「走り負けた…」を口にしない90日を、家から始めましょう。屋内でもできる有酸素の土台づくり、反復スプリント能力(RSA)、筋持久、フォーム改善、そして回復までを一本のロードマップにまとめました。器具は最小限でOK。音タイマーと床のテープ、踏み台や縄跳びがあれば十分です。無理なく、しかし確実に「走り勝つ」へ寄せていく実践法をお届けします。
目次
本記事の狙いと「走り勝つ」の定義
試合で必要なスタミナの内訳(有酸素・無酸素・回復力)
サッカーのスタミナは大きく3要素で考えると整理しやすいです。
- 有酸素(ベース):動き続ける土台。心拍を上げすぎずに長時間動ける力。試合中の多くの時間を支える。
- 無酸素(スパイク):数秒〜十数秒のスプリント、プレス、カウンター。ATP-PC系と解糖系の出力が鍵。
- 回復力(間の整え):高強度の後に心拍と呼吸を素早く落とし、次のプレーに備える力。心拍の回復速度、脚の局所疲労の抜けがポイント。
ポジションやレベルで差はありますが、走行は断続的で、短いダッシュと中強度の移動を繰り返します。したがって「長く走る力」だけでも「速いだけ」でも足りません。
家トレで補える部分/補えない部分
- 補える:有酸素の土台、短時間インターバルでの心肺適応、短距離の加減速スキル、下肢の弾性(リバウンド力)、筋持久、呼吸スキル、回復力。
- 補いにくい:芝や土での長距離スプリント、実戦での対人・スペース判断、スパイク着用での減速・方向転換の感覚、チーム戦術下の運動量配分。
家で伸ばせる土台を高めると、グラウンドでの「伸びしろ」を確実に引き上げられます。
90日で目指す到達状態と測定指標
- 安静時心拍:朝の安静時心拍が開始時より5〜10bpm低下を目安。
- 3分ステップテスト(台20〜30cm):終了1分後の心拍が開始時より10〜20bpm低下。
- 1分バーピー回数:+15〜25%を目安(フォーム厳守)。
- 5mシャトルRSA(5m往復×6本、各本10秒以内、休憩20秒):総合タイムの安定(最速と最遅の差を10%以内)。
- Zone2持続:鼻呼吸中心で30分連続が楽になる(RPE3〜4)。
数値は目安であり、体調・経験で差があります。トレンドを見ることが大切です。
90日で走り勝つロードマップ(3フェーズ設計)
フェーズ1 基礎持久(週1〜4):低強度の土台づくり
- 週4〜6セッション、合計150〜240分。
- Zone2有酸素(エアロバイク/踏み台/縄跳びゆるめ)を中心に30〜40分×2〜3回。
- フォームドリルと筋持久のサーキット(20〜30分)を週2回。
- 弾性づくりは低ボリューム(ホッピングやスキッピング各30〜60回、週2回)。
- 足首・アキレス腱のアイソメトリック(痛みがない範囲)で耐久の基礎づくり。
フェーズ2 ビルド(週5〜8):インターバルと反復スプリント能力
- 週4〜6セッション、合計180〜270分。
- 短時間インターバル(20秒オン/10秒オフ × 6〜8本 × 2〜3セット、セット間2分)を週2回。
- 5〜8mシャトル(加減速ドリル)と影走りを週2回。RSA条件での反復。
- 弾性強化を段階的に増量(接地数合計200〜400/回、週2回、48時間空ける)。
- Zone2は維持(30分×1〜2回)し、回復力をキープ。
フェーズ3 ピーク&テーパ(週9〜12):試合特異性と疲労管理
- 週4〜5セッション、合計150〜210分。総量は20〜30%減、強度は維持。
- 試合特異的サーキット(低中高強度を混在させた10〜15分×2セット)を週2回。
- RSAは質重視で短め(6〜8本×2セット)に。
- 最終週はテーパ(量をさらに20〜40%落とし、テストに備える)。
週あたりの時間配分と休養のルール
- 高強度(インターバル/シャトル/弾性)は週2〜3回まで。連日高強度は避ける。
- 低強度(Zone2/モビリティ/アイソメトリック)で間を挟み、48時間で脚を回復。
- 睡眠は7.5時間以上、できれば起床・就寝時刻を固定。
- 週1日は完全休養または超軽め(散歩、ストレッチ)。
家でできる有酸素の土台づくり
Zone2の目安(心拍・RPE)と測り方
- 心拍:最大心拍の60〜70%が目安。測定器がなければ会話可能の強度。
- RPE(主観的きつさ):10段階で3〜4程度。「頑張れば歌えるが歌いたくない」感覚。
- 測り方:手首や首で15秒計測×4。音タイマーで5分ごとにチェック。
エアロバイク/縄跳び/踏み台昇降の使い分け
- エアロバイク:膝・足首に優しく、時間を稼ぎやすい。映画や音声学習と相性◎。
- 縄跳び:リズムと弾性の同時強化。短時間で心拍が上がるため、量は控えめに。
- 踏み台昇降:省スペース。股関節と臀筋の動員を意識しやすい。
省スペース・ファルトレク(音タイマー活用)
例:1分サイクル×20分(40秒楽+20秒やや速い)。5分ごとに30秒のウォークを挟む。リビングでも可能で、心拍の上下を作りやすいのが利点です。
呼吸法とペース配分(鼻呼吸・呼気延長)
- 鼻呼吸を基本にし、息が上がりすぎたら口補助。呼気を長め(吐く:吸う=2:1目安)。
- リズム例:4歩で吸う→6歩で吐く。踏み台や縄跳びのテンポに合わせる。
反復スプリント能力(RSA)を家で鍛える
短時間インターバル設計(例:20秒オン/10秒オフ)
- 形式:20秒高強度→10秒レスト×8本=1セット。セット間2分、2〜3セット。
- 種目:縄跳び速跳び、影走り(その場ダッシュ+方向転換)、マウンテンクライマー。
- 目標:1セット内でパフォーマンス低下を最小化(最後まで動きの質を保つ)。
5〜8mシャトルと影走りでの加減速ドリル
- 設置:床にテープで5m/8mライン。スペースが少なければ5mでOK。
- ドリル:5m往復×6本(1本≒5〜7秒)→20秒休憩×3セット。
- 技術ポイント:減速は最後の2〜3歩で低く、体幹固定。切り返しはつま先だけでなく母趾球でしっかり押す。
下肢の弾性強化(ホッピング/スキッピング)と着地管理
- ホッピング(その場ポゴジャンプ):30回×2〜3セット。膝はロックせず、足首の反発で跳ねる。
- スキッピングA:10〜15m相当をその場でリズム反復30〜40回。
- 着地基準:静かな接地音、膝が内側に入らない、背中が丸まらない。
- 接地数ルール:週の合計接地数(ジャンプ回数)を10〜20%ずつ増やす。違和感があれば据え置き。
筋持久力とフォームの最適化
走りの姿勢づくり(股関節主導・体幹固定)
- チェック:軽い前傾(足首から)、骨盤は起こす、顎は引く、肘は後ろへ引く。
- ドリル:ウォールドリル(壁押しもも上げ)20秒×3、デッドバグ20回、バードドッグ20回。
自重サーキット(スクワット/ランジ/ヒップヒンジ)
40秒動作+20秒レスト×6種目×2ラウンド(計12分)。
- スクワット(テンポ3-1-1)
- リバースランジ(体幹垂直)
- ヒップヒンジ(お尻を後ろへ、背中フラット)
- プランク(肩から踵一直線)
- サイドプランク(左右)
- バックパック加重は後半フェーズから可(5〜10kg目安)。
ハム・ふくらはぎの耐久(ノルディック/カーフレイズ)
- ノルディックハム(補助あり):3〜5回×2セット。降りはゆっくり、戻りは手で補助。
- カーフレイズ(膝伸ばし/曲げ)各15〜20回×2〜3セット。下げは3秒。
- 偏り防止:片脚種目を取り入れる(片脚RDL・片脚カーフ)。
足首と腱のケアでスタミナを守る(モビリティ&アイソメトリック)
- 足関節背屈モビリティ:壁に向かって膝タッチ左右10回×2。
- アキレス腱アイソメ:つま先立ち保持30〜45秒×3。痛みがある場合は無理をしない。
- 足底ケア:ボールコロコロ1〜2分。
サッカー動作に寄せた室内コンビネーショントレーニング
ボールタッチ×有酸素の複合メニュー
例:2分ボールタッチ(インサイド/アウトサイド/ソール)→30秒その場ダッシュ→30秒休憩×6サイクル。低中高強度が交互に来る試合展開を模倣します。
ラダー代替(床目地・テープ)でのフットワーク
- テープでマス目を作り、インインアウトアウト、サイドシャッフル、Ickeyシャッフル各20秒。
- 騒音が気になる場合はつま先接地で静音化。
狭所での方向転換・クロスオーバーステップ
- 3点マーカー(テープ)を三角形に配置。前→右→前→左を連続10回。
- クロスオーバーで腰が流れないよう、肩と骨盤を同方向に素早く回す。
階段ドリルの安全な使い方(加減速・踏み切り)
- 上り:1段おきにパワー歩行10往復。手すりを活用。
- 下り:必ず減速優先。走らず、コントロール重視。
- 足音を小さく、前足部で「置く」感覚を養う。
1週間テンプレートと日別メニュー例
部活ありの週/オフ週の使い分け
- 部活あり:高強度日は重ねない。部活高強度→家はZone2/モビリティ。
- オフ週:RSAとサーキットを週2〜3回、Zone2を週2回、完全休養1日。
時間がない日の15分メニュー(マイクロワークアウト)
例:5分RAMP(軽い有酸素→動的ストレッチ)→5分インターバル(20秒オン/10秒オフ×10)→5分クールダウン(歩き+呼吸)。
雨天・夜間・騒音対策のオプション
- 静音:アイソメトリック、エアロバイク、踏み台、スローテンポ筋トレ。
- 狭小:その場ファルトレク、影走り、ラダーテープ。
ウォームアップ/クールダウンの時短テンプレ
- WU:ジャンピングジャック1分→股関節サークル→もも上げ→バットキック→ウォールドリル(計5〜6分)。
- CD:鼻呼吸ウォーク2分→カーフとハムのストレッチ各30秒→呼気延長呼吸1分。
安全対策とケガ予防
ウォームアップとクールダウンの基本手順
動的で温め、静的は運動後。体温が上がる→関節可動→競技特異の順が基本です。
シンスプリント・アキレス腱の予防ポイント
- 増量は週10〜20%以内(ジャンプ/シャトル回数、総時間)。
- カーフのエキセントリック(下ろし3秒)で腱の耐久向上。
- 痛みが出たら中止→低衝撃(バイク)へ切替。
室内トレの床・シューズ・スペース確保
- 滑りやすい床は避け、マットやラグで摩擦を確保。
- 室内用シューズ推奨。周囲の家具・角は片付ける。
痛みが出たときの判断基準と中止ライン
- 痛みスケール0〜10で5以上は中止。3〜4が48時間以上続けば見直し。
- 腫れ、熱感、鋭い点の痛み、歩行痛は受診を検討。
栄養・水分・睡眠でスタミナを底上げ
炭水化物と鉄のチェックポイント
- 日々の炭水化物を確保(練習量に応じて主食の量を調整)。
- 赤身肉、魚、豆類、葉物で鉄を意識。長引くだるさがあれば専門家に相談を。
練習前後の補食と水分・電解質
- 前:バナナ+ヨーグルト、あんぱんなど消化の良いものを30〜60分前に。
- 後:炭水化物+たんぱく質(例:おにぎり+牛乳、サンド+卵)を30分以内目安。
- 水分:汗量に応じて水+少量の塩分や経口補水。色の濃い尿は不足サイン。
睡眠の質を高める夜のルーティン
- 就寝90分前に入浴→寝室は暗く涼しく。
- カフェインは就寝6時間前まで。スマホの明るさを落とす。
連戦・テスト期間のエネルギーマネジメント
- 練習量を削り、強度は点火程度に維持(10〜15分の質重視)。
- こまめな補食と昼寝20分で回復を補助。
進捗の見える化と自己テスト
安静時心拍・主観疲労・RPEの記録法
- 朝起きてすぐの安静時心拍、睡眠時間、RPE、筋肉痛の部位をメモ。
- 週平均でトレンドを見る(単日の上下は気にしすぎない)。
3分ステップテスト/1分バーピーなど自宅代替指標
- 3分ステップ:一定テンポで昇降→終了1分後心拍を記録。
- 1分バーピー:正しいフォームでの回数。胸を地面につけるかどうかは必ず統一。
- 5mシャトルRSA:最速と最遅の差、合計タイムを記録。
4週ごとの評価と計画の微調整
- 4週目・8週目・12週目にテスト。疲労が強ければ前週を軽めに。
- 停滞時はボリュームを減らし、睡眠・栄養を見直す。
データの見方(トレンドと日々のブレ)
- 移動平均(7日)で緩やかな改善を確認。
- 異常値は体調・睡眠・生活イベントとセットで解釈。
メンタルと戦術的スタミナ
後半に効く自己トークと集中の切替
- キーワードを決める:「低く」「一歩目」「整える」。
- 呼吸でリセット(4秒吸う→6秒吐く×5サイクル)。
ポジション別の動き方の工夫(自宅学習)
- 映像から走り方の配分を観察(スプリントの前後の歩数、休む位置)。
- 自分のポジションでの「休むべき時間帯」を予測する。
ペース配分の意思決定トレーニング
- インターバル中に心拍とRPEを見て最後2本のために余力を残す練習。
疲労下での判断を鍛えるドリル(ボールタッチ併用)
- 30秒高強度→すぐボールタッチでターン3回→色や数字を口でカウント。脳と脚を同時に使う。
親のサポートガイド(家でできる支援)
スケジュール管理と環境づくり
- 週の予定を一枚に見える化。高強度とテストの日は家事協力で時間を確保。
- 安全なスペースの確保(床掃除、障害物除去)。
食事・睡眠の声かけと観察ポイント
- 練習前後に軽食・水分の声かけ。食欲、朝の機嫌、起床のしやすさを観察。
安全監督とモチベーション維持
- フォームが乱れたら中断を促す。頑張りだけでなく「準備と回復」を褒める。
無理をさせないコミュニケーション
- 「今日は軽めにする?」と選択肢を渡す。痛みの自己申告を歓迎する雰囲気づくり。
よくある失敗と解決策
やりすぎ/やらなすぎの見極め
- 朝の安静時心拍が+5〜10bpm、睡眠の質低下、やる気低下はやりすぎサイン。
- 週の総時間が100分未満は効果が出にくい。まずは150分を目標に。
強度設定ミス(心拍・RPE)の修正
- Zone2が高すぎる→鼻呼吸で会話可能に調整。
- インターバルがぬるい→最後2本でRPE8〜9になるよう種目やテンポを調整。
続かないときの仕組み化(習慣化の装置)
- If-Thenルール:「帰宅したらすぐ5分ウォームアップ」「歯磨き後にストレッチ」。
- 可視化:カレンダーに◯×、3日空けないルール。
痛みを我慢して悪化させるのを防ぐ
- 痛みが出たら「中止→軽負荷代替→再評価」。我慢大会にしない。
90日アクションチェックリストとまとめ
スタート前の準備品リスト(最低限の器具)
- 音タイマーアプリ、床用テープ、縄跳び、踏み台(20〜30cm)、ヨガマット。
- ミニコーン代替(ペットボトルや紙コップ)、抵抗バンド、バックパック(加重用)。
- 水筒、タオル、メモ用ノート(記録)。
1日のルーティンチェック(実施・記録・回復)
- 実施:WU→メイン→CDを最短15分でもやり切る。
- 記録:RPE、心拍、回数/タイム、睡眠、痛み。
- 回復:補食・水分、軽ストレッチ、就寝準備。
12週の到達目標と次の一手(継続計画)
- 到達目標:Zone2の快適化、RSAの安定、下肢の張りの軽減、テスト数値の改善。
- 次の一手:グラウンドでの直線20〜30mスプリント追加、対人を含む判断練習へ橋渡し。
家で積み上げた「動き続ける力」と「繰り返し切り替える力」は、試合でのペース配分とラスト15分の差に直結します。
あとがき
家トレは地味に見えて、実は一番ブレずに効いてくる“勝ち筋”です。今日の5分、明日の10分。その積み重ねが90日後、「走り勝つ」自分を作ります。無理なく、しかし確実に。さあ、音タイマーを押して、最初の1分を動き出しましょう。