コーナーキックは「最後のひと押し」であり、同時に「最初の一歩」でもあります。直接ゴールを狙えるセットプレーである一方、守備側にとっては一瞬の油断が失点に直結する危険地帯。この記事では、IFAB競技規則(2024/25時点)の一般的な取り扱いに基づき、コーナーキックの基本ルールから反則、やり直し(リテイク)までを、現場で迷わないレベルまで丁寧に解説します。戦術の前に、まずは土台となるルール理解を固めて、練習や試合の質を上げていきましょう。
目次
コーナーキックの定義と目的
どのような時に与えられるか(最後に触れた選手とボールが出た位置)
コーナーキックは、攻撃側以外の選手(守備側)が最後にボールに触れ、ボールが守備側のゴールライン(ゴール枠内を除く)を完全に越えた場合に与えられます。判定の起点は「最後に触れた選手」と「ボールが出た位置」。ボールが空中であっても、ラインを全面的に越えた時点でアウト・オブ・プレーです。
IFAB競技規則における位置づけ(リスタートの一種)
コーナーキックはプレーの再開方法(リスタート)の一つで、直接ゴールが認められる特殊な再開です。ボールが正しく再開されるまでプレーは始まりません。再開に至る要件や反則の扱いは、他のフリーキック類似点も多いですが、コーナー特有の例外もあります(例:直接得点が可能、オフサイドの適用除外など)。
コーナーキックの基本手順
ボールの設置位置(コーナーアーク内、静止が必須)
ボールはコーナーアーク内、またはアークのライン上に置きます(ラインはそのエリアに含まれます)。置く位置はアーク内であれば自由。ただし「完全に静止」していることが必須です。わずかでも転がっていれば未再開となり、やり直し対象になります。
主審の合図と再開タイミング(ホイッスル不要の原則と例外)
原則としてホイッスルは不要で、適切に準備が整えばキッカーはいつでも再開できます。例外として、警告・退場処置、負傷対応、交代、主審による追加の管理(混乱防止や安全確保)が必要な場合は、主審の合図(ホイッスル)での再開となります。
ボールがインプレーになる条件(けられて明確に動いた瞬間)
足で蹴られ、ボールが明確に動いた瞬間にインプレーです。踏むだけや、わずかな接触で位置が変わらない場合は未再開とみなされます。トリックプレーでの「軽く触れて置いた」などの曖昧な動作はトラブルのもと。審判から見て明確に動かすのが鉄則です。
キッカーに関するルール
キッカーの選択と交代(チーム内の自由、合図の要否)
キッカーはチーム内で自由に選べます。ボールがインプレーとなる前であれば、別の選手に交代しても構いません。交代そのものに審判の合図は不要ですが、ホイッスル再開が指定されている場面では主審の合図まで待ちます。
二度蹴り(再度のプレー)とその罰則(間接フリーキック)
キッカーは、ボールが他の選手に触れる前に再度プレーしてはいけません。二度蹴りがあった場合、相手側に間接フリーキックが与えられます。なお、その二度目の接触が手・腕での扱い(ハンド)に該当すると判断された場合は、直接フリーキック(守備側ペナルティエリア内ならPK)となることがあります。
遅延行為・フェイントの扱い(警告の基準)
再開の遅延(わざと時間を使う、過度なやり直しの素振りなど)は警告対象です。フェイント自体は認められますが、相手を挑発する行為や不必要に再開を遅らせる動作は不正行為と判断されます。
相手競技者の距離・位置の制限
9.15m(10ヤード)の退避義務とライン上の立ち位置
相手競技者は、ボールがインプレーになるまでコーナーアークから9.15m(10ヤード)以上離れなければなりません。距離の基準はアークの最も近い点からの半径で測られるイメージです。ライン(タッチライン・ゴールライン)上に立つこと自体は問題ありませんが、距離要件は厳守です。
過度な接近・妨害の判定(懲戒の対象)
近距離での手の広げ、肩でのブロック、キックの動作を止めるための突発的な踏み込みなど、再開を妨げる行為は警告の対象です。素早い再開の最中に相手が9.15m未満にいてプレーに影響を与えた場合、主審は状況に応じて試合を止め、警告ややり直しを指示することがあります。
コーナーフラッグポストの扱い(動かしてはならない)
コーナーフラッグポストは動かしてはいけません。意図的に折り曲げたり、押しのけたりする行為は不正行為となり、懲戒の対象です。ボールや選手が接触するのは許容されますが、設置位置の変更は不可です。
味方選手の位置とゴールキーパーの参加
ゴールエリア内・ゴールライン上の位置取りの可否
攻撃側・守備側ともに、フィールド内であればゴールエリア内を含め任意の場所に立てます。ゴールライン上(フィールド内のライン上)は問題ありませんが、ラインの外(ゴールの中などフィールド外)に出ることはできません(プレーの流れで外に出た場合は速やかに戻る義務があります)。
ゴールキーパーへの接触プレーの基準(安全配慮)
ゴールキーパーに対して特別な免責はありませんが、安全配慮の観点から、ジャンプ中やボール保持前後のラフコンタクトはファウルとして厳しめに判定されやすいです。腕をつかむ、体を押し込む、進路を体でロックするなどは直接フリーキック(自陣PA内ならPK)の対象となり得ます。
ショートコーナー時の位置関係と初動の注意点
ショートコーナーでは受け手は初手でオフサイドになりませんが、受けた後の二本目のパスやドリブルでの戻しでオフサイドが発生し得ます。受け手とキッカーの距離、DFの最終ライン、リターンのタイミングを事前に共有しておくと安全です。
オフサイドの適用
コーナーキックからはオフサイドにならない条件
コーナーキックから直接プレーに関与する選手はオフサイドになりません。これは再開直後の特例で、キック直後にゴール前へ飛び込んでもオフサイドは適用されません。
2本目以降のプレーでのオフサイド注意点
ボールが別の選手に触れた後(2本目以降)は通常のオフサイドが適用されます。特にショートコーナーから素早くボールを回す際、戻しの瞬間に受け手が最終ラインより前にいるとオフサイドになります。
ショートコーナーでの最終ライン管理
ショートコーナーはボールが低い位置にあるため、DFラインが釣り出されやすい場面です。攻撃側は「二本目からオフサイド」の意識、守備側は「最終ラインを崩さない」合図(声掛け)の徹底が得点・失点を分けます。
反則と主な判定
押さえる・引く・チャージなどの接触ファウル(直接FK/PK)
相手を手で押さえる、ユニフォームを引く、危険なチャージでスペースを奪う等は直接フリーキックの対象です。守備側の自陣ペナルティエリア内ならPKとなります。ボールに対する正当な競り合いと、相手の身体を第一目的にした接触は明確に区別されます。
ハンドの基準(攻守ともに)
不自然に手や腕を広げてボールの通り道を塞ぐ、または手でコントロールする行為は反則となり得ます。攻撃側のハンドは得点や決定的な機会に直結するため、厳格に扱われやすい点に注意してください。
危険な方法によるプレー(ハイキック等)と間接FK
頭部付近に足を上げるハイキック、無謀な足裏の見せなど、相手の安全を脅かす行為は間接フリーキックの対象です。接触が発生して危険であれば、より重いファウルとして扱われることもあります。
相手の進路妨害(阻止・妨害)の判断ポイント
ボールにプレーする意図なく相手の進路を身体で遮る、スクリーンをかけるなどの行為は妨害として反則です。肩を並べた正当なチャージとの違いは「ボールへの挑戦があるか」「接触の程度」「安全性」にあります。
やり直し(リテイク)になる可能性があるケース
ボールが動いていない/アーク外からのキック
静止していない状態で蹴った、アーク外に完全に出た位置から蹴った場合はやり直しです。キック動作前に設置と停止を確認するだけで、多くのミスは防げます。
相手が9.15m離れずに影響を与えた場合の対応
相手が規定距離を守らず再開を妨げた場合、主審は試合を止めて警告を与え、やり直しを命じることがあります。素早い再開を許容するか、管理を優先してホイッスルに切り替えるかは主審判断です。
誤ったコーナーからの実施に気づいた場合の取り扱い
ボールがインプレーになる前に誤りに気づいた場合は、正しいコーナーへ移してやり直しです。再開後に気づいた場合は、原則としてプレーを続行します(状況により主審が適切に管理します)。
外的要因(第三者の干渉・物体接触)での中断
観客からの物体、二つ目のボール、動物など外的要因がプレーに影響した場合は中断され、所定の位置でドロップボールによって再開されます(影響範囲やエリアにより再開地点が異なります)。
直接得点とボールの出入りの扱い
コーナーキックから直接ゴールは有効か
相手ゴールへの直接得点は有効です。いわゆる「オリンピックソーター」は問題ありません。ボールが直接ゴールに入れば得点として認められます。
自陣ゴールに直接入った場合の再開方法
キッカーのボールが誰にも触れずに自陣ゴールへ直接入った場合、得点は認められず相手側のコーナーキックで再開します。風やスリップで逆回転しても同様の扱いです。
風でボールが戻る・ラインを出た場合の判定
キック後に風で戻され、タッチラインを越えた場合はスローイン、ゴールラインを越えた場合はゴールキックまたはコーナーキック(最後に触れた側により判定)で再開します。いずれも「ボールが明確に動き、インプレーになった後」の出来事として扱われます。
主審・副審のシグナルと再開管理
コーナーキックの旗・合図の基本
副審は旗をコーナー方向に示してコーナーキックをシグナルします。再開時は主審がプレー再開状況(選手配置・安全)を確認。ホイッスル指定がある場合を除き、キッカーは主審の明確な合図を待つ必要はありません。
早いリスタートの可否と主審の管理ポイント
早い再開は認められますが、安全と公平のため、主審は必要に応じて再開を制御します(警告処置、負傷対応、交代、混乱時)。管理下の再開が指示されたら、必ずホイッスルを待ってください。
(VAR採用試合)得点・反則確認との連携
VARが導入されている試合では、得点後に直前の反則(攻撃側のハンド、オフェンスファウル、ボールのアウト・オブ・プレーなど)がチェックされることがあります。得点は一時的に保留されることがある点を理解しておきましょう。
大会規定・年代でのバリエーション
ユース・少年年代でのローカル規定に関する留意点
小学生年代やローカル大会では、コーナーからの相手選手の退避距離を短く設定するなどの特別規定がある場合があります。必ず大会要項で確認してください。
延長・PK方式とコーナーキックの関係
延長戦中もコーナーキックの扱いは同様です。競技規則上、キッカーは自由に選べます。KFTPM(ペナルティーマークからのキック)ではコーナーキックは発生しません。
試合前に確認すべき大会要項・主審説明
大会要項、主審の試合前説明で、ボールの種類、交代方法、追加審判やVARの有無、退避距離のローカル規定などを確認しておくと、再開時の混乱が減ります。
よくある勘違いと現場での対処
ボールが置いてあれば誰でも蹴って良い?の解釈
キックはチーム内の誰が行っても構いません。ただし、ホイッスル再開が指定されているのに蹴るのはNG。ボールが静止していること、主審が管理していないことを確認してから蹴りましょう。
キッカー交代と合図の必要性
キッカーの交代自体に合図は不要ですが、主審の管理下(ホイッスル待ち)の場面や交代・警告処置中は、指示に従ってください。素早い再開を狙う場合ほど、味方内の意思統一が重要です。
相手に意図的に当てて得る再開(CK/スローイン)の判定
故意に相手に当ててコーナーやスローインを得るプレーは、反則でない限りは認められます。判定は「最後に触れた選手」に基づきます。ただし、腕や背中に危険な方法で当てる、挑発的な行為は不正行為と見なされることがあります。
安全とスポーツマンシップ
相手の視界を遮る行為の扱い(不正な妨害)
ゴールキーパーの視界を意図的に遮り、手を振る・体を揺するなどの挑発的・不正な妨害は反則となり得ます。単に前に立つだけなら即反則ではありませんが、接触や不正な動作が加わると処罰対象です。
用具・ユニフォーム(ビブス等)の管理と影響防止
外れたすね当て、ビブス、タオルなどがフィールド内に落ちると外的要因になり得ます。プレー前にしっかり整え、攻守ともにトラブルを防ぎましょう。交代選手やスタッフの位置取りも整然と。
乱戦・衝突を防ぐためのチーム内ルール
マークの責任分担、GKとDFの声掛け、ニア・ファーの優先順位、こぼれ球担当の明確化は接触事故の抑制につながります。特にゾーン守備では、飛び出す選手とカバーの関係を事前に固定しておくと安全です。
まとめと練習時のチェックリスト
反則回避の要点と審判基準の共有
- ボールはアーク内に静止させる(ライン上OK)。
- 原則ホイッスル不要だが、管理下では合図を待つ。
- キッカーは二度蹴り禁止。再開妨害・遅延は警告対象。
- 相手は9.15m退避。干渉すれば処罰・やり直しの可能性。
- CKからの直接得点は有効。自陣への直接“オウン”は成立せず相手のCK。
- CK直後はオフサイドなし。二本目以降は通常適用。
やり直しを減らすための手順確認
- 設置→静止→周囲確認→合図の要否確認→キック、のルーティン化。
- ショートなら受け手とアイコンタクト、二本目のオフサイド想定。
- 守備側は副審の位置と主審の管理状況を見てライン統制。
試合前に必ず確認したい3項目
- 大会要項(退避距離のローカル規定、ボール、VAR有無)。
- 主審の再開方針(早いリスタートの許容範囲、ホイッスル運用)。
- チーム内の役割分担(キッカー、ショート合図、こぼれ球、カウンター対策)。
ルール理解は、戦術の“増幅器”です。正しい手順で素早く、かつ安全に再開できれば、相手に守備準備の時間を与えず、チャンスの質が上がります。今日の練習から、設置・静止・確認・合図・キックの一連動作と、二本目以降のオフサイド管理を徹底していきましょう。