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サッカー審判のアドバンテージとは?勝機を生かす判定の核心
ファウルがあったのに笛が鳴らない。なのに次の瞬間、ビッグチャンスが生まれた——これが「アドバンテージ」です。単なる“見逃し”ではなく、得をする側(被害を受けたチーム)にとって、止めるより続けるほうが有利なときに審判が許可する「利得の優先」。本記事では、競技規則の定義から、主審の判断基準、具体的なケーススタディ、DOGSO/SPAの懲戒の扱い、VARや副審との連携、育成年代の注意点まで、ピッチで役立つ理解に落とし込みます。攻撃側は勝機を伸ばし、守備側はリスクを減らす——両者に効く“アドバンテージの教養”を手に入れましょう。
アドバンテージとは何か:競技規則の定義と本質
IFAB競技規則におけるアドバンテージの定義
国際サッカー評議会(IFAB)の競技規則では、反則が起きた際に「プレーを止めるより続けた方が、被害側チームに有利な結果が見込める」と主審が判断した場合、笛を吹かずに続行させることが認められています。これがアドバンテージの基本形です。続行した後でも、直近の数秒で有利が成立しないと判断されれば、元の反則に戻して再開できます。
「見逃し」ではなく「利得の優先」という考え方
アドバンテージは、反則を見逃すことではありません。被害側の利得(攻撃の継続や即時の決定機)が、笛を止める処置(FKやPK)より価値が高いときにのみ選ばれる「ゲームをより公平に進めるための選択肢」です。ゆえに、続けた結果が明らかに不利に転じるなら、戻して罰するのが筋です。
主審の裁量と4つのP(Possession/Personnel/Potential/Proximity)
実務では、主審は次の「4つのP」で素早く見極めます。
- Possession(保持):被害側が確実にボールをコントロールできているか
- Personnel(人数):味方と相手の数の関係は有利か(数的優位・配置)
- Potential(可能性):前方への展開や決定機の芽があるか
- Proximity(距離):ゴールや危険なスペースにどれだけ近いか
この4条件が揃うほど、アドバンテージ適用の価値は上がります。
2〜3秒の“ウェイト&シー”が意味するもの
適用の可否は一瞬で決まりません。多くの主審は2〜3秒ほど「待って見て(Wait & See)」判断します。その短い間に保持の安定、前のスペース、味方のサポート、相手守備の混乱を確認。得が続くと見れば継続、崩れれば元の反則に戻す——この猶予がアドバンテージの精度を高めます。
審判の手順とシグナル:どうやってアドバンテージを示すか
合図と声掛け(両腕前方・『アドバンテージ』『プレーオン』)
主審は、体で前方を示すように両腕を伸ばし、明瞭に「アドバンテージ!」「プレーオン!」と声を出します。選手・スタッフ・観客に対して、意図的な続行だと示すための合図です。
適用→不成立の戻し(リターン)の原則
適用直後の2〜3秒で有利が消えた場合、主審はプレーを止め、元の反則地点に戻して再開します(FKやPKの種類・位置は最初の反則に基づく)。この「戻し」があるからこそ、無理に続けさせるリスクを下げられます。
懲戒(警告・退場)の持ち越しと次の停止時の処置
アドバンテージを適用して続行した場合でも、反則に対する懲戒(警告・退場)は、次のプレー停止時に実施されます。ゼスチャーで「後で出す」意思を示しつつ、背番号や特徴を即時メモして取り逃しを防ぐのが基本です。
安全優先の原則とゲームコントロール
頭部への重大な接触や、報復の芽が高い状況では、安全と試合管理を優先して即時停止が推奨されます。アドバンテージはあくまでゲームを良くするための手段。怪我やエスカレーションの予兆があるなら止めるのが正解です。
適用してよい/避けるべき場面:判断の分岐点
適用が有効な典型例(カウンター、数的優位、前方に広大なスペース)
- 中盤でのファウル後、そのまま前方に広いスペースがあるカウンター
- 相手DFが崩れて3対2や2対1の数的優位が生まれた場面
- サイドで奪って、フリーの味方へ前向きに配球できる流れ
いずれも「止めるより続けた方が点に近い」状況。高確率で適用が機能します。
避けるべき例(重度の危険行為・負傷の疑い・密集でのボールロスト高確率)
- スパイク裏が入る危険なタックル、肘打ちなどの深刻な反則
- 頭部衝突や倒れ込みで負傷が濃厚なケース
- 密集の中で不安定なバウンド、すぐにボールを失いそうな流れ
安全や公正の観点から、アドバンテージ適用は控えるべきです。
ペナルティエリア内の特殊性:原則はPK、即時得点のみ例外的に適用可
守備側のペナルティエリア内の反則は、基本はPKが最有利です。例外は「即時に明白な得点が期待できる(もしくは直後に得点が入る)」ケース。そうでなければ、早めに笛を吹いてPKを与えるのが原則です。続行して得点に至らなければ、元の反則に戻してPKにします。
オフサイドとの違い:『待って見る』とアドバンテージは別物
副審の「遅延旗(デレイドフラッグ)」は、オフサイド判定を確実にするための“待ち”です。一方、アドバンテージはファウルがあった後に、被害側の利得を優先する“続行”。似て非なるものとして整理しておきましょう。
DOGSO・SPA・懲戒の実務:勝機と制裁のバランス
DOGSOで得点が入った場合の処置(退場相当→警告)
明白な得点機会の阻止(DOGSO)が起きたが主審がプレーオン、結果として得点に至った場合、当該選手は退場ではなく警告が適用されます。なお、PKエリア内で「ボールにプレーしようとして」DOGSOに至った場合は、もともと退場ではなく警告が基本(いわゆる“ダブル・ペナルティ緩和”)。手で引っ張る・押す等の非チャレンジ型やハンドによるDOGSOは、状況に応じて重く扱われます。
SPA(戦術的ファウル)とアドバンテージの相性
有望な攻撃(Promising Attack)を止めることを狙った反則は、通常は警告の対象です。アドバンテージで攻撃が実際に継続・発展し、決定機や得点に至った場合、運用上は「攻撃は止まっていない」と見て警告を省略する判断がとられることもあります。ただし、反則自体が「危険」「非紳士的」と評価されるなら、結果に関わらず警告(あるいは退場)になります。
セカンドイエロー/暴力行為の扱いと即時停止の基準
二度目の警告に相当する反則が起きた場合でも、主審はアドバンテージを適用し、次の停止で退場を告げることができます。対して、重大な反則(深刻な危険を伴うタックルや暴力行為)は安全を優先し、基本は即時停止・退場が推奨されます。
懲戒を『後で出す』ための記憶とメモの実務
適用直後の混乱で選手を見失わないために、主審は背番号・位置・色・特徴を短くメモします。副審や第4の審判員も連携して情報を保持。これにより、次の停止で確実に懲戒を実施できます。
フェーズ別ケーススタディ:実戦での判定イメージ
ビルドアップ中の接触:流すか止めるかの判断軸
自陣ビルドアップで軽い接触があっても、前進のライン(内側・外側)が空いていれば流す価値が高い。一方、背後にプレッシャーが重なる場面ではロスト確率が高いので止めた方が得。保持の確実性が最優先です。
中盤のカウンター起点:2〜3秒で見るべき3点(前・数・スペース)
奪った瞬間に「前を向けるか」「数的優位か」「前方スペースは十分か」を即確認。3つが揃えば強く適用、どれかが欠けるなら戻しも早めに。合図と声で選手に意思を伝え、テンポを損なわないのがコツです。
サイド突破とクロス直前:質の高いボールが出る見込みの評価
サイドで当たりを受けつつも、足元のコントロールが効いていて、ファーに味方が走り込むなら流す選択が生きます。タッチが乱れて角度を失うなら、FKでリスタートの方がチャンスになることも多いです。
セットプレー直後の転換:セカンドボールと優位継続
CKやFK後のこぼれ球で軽微な反則が起きた際、セカンドボールに味方が先着できるなら継続。逆に、密集で視界が悪くカウンターのリスクが高いなら止める。次の一手の有利/不利を、最短の時間軸で秤にかけます。
攻撃側が勝機を伸ばす技術と振る舞い
『笛が鳴るまで』を習慣化する意思決定
接触があっても、即座にプレーを止めず続ける意識がチャンスを生みます。アドバンテージは「続けた側」だけが得られるご褒美。倒れ込む前に一歩、ボールを前に運ぶ選択が試合を変えます。
接触後のファーストタッチと前向き化のコツ
- 最初のタッチを前方の安全地帯へ(相手の足が届かない側)
- 身体を入れてボールと相手の間に壁を作る
- 横への逃げ道と縦のスルーパスの両睨みで選択肢を持つ
味方への即時トランジション合図(ワードと身振り)
「プッシュ!」「ターンOK!」など短いワードを事前に統一。腕の振りや指差しで前方スペースを共有。アドバンテージ適用の2〜3秒で味方の動き出しを加速させます。
倒れ方と起き上がり:安全とプレー継続の最適解
無理は禁物ですが、軽い接触なら素早い起き上がりで数的優位に貢献。危険を感じたら自己防衛を優先し、主審の判断に委ねましょう。安全と勝機のバランスが鍵です。
守備側のリスク管理とフェアプレー
SPAとDOGSOの境目を理解する
「止める」つもりの小さな反則が、位置や状況次第でDOGSOに昇格することがあります。最後方、ゴールに近い、ボールコントロールが明確——この条件が重なると危険度は一気に上がります。
手の使い方・体の入れ方で不用意な反則を減らす
- 腕は広げず、胸で進路を管理する
- 後ろからの小さな押しはPKや警告のリスクに直結
- 「寄せる→遅らせる→奪う」の順で段階的に守る
止める/遅らせる/誘導するの賢い選択
真っ向勝負で不用意な接触をするより、「コース限定」「縦切り」「外へ誘導」で質の低い選択を相手に強いる。アドバンテージが生きない守備は、それだけで試合運びを楽にします。
キャプテンのコミュニケーション術(冷静・具体・短く)
判定に納得できない時も、冷静に「今のは後でカードですか?」のように短く具体的に確認。抗議でゲームが熱くなるより、次のワンプレーに備える方がチームの利益になります。
育成年代・アマチュアでの留意点
体格差と安全優先:アドバンテージが控えめになりやすい理由
育成年代は体格差が大きく、接触が怪我につながりやすい傾向があります。審判は安全を優先して早めに止める判断に寄ることが一般的です。
ローカル競技規則や審判経験差への適応
地域・大会ごとに運用の色が異なる場合があります。試合前のミーティングで「アドバンテージの考え方」を共有しておくと、双方の納得感が高まります。
練習メニュー:アドバンテージ前提のトランジションドリル
- 軽微な接触後「コーチがアドバンテージ!」と声を出し、即カウンター移行
- 2〜3秒で“前・数・スペース”を判断して選択肢を出すゲーム
- 倒れずにプレーを続ける習慣を作る接触耐性トレーニング
保護者・指導者の声掛けが判定に与える影響を最小化
外からの大声は、選手の集中と審判の判断を乱します。「笛が鳴るまで続けよう」の合言葉で、選手主体の判断を後押ししましょう。
よくある誤解と正しい理解(Q&A)
『アドバンテージを取ったのに戻された』のはなぜ?
適用直後の2〜3秒で有利が消えたと主審が判断したからです。アドバンテージは固定ではなく「仮決定」。成立しなければ元の反則に戻します。
『有利なのに止められた』と感じる時の見方
主審は保持の確実性やスペース、怪我の可能性を総合して判断します。選手からは見えない危険(背後の報復や視認できない負傷兆候)も要素になります。
『ファウル後に得点→警告/退場は?』の整理
得点が入っても、反則の性質が懲戒相当なら次の停止で処置があります。DOGSOは得点で退場が警告に軽減。SPAは攻撃が止まっていなければ警告不要とされることもありますが、反則が危険・非紳士的なら警告/退場が適用されます。
『審判 アドバンテージ とは』の一言定義と覚え方
「止めるより続けた方が被害側に得なら、続ける判定」。合言葉は「利得の優先」。
VARと副審の連携が及ぼす影響
副審の遅延旗(デレイドフラッグ)とアドバンテージの混同を避ける
副審が旗を遅らせるのは、オフサイドの確定を待つため。アドバンテージはファウル後の続行判断。目的も基準も異なります。
VAR介入とプレーオン:得点後の遡及処置の考え方
得点が入った場合、VARは得点機会のプロセス(APP)をチェックします。もし見逃された重大な反則があれば、得点の取り消しやFK/PK、懲戒の適用が行われます。再開前が介入の基本タイミングです。
下部カテゴリーでの適用差と実務的な前提
多くのカテゴリーではVARはありません。副審・第4の審判員とのアイコンタクトや合図が一層重要になります。選手側も「主審の合図を見て続ける」基本を徹底しましょう。
試合直前に確認したいチェックリスト
攻撃側の3チェック(前・数・スペース)
- 前:自分(または味方)が前を向ける配置か
- 数:相手より多い/同数でも優位な並びか
- スペース:前方に使えるエリアがあるか
守備側の3チェック(位置・距離・手の使い方)
- 位置:最後方の背後ケアは万全か
- 距離:寄せ過ぎて不要な接触を生まないか
- 手:引く・押す癖が出ていないか(特にPA内)
ベンチの共通合言葉と役割分担
- 共通語:「笛まで」「前・数・スペース」
- 役割:即時カウンター合図、リスクコール(「遅らせろ」「外へ」)
- 冷静:判定に対する感情的な反応を抑え、次の一手へ
まとめ:アドバンテージを味方につけるために
判定の核心を理解してプレー判断に落とし込む
アドバンテージは「利得を優先する」ための仕組み。4つのPと2〜3秒の“ウェイト&シー”という主審の思考を理解すれば、選手も次の一手を速く・正しく選べます。
安全と勝機の両立というゴール
安全が最優先。その上で、止めるより続けた方が点に近いなら続ける。審判・選手・スタッフがこの共通認識を持つほど、試合はフェアでエキサイティングになります。
明日から実戦で試すミニアクション
- 攻撃:接触後のファーストタッチを「前・安全」に置く練習を追加
- 守備:腕を使わず進路制限する1対1の型を徹底
- チーム:合図ワードを3つに絞って共有(例:プッシュ/ターン/外)
アドバンテージの“意図”を知れば、判定に左右されるだけの試合から、判定を味方につける試合へ。次のキックオフから、勝機を逃さず掴みにいきましょう。
