ゴールキックは、ただのリスタートではありません。うまく使えば一気に押し上げ、下手にやれば自陣に火種を残します。本記事では、競技規則に沿った「反則にならない位置」と「安全で効果的な蹴り方」を、実戦で使える順番で整理しました。高校・社会人の現場でそのまま使える合図や配置、練習ドリルまで網羅します。
目次
はじめに:ゴールキックは“攻撃の第一歩”
ゴールキックの重要性と勝敗への影響
ゴールキックからの最初の一手で、相手のプレスを外して前進できるかが決まります。1本の質が、チャンス数や被ショット数に直結することも珍しくありません。ルールを正しく使い、意図を持って選択することで、ミスを減らし、主導権を握る回数を増やせます。
本記事の狙い:反則を避ける位置と蹴り方を体系化する
最新の競技規則(IFABのLaws of the Game)に基づき、曖昧になりがちな「どこに置けるの?」「いつインプレー?」「何が反則?」をクリアに。さらに、ショート/ロングの蹴り分け、配置テンプレート、練習方法まで一続きで確認できる形にまとめます。
ゴールキックの競技規則:まず押さえるべき要点
ボールの置き場所:ゴールエリア内・ライン上の扱い・静止が必須
- ボールは自陣のゴールエリア内ならどこでもOK。白線(ゴールエリアライン)も“エリアに含まれる”ので、ライン上設置も有効です。
- 必ずボールが静止してからキック。風で動くなら、足で軽く押さえて止めてから離すなど工夫を。
ボールがインプレーになる瞬間:『蹴られて明確に動いたとき』
現在は、ボールが蹴られて明確に動いた瞬間にインプレー(プレー可能)になります。かつて必要だった「PA(ペナルティーエリア)外に出る」条件は、2019年以降廃止されています。
蹴る選手:守備側の任意(GKが一般的だが限定されない)
基本はGKが蹴りますが、守備側の味方なら誰が蹴っても構いません。プレッシャー回避やキッカーの利き足を生かすための入れ替えも合法です。
相手チームの位置:ペナルティーエリア外義務と侵入時の扱い
- 相手は、ボールがインプレーになるまでPAの外にいなければなりません。
- 守備側が素早く再開し、相手が出切れていないのが「出る時間がなかった」場合はプレー続行可。ただし相手はボールに触れたりチャレンジできません。触れたら原則やり直し(リテイク)。
味方選手の位置:ペナルティーエリア内でも受けられる最新ルール
2019年以降、味方はPA内で受けてもOK。ショートでの組み立てが現実的になりました。
オフサイドの適用:ゴールキックからはオフサイドなし
ゴールキックから直接ボールを受ける選手はオフサイドになりません。ただし、その後の味方のプレー(ヘディングやパス)時点では通常のオフサイド判定が適用されます。
直接得点の可否:相手ゴールは可/自軍ゴールは不可(CK)
- ゴールキックから直接、相手ゴールに入れば得点です。
- 自軍ゴールに直接入った場合は得点にならず、相手ボールのコーナーキックで再開します。
二度触りの禁止:再度触球の罰則と例外の基本
- キッカーは、ボールがインプレーになった後、他の選手が触れる前に再び触ってはいけません(いわゆる二度触り)。
- 通常は間接フリーキック(IFK)。ただし、キッカー(GK以外)が手で触れた場合は直接フリーキック(DFK)。GKが自陣PA内で手で再度触った場合はIFKです。GKがPA外で手で触ればDFKになります。
やり直し(リテイク)になる典型例と主審の判断
- ボールが静止していない時に蹴った。
- 設置位置がゴールエリア外だった。
- 相手がPA内に残っていてボールに触れる/チャレンジした。
- 主審が再開合図(ホイッスル)必須の状況で、合図前に蹴った。
再開遅延の注意:警告リスクと試合運営への影響
時間稼ぎの意図が明白(何度も置き直す、極端に遅いセットなど)の場合、遅延行為で警告(イエロー)になることがあります。チームでセットアップの標準所要時間を共有しておくと安全です。
反則にならない『位置』の判断基準
正しい設置位置の見極め:白線の上はOK・外はNG
ゴールエリアの白線はエリアの一部。線上も内側扱いです。線の外はNG。迷ったら「線を使う」意識を。
よくある境界ケース:コーナー寄り・ゴールポスト寄りの扱い
- コーナーフラッグ側の最端やポスト寄りの角でも、ゴールエリア内なら問題なし。
- 角度を作るために端に置くのは合法。ただし、置いた位置から明らかにボールが動いていないのに蹴ると反則になるので注意。
GKとDFの立ち位置:角度作りとブロック禁止の線引き
- 受け手(CB/SB)の立ち位置で角度を作り、最初のパスコースを2本以上確保。
- 相手の走路を体で塞ぐ「ブロック」は反則(接触なしの進路妨害=IFK、接触ありはDFKのファウルになり得る)。自然な立ち位置でラインを作るのが安全。
相手との距離感:素早い再開時の審判解釈と実務的目安
- 相手はPA外にいればOK。フリーキックのような9.15mの義務距離はありません。
- クイックで再開する時、相手がPA内に残っていれば「時間がなく出切れなかった」ケースは続行可。ただし相手が触れたらリテイクの可能性が高いので、リスク管理を。
風・ピッチ状況への対応:ボールの転がり防止とリテイク回避
- 逆風や傾斜で動くなら、靴裏で軽く押さえて完全静止→手を放して即助走。
- 芝ではボールの下の芝を均して平らに、人工芝では縫い目方向を確認。水たまりはボールが止まりやすいので設置位置をずらす。
反則にならない『蹴り方』と安全な手順
キック前ルーティン:設置→確認→合図→助走
- 設置:線上を含むゴールエリア内、ボール完全静止。
- 確認:相手の位置(PA外)、味方の配置とコール、風向き。
- 合図:GKまたはキッカーが手でサイン(「ショート」「ロング」「スイッチ」など)。
- 助走:蹴り分けに応じた角度と歩数を固定し再現性を高める。
ショートゴールキックの基本:質の高いパスで安全に前進
- ボールスピード:相手の到達より0.5~1歩速い強度。足元or利き足前へ。
- 体の向き:受け手は開いてフィールドを一目で視認。ファーストタッチで前を向く。
- 二手目:SB/アンカーへの「プランB」を常に用意。壁パスの距離は8~12mが目安。
ロングゴールキックの基本:ミート・体重移動・弾道選択
- ミート:軸足をボールの横、踏み込みは目標方向へ。足背(インステップ)で芯を捕える。
- 体重移動:蹴り足のフォロースルーを高く、体は前へ運ぶ。上体の起こしすぎは高すぎる弾道になりやすい。
- 弾道:向かい風→低く強いライナー、追い風→やや高めで落下点を前方に。
スイーパーGK型の再開:角度とリスク管理
- GKが受け手として参加し数的優位を作る方法。CB間に落ちる/脇に流れるの2型。
- 合図を明確にし、戻しパスの強度とGKのファーストタッチの質を最優先。
- 相手の最前線がGKにアタックした瞬間に「背後解放」へスイッチできる逃げ道を確保。
二度触りを避けるコツ:バウンド・風・戻り球への対応
- 強風で戻ってきそうなら、ロングを避けショートで繋ぐ選択肢を。
- 蹴った直後に自分の方へ戻る軌道を感じたら、触らず味方/相手のタッチを待つ勇気。
- 土・濡れ芝は不規則バウンド。インパクトを長く取り、スリップを減らす。
クイック再開のコツ:相手の位置不備時に起こりがちな違反を回避
- 素早く蹴る前に、味方に「ノータッチ(相手触るな)」のコールを徹底。
- 相手がPA内なら、受け手は相手と接触せずに1タッチで外へ運ぶか、即座に別の味方へ。
戦術オプションと配置テンプレート
2CB+GKの3人形で作る初期優位
- GK中央、CBがやや広め。アンカーが縦のラインを作って3本目の出口。
- 相手1トップには2対1、2トップには3対2の数的優位を確保。
サイドに引き出す2-3構造:偽SBやアンカー落ちの活用
- SBが内に絞り中盤を3枚化、またはアンカーが最終ラインへ落ちる。
- 相手のウイングを内側へ引き込み、外レーンに解放を作る。
ロングターゲット型:1トップ/2トップへの到達手段
- 1トップなら近いサイドに逆サイドのIW/MFがセカンド回収の準備。
- 2トップなら互い違いの高さで落とし先を確保。片方は競り役、片方は抜け役。
相手マンツーマン時の解法:GK運ぶ→数的優位創出
- GKが運んで相手の1stラインを引き出し、空いた中盤へ刺す。
- 相手GKマークが緩いなら、GK→持ち運び→フリーのCB/SBへ。
相手ハイプレス時の合図・スイッチと逃げ道設計
- 合図を事前共有:「A=ショート継続」「B=一旦戻し」「C=背後解放」。
- タッチライン際の三角形(SB+WG+IH)を常設し、詰まったら即スイッチ。
セカンドボール回収の配置原則:背後・こぼれのゾーニング
- ターゲットの落下点前後5~8mに2枚、背後10~12mに1~2枚。
- 外へ弾かれる想定でサイドハーフを内外にズラして準備。
高校・社会人で実戦投入できる練習ドリル
10分サーキット:設置精度→ショート→ロングの連続練習
- 3分:設置→静止→ショート10本(左右交互)。
- 3分:ショート→リターン→縦差しの3手連続。
- 4分:ロング10本(向かい風5本/追い風5本想定で弾道変化)。
プレッシャー下ショート:2タッチ制限と方向転換の習慣化
- CB/SBは2タッチ縛り。1タッチで外へ運ぶか、内へ差す選択の速さを磨く。
- コーチが遅れてプレッシャーを入れ、クイック再開時の判断を再現。
風・雨コンディション対応ドリル:弾道と落下点の管理
- 向かい風時は低弾道のターゲット。追い風時は落下点を1~2m前に設定。
- 濡れ芝は滑るので、踏み込みと軸足安定を強調(短めの助走で制御)。
GKとCBの共通言語:コールワード集と意思疎通の型
- 「ショート」「ロング」「戻し」「スイッチ」「ノータッチ」「プレス来る/来ない」。
- 合図→視線→動き出しの順を統一。迷いを減らす。
試合前ルーティンの定着:再現性を高めるチェックリスト
- 風向きとピッチ硬さを確認。
- ショート時の初期配置(距離・角度)を試合前に微調整。
- 主審の笛運用(合図が必要な場面の傾向)を早めに把握。
よくある反則と回避策チェックリスト
ボールが静止していない→手で軽く押さえてから離す
風が強い日は「押さえる→離す→即助走」をセットで。主審のやり直しを防げます。
設置位置がゴールエリア外→白線を“使う”習慣
線上OK、線外NG。端に置くほどズレやすいので、最後にもう一度足元で線との位置を確認。
キッカーの二度触り→バウンド方向の先読みと待つ勇気
戻ってきたボールには触らない判断を。GKの手再タッチはPA内でもIFK対象です。
相手の早期侵入→主審のリテイク判断を想定し合図徹底
クイック再開時は味方に「相手触るな」を徹底。触れられた場合のリテイクも想定内に。
味方の無自覚なブロック→進路妨害のリスク説明
意図的なスクリーンは反則リスク。自然な立ち位置で角度だけ作るのが最善です。
遅延行為→セットアップの所要時間をチームで統一
「10秒以内で設置~キック」など共通ルール化。終盤でも不自然さが出ません。
ケーススタディQ&A:現場で迷いやすい状況
相手がPA外に出きれないのに素早く蹴ったら?(やり直しの基準)
相手が「出る時間がなかった」状況で、守備側がクイックに再開したなら続行可。ただし、その相手がボールに触れたりチャレンジしたら原則やり直しです。
強風でボールが動いた場合の扱いと対応策
キック前に動いたらやり直し。動く前提の日は、ボールをしっかり静止→すぐ助走、弾道は低く強く。設置位置も風下側のライン寄りにするなど微調整を。
GKが蹴った直後に再び触れてしまったら?(再開と罰則)
他の選手が触れる前の二度触りは反則。通常は相手の間接FK。GKが自陣PA内で手で触った場合も間接FK、PA外で手なら直接FKです。
直接相手ゴールに入った場合/自軍に入った場合の再開
相手ゴールに直接入れば得点。自軍ゴールに直接入ったら得点無効で相手のコーナーキック再開です。
味方がPA内で受けた直後に相手が触れたらどうなる?
相手がPA内に残っていて触れたなら、主審は原則やり直しを指示します。相手がPA外から入って触れたならプレー続行が基本です。
審判目線を知ってミスを減らす
主審の再開合図が必要な場面/不要な場面
- 不要:通常のゴールキックは合図なしで再開可能。
- 必要:選手交代、警告・退場、飲水・負傷対応後など、主審が「笛で再開」を明確にした場面。
リテイク(やり直し)の判断ロジック
- 設置・静止の不備、相手の不正触球、合図前再開など、再開条件が満たされない場合にリテイク。
- 軽微な位置ズレは注意で流すこともありますが、再発時は厳格化されやすいです。
実際に多い注意ポイント:設置、静止、侵入、遅延
主審はこの4点を最初に見ています。ここをルーティン化すれば不要な笛が激減します。
誤解しがちなポイントと最新ルール差分
2019年以降の変更:PA内での味方受けが可能になった背景
プレーの流動性を高めるため、ボールが「蹴られて明確に動いたら」即インプレーへ。これによりショート構築がしやすくなりました。
『ゴールキックはオフサイドなし』の正しい適用範囲
ゴールキック「から直接」受ける場合に限りオフサイドなし。その後の味方プレーでは通常どおり判定されます。
GK保持時間とゴールキックの関係:混同しないための整理
GKの6秒保持はボールを手で保持している時の話。ゴールキック準備中は該当しません。遅延行為の基準は別枠で判断されます。
試合当日の簡易フローチャート
状況評価→配置決定→合図→実行→セカンド回収の流れ
- 状況評価:相手の枚数・位置、風、主審の運用傾向。
- 配置決定:3人形/2-3構造/ロング回収隊を即時選択。
- 合図:コールワードで全員認識合わせ。
- 実行:静止→キック→1手目のプレー速度を最優先。
- 回収:セカンドボールのゾーニングで締める。
失敗パターンの即時修正ルール:次の1本を整える
- 読まれたら配置を一段深く/広く。相手の基準点をズラす。
- 風に負けたら弾道変更。向かい風→低く、追い風→落下点を前に。
- 主審に注意を受けたらルーティンに戻して再発防止。
用語ミニ辞典:ゴールキック周辺で使うキーワード
ゴールエリア/ペナルティーエリア/二度触り ほかの定義
- ゴールエリア:ゴール前の小さな長方形。白線含めてエリア内。ゴールキックの設置範囲。
- ペナルティーエリア:GKが手を使える大きな長方形。相手はゴールキック時に外へ出る義務。
- 二度触り:再開後、他の選手が触る前にキッカーがもう一度触る反則。基本はIFK、状況によりDFK。
現場コールの意味と標準化
- ショート:近距離で繋ぐ。
- ロング:前線へ送る。
- 戻し:一旦GK/起点へ戻す。
- スイッチ:逆サイドへ展開。
- ノータッチ:相手がPA内にいるので触らない・触らせない合図。
まとめ:安全に、速く、前向きに運ぶゴールキックへ
反則を避ける位置と蹴り方の要点再確認
- 設置はゴールエリア内(線上OK)で完全静止。
- インプレーは「蹴られて明確に動いた瞬間」。
- 相手はPA外、味方はPA内受けOK。相手が触れたら原則リテイク。
- 二度触りは禁止。特に風の日は戻り球に触らない判断を。
- ショートは質と角度、ロングはミートと弾道で勝つ。
明日から実行する3つのアクション
- チームのコールワードと配置テンプレを事前に共有。
- 設置→確認→合図→助走のルーティンを全員で統一。
- 風雨対応の弾道とセカンド回収の位置を練習で固定化。