気持ちが乗らない。体が重い。頭がぼんやりする。そんな「やる気が出ない日」は、誰にでもあります。けれど、試合は待ってくれません。そこで鍵になるのが、試合の前後にたった5分だけ意図的に使う「ミニ・ルーティン」。やる気を“待つ”のではなく、“作る”。この発想を具体化したのが本記事です。科学と現場の知見をベースに、今日からそのまま使える台本まで用意しました。次の試合で、ぜひ試してください。
目次
結論:やる気は“待つ”ものではなく“作る”もの。鍵は試合前後の5分習慣
5分でできる“最小行動”がモチベーションを引き出す理由
やる気は「行動の結果」として生まれることが多いです。心理学では、行動→小さな達成→ドーパミン分泌→次の行動という循環が知られています。大きな一歩より、負荷が低い最小行動の方が取りかかりやすく、成功確率も高い。5分で完結する行動は“めんどくささの壁”を越えるのに十分で、試合の集中モードに入るためのスイッチとして働きます。
試合前後に分けたルーティン設計の全体像(3ステップ×2)
- 試合前5分:呼吸で神経を整える→戦術リマインド→If-Thenで迷いを消す
- 試合後5分:心拍を落とす→事実ベースで振り返る→次戦の一手を決める
この6つの流れを役割別に微調整し、やる気が出ない日に使う「最小版」も用意。状況に応じて切り替えられるのがポイントです。
この記事の使い方:すぐ試せるテンプレとカスタマイズの指針
- まずはテンプレをそのまま1週間試す
- 合わない箇所だけ1つずつ入れ替える(一気に変えない)
- チェックリスト化して、スマホのタイマーとセットで起動
やる気が出ない時の仕組み:科学と現場の視点
モチベーションの正体:期待値×価値×可達性
やる気は「できそう(期待値)×やる意味がある(価値)×今すぐできる(可達性)」がそろうと高まります。反対に、どれかが低いと失速します。5分習慣は可達性を上げ、期待値を具体化し、価値を言葉で再確認する設計になっています。
ドーパミンは“結果”より“見通し”で動く
脳は「うまくいきそうだ」という見通しに反応します。試合前に「最初の3分でこう動く」「相手のSBが高いなら背後」を言語化しておくと、見通しが生まれ、行動が起動しやすくなります。
不安・緊張・気だるさの区別と対処の方向性
- 不安:未知が多い→If-Thenで選択肢を用意
- 過緊張:交感神経優位→呼吸でリラックス(吐く長め)
- 気だるさ:低覚醒→姿勢・視線・短い加速で覚醒を上げる
“やる気待ち”が失敗する理由と“先に動く”の効果
気分は気まぐれ。待つほど下がることもあります。先に身体と段取りを動かすことで、気分が追いかけてくる。この順番が実用的です。
試合前の5分習慣:ピッチに入る前にスイッチを入れる
00:00–01:00 呼吸で神経を整える(4-2-6呼吸/コヒーレント呼吸)
- 4-2-6呼吸:4秒吸う→2秒止める→6秒吐く×5サイクル。吐くを長くして落ち着きを作る。
- コヒーレント呼吸:5秒吸う→5秒吐く×6回。リズムを整え、過不足ない覚醒へ。
01:00–03:00 戦術リマインド3点法(自分・味方・相手)
- 自分:今日やる“2つだけ”の約束(例:守備で縦切り、攻撃は背後ラン)
- 味方:左右の味方と確認する合図/距離/役割(例:IHとの縦関係)
- 相手:相手の特徴1点(例:CBが高い・SB裏が空きやすい)
03:00–04:00 If-Thenプランニングで“迷いゼロ”にする
- もし前からはめに来たら→一度GK経由でサイドチェンジ
- もし相手がブロックを敷いたら→IHがライン間で受けてワンタッチ
- もし前半10分で押し込まれたら→クリアは外に、陣形回復を最優先
04:00–05:00 ロール別マイクロ・ルーティン(FW/MF/DF/GK)
FW
- 2本の背後ラン(全力3秒×2)でスピードスイッチ
- ゴール前の動き出し3パターンを心で再生(ニア→ファー→ポスト)
- セルフトーク:「最初のシュートは枠に、2本目で仕留める」
MF
- 首振り10回(左右→斜め)で視野起動
- 受ける前の体の向き2パターン(半身/背中預け)を確認
- セルフトーク:「ワンタッチを1本、縦パスを1本」
DF
- 1対1の足運びイメージ(外切り→内切り対応)
- ラインコントロールの合図を隣と共有(手/声のキーワード)
- セルフトーク:「最初のデュエルを勝って流れを取る」
GK
- キャッチ→スロー→キックの連続3動作をテンポ良く
- セットプレー時のコーチング3語(人/ゾーン/ライン)を確認
- セルフトーク:「最初のボール処理で落ち着きを作る」
やる気が出ない日の“最小版60秒ルーティン”
- 30秒:4-2-6呼吸×3
- 20秒:自分の約束を1つだけ声に出す
- 10秒:姿勢を正し、視線を遠くへ(スタンドの一番上を見る)
試合後の5分習慣:切り替えと回復の土台を作る
00:00–01:00 ダウンレギュレーション呼吸で心拍を落とす
4秒吸う→8秒吐く×5回。吐くを長くして副交感神経を優位にし、頭の熱を下げます。
01:00–02:00 事実ベースのミニレビュー(3Good-1Learn-1Next)
- Good×3:事実で書く(例:前半18分の縦パス、守備の戻り3回、1stDFのスピード)
- Learn×1:改善点を具体化(例:CKのマークの受け渡し)
- Next×1:次戦で最初に試す1手(例:CK前に声かけを先出し)
02:00–03:00 感情の整理:ラベリングとセルフトーク
- 感情に名前をつける:「悔しい7/10」「安堵3/10」
- セルフトークの置き換え:「ダメだった」→「次は〇〇を先にやる」
03:00–04:00 リカバリーのコア(補食・水分・軽ストレッチ)
- 補食:糖質+たんぱく質(おにぎり+牛乳など)
- 水分:色の薄い尿を目安に
- ストレッチ:ふくらはぎ・ハム・股関節を各20秒
04:00–05:00 次戦に向けたIf-Thenと1分宣言
- If-Thenを1つだけ決める(例:次の前半は最初の守備でコール名を先出し)
- 1分宣言:スマホのメモに「次はこれを先にやる」と一行で残す
具体例でわかる5分テンプレ:そのまま使える台本
高校生フィールドプレーヤー向けテンプレ
[前] 1分呼吸→2分(自分2/味方1/相手1)→1分If-Then→1分マイクロ動作合言葉:「最初のプレーは安全・早く・前向き」[後] 1分呼吸→1分3Good→1分1Learn→1分Next→1分宣言
GK向けテンプレ(視野・コーチングの起動)
[前] 5-5呼吸→「最初の指示3語」確認→ゴールキック/スローの狙いを1つIf-Then:「CKで混んだら→遠いポストへ弾く」[後] キャッチ/弾き/コーチングの3事実→失点場面のトリガー1個→次戦の声かけ1つ
社会人プレーヤー向け“通勤後”アレンジ
- 職場→会場の移動直後は脳が散っている前提で、1分の呼吸から開始
- Slack/メールは見ない時間を5分だけ確保
- If-Thenを「体が重いなら→ショートカウンターは味方に託し、遅れず戻る」に調整
親子で使える“試合前の声かけ”テンプレ
- 親:「今日やること1つだけ教えて」→子:「最初の守備で前から寄せる」
- 親:「うまくいったら何を合図にする?」→子:「親指立てる」
- NG例:結果や点数を迫る声かけ(焦りを生む)→OK例:プロセスの確認
やる気が出ない日のレスキュープラン:更衣室でできる30秒×5
姿勢×視線×呼吸で“身体から”やる気を作る
- 30秒:胸を開き、足裏を床にベタ付け、遠くを見る
- 30秒:4-2-6呼吸で吐くを長めに
ネガティブ思考の分離:タイムリミット法
- 30秒:不安を書き出す
- 30秒:「今できること」を1つ丸で囲む(残りは後で)
エネルギー不足のチェック(睡眠・水分・糖質)
- 30秒:水を200ml飲む
- 30秒:一口の糖質(バナナ半分、ゼリー等)
環境スイッチ:音・匂い・触感を味方に
- 30秒:1曲の冒頭だけ聞く(決め曲)
- 30秒:手に馴染むテープ/リストバンドを触って起動
“やらないことリスト”で摩擦を減らす
- 30秒:直前のSNS/通知をオフ
- 30秒:用具の最終チェック(靴紐・レガース・水)
続けるための設計:忘れない・途切れない・チームに馴染む
視覚トリガーとタイマーハック(スマホ/リストバンド)
- スマホのリマインダー名を「前5分」「後5分」に固定
- リストバンドの内側に「呼吸→3点→If-Then」を書く
チェックリスト化と1分ジャーナルの書き方
- チェックは□を3つだけ(呼吸/約束/If-Then)
- ジャーナルは1分・3行で完了(事実/学び/次)
チーム事情に合わせた静音ルーティンの作法
- 声出し文化なら、セルフトークを短い合言葉に
- 静かなチームなら、紙・メモ・小さなジェスチャーを使う
ルーティンが効かない時の見直し基準(負荷/長さ/順序)
- 負荷:息が上がるなら短縮、眠いなら加速を1本入れる
- 長さ:5分超えるなら2分に切る
- 順序:落ち着かない日は呼吸→動作→思考の順に変更
よくある誤解とQ&A
Q1: やる気がない日は休むべき?それとも出すべき?
体調不良やケガの兆候なら休む選択が第一。単なる気分の波なら、5分だけ行動してみて判断。5分で上がれば続行、上がらなければ負荷を落とします。
Q2: 5分で本当に変わる?
5分で技術が劇的に伸びるわけではありませんが、集中と判断の質は変えられます。最初の1プレーの成功率が上がるだけでも流れは良くなります。
Q3: ルーティンが重荷になる時の対処
「全部やらなきゃ」をやめ、必須を1つに絞る。たとえば「呼吸だけ」。それでもOKです。
Q4: 受験や仕事で疲れている時の工夫
- 前:コヒーレント呼吸→最低限のIf-Then1つ
- 後:補食と水分に優先度を置く。振り返りは「音声メモ15秒」で代用
Q5: 親ができるサポートとやってはいけない声かけ
- OK:「今日の約束1つ教えて」「終わったらGoodを3つ教えて」
- NG:結果の詰問や比較(「何点取った?〇〇くんは?」)
1週間トライアル計画:記録→調整→定着
Day1–2 導入:最小ルーティンで成功体験を作る
- 前後の60秒版のみ実施。終わったらGoodを1つ記録
Day3–4 調整:役割別テンプレに微調整
- FWは背後ラン、MFは首振り、DFはライン合図、GKはコーチング3語を追加
Day5–6 強化:試合想定のリハーサル
- 練習前にも同じ5分を適用し、身体に染み込ませる
Day7 定着:自分の“5分版”を決めると宣言
- 紙1枚に「自分版5分」を清書し、リストバンド/スマホに保存
まとめ:次の試合で“5分”を試すチェックリスト
今日の前5分・後5分にやること
- 前:呼吸→3点リマインド→If-Then→ロール動作
- 後:呼吸→3Good→1Learn→1Next→宣言
失敗しても続けるための合言葉
「小さく始めて、続けて勝つ。」
明確な次の一手
スマホに「前5分/後5分」のタイマーを2つ作り、テンプレをメモに保存。次の試合で必ず一度、実行する。
あとがき
やる気が出ない時の対処で差がつくのは、才能ではなく準備の仕方です。5分の積み重ねは、プレーの精度だけでなく、メンタルの安定にも効いてきます。完璧を求めず、まずは1週間。あなたの「前5分・後5分」を作って、ピッチで確かめてください。
