「手に当たったら全部ハンド」ではありません。では、どこからが反則で、どこまでは許容されるのか。毎年のようにアップデートされる競技規則(IFAB)に合わせて、いまの基準をできるだけシンプルに言語化しました。判定のフレーム(考え方)を理解すれば、守備の腕位置やブロック動作が変わり、余計なPKやFKを減らせます。今日からピッチで使える実務的なコツまで、わかりやすく整理していきます。
目次
導入:なぜ「ハンド」は難しいのか
ルールが毎年アップデートされる背景
ハンドの解釈が難しい最大の理由は、プレーの多様化に合わせてIFABの競技規則とガイダンスが毎年のように更新されるからです。ゴール前でのブロック、至近距離のクロス、VARの導入によるチェックの厳格化など、現代サッカーで起きる「微妙」な事例が増え、判定指針も細かくなりました。最新の方針は「意図」だけではなく、「腕で体を不自然に大きくしたか」「動きとして妥当か」を重視します。
試合を左右する判定と心理
ハンド一つで試合が決まることは珍しくありません。守備側は「腕をどこに置くか」という準備でリスクを下げられますし、攻撃側も「どこを狙えば相手は腕を広げざるを得ないか」を考えて崩せます。判定への理解が深まるほど、感情的な抗議が減り、次のプレーへ切り替えやすくなります。
ハンドの定義をシンプルに
IFAB競技規則における「手・腕」の範囲(脇の下が境界)
ハンドの判断で使う「手・腕」は、脇の下の最下点(いわゆる“アームピットライン”)より下の部分を指します。ここより上は肩の扱いとなり、肩でのプレーは反則ではありません。つまり、「肩=セーフ、脇の下ラインより下の腕=ハンドになり得る」という理解が基本です。
反則となる主なケース(意図的・不自然に大きくする・得点への直結)
- 意図的に手や腕でボールに触れる(手・腕をボールへ動かす、叩く、はじく)
- 手・腕の位置によって体を不自然に大きくし、シュートやパスを遮る(動きとして正当化できない位置)
- 偶発でも、自分の手・腕に当たって直接ゴール、または直後に得点する
「不自然に大きいか」は、腕の位置がその場面の動作として妥当かどうかで判断されます。ブロックやジャンプに伴う自然な腕の動きは許容されやすく、横や上に大きく広げて面積を増やすと反則になりやすくなります。
反則にならない主なケース(偶発・支え腕など)
- 至近距離や高速度で、実質的に反応不能の場面(腕が自然な位置にある場合)
- 転倒・スライディング時に地面を支えるための腕に当たる(体の下で支える範囲)
- 自分の頭・体・足に当たってから腕に当たるなど、避けようのないリバウンドで、腕位置が妥当な場合
- 肩(脇の下ラインより上)に当たる
審判が見る判定基準のフレーム
腕の位置とシルエット(不自然な拡大の判断)
腕が体から離れて横や上に張り出し、当たればブロックになる「シルエット拡大」はリスク大。逆に、胸の前で畳む・背中に回す・体のラインに沿わせるなど、面積を増やしていなければ反則になりにくいです。
距離・反応時間・ボール速度
至近距離のクロスやシュートは「避ける時間があったか」が重要。1〜2メートルでの強烈なシュートに対して、腕が自然な位置なら偶発として認められる可能性が高まります。
予測可能性と身体の動きの妥当性
相手のモーション、視野、体の向きから「来ると予測できたか」。予測できたのに腕を広げていれば不利に。逆に反転・ターンの最中などで腕の振れが自然な範囲なら有利に働きます。
ディフレクションとリバウンドの扱い
自分や他人の体に当たってから腕に当たる場合、距離と速度、腕位置の妥当性を総合評価。リバウンドだから自動セーフでも、即アウトでもありません。腕で面積を増やしていたかどうかが最後の分かれ目です。
境界線を言語化する
肩はハンドではない、上腕はハンドになり得る
脇の下ラインより上の肩に当たるのはハンドではありません。ラインより下の上腕・前腕・手は対象です。判定が割れたら「当たった位置が脇の下より上か下か」をまず思い出しましょう。
「支え腕」はどこまで許容されるか
スライディングや転倒で、地面との間に挟むように体を支える腕は原則セーフ。ただし、体から横に離してボールコースを消すように伸ばすと「支え」の範囲を超え、反則に傾きます。
肩より上の腕位置とシュートブロック
シュートブロックで腕が肩より高く上がっていれば、動作として正当化しにくく、当たれば反則になりやすいです。胸元〜腹前で畳む、肘を内側に締めるなど、事前の準備が鍵です。
自然なジャンプの腕振りと拡大の線引き
ジャンプの助走や滞空での腕振りは自然な動作。ただし、シュートコースに合わせて横に張る・振り上げたまま面を作ると拡大とみなされやすくなります。
具体例で学ぶグレーゾーン10選
1. シュートブロックで腕が体から離れて被弾
腕が横に張り出していれば高確率でハンド。特にゴール前では「面を大きくしたか」を厳しく見ます。肘を畳んで胸前・腹前に収める習慣を。
2. 至近距離のクロスが手に当たる
1〜2mで避ける余地が小さく、腕位置が自然ならノーファウルになり得ます。逆に、クロスに合わせて腕を広げていれば反則の可能性が高いです。
3. スライディングで地面を支える手
滑り込みながら体の下で地面を支える手は原則セーフ。ただし、もう片方の腕を横に伸ばしてコースを消せばアウト。両腕の位置をセットで見られます。
4. こぼれ球が自分の腕に当たって得点
偶発でも、自分の手・腕に当たって直接ゴール、または直後に押し込んだ場合は得点取り消し。攻撃側は腕に当たったら無理に続けない判断も必要です。
5. 味方の偶発的ハンド直後の得点
味方の偶発的ハンドが直前にあっても、現在の基準ではそれだけで自動的に反則にはなりません。得点者本人の偶発ハンド直後のみが対象です。
6. ヘディングの競り合いで腕に触れる
ジャンプのバランスで腕が自然に振れて当たった程度なら、通常は反則になりません。腕で相手を押さえたり、面を作ってコースを消すと評価が変わります。
7. ドリブル中の自然な腕振りに当たる
推進力のための自然な腕振りに偶発的に当たるのはノーファウルになりやすいです。ただし、相手のシュート・パスに合わせて腕でブロックする動きはアウト。
8. 上腕の外側(脇の下より上)に当たる
脇の下ラインより上=肩扱いなので反則ではありません。判定が割れる場面では「当たったのは肩か腕か」を冷静に確認。
9. GKのペナルティーエリア境界線上の処理
ラインはエリアに含まれます。ボールがライン上・内側にあれば、GKは手を使ってOK。ボール自体が外にあるのに手で触れれば反則(直接FK)です。
10. 壁での守備と腕の位置
壁で手を背中に回すのは義務ではありませんが、リスク管理として有効。肘を外に張れば「拡大」と見なされやすく、距離が近い分、厳しく取られる傾向です。
ゴールキーパーのハンドの特例
自陣ペナルティーエリア内と外での違い
自陣PA内ではGKは手を使えます。PA外でのハンドは他の選手と同様に反則(直接FK、状況次第で警告・退場)。位置の判断は「ボールの位置」が基準です。
パント・スロー直後の相手競りかけの反則
相手はGKのボール放り出し(パント)やスローの動作を妨げてはいけません。リリースを妨害すれば間接FKの対象で、状況により警告もあります。放した後にプレー再開すればチャレンジ可能です。
味方の意図的バックパス・スローインの扱い
味方が意図的に足でキックしたボールや、味方からのスローインをGKが手で扱うのは反則(間接FK)。一度手で保持したボールを離した直後に、他の選手に触れず再び手で触れるのも反則です。
反則となった場合の再開と罰則
直接FKかPKかの判断
ハンドは基本「直接FK」。守備側が自陣PA内で犯せばPKです。再開位置は反則が起きた場所(GKのハンドはボールの位置で判断)になります。
DOGSO/SPAでの警告・退場の基準
- DOGSO(明白な得点機会阻止)でのハンド:原則退場(赤)。
- SPA(有望な攻撃の阻止)でのハンド:原則警告(黄)。
- 主審がアドバンテージを適用し得点が入った場合、DOGSO相当でも退場にはならず、次の停止で警告にとどまります。
VAR介入の条件とオンフィールドレビュー
VARはゴール、PK、退場、誤審による警告/退場の識別に関わる「明白かつ重大な誤り/見逃し」に限定。ハンドはゴールやPKに関係する場合に介入対象で、必要に応じて主審がオンフィールドレビューで映像確認します。
ジュニアからトップまでの実務的な運用
年代・カテゴリーで起こりやすい誤解
- 「手に当たれば全部ハンド」ではない:位置と動作の妥当性が重要。
- 「意図がなければOK」でもない:不自然な拡大は意図不問で反則になり得る。
- 「味方の偶発ハンド直後の得点はNG」は現在では原則NGではない:得点者本人の偶発のみが対象。
大会規定・ローカルルールの確認ポイント
大会によってはVARの有無、芝/フットサル化したピッチ条件、ユース独自の運用メモが存在します。事前に「ハンドの解釈メモ」「VARなし」「運用連絡」の3点は必ず確認しましょう。
指導者・保護者が子どもに伝える言葉
- 腕は広げない、体に沿わせる。
- ブロックは胸前で畳む、肘は内側。
- 倒れるときの支え手は体の下に、横に伸ばさない。
- 当たったら止まらず、まず次のプレーへ切り替える。
選手が今日からできるハンド予防の身体操作
ブロック時の腕の畳み方と角度
両肘をみぞおちの前で軽く曲げ、手のひらを胸・腹に添える。脇は軽く締め、肩は力みを抜く。体をひねるときも肘が外に流れないよう、肋骨のラインに沿わせる意識を持つ。
ジャンプ・着地での腕の整理
ジャンプの振り上げはコンパクトに。滞空で肩より上に腕を残さない。着地時は肘を内側に戻し、手は骨盤の前に収める「リカバリー形」をルーチン化するとミスが減ります。
スライディングの支え手の作り方
接地側の手は胸の下・腹の下に。反対側の腕は背中側へ引き、横の面を作らない。上体をやや丸め、腕でコースを消すのではなく体幹と脚でコースを切る意識に切り替える。
壁の作り方と手の置き場
両手は背中か太腿の後ろに軽く添えるのが安全。前に置くなら指先を下・肘を内に。ジャンプする場合も肘が外に開かないよう、事前に合図と型を統一しておく。
トレーニングドリル:判定感覚を磨く
反応時間を測る至近距離シュート練習
1. コーチが2m、3m、5mの距離からミドル強度のシュートを連射。2. 守備者は腕を畳んだ基本姿勢でブロック。3. 当たった位置と腕姿勢を即口頭で確認。距離ごとの「避けられる/避けられない」の感覚を共有します。
ブロック動作の反復とビデオフィードバック
短い本数で構わないので、肘の開き具合と肩の高さをスローで確認。OKフォームをチームで合意し、罰ゲームではなく「上手く畳めた人が勝ち」に設定して習慣化を促します。
GKとフィールドの境界認識ゲーム
PAライン上にマーカー。コーチが様々な位置にボールを置き、GKは「手OK/NG」を即答→動作。フィールドプレーヤーも一緒に参加し、「ボール位置が基準」を全員で刷り込みます。
チーム内でのケーススタディ共有法
週1回、3クリップだけでもOK。グレー事例(PK判定/ノーハンド判定)を見て、各自の理由を20秒で説明→最後に審判基準を読み上げてすり合わせ。短時間でも効果が高いです。
メンタルとコミュニケーション
ハンド後の切り替えと主審への対応
抗議で判定は変わりません。主審へはキャプテンが一言、「腕の位置は自然でしたか?」「距離は近かったですか?」の確認に留め、すぐ次の準備へ。これだけでチームの温度が下がります。
キャプテンが冷静に確認すべき3点
- 当たった部位は肩か腕か(脇の下ラインより上か下か)
- 腕で体を大きくしていたか(シルエットの拡大)
- 距離と反応時間(避ける余地があったか)
観客・保護者への説明の仕方
「肩はOK、腕はNG」「腕で体を大きくしたか」「距離が近すぎたか」の3フレーズで十分。専門用語より、ポイントを繰り返すのが伝わります。
よくあるQ&A
手に当たれば必ずハンド?
いいえ。肩は対象外、腕でも自然な位置・避けられない距離ならノーファウルになり得ます。腕で体を大きくしたかがカギです。
意図がなければセーフ?
意図がなくても、腕で面積を広げていれば反則になり得ます。逆に意図がなく、自然な位置ならセーフになり得ます。
肩と上腕の見分け方は?
脇の下の最下点を境に、それより上は肩(セーフ)、下は腕(対象)。映像でもこのラインを意識すると整理しやすいです。
VARがあると基準は変わる?
基準自体は同じ。VARは「明白な誤り」に介入するだけで、細かなグレーは現場の判定が優先されます。
最新改定のトピックを追う方法
IFABの原文と日本語資料の読み方
まずIFABの競技規則の該当条文(ロー12:ファウルと不正行為)と年次改定の要点を確認。日本語資料は国内連盟の技術レフェレンスや講習資料が参考になります。原文→要点→事例の順で読むと定着しやすいです。
年度切り替え時のチェックリスト
- ハンドの定義の変更点(「不自然な拡大」の表現)
- 偶発ハンドと得点の取り扱い
- GK関連(バックパス、リリース妨害)の運用メモ
- VARの運用(あれば)
チーム内ルール更新の手順
1. コーチが要点を1枚にまとめる。2. 練習前ミーティングで5分共有。3. ブロック/ジャンプ/スライドのフォームを動画で確認。4. 初戦前に再確認。更新は短く、繰り返しがコツです。
まとめ:判定の「グラデーション」を味方にする
リスク管理としての腕位置の原則
- 肩はOK、腕は対象。脇の下ラインを意識する。
- 腕で体を大きくしない。肘は内、手は体側・胸前。
- 支え手は体の下、横に張らない。
試合で迷ったら思い出す一文
「その腕の位置は、この場面の動きとして妥当か?」— この問いが最短の判断基準です。
動画レビューでの習慣化
週に数本のクリップで十分。腕の位置と距離、当たった部位を言語化し、チームで共通のフォームを作りましょう。理解が深まるほど、不要なPK・FKは確実に減っていきます。
最後に。ハンドは白黒だけでなく濃淡で決まる判定です。だからこそ「準備」と「習慣」でリスクを下げられます。今日の練習から、腕の畳み方をチームの共通言語にしていきましょう。
