目次
- リード文:審判視点で「ファウル」と「反則」を言語化する
- 結論要約:ファウルと反則の違いを一枚で整理
- 用語の基礎整理:競技規則(LOTG)における定義
- ファウルの成立条件:審判が見る4つの要件
- 直接フリーキック(DFK)になるファウル:接触系の判断基準
- 間接フリーキック(IFK)になる違反:非接触・技術的な反則
- ハンドの反則(ハンドリング)の整理:意図・腕の位置・身体拡大
- ミスコンダクト(非ファウル型の反則):警告・退場の体系
- 再開方法の違い:判定から次の一手へ
- 審判の視点とシグナル:選手に伝わる判定プロセス
- アドバンテージ適用:反則は取るが止めない選択
- よくある誤解Q&A:現場で割れやすい判断を整理
- ケーススタディ:映像なしで再現できる状況別判断
- カテゴリー別の実務:高校・社会人・ユースでの基準の合わせ方
- プレーヤーができる対策:反則を避けつつ強度を上げる
- コーチ・保護者の関わり方:判定理解をチーム文化へ
- 審判チームとVARの役割(導入環境を踏まえた整理)
- ルール改定への追随:毎年の変更点をどう追うか
- まとめとチェックリスト:試合前に確認したい10項目
- 参考情報と追加リソース
- おわりに:判定の“読み合わせ”がプレーを変える
リード文:審判視点で「ファウル」と「反則」を言語化する
「ファウルと反則って何が違うの?」──この問いに、試合中に即答できる選手やコーチは実は多くありません。競技規則(IFAB Laws of the Game)では、ファウルは“特定の条件を満たすプレー中の違反”であり、反則は“競技規則違反の総称(ファウル+ミスコンダクト等)”です。本記事は審判の判断軸に沿って、曖昧になりがちな境界線を整理。現場で迷わないための具体的な判定基準と、プレーや指導にすぐ活かせる実務を、コンパクトにまとめます。
結論要約:ファウルと反則の違いを一枚で整理
審判が区別する3軸(場所・対象・タイミング)
判定の起点は次の3つです。
- 場所:フィールド内か外か(ペナルティエリアの内外も重要)
- 対象:相手競技者か、それ以外(味方、審判、交代要員・役員、外的要因)
- タイミング:ボールがインプレーかアウトオブプレーか
ファウル=プレー中にフィールド上で相手に対して行う違反
ファウルは「競技者が」「フィールド内で」「ボールがインプレーのとき」「相手競技者に対して」行う違反。再開は直接FK・間接FK・PKのいずれかです。
反則=競技規則への違反全般(ファウル+ミスコンダクト等)
反則は競技規則違反の総称。ファウルに加え、ミスコンダクト(警告・退場の対象)や技術的違反(GKの6秒など)も含まれます。再開方法は違反の種類に応じて異なります。
用語の基礎整理:競技規則(LOTG)における定義
ファウル(Foul)とミスコンダクト(Misconduct)
- ファウル:上記4条件を満たす違反。接触系(押す・蹴る等)やハンドリングなど。
- ミスコンダクト:反スポーツ的行為、異議、暴力的行為など、警告・退場に値する行為の総称。ボールがインプレーかどうかを問わず発生します。
直接フリーキック・間接フリーキック・ペナルティキック・ドロップボール
- 直接フリーキック(DFK):主に接触系のファウルやハンドリング。
- 間接フリーキック(IFK):非接触・技術的違反(危険な方法のプレー、インピーディング無接触、GK違反など)。
- ペナルティキック(PK):守備側が自陣PA内でDFKとなるファウルを犯した場合。
- ドロップボール(DB):外的要因・偶発的接触(審判へのボール接触で有望な攻撃が発生する等)で再開する場合。
警告(イエロー)・退場(レッド)と技術的再開の関係
カードは「懲戒」の処置、再開は「技術的」な決定で別物です。例えばアドバンテージ適用後に遡って警告・退場を出すことは可能です。再開は、元の違反の種類に応じて決まります。
ファウルの成立条件:審判が見る4つの要件
ボールがインプレーであること
スローインやフリーキックの前・後のようにボールがアウトのときはファウルは成立しません(ミスコンダクトや再開のやり直し対象になることはあります)。
犯行場所がフィールド内であること
ピッチ外での接触は原則ファウルではなくミスコンダクトの扱いとなり、再開は状況によりIFKまたはDBなどに分かれます。
競技者が相手競技者に対して行うこと
味方や審判、外的要因への行為は「ファウル」ではなく、別の規定(ミスコンダクト等)で処理されます。
行為の性質(不注意・無謀・過度の力)による重み付け
- 不注意(Careless):注意を払わない/配慮不足。FKは与えるが懲戒は通常不要。
- 無謀(Reckless):他者の安全を無視。FKに加え警告。
- 過度の力(Excessive force):相手の安全を危険にさらす。退場(SFP/VC)。
直接フリーキック(DFK)になるファウル:接触系の判断基準
チャージ・押す・つかむ・タックル・跳ぶ・蹴る・打つ
これらは接触の強度・角度・スピード・危険性で評価します。ボールに触れていても、相手への無謀な接触が優先されます。
スライディングタックルの許容と危険ライン
- OK例:片足、足裏を見せない、地面を滑らせボールを先にクリア、相手の安全確保。
- NG例:足裏を見せる、膝より高い、後方からの衝突、両足をそろえた突入、遅れて相手に当たる。
背後・死角からのチャレンジの評価
視野外・背後からの強い接触は無謀または過度の力になりやすく、警告・退場のリスクが高まります。
ペナルティエリア内でのDFK=PKに変換される条件
守備側が自陣PA内でDFKとなるファウルを犯した場合はPK。ハンドリングも同様です。
間接フリーキック(IFK)になる違反:非接触・技術的な反則
危険な方法でのプレー(ハイキック等)
相手の安全を脅かすが接触がない場合はIFK。接触が発生するとDFK評価に切り替わります。
進路妨害(インピーディング)と接触の有無
ボールにプレーせず進路を妨げる無接触はIFK。接触が伴えば押す/チャージ等のDFK評価になります。
ゴールキーパー特有の違反(6秒・バックパス・ハンドリング)
- 6秒ルール:ボールの制御(手または接触で保持)からおおむね6秒を超えて保持=IFK。
- バックパス:味方の意図的なキック(足)や味方のスローインを手で扱う=IFK。
- 再触球:手で放したボールを他の競技者に触れずに再び手で扱う=IFK。
オフサイドと再開のポイント
オフサイドは「関与」が生じた地点でIFK。関与とはプレーへの干渉、相手への干渉、有利の獲得のいずれかです。
ハンドの反則(ハンドリング)の整理:意図・腕の位置・身体拡大
腕の定義(腋下ラインより下)と自然/不自然の基準
腋下より下が腕とみなされます。腕で身体を不自然に大きくしているか、動きに見合った位置かを評価します。
意図の有無ではなく“結果としての利得”の見極め
意図がなくても、腕で有利を得た場合は反則になることがあります。特にシュートブロックで腕が広がっていると反則になりやすいです。
ディフレクションと距離・反応時間の勘案
至近距離の跳ね返りで回避不能の場合は不問になることがあります。腕の位置や動き出しのタイミングも加味されます。
攻撃側の偶発的ハンドと得点への直結
攻撃側の偶発的ハンドでも、当該選手が直後に得点したり、直後に明白な得点機会を生む場合は反則となります。プレーが続き、数プレーを挟むと実質的には不問です。
ミスコンダクト(非ファウル型の反則):警告・退場の体系
反スポーツ的行為(USB)・異議(Dissent)・遅延行為(Time-wasting)
- USB:シミュレーション、意図的な手でのボール阻止未遂、過度なユニフォーム引きなど。
- 異議:身振りや言葉で判定に強く抗議する行為。
- 遅延行為:再開を故意に遅らせる、ボールを大きく離す等。
DOGSO(明白な得点機会の阻止)とSPA(有望な攻撃の阻止)
- DOGSO:明白な得点機会を反則で潰す=退場(PA内でのボールにプレーしようとしたDFK/PK型の反則は原則警告)。
- SPA:有望な攻撃を戦術的に止める=警告。
暴力的行為(VC)・著しく不正なプレー(SFP)
VCはボールと無関係の暴力。SFPはボールを争う中の過度の力。いずれも退場です。
交代要員・役員の違反と再開方法
交代要員・交代済み選手・チーム役員の違反はファウルではありません。懲戒(警告・退場)の対象となり、再開は状況に応じたIFKまたはドロップボール等になります。身体的な攻撃など重大な行為では、行為が発生した場所・対象に応じてFK/PKが適用される場合があります(最新の競技規則・通達を必ず確認)。
再開方法の違い:判定から次の一手へ
DFK/PK/IFK/ドロップボールの使い分け
接触系はDFK(PA内ならPK)、非接触・技術的違反はIFK、外的要因や偶発停止はDBが基本線です。
反則の位置と再開位置の原則(最近地点の概念)
再開は原則として反則のあった地点。相手ゴールエリア内のIFKは、ゴールエリア線上の最近地点から。守備側のゴールエリア内のFKはゴールエリア内の任意地点から行えます。
反則後のボールアウト・反則競合時の優先順位
複数の違反が重なる場合は、より重大な違反(懲戒の重さ・再開の種類・身体的影響・ゲームへの影響)を優先。反則が先なら反則で再開、先にボールアウトならスローイン等が優先されます。
オフサイドやGK違反における再開の典型
オフサイドは関与地点のIFK、GKの6秒・バックパス・再触球は違反地点のIFKが基本です。
審判の視点とシグナル:選手に伝わる判定プロセス
ファウルの認知→評価→選択→コミュニケーション
接触を見た直後に強度・角度・スピード・安全性を評価し、アドバンテージの有無と懲戒の要否を選択。笛・ジェスチャー・声で伝えます。
アドバンテージ・シグナル・笛の強弱の意味
アドバンテージは両腕を前方に伸ばす合図。IFKでは腕を上げたまま。強い笛は危険・止める、短い笛は軽微・リスタートの合図のことが多いです。
カード提示の手順とセーフティマネジメント
安全確保→相手の状態確認→反則者を明確化→カード提示→再開。衝突が続く場合は距離と声が有効です。
アドバンテージ適用:反則は取るが止めない選択
適用の条件(ボール保持・展開・脅威・距離)
- 確実なボール保持・次のプレーが見えるか
- 前向きの展開・人数状況
- ゴールへの脅威レベル
- 反則地点とゴールの距離
適用後の遡及警告・遡及退場の扱い
アドバンテージを与えても、次の停止時に警告・退場は可能です。記憶管理(犯行者・背番号)と合図が重要。
ハードファウルとアドバンテージの優先順位
安全が最優先。危険性が高い場合は即時停止が原則。軽微な戦術ファウルはアドバンテージ優先が選択肢になります。
よくある誤解Q&A:現場で割れやすい判断を整理
“ボールに触れたらOK”の誤解と接触の評価
ボールに先に触れても、無謀・過度の力で相手を危険に晒せばファウル(場合により警告・退場)です。
肩と肩のチャージはどこまで許容される?
公平・正面・ボールを争う文脈で、腕を使わず、過度な力でなければOK。背後や死角からの体当たりはNGです。
ハンドの“意図”と“自然な姿勢”の境界
意図よりも、腕で身体を不自然に大きくしていないかが基準。ジャンプの着地・バランスの腕は自然と評価されることがあります。
スライディングでボール先触りでもファウルになり得る理由
先触り後の危険接触や、足裏・両足の突入は安全性を損なうため。評価は総合です。
ケーススタディ:映像なしで再現できる状況別判断
カウンター阻止の戦術的ファウル(SPA)
中盤で引っ張る・抱えるなど軽接触でも、数的優位カウンターを止めれば警告(SPA)。アドバンテージを出して得点に至れば、遡って警告が基本です。
ペナルティエリア際の接触と再開選択
ラインはペナルティエリアの一部。ライン上のDFKファウルはPK。接触地点の特定が肝心です。
キーパーの6秒超過と相手のプレッシャー強度
相手が距離を詰めていないのに長く保持するのは違反。まずは声で促し、それでも改善しなければIFKが選択肢になります。
空中戦での腕の使い方とファウル閾値
相手の顔・首への腕・肘接触は警戒度高。スペース確保の軽い接触は許容されるが、押し上げ・肘打ちはDFK+懲戒のリスク。
カテゴリー別の実務:高校・社会人・ユースでの基準の合わせ方
安全性最優先の基準設定とゲームコントロール
年齢が下がるほど安全優先。社会人は強度が高く接触許容幅がやや広がる一方、危険プレーは厳格に。
接触強度に対する“期待値”と説明責任
試合序盤に基準を可視化(早めの笛・声かけ)。選手に「ここまではOK/NG」を伝えると無用な反発を減らせます。
審判団(主審・副審)の事前合意(プリゲーム)
接触基準、アドバンテージ、ベンチマネジメント、オフサイドの運用などを事前に統一。旗と笛の優先権も明確に。
プレーヤーができる対策:反則を避けつつ強度を上げる
腕の使い方・体の向き・進入角度の工夫
腕は体側、手のひらは相手から遠ざける。進入は斜め45度で相手の進行方向を限定。背後からは避ける。
タックルの足の高さ・軸足の位置
足裏を見せない、膝下で収める、軸足は相手の外側に置いて衝突を減らす。先に地面に滑らせる意識を。
遅延行為を避けるリスタートルーティン
ボール確保→設置→2歩下がる→合図で蹴る、のルーティン化で無駄なカードを回避。
異議でカードをもらわない伝え方
即時に短く、事実ベースで、キャプテン経由。「ハンドですか?」など確認の形に。
コーチ・保護者の関わり方:判定理解をチーム文化へ
トレーニングでの“基準”共有ドリル
肩チャージ許容ライン、スライディングの高さ、手の位置など「笛が鳴る/鳴らない」を練習内で可視化。
練習試合での審判コミュニケーション設計
事前に基準の希望を共有し、試合後にフィードバックを受ける。感情ではなく事実ベースで。
選手に伝えるべきNG例(遅延・異議・報復)
遅延・異議・報復はチーム全体の信頼を下げます。小さな積み重ねが終盤の判定にも影響します。
審判チームとVARの役割(導入環境を踏まえた整理)
主審・副審・第4の審判の分担と視野
主審は接触・全体管理、副審はオフサイド・タッチライン・視野外接触、第4はベンチ管理と交代手続き。
VARの介入範囲(ゴール・PK・レッド・人違い)
明白かつ重大な見逃し/誤審に限り介入。オンフィールドレビュー(OFR)は最終判断のための手段です。
非VAR環境での現実的なセルフマネジメント
リスクの高い局面では角度・距離を優先、アシスタントと役割分担を徹底。選手・ベンチへの事前説明も有効です。
ルール改定への追随:毎年の変更点をどう追うか
IFAB発表の読み方と適用時期の確認
IFABの年次改定は原則新シーズン開始時に適用。大会要項での適用時期も必ず確認しましょう。
競技規則の日本語版と通達のチェック
公式日本語版・通達は原文の趣旨を踏まえて解釈。図解やQ&A資料も参考に。
チーム内の“更新ミーティング”の設計
毎年の変更点を15分で共有→練習で1ドリルに落とし込む→試合で振り返る、のサイクルが有効です。
まとめとチェックリスト:試合前に確認したい10項目
ファウル成立条件の再確認
インプレー・フィールド内・相手競技者・競技者による行為の4点。
接触系DFKのリスク行動
背後から、足裏先行、両足、肘の使用、無謀な速度。
IFK対象の技術的反則
危険な方法のプレー、インピーディング無接触、GKの6秒/バックパス/再触球。
アドバンテージ適用と遡及処置
攻撃継続の有無、次の停止での警告・退場の準備。
ハンドの基準3点セット
腕の定義、身体拡大、距離と反応。
GK関連の注意点
6秒、意図的バックパス、スローインへの手使用禁止。
SPA/DOGSOの見分け方
距離・方向・ボール保持可能性・守備人数(いわゆる4要素)。
カードの閾値と一貫性
序盤から基準を明確に、同種事象に同じ解決。
再開手順と位置
反則地点、ゴールエリア特例、IFKの腕上げ維持。
審判とのコミュニケーション方針
キャプテン経由、事実ベース、短く丁寧に。
参考情報と追加リソース
競技規則(IFAB Laws of the Game)確認先
国内大会要項・通達の参照ポイント
大会要項の「規則の適用」「特別規定(交代枠、延長、PK方式)」と、最新通達の反映有無を確認。
勉強会・検定・研修での学び方
事例映像→判定理由の言語化→再現ドリルの3段構成が効果的。審判経験者のフィードバックが最短距離です。
おわりに:判定の“読み合わせ”がプレーを変える
ファウルは「いつ・どこで・誰に対して」が揃って初めて成立し、反則はその外側まで含む大きな概念です。審判の3軸(場所・対象・タイミング)でプレーを言語化できれば、無駄なカードやファウルは確実に減ります。今日の練習から、腕の位置・進入角・声かけの3点だけでもチームで合わせてみてください。勝ち筋は、正しい理解の上に積み上がります。
