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サッカーゴールキックのルール変更点と戦術的効果

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ゴールキックのルールは2019/20シーズンに大きく改定されました。ボールが「キックされて明確に動いた瞬間」にインプレーとなり、守備側(キッカーチーム)の選手がペナルティエリア内で受けられるようになったことで、ビルドアップの選択肢と守備のプレス設計が一変。この記事では、サッカーゴールキックのルール変更点と戦術的効果を整理し、すぐに現場で使えるセットアップ、合図、ドリル、KPIまで実践目線でまとめます。

導入:なぜゴールキックのルール変更が重要か

一言でわかる変更点と背景

一言で言えば、「エリア内でもプレー再開できるようになった」ことが最大の変更点です。これにより、ゴールキックが単なる再開手段から、意図的に相手を動かして前進する“攻撃の第一手”へと進化しました。背景には、試合の流動性を高め、意図的な戦術の幅を増やすというIFAB(国際サッカー評議会)の狙いがあります。

試合の前進とリスク管理に直結する理由

短くつないで前進するのか、プレスを誘ってから長いボールで外すのか、あるいは最初からロングに振るのか。ルール変更により、この選択がゴールキックのたびに発生します。つまり、1試合あたり10〜20回以上の「戦術的チャンス」を持つことになり、準備の差がスコアや流れに直結します。

この記事で得られる実践的メリット

  • 2019/20 Law 16の要点を正しく理解できる
  • チームの型(配置・合図・パターン)をそのまま導入できる
  • 練習メニューとKPIで、翌週に効果検証まで回せる

ルール変更の概要(2019/20 Law 16)

施行時期と適用範囲

2019/20シーズンからIFABの競技規則(Law 16:ゴールキック)が改定。世界各地の公式戦に順次適用され、日本国内の大会でも同様の基準で運用されています。

要点1:ボールは“キックされて明確に動いた”瞬間にインプレー

  • キッカーがボールを蹴って“明確に動いた”時点でインプレー。
  • 以前の「ペナルティエリアを出てからインプレー」という条件が撤廃。

要点2:守備側の味方はペナルティエリア内で受けられる

  • 同じチームの選手は、エリア内で自由にポジションを取り、パスを受けられる。
  • ボールが動いた瞬間にインプレーなので、そのままプレー続行が可能。

要点3:相手チームはインプレーまでエリア外で待機

  • 相手(攻撃側=守っている側)は、ボールがインプレーになるまでペナルティエリア内へ入れない。
  • 相手が早く侵入し干渉した場合は、原則やり直し(リテイク)。
  • ただし、相手が退避する時間が無くエリア内に残ってしまっただけの場合は、干渉しなければプレー続行が認められる。

要点4:直接得点・オフサイド・やり直しの扱い

  • ゴールキックから相手ゴールへの直接得点は認められる。
  • 自陣ゴールへ直接入った場合は得点とならず、相手のコーナーキック。
  • オフサイドはゴールキックからは適用されない。
  • キッカーの二度触りは反則(間接FK)。

過去ルールとの違いと実務上の注意

  • 最大の違いは「エリア内でのプレー再開が可能」になった点。
  • 主審は相手選手の侵入・干渉の有無を判断し、やり直しを命じることがある。
  • GKやDFは合図とタイミングを統一し、二度触りや不用意な接触を避ける。

具体シナリオで理解するゴールキック

ペナルティエリア内でのショートリスタート

GK→CB/FBへ数メートルのショートパス。相手の最前線がエリア外に固定されるため、最初の一手でフリーの選手を作りやすくなります。2CBが大きく開き、アンカーが斜めに降りる“3人目”のライン形成が基本。最初の縦角度を作るため、受け手は身体の向きを外向き(タッチライン側)にしておくと安全です。

相手が早く侵入した・退去できなかった場合の扱い

  • 相手が意図的にエリアへ侵入してプレーに干渉=原則やり直し。
  • 相手が退去中で干渉なし=続行可能。干渉が起きたらやり直し。
  • 実務上は主審の判断となるため、GKは審判とコンタクトを取りやすい位置に立ち、再開前のシグナルを確認すると安全。

ロングキックを選ぶセットアップと隊形

ロングを蹴る場合も、短くつなぐ“構え”を見せることで相手を引き出せます。前線は2トップ+サイドハーフが内側に絞り、セカンドボール回収の三角形(落下点+前後左右のサポート)を形成。GKはターゲットの手前5〜8mを狙う低く強い弾道で、跳ね返りを味方が拾えるように。

風・ピッチ・スタジアム環境が与える影響

  • 強風:向かい風=低弾道とワンツーバウンド、追い風=落下点が伸びる。
  • ピッチ:芝が長い・重い日はショートのスピードが落ち、インターセプトリスク上昇。
  • 観客・音響:ホームでは合図が通りやすい。アウェイはジェスチャー強化。

戦術的効果(攻撃):ビルドアップの深化

GKを最終ライン化する発想と3人目活用

GKをCBの間に落として3バック化すると、最前線の数的不利を解消しやすくなります。GK→CB→アンカー(3人目)とボールが動くことで、相手の2トップ+トップ下のプレスラインを分断。GKは「受ける・運ぶ・蹴る」の三拍子を状況で使い分ける意識が鍵です。

CB/FBの立ち位置・角度・間合いの設計

  • CBはゴールエリアの両角〜ペナルティエリア角の間で幅を最大化。
  • FBはタッチライン上の高め位置で相手WGを外に固定。
  • 最初のパス角度は“外向き45度”。縦パスは相手の足元を通すより、逆足側へ。

中盤の降りる動き・第三の動き・レイオフ

アンカーがCBの外側で顔を出し、受けた瞬間にIHが背中で幅を取り直す“第三の動き”が有効。前線は足元を要求しすぎず、レイオフ(落とし)で前向きの味方に渡すチェンジテンポを狙います。

ショートとロングのミックス戦略(プレス誘導→脱出)

“ショートの構え→相手が食いつく→逆サイドへロングスイッチ”は定番の脱出法。キック前の合図で全員が同じ絵を見ていることが重要で、GKは助走と身体の向きでフェイクを織り交ぜると効果的です。

リスク管理:背後ケアと即時奪回の準備

  • 最終ラインの背後は常にCBかGKがカバー角度を確保。
  • 万一のロスト時に“5秒間の即時奪回”を合言葉に、近距離の圧縮と反転ダッシュをセット。

戦術的効果(守備):プレスとブロックの再設計

ハイプレスのトリガーと役割分担

  • トリガー例:GKの弱い足、CBのコントロールミス、背中へのパス、浮き球。
  • 1stラインがGKのパスコースを切り、2ndラインが前を向かせない。

マンツーマンとゾーンのハイブリッド当て方

最初の2〜3パスはマンツー気味に圧力をかけ、縦に出た瞬間はゾーンで挟む“ハイブリッド”。特にアンカーを消し、サイドへ誘導する設計が現実的です。

サイド圧縮とキック方向制限(トラップの作り方)

ボールサイドのSBへ出させ、ライン際で2対1を作るのが王道。逆サイドのWGは絞って中央レーンを消し、GKの斜めスイッチを抑制します。

ロング誘導とセカンドボール回収の設計

あえてロングを蹴らせ、落下点に人数を集めて回収するプランも有効。中盤は“落下点の真下・前・後ろ”の三角で構え、回収後は縦に速く。

カテゴリー別の実装ポイント

高校・大学年代での現実解(技術・体力・時間制約を踏まえて)

  • 型を3つに絞る(ショート、疑似ショート→ロング、純ロング)。
  • 合図は2つまで。例:「手を上げる=ショート」「腰に手=ロング」。
  • 練習は15分×週2回で定着可能。ゲーム形式に組み込むのが近道。

社会人・アマチュアの工夫(簡素な合図と再現性)

  • ピッチ状況と相手の出方で当日プランを一本化。
  • キック方向の“ゾーン名”を共通言語に(例:「A=左SB」「C=CF手前」)。

育成年代での安全配慮と意図の共有

  • GKとCBの距離を近くし、接触リスクを下げる。
  • 「なぜそこに立つのか」を図なしで言語化して伝える(角度・視野・次のパス)。

ポジション別スキルのアップデート

GK:配球、判断スピード、ファーストタッチ、視野確保

  • 配球:両足インステップ・インサイドで10〜30mの精度向上。
  • 判断:2秒以内にショート/ロング/保持の決断。
  • 視野:助走中に肩越しチェックを2回。

CB/FB:身体の向き、受け方、背後管理と縦パスの質

  • 半身で受け、外側の足でファーストタッチ。
  • 背後:常にGKと連結してカバーシャドウを形成。
  • 縦パス:足元ではなく前足のラインへ。パススピードは“味方が1歩で前向き化”できる強度に。

MF/FW:サポート角度、前向き化、第三者関与のタイミング

  • サポートは斜め45度で受ける習慣。
  • 前向き化:レイオフを合図に身体を開いて進行方向へ。
  • 第三者:最初の受け手が触れる瞬間にズレる(待ってから動かない)。

セットアップと合図:チームの取り決めを可視化する

キッカーと受け手の合図体系(コール・ジェスチャー)

  • コール例:「ショート=ショート」「ロング=ハイ」。シンプルが最強。
  • ジェスチャー例:左手=左展開、両手=中央寄せ、手を下ろす=キャンセル。

定型パターンとネーミング例(読まれた時の第2案・第3案)

  • 型A「デルタ」:GK→CB→アンカー→IH。中央突破型。
  • 型B「スライド」:GK→CB→FB→ウイング。サイド前進型。
  • 型C「リフト」:ショートの構え→反対サイドへロング。脱出型。
  • 第2案:コールを二音に変更(例:「デルタ2」=即リターン挟む)。
  • 第3案:同じ並びで配置だけ反転(右⇔左)。

テンポ変化とフェイクで相手のプレスをズラす

助走速度・間(アイソレーションの“間”)・視線のフェイクで相手の重心をズラし、一拍遅らせてから配球。テンポの変化は戦術です。

トレーニングドリル(図なしで再現しやすい)

3+GK対3の箱ビルドアップ(制約付き)

  • エリア端に20×20mの四角を設定。GK+CB2+アンカー対相手3。
  • 制約:2タッチ以内、逆サイドへ5本通せたら成功。ロスト時は即時奪回5秒。
  • ポイント:GKの位置を常にパスライン上へ微調整。

ハイプレス対処の誘導→脱出ドリル

  • 左右に5m幅のゾーンを設定。片側ゾーンへ3本以内で誘導→逆サイドへ一発脱出。
  • 成功条件:逆サイドの中盤が前向きで受ける。

ロング→セカンドボール回収→前進の連続練習

  • GKがターゲットへロング。中盤3人で落下点三角形を形成。
  • 回収後は10秒以内にPA手前のゴールゾーンへ侵入。

判断スピードと初期配置を磨くリピート練習

  • 指導者が「ショート」「ロング」「キャンセル」をランダムにコール。
  • 選手は2秒以内に配置→再開。1セット10連続×3セット。

分析と指標:効果を可視化するKPI

保持率・陣地獲得・失点関連の主要KPI

  • ゴールキック後30秒の保持率/前進率(センターライン越え)。
  • ショート再開時のロスト率、失点に直結した回数。

キック方向ヒートマップと受け手のペアリング

  • 左右・中央・手前/奥の選択傾向を可視化し偏りを把握。
  • 受け手の相性(CB⇔アンカー、GK⇔FBなど)を記録し最適解を更新。

相手スカウティング:プレス人数・誘導サイド・撤退速度

  • 何人で最初のラインに来るか、どちらへ誘導するか、外された後の撤退速度。
  • “遅い撤退”が見えたら、2本目で縦に刺すプランへ。

よくある誤解とFAQ

エリア内に相手がいたらプレーは成立する?

原則、相手はエリア外で待機が必要。退避が間に合わず残ってしまっただけなら、干渉がなければ続行可能。干渉した場合はやり直しの判断が下されます。

キッカーが自分で2回目に触れるのは反則?

はい。ボールが他の選手に触れる前の二度触りは間接FK。GKが再び手で触れても反則(状況により警告が科される場合あり)。

オフサイドは適用される?

ゴールキックからはオフサイドになりません。再開直後に前線へ送ってもオフサイドの反則は取られません。

ゴールキックから直接ゴールは認められる?

相手ゴールへの直接得点は認められます。自陣ゴールへ直接入った場合は得点ではなく、相手のコーナーキックになります。

試合運用チェックリスト

事前準備(合図・パターン・役割の統一)

  • 合図を2種類に限定し、全員が理解。
  • 型A/B/Cの初期配置を図なしで言語化し、口頭でも再現可能に。

試合当日の確認(相手の出方・ピッチ状況)

  • 前半5分で相手のプレス人数・誘導サイドを観察。
  • 風と芝の重さをGKとCBが共有し、弾道と強度を調整。

ハーフタイム修正(誘導先・ロング比率・セカンド回収)

  • 狙うサイドの変更、ロングの比率見直し。
  • セカンドの三角形の距離感を1〜2m微調整。

まとめ:次の練習から変えられる3つのポイント

初期配置と角度を固定化する

CBの幅、アンカーの立ち位置、FBの高さを“数字”で決め、誰が入っても再現できるように。

第2案・第3案を用意してテンポで崩す

同じ構えから別解が出せれば相手は読めません。助走と間合いのフェイクでさらに効果が増します。

KPIで振り返り、翌週へ反映する

「保持率」「ロスト率」「セカンド回収率」を簡易的に記録。良かった配置と合図を残し、翌週に上書きしていきましょう。

あとがき

ゴールキックは“最も触れる可能性が高いセットプレー”です。ルールの理解と小さな取り決めの積み重ねで、チームの前進力と安心感は大きく変わります。今日の練習から、合図と初期配置だけでも整えてみてください。きっと明日の試合で違いが出ます。

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