
少予算ならウェアラブル数台から、ピリオダイゼーションと併用。固定環境があるなら光学、イベントと合わせたいならハイブリッド。まずは「測る目的」を決めて、無理なく始めましょう。
撮影位置・装着方法・事前チェックリスト
カメラは高所のハーフライン付近を基本に、ピッチ全体が入る位置へ。ウェアラブルは肩甲骨間の専用ベストで固定。試合前チェックは「バッテリー・時刻同期・記録開始・装着確認」の4点です。
データの保管・共有とアクセスコントロール
クラウドかローカルかを決め、バックアップは二重化。アクセス権限は最小限で、閲覧・編集・共有の範囲を役割ごとに設定します。
小規模チームでの役割分担と運用フロー
担当を「装着・記録」「データ整理」「分析・共有」に分け、試合後24時間以内に簡易レポート、72時間以内に詳細版を出す流れが回しやすいです。
屋外・屋内・夜間での運用上の注意
屋外は天候と電波、屋内は反射と設置位置、夜間は照度を確認。予備機材と延長ケーブル、固定具は必ず持参しましょう。
KPI設計とダッシュボード:迷わない可視化
“少数精鋭”のKPI選定基準
一度に追うKPIは3〜5つに絞ると浸透します。「目的に直結」「行動に変換可能」「継続測定しやすい」の3条件を満たすものを選びます。
閾値とカラーリングのルール設計
しきい値は過去平均と標準偏差、もしくはポジション別の上位25%を参考に。色は緑=達成、黄=許容、赤=要改善で統一します。
1枚で伝わるレポート骨子(試合前/試合後/週次)
試合前は狙いとKPI目標、試合後は実測と差分、週次はトレンドと次週の処方。1枚で全員が読めるよう、用語は最小限にしましょう。
トレンド・分布・相関を使い分ける
トレンドは継続の変化、分布はバラつき、相関は関係性の仮説出しに使います。強い因果を断定しないことが肝心です。
過年度比較とコンテキストの付与
季節・相手・会場など条件をそろえて比較。コンテキストをメモに残すだけで、データの解釈精度が上がります。
よくある誤解と落とし穴
走行距離が多い=良いとは限らない
距離が多くても効率が悪い走りかもしれません。速度帯や加減速、発生した文脈とセットで評価しましょう。
スプリントの定義が違うと比較できない
しきい値や最小持続時間が違えば別物です。比較の前に定義を必ず明記し、同じ土台で話しましょう。
装着位置や天候・ピッチ条件が精度に影響
装着ズレ、強風、ぬかるみは誤差の原因。測る前に整える、が最も効く精度向上策です。
数値が戦術を決めるのではなく戦術を検証する
データは羅針盤であって目的地ではありません。先に戦術の意図があり、数値はその実行度を確かめるために使います。
サンプルサイズとバラツキの見落とし
1試合だけの数値で結論づけない。最低でも数試合、できれば状態の異なる試合を混ぜて判断しましょう。
法的・倫理的配慮とデータガバナンス
プライバシーと同意取得(特に未成年)
個人データの取得には事前の同意が必須。未成年は保護者の同意も必要です。目的、範囲、期間を明確に伝えましょう。
匿名化・保管期間・アクセス権限の設計
分析用には匿名化し、保管期間を定め、役割に応じたアクセス権限を設定。退団・卒業時の取り扱いも規程化します。
第三者提供のルールと契約上の確認事項
外部ベンダーや大会運営への提供は、契約で目的外利用の禁止、再提供の制限、削除手続を明記します。
チーム文化としてのデータの扱い方
「監視」ではなく「成長のための道具」。透明性のある説明と、選手が自分のデータにアクセスできる環境づくりが信頼を生みます。
伸びしろを測る:ベンチマークと目標設定
自チーム内ベンチマークの作り方(ロール別)
同ポジション内の上位平均を「社内基準」に設定。身長・年齢・役割を考慮し、フェアな比較軸を作ります。
中期目標と短期目標のリンク
3カ月の到達点から逆算し、週次の小目標に落とす。達成時は次のレベルへ、未達時は処方を修正します。
指標間のトレードオフ管理(負荷と効率)
スプリント回数を増やすと翌日の回復コストが増えるなど、指標は連動します。短期と長期のバランスを見ながら調整しましょう。
ピーク需要(試合の最も厳しい1〜5分)への合わせ込み
最も厳しい時間帯の要求値に練習で触れておくと、試合での「初体験」を減らせます。短時間・高強度の反復を安全に設計します。
これからのトラッキング:AIと空間価値の最前線
ピッチコントロールとスペース価値の推定
各選手の到達可能範囲から「どのエリアを誰が抑えているか」を推定できます。守備の影響範囲を可視化することで、最適な立ち位置が具体的になります。
期待脅威(xT)など空間モデルとの連携
ボール位置と方向から「そこに置くとどれだけ脅威が上がるか」を数値化するxTを、ポジショニングと重ねると、パスの意図と価値が明確になります。
機械学習によるフェーズ自動分類の活用例
動きの特徴から自動で攻守やトランジションを分類する技術が進んでいます。人手を減らし、分析の再現性を高める助けになります。
軽量センサー・統合プラットフォームの進化
装着負担の少ないデバイス、映像・イベント・走行の一体管理が進化中。導入・運用の壁は年々下がっています。
用語集(クイックリファレンス)
速度帯/ハイスピード/スプリント
移動速度の区分。ハイスピードは概ね19.8km/h以上、スプリントは23〜25km/h以上など、チームで統一して使います。
加速度/減速度/機械的負荷
速度の変化率。強い加減速や方向転換が積み上がると、筋・腱への負担(機械的負荷)が増えます。
コンパクトネス/チーム幅・奥行き
守備時の密度や陣形のまとまり。幅と奥行きが小さいほどコンパクトに守れている目安になります。
セントロイド/ピッチコントロール
チームの重心位置と、各選手が抑えられる空間の推定。押し引きやスペース管理の評価に使います。
ACWR/主観的運動強度(RPE)
急性/慢性負荷比と、選手が感じる運動強度。客観と主観を併用して状態判断を行います。
まとめ:明日の練習で試すチェックリスト
試合前に確認する3項目(設定・同意・計測)
1. 速度帯としきい値のチーム基準を共有する。
2. 同意取得と配布リスト、装着ルールを確認する。
3. 機器の時刻同期・バッテリー・記録開始をダブルチェック。
試合後24時間で見る3指標(負荷・回復・異常値)
1. 個人のハイスピード距離と強い加減速回数。
2. ポジション別の基準からの差分(多すぎ/少なすぎ)。
3. 異常値(装置ドロップ、極端なゼロ区間)の有無。
次の練習で試す2つのドリル(速度帯×加速/減速)
1. 4v4+3(中立)を縦長ピッチで実施:ハイスピードを意図的に出す。
2. 6v6のサイド制限付き:方向転換と再加速を増やし、加減速負荷を狙う。
おわりに
トラッキングデータは、直感を磨き上げるための拡大鏡です。数値そのものが答えではなく、数値をもとに「なぜ」を話し合い、「どう変えるか」に落とし込むことが肝心。小さく始めて、定義をそろえ、継続して振り返る。この3つを守れば、日々の練習と試合は確実に変わります。明日から、あなたのチームの“動き”を数値で読み始めましょう。
