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トップ下ポジションの発展型「トレクァルティスタ」とは?役割と特徴を徹底解説

サッカーの「トップ下」という言葉には、多くの人が華やかでクリエイティブなプレーヤーをイメージするかもしれません。そのトップ下ポジションからさらに進化したものが「トレクァルティスタ」です。ここでは、トレクァルティスタの正体、歴史、役割、世界や日本での例、なり方やトレーニング方法まで、徹底的に分かりやすく解説します。高校生以上で本格的にサッカーに打ち込む方はもちろん、サッカーに情熱を燃やすお子さんを持つ保護者の方にも、トレクァルティスタというポジションの奥深さと現代的な価値、才能を伸ばすためのヒントをお伝えします。

トレクァルティスタとは?トップ下の進化型ポジションを知る

ポジションの基本概要

トレクァルティスタとは、主にフォワードのすぐ後ろでプレーする攻撃的なミッドフィルダー(通称:トップ下)の進化型に位置づけられるポジションです。単なる司令塔という枠を越え、自由な立場から攻撃全体をけん引し、得点やアシストで直接的に試合を左右するプレーヤーが該当します。

サッカーのピッチを縦に4分割した際、上から3/4地点(ゴールから見て敵ゴール寄りの最後の1/4=ペナルティエリア付近)で主にプレーするのがこのポジションの特徴です。攻撃時の“頭脳”と呼ばれる存在であり、「自由に動き、攻撃の起点もフィニッシュも担う」のがトレクァルティスタの大きな特徴です。

名称の由来と意味

「トレクァルティスタ(Trequartista)」はイタリア語に由来する用語で、”tre”は「3」、”quarti”は「4分の」、”sta”は「立っている人」を意味します。英語圏では「three-quarters position player」と訳されることも。つまり「ピッチの3/4地点でプレーする選手」というニュアンスを持っています。

この名称の通り、トップ下よりもいっそう自由な移動と発想を与えられ、守備の義務は抑えめに、攻撃面を最大限発揮することが期待されているのがトレクァルティスタです。

トレクァルティスタの歴史的背景と登場の経緯

ヨーロッパサッカーでの発祥

トレクァルティスタという概念は、主にイタリアや南米(特にアルゼンチン、ブラジル)サッカーで発展しました。1980~90年代、守備的な戦術が主流だった時代に、その均衡を破る“イマジネーションあふれる選手”が必要になったことが誕生の背景にあります。

当時のイタリアセリエAでは、カテナチオと呼ばれる守備的戦術が世界トップレベルの堅牢さでした。その盾を崩すため、マラドーナやロベルト・バッジョのような「創造性の鬼才」が求められ、必然的に“自由と攻撃性”が合わさった新型のトップ下=トレクァルティスタが生まれたのです。

戦術変遷と役割拡張

1990年代後半から2000年代にかけては、従来の「トップ下」からトレクァルティスタへ役割が拡大。従来のトップ下が定位置でボールを受けてパスを散らしていたのに対し、トレクァルティスタは動きの自由度が増し、状況に応じてサイドやゴール前へ飛び出すことも求められるようになりました。

この変化は“個の力”と“創造性”が最大限に活きるポジション設計とも言え、特にヨーロッパのトップリーグや南米のビッグクラブで重宝される存在へと進化したのです。

トレクァルティスタの主な役割と求められるスキル

ゲームメイクと創造性

トレクァルティスタの核となる仕事のひとつは「ゲームメイク」です。ピッチ上での位置関係や相手守備陣の間隙を見抜き、意表を突くパス、または自らの突破で攻撃のリズムを作ります。

ドリブル・パス・シュートのすべてで高い創造性が必要とされます。敵が予想しないタイミングや方法で攻撃を展開する柔軟な思考・技術が不可欠です。

ポジショニングとスペース活用

「いつどこでボールを受けるか」「どのスペースを使うか」「どのライン間へ進出するか」といった“ポジショニングの妙”が、トレクァルティスタの生命線。両サイドやゴール前の間隙に忍び込む動きによって、ディフェンダーを翻弄し、仲間のチャンスも生み出します。

ピッチ全体の状況を常に把握し、限られたスペースの中で最適な場所とタイミングを選び抜く判断力とプレービジョンが必須です。

得点力・アシスト力

従来のトップ下と比較すると、トレクァルティスタはより直接的な「得点力」も強く要求される傾向があります。ゴール前での冷静なフィニッシュや、アシストへの精度と発想に富んだプレーが求められます。

味方FWへの決定的なパスだけでなく、自らミドルシュートやゴール前への飛び出しで得点を挙げることもトレクァルティスタの持ち味となっています。

戦術眼・判断力

ピッチ全体を見る「戦術眼」と、瞬時にベストな選択を下す「判断力」も必要不可欠。対戦相手の守備ラインを崩すために、時にはゲームテンポを遅らせたり、逆に早めたりするなど、試合の流れを読むセンスが求められます。

また、ミスした後にもすぐ次のアイディアを展開できる“切り替えの速さ”や、“状況適応能力”もトレクァルティスタには重要な要素です。

従来型トップ下とトレクァルティスタの違い

プレーエリアの広がり

従来型のトップ下は、前線2列目の中央でプレーし、比較的限られたスペースを主戦場としてきました。それに対して、トレクァルティスタは中央にとどまらず、サイドや最前線まで流動的にポジションを取りながら、ピッチ全体を幅広く使います。

この自由な“動きの幅”があるからこそ、相手守備をかく乱し、多彩な攻撃の起点となることができるのです。

攻撃・守備への関与度合いの違い

従来のトップ下は攻撃時の起点として振る舞う一方、守備時の役割は限定的でした。トレクァルティスタは、守備面では比較的自由を与えられる分、攻撃面での貢献度がよりシビアに問われます。

ただし、現代サッカーではトレクァルティスタであってもプレスやカウンター時のポジショニングなど、一定の守備意識も求められています。

現代サッカーにおけるトレクァルティスタの位置付け

役割の多様化

ここ数十年でサッカーはさらに進化し、「トップ下」という呼び名自体が多義的になっています。その中で、トレクァルティスタは“特殊な役割を与えられた選手”として、多様化を遂げています。

例えば、単独でトップ下に据えることもあれば、ウイングや「偽9番」など、位置や役割を柔軟に変えることで相手の守備を揺さぶる手段として機能します。

戦術的な評価の変化

かつては「守備での負担が少ない攻撃専門職」として重宝されていましたが、現代サッカーにおいては“攻守一体”が主流。トレクァルティスタに守備的な役割も適度に担わせつつ、一方では攻撃で唯一無二のインパクトを求め続ける、非常に高度で専門的なポジションとなっています。

この傾向は、育成年代からトップレベルに至るまで、ポジションの専門性や万能性の双方が求められる現代的なサッカー観に起因しています。

世界と日本におけるトレクァルティスタの実例

世界的な有名選手の事例

世界を代表する「トレクァルティスタ」としてよく名前が挙がるのは、ディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)、ロベルト・バッジョ(イタリア)、フランチェスコ・トッティ(イタリア)、ジダン(フランス)、リッカルド・カカ(ブラジル)、メスト・エジル(ドイツ)などです。

彼らの共通点は「高い技術力と卓越した創造性」で、局面を一瞬で打開できるスキル、それに周囲の能力を引き出すリンクプレーも特徴と言えるでしょう。

日本サッカーでのトレクァルティスタ

日本では、中村俊輔選手や香川真司選手、家長昭博選手などが「トレクァルティスタ的資質を持つ」と表現されることがあります。いずれも決定機を演出し、自ら得点も狙える能力を兼備し、流動的なポジショニングと遊び心で試合を動かすタイプでした。

ただし、日本ではチーム全体の戦術やフィジカル面も加味し、「ボランチからの組み立て」「インサイドハーフ」に役割を分散させる傾向もあるため、ヨーロッパや南米との違いも見受けられます。

トレクァルティスタを目指すためのトレーニング方法

創造力向上のための練習

トレクァルティスタとして活躍するには、既存のパターンだけに頼らない「ひらめき力=創造力」を伸ばす必要があります。仲間同士4~5人でのミニゲーム、フリーマンを付けての攻防、様々な状況下での即興的なアイディアを試すトレーニングが有効です。

実際のプロクラブでも、「制約を変えながらのポジションプレー」や、「パス・シュートに独自ルールを設ける」など、多彩な環境下での柔軟性トレーニングが取り入れられています。

判断力と視野を広げるトレーニング

得点やアシストを狙うだけでなく、「最適な選択を素早く判断する力」もトレクァルティスタには必要不可欠。ボールを受けてから1タッチ目、2タッチ目までに3つ以上の選択肢を持つ意識を習慣付けたり、ドリルやポゼッション練習時に“後方や横も見渡す”ことをルーティン化すると効果的です。

また練習時に「他の選手になりきってプレーする」つもりで視野を拡げることも、良いトレーニングになります。

技術的・戦術的なアプローチ

パス、トラップ、ドリブル、シュートなど基本技術はどれも疎かにできません。特に「敵のプレス下でも精度を保てるトラップ」「パススピードや球種の多彩さ」「両足でのプレー力」など、技術的な洗練が問われます。

戦術面では、自分が“どう影響を与えられるか”“どこで起点になれるか”を意識し、日常のトレーニングから味方とイメージを合わせるのがポイントです。

トレクァルティスタの長所と短所

メリット:攻撃の多様性と華やかさ

トレクァルティスタのメリットは、攻撃の多様性・柔軟性、そして試合に一気に流れをもたらす“華やかさ”。局面ごとに異なるクリエイションを提供することで、見る側もプレーする側も楽しめるサッカーになります。

また、攻撃陣の連携や個の持ち味を最大化し、チーム全体に攻撃のリズムや化学反応を生み出せるのも大きな魅力です。

デメリット:守備とのバランスと戦術リスク

その一方、「守備とのバランス」や「戦術リスク」は常につきまといます。トレクァルティスタに過度な自由を与えすぎると、リトリートした際の守備組織に穴ができたり、攻守の切り替えが遅れるリスクも。相手チームに攻略ポイントを与えてしまう場合もあるため、全体戦術との融合が不可欠です。

トレクァルティスタを活かすための戦術・フォーメーション

有効なフォーメーション例

代表的なものとしては4-2-3-1のトップ下や、4-3-1-2の“1”部分、4-4-1-1の“1”など。2トップの「シャドーストライカー」としても機能することがあります。

ポイントは、トレクァルティスタに十分な自由とサポートを与えつつ、チーム全体のバランスを保てる配置。両ウイングあるいはインサイドハーフ、中央FWとの連携が活きやすい並びが最適です。

チーム戦術との相性

ボールを保持する志向が強いチームでは、とりわけトレクァルティスタの発想やアイディアが活きやすい傾向にあります。一方、カウンター主体の場合は、自由なスペースへの抜け出しやラストパスへの精度とタイミングが重要視されます。

守備的な状況でも、簡単にボールを失わずにゲームを落ち着かせる「タメ」を作れる選手としても機能します。

保護者・指導者が知っておきたいトレクァルティスタ育成のポイント

小中高年代での育成課題と育成法

小中高年代において、「トレクァルティスタの卵」は自然と突出した独創性を見せることがあります。しかしながら、日本の育成現場では“組織戦術”や“規律重視”が先行しがちで、「自由な発想」や「一発勝負に挑む度胸」を伸ばしにくい場合も多いです。

大切なのは、多少のミスや失敗を恐れず、積極的にチャレンジできる環境を用意すること。指導現場では結果よりも「思い切った発想や個人技術を褒める」こと、チームワークの中でも彼らの閃きや工夫を奪わない声かけやポジショニング指導が効果的です。

成長に合わせた役割・スキルの伸ばし方

成長段階ごとに「どんな役割を与えるか」「どのスキルを磨くか」は異なります。低学年から中学年代までは技術・アイディア重視で、自由なプレースタイルを奨励。高校生以降では局面に応じた判断力や、守備意識のバランスを考慮しつつ、攻撃センスを最大限に伸ばす指導が理想です。

徹底して本人の個性・長所を尊重し、押し付けや型にはめすぎず、プレーヤー自身が“自分で考え選ぶサッカー”を身につけるようサポートしていきましょう。

まとめ:トレクァルティスタの理解をサッカースキル向上に活かそう

トレクァルティスタは、サッカーを華やかに、そしてチーム全体を変える可能性をもつ特異なポジションです。その本質は「自由な発想」と「決定的な仕事」にあります。歴史的な流れや世界・日本の実例、必要なスキルやトレーニング方法、チーム戦術との関係を知ることで、自分自身のサッカー観や取り組み方も大きく変わるはずです。

高校生から大人、育成に携わる指導者や保護者の方も、「トレクァルティスタ的な動き」や「チャレンジ精神」をどう引き出し伸ばすかが、現代サッカーで活躍するための大きなポイントとなります。サッカーの楽しさと奥深さを一層感じられるこの進化型ポジションを理解し、ピッチで思い切り自分の色を出してみてください。

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