目次
サッカー 親の褒め方・叱り方、試合後5分の声かけ術
試合が終わってから車に乗るまでのわずかな時間。ここでの「ひと言」が、次の練習の質やサッカーへの前向きさを大きく左右します。この記事では、サッカーに打ち込む選手の成長を後押しするための「褒め方・叱り方」と、試合後5分でできる具体的な声かけ術をまとめました。難しい専門用語は使わず、すぐ真似できる言葉と手順、シーン別のフレーズまで網羅しています。
導入:なぜ「親の声かけ」が選手の伸びを左右するのか
勝敗よりも「解釈」を変える
同じ試合結果でも、「今日は運が悪かった」なのか「次は何を足そうか」なのかで、その後の練習の集中力が変わります。勝敗は変えられませんが、試合の解釈は変えられます。親が添える言葉が、悔しさを燃料に変えたり、勝ちで緩んだ気持ちを次へ向けたりするスイッチになります。
家庭は二つ目のロッカールームになる
チームのロッカールームではコーチが技術や戦術を整えます。家庭は、気持ちを整えるロッカールーム。帰り道の数分で気持ちがリセットできれば、家での過ごし方も変わり、睡眠や食事の質も上がりやすくなります。技術面の指導はコーチに任せ、家庭では「解釈」と「次の一歩」を整える—これが役割分担の要です。
たった5分が翌週の練習を変える理由
人は出来事の直後に受け取るフィードバックを記憶しやすいと言われます。試合直後の5分は、感情が強く動くタイミング。ここで丁寧な言葉を受け取ると、「次はこうしてみよう」という具体的な行動に結び付きやすくなります。逆に、長い説教は内容が残らず、ただ疲れを増やすだけになりがちです。
褒め方・叱り方の原則(サッカー版)
行動・意図・努力を褒める(結果は最後に添える)
「点を取った」「勝った」などの結果だけを褒めると、チャレンジが減ることがあります。次に繋がるのは「行動」と「意図」と「努力」。
- 行動:例)「前向きにターンしてから縦に運んだの、良かった」
- 意図:例)「相手の背後を狙うアイデア、見えてたね」
- 努力:例)「最後まで戻り切った粘り、チームを助けた」
- 結果は一言で:例)「しかもあの場面で決めきったのは価値あるね」
叱る=怒るではない:ルールと再現性へのフィードバック
叱る目的は「次に同じ状況が来た時に、どう振る舞うか」を整えること。感情をぶつけるのではなく、ルールと再現性に焦点を当てます。
- ルール:安全、リスペクト、規律(遅刻、用具、態度)
- 再現性:次の同じシーンで選ぶべき選択肢を確認する
- 例)「危険なタックルはしない。寄せる角度を変えよう」
具体→短く→次につながるの三拍子
「もっと頑張れ」より、「後半25分のCK、ニアに入る合図を早く出そう」の方が行動に変わります。長い話は要点が薄れます。具体・短い・次の一歩で締めるの三拍子を意識。
比較はしない:過去の自分との比較にする
他の選手や兄弟との比較はモチベーションを削ります。「前の試合より、寄せる一歩目が速かったよ」のように、本人の成長曲線で語りましょう。
数字と言葉のバランス(客観データをひと言で)
数字は説得力を生みますが、数字だけでは温かさが届きません。1〜2個の数字に、短い言葉を添えるのがコツ。
- 例)「前半だけでスプリント7本、最後まで落ちなかったね(頼もしいよ)」
- 例)「インターセプト3本。読みが当たってきた(次は前を向こう)」
試合後5分の声かけ術(タイムライン)
0〜60秒:体調と感情の確認だけに絞る
- 体調確認:「暑かったね。水、飲めてる?」
- 感情の確認:「今の気持ち、一言で言うと?」
- やらないこと:技術の話、戦術の議論、責任追及
1〜3分:事実を一緒に切り取る(SBI法の使い方)
SBI法=Situation(状況)→Behavior(行動)→Impact(影響)。評価や推測は後回し、まず事実を合わせます。
- Situation:「後半15分、右サイドで数的不利の場面」
- Behavior:「内側を切って縦に誘導した」
- Impact:「相手のクロス精度を下げられた」
- 声かけ例:「あの場面は内を切って外に出したよね。だから、中央は締まった。そこまでは良かったよ」
3〜5分:次の一歩を決めて終える(IF-THENプラン)
IF-THEN=「もしXなら、Yをする」。小さく具体的に。
- 例:「もしサイドで2対3になったら、最初の1歩は内を切る→味方が戻るまで耐える」
- 例:「もし前向きで受けられたら、2タッチ以内で前進する」
- 締めの一言:「じゃあ、次の練習でその1個だけやってみよう」
シーン別・そのまま使えるフレーズ集
勝った試合のあと:浮かれすぎず次へつなぐ
- 「勝ちおめでとう。前半のプレスバック、効いてたね。次は奪った後の1本目を速くしよう」
- 「スコア以上に守備の連動が良かった。来週はラインアップの声、君から出してみる?」
負けた試合のあと:感情の受け止めと切り替え
- 「悔しいよな。悔しいのは、勝ちに本気だから。今日はそれでOK」
- 「後半のビルドアップ、良い形もあった。次はGKからの3本目のパス、角度を作ろう」
ミスが続いた/決定機を外したとき
- 「外した後に次のポジションを取ったの、価値あるよ。次は『もし外したら、すぐファー詰め』でいこう」
- 「ミスは積み上げの途中。シュート前の一歩目の位置取りだけにフォーカスしよう」
出場時間が短かった/ベンチだったとき
- 「待つのもしんどいよね。アップ中の集中は保ててた。次は『入ったら最初の守備で流れを変える』を準備しよう」
- 「ベンチワークで声を出せたのはチームに効いてた。役割を全うしたのは立派」
フィジカルで負けたとき
- 「体格差は事実。でも当たり方とタイミングは工夫できる。次は『先に踏み込む』を1つ足そう」
- 「接触前の半歩で勝てる。練習で“半歩前”をテーマにしよう」
審判判定に不満があるときの線引き
- 「判定は変えられない。変えられるのは次のプレー。切り替えの早さで相手を上回ろう」
- 「不満はここで終わり。ピッチ上では自分のプレーに集中だね」
交代直後に崩れた/失点に絡んだとき
- 「失点はチームの出来事。君の戻りのスプリントは効いてた。次はカバーの合図を先に出そう」
- 「“次に同じ場面なら?”を決めて、今日はここまで。よく顔を上げた」
やってはいけないNG例と置き換え方
車内の長い反省会をやめる
- NG:「まず前半を振り返って…(30分続く)」
- OK:「今日は1つだけ決めよう。『奪った後の1本目を前に』で終わり」
他の選手・兄弟との比較をしない
- NG:「Aくんは毎試合点を取ってるのに」
- OK:「前よりゴール前の位置が良くなってる。次はシュートモーションを速くしよう」
コーチの戦術批判を家庭に持ち込まない
- NG:「監督の采配が悪い」
- OK:「与えられた役割の中で何ができるか、一緒に考えよう」
「なんでできないの?」の言い換えテンプレ
- NG:「なんでできないの?」
- OK:「次に同じ場面なら、何からやってみる?」
結果だけのご褒美・罰を避ける
- NG:「点を取ったら◯◯買う」
- OK:「練習で決めた“1個のテーマ”をやり切れたら、今日は好きな曲で帰ろう」
年代・発達段階に合わせた声かけ
小学校高学年:遊び心と成功体験を増やす
短い言葉で「できた」を積み上げる。ゲーム感覚を大切に。
- 「今日はターン3回に挑戦、達成!」
- 「次は『前を向いたら2タッチ以内にパス』ゲームね」
中学生:自立の芽を育てる質問型
答えは本人から引き出す。親はファシリテーター。
- 「3つの良かったは?」
- 「次の練習で“ひとつだけ”やるなら何?」
高校生・ユース:役割と責任への伴走
チーム内の役割や進路も視野に。合意と計画を重視。
- 「今の役割で、最も効くアクションは何?」
- 「週の中でフィジカル・技術・リカバリーの配分を決めよう」
女子選手への配慮:固定観念に注意する
「女子だから◯◯」という決めつけはNG。個人差を見る。
- 「あなたの強みはボールを失わないところ。次は前進の角度を増やそう」
ポジション別の観点を添える
GK:失点後のメンタルリセット
- 「失点直後の声がけ、良かった。次は壁の立ち位置を5秒で整えよう」
- IF-THEN:「もしクロスが深ければ、1歩下がってからジャンプ」
DF:デュエルとラインコントロールの評価軸
- 「対人の入り方が安定。ラインアップの合図、次は君から先に」
- 数字+言葉:「インターセプト2本。予測が冴えてた(次は前向きの1本目)」
MF:切り替えと前進の判断を言語化する
- 「ボール失って3秒で奪い返しに行けたのは良い」
- IF-THEN:「もし前向きで受けたら、2タッチ以内で縦→無理なら後ろで作り直す」
FW:決定力と“外した後”の次の一歩
- 「外した直後のプレスバック、価値がある。次はニア・ファーの駆け引きを1本増やそう」
- 数字+言葉:「枠内3本。キーパーの逆を取り始めたね(次はモーション短く)」
マルチロール/ポジション変更時の支え方
- 「役割が増えるのは信頼の証。今日は“守備の合図”だけに絞ろう」
- 「迷ったら原則に戻る:ボール・ゴール・仲間の順で位置取り」
叱る場面の設計図
安全・規律・リスペクトの3本柱を先に合意する
叱る前に、家庭のルールを合意しておくとブレません。
- 安全:危険なプレー、無理なコンタクトはしない
- 規律:遅刻、用具、集合時の態度
- リスペクト:審判・相手・味方への敬意
DESC法で短く伝える(描写→表明→提案→結果)
DESC法=Describe(描写)→Express(感情・意見)→Specify(提案)→Consequence(結果)。
- 描写:「後半の相手への不満ジェスチャーが2回あった」
- 表明:「見ていて残念だった」
- 提案:「判定に不満があっても、ボールに集中して戻ろう」
- 結果:「その方が次のプレーが速くなるし、評価も上がる」
「次に同じ状況なら?」のリハーサルで締める
叱って終わらせず、改善の“型”を口に出して確認。
- 「同じ判定が来たら、深呼吸→味方へ“切替”の一言→ポジション復帰、ね」
叱った後のフォローと関係修復
- 「厳しく言ったけど、期待してるから。次に活かそう」
- 短い雑談や好きな音楽に切り替えて終了する
家でできる振り返りテンプレート
3つの良かった・1つの伸ばす点(3:1)
- 良かった×3:「守備の戻り」「前進の角度」「声が出た」
- 伸ばす×1:「シュート前の一歩目」
プレー記録の付け方(客観と主観を分ける)
- 客観:出場時間、タッチ数、シュート数、スプリント回数
- 主観:今日の気持ち、集中度、手応え(10点満点)
- ひと言:次のテーマを1行で
次の練習で試す“ひとつだけ”を決める
- 例:「前を向いたら2タッチ以内」「クロスはニアへの1本目」
- 終わりの合図:「その1個をやり切れたらOK」
コーチとの連携と境界線
口出しではなく情報共有に徹する
- 「家庭での様子」「ケガや体調」「本人が決めたテーマ」を簡潔に共有
- 戦術・出場時間の要求は避ける
相談してよいタイミング・方法
- タイミング:練習前後の忙しい時間を避け、指定の連絡手段で
- 方法:質問を1〜2点に絞り、事実ベースで伝える
役割の線引き:親・コーチ・選手の三者
- 親:環境とメンタルのサポート
- コーチ:技術・戦術の指導
- 選手:主体的に選択・行動する
メンタルを支える生活習慣の声かけ
睡眠・栄養・リカバリーを褒める技術
- 睡眠:「昨日は7時間半、いいね。朝の顔が違う」
- 栄養:「練習後にタンパク質を摂れた。回復が早まるよ」
- リカバリー:「ストレッチ10分を続けたの、地味に効く」
目標設定の伴走(短期/中期/長期)
- 短期(1週間):「次の試合で“前向き2タッチ”」
- 中期(1〜3か月):「スプリント回数を平均+3本」
- 長期(半年〜):「自分の強みを言語化して説明できる」
怪我からの復帰時の声かけポイント
- 焦らない合意:「段階を踏むのが近道」
- できること重視:「今は上半身とスキルの映像学習を積もう」
- 復帰プラン:「IF-THEN:痛みが出たら即中断→コーチに申告」
よくある質問(FAQ)
感情的になってしまうときは?
「30秒ルール」を決めましょう。感情が強い時は30秒だけ深呼吸して、水を一口。落ち着いてからSBIの事実確認に入ると脱線しにくいです。
子どもから“話したくない”と言われたら?
尊重が最優先。「OK、今はやめよう。家に着いたら1分だけ事実だけ話そう」で終える。実際は1分以内で完了し、次の一歩を1つだけ決めます。
褒めるところが見つからない試合は?
「行動」「意図」「努力」に戻る。走り切った、戻り切った、声を出した—いずれかはあります。数字(スプリント回数やデュエル回数)をカウントすると見つけやすいです。
きつい言葉を使ってしまった後のリカバリー
早めの修復が肝心。「言い方が強すぎた。ごめん。意図は“次に活かしてほしい”だけ。やり直そう」で関係を戻し、IF-THENで締めます。
5分を支えるミニプラン集(持ち運べる台本)
試合会場から車までの30メートル
- ひと言目:「お疲れ。水、飲んだ?」
- 事実の切り取り:「後半20分の守備の戻り、俺は見てた」
- 締め:「後で1分だけ話そう」
車内が静かなときの二言テンプレ
- 一言目:「今の気持ち、ひと言で?」
- 二言目:「次に同じ場面なら、何からやる?」
家の玄関での締めのひと言
- 「今日は“前向き2タッチ”を次に試す。お疲れ、風呂で回復しよう」
まとめ:今日から変えられる一言
明日の試合に効く“たった一つ”を選ぶ
全部は要りません。この記事から“たった一つ”だけ選び、5分の台本に組み込んでください。例えば「SBIで事実→IF-THENで一歩」。それだけで次の練習の質は変わります。
継続のコツ:親も自分を褒める
親の声かけもスキルです。うまくいかない日があって当たり前。「今日は感情を飲み込めた」「台本どおり1分で終えた」など、親自身の行動を褒めてください。小さな積み重ねが、選手の成長曲線を確かに押し上げます。