フリーキックは、試合の流れを一瞬で変える“固定砲台”です。特に「直接FK」と「間接FK」の違いを正しく理解しておくと、シュートに行くのか、つなぐのか、素早く再開するのか、とるべき最適解がクリアになります。本記事は、IFAB競技規則に基づいた事実に沿って、現場で迷わない見分け方と実践的な戦術・トレーニングまでを一気通貫で整理しました。審判の合図、反則の種類、PKとの関係、よくある勘違いの解消まで、試合でそのまま使える形でまとめています。
目次
導入:直接FK・間接FKの違いを押さえると試合が変わる
この記事の狙いと得られる成果
この記事を読み終えると、直接FKと間接FKを「見て即判断」できるようになります。具体的には、審判のシグナルを手掛かりにリスタートを迷わず実行でき、攻守のセットプレーでの狙いと配置を素早く決められるようになります。また、よくある勘違い(ハンド、バックパス、ダブルタッチ、ホイッスル待ちなど)を解消し、不要なミスやカードを避ける基礎知識が身につきます。
まずは結論:直接FKは“1人で得点可能”、間接FKは“2人目の関与が必須”
- 直接FK(Direct Free Kick):キッカーが直接ゴールに入れれば得点が認められます(相手ゴールに限る)。
- 間接FK(Indirect Free Kick):ボールが他の選手に触れてからでないと得点になりません。直接ネットに突き刺してもノーゴールです。
この一点を頭に入れておくと、現場での意思決定が一気に速く、正確になります。
ルールの基礎整理:IFAB競技規則に基づく定義
直接FKになる反則の代表例と特徴
相手競技者に対する“接触を伴う”反則の多くは直接FKです。代表例は以下です。
- ける、つまずかせる、跳びかかる、押す、打つ/打とうとする、チャージ、タックル/チャレンジで相手に不注意・無謀・過剰な力があるもの
- 相手を押さえる(ホールディング)
- かみつく、つばを吐く、物を投げつける/投げつけようとする
- ハンドの反則(ゴールキーパーの自陣PA内での手使用は別扱い)
守備側が自陣のペナルティエリア内で直接FKに該当する反則を犯した場合、再開はPKになります。
間接FKになる反則の代表例と特徴
接触を伴わない違反や、手順違反の多くは間接FKです。代表例は以下です。
- オフサイドの反則
- 危険な方法でのプレー(ハイフットなどで相手を怖がらせるが接触はない)
- 接触なしの進路妨害(インピーディング)
- ゴールキーパーの反則(自陣PA内):6秒以上保持、味方の意図的なキックを手で扱う、味方のスローインを手で扱う、ボール放した後に他者が触れる前に再び手で触る等
- ダブルタッチ(FK/CK/GK/PKなどの再開で、キッカーが他の競技者に触れる前に再び触る)
- 審判がプレーを止めて警告/退場させたが、接触を伴う反則ではない場合(例:異議)
ペナルティエリア内での例外(PKとの関係)
- 守備側の自陣PA内での“直接FKに当たる反則”=PK。
- 守備側の自陣PA内での“間接FKに当たる反則”(例:GKの6秒超過、バックパス手使用、危険な方法のプレーなど)=間接FKで再開。
- 攻撃側が相手PA内で反則を犯した場合は、通常どおり守備側のFK(直接/間接は反則の種類による)で再開。
- 位置の特例:守備側のFKが自陣ゴールエリア内なら、どこからでも蹴って良い/攻撃側の間接FKが相手ゴールエリア内なら、ゴールエリア外縁(ゴールラインに平行なライン)上の最も近い地点から。
リスタートの基本:ボールの静止・位置・笛の有無・タイミング
- ボールは静止し、所定の地点から再開する。
- 通常は主審の笛なしで再開可能(クイックリスタート可)。主審が壁の距離(9.15m)を管理する場合などは「笛で再開」の合図があるので必ず待つ。
- 相手選手は9.15m離れる義務。距離を守らず妨害すると警告対象。
- 直接FKから自陣ゴールへ“直接”入れることはできない(相手CK)。間接FKは相手ゴールへ直接入ってもノーゴール(相手ゴールキック)。
審判シグナルで即判別:現場で迷わない見分け方
片腕を上げ続ける=間接FKの合図
主審が腕をまっすぐ上げたままにしているのは「間接FK」の合図です。この腕は、キック後にボールが他の選手に触れるか、ボールがアウトオブプレーになるまで上げ続けられます。腕が上がっている間は“直接シュートしても得点にならない”と覚えておくと迷いません。
腕を上げない(下げている)=直接FKの合図
主審が腕を上げていなければ、基本は「直接FK」。キッカーがそのまま狙ってOK。守備側は壁とキーパーの配置を急ぎます。
追加シグナルの読み取り:オフサイド・危険なプレー・GK反則
- オフサイド:副審の旗上げ→主審が間接FKを示す。再開位置は反則が確定した地点(競技規則に基づき調整)。
- 危険な方法のプレー:接触なしの“怖がらせ”は間接FK。主審は危険性を声やジェスチャーで伝える場合あり。
- GK反則(6秒、バックパス手使用など):主審が間接FKを示し、通常はファウル地点を指さして説明。壁はゴールエリア内でも距離義務あり(9.15m取れない場合はゴールライン上などで調整)。
現場判断のフローチャート:直接FK・間接FKの一次判定
接触の有無で分岐する
- 接触あり→多くは直接FK(強さや無謀性でカードも)。
- 接触なし→間接FKの可能性(危険なプレー、インピーディングなど)。
相手への反則か、ボールに対する反則かで分ける
- 相手競技者に対する反則(キック、プッシュ等)→直接FK。
- 手順や再開違反(ダブルタッチ、6秒等)→間接FK。
発生位置の影響(PA内/PA外・守備側/攻撃側)
- 守備側の自陣PA内での直接FK反則→PK。
- 守備側の自陣PA内での間接FK反則→間接FKのまま。
- 攻撃側の反則は位置を問わず守備側のFKで再開(種類は反則による)。
審判の合図で確定するまでの確認手順
- 主審の腕が上がっているか確認(上がっていれば間接)。
- 副審の旗や主審の口頭説明で原因を把握。
- 笛待ち指示の有無を確認(壁管理が入るときは待つ)。
- ボールを静止→位置を正確に→合図に従ってリスタート。
よくある勘違いと正しい理解
ハンドは基本的に直接FK(例外整理)
- ハンドの反則は原則「直接FK」。
- ただしGKは自陣PA内で手を使える(反則にならない)。
- 例外的に、バックパスやスローインをGKが手で扱う等は「ハンドではなくGK反則」→間接FKで再開。
なお、偶発的に手や腕に当たるケースでも、状況により反則とならない場合があります(競技規則の判断基準に依拠)。
オフサイドは間接FK:適用範囲の誤解を解く
- オフサイドポジション自体は反則ではありません。「関与」(プレーに関わる、相手に干渉、利益を得る)があって成立。
- 再開は間接FK。素早いクイックで相手の陣形を崩すチャンス。
バックパスとGKの取り扱い:間接FKになる典型例
- 味方が意図的に足で蹴ったボールをGKが手で扱う→間接FK。
- 味方のスローインをGKが手で扱う→間接FK。
- GKがボールを放した後、他者が触る前に再び手で触る→間接FK(自陣PA内)。
ディフェンスが苦しくても、安易にGKへ“足で”戻すとリスク。外側へ蹴り出す、または浮き球での戻しなど、状況判断を。
スライディングタックル自体は反則ではない:接触と危険性の基準
“ボールに行った=無罪”ではありません。不注意・無謀・過剰な力、危険性、接触の部位や方向で反則やカードになることがあります。逆に、接触がないボール奪取なら反則ではないことも多い。相手の安全を最優先に。
ダブルタッチ・ボールの静止・ホイッスル待ちの落とし穴
- ダブルタッチ:FKのキッカーが、他者が触る前に再び触ると間接FK。
- ボールが動いていない再開はやり直し対象。焦って動かさず蹴るミスに注意。
- 主審が「笛で再開」を指示しているのに蹴るとやり直し。得点が取り消されることも。
セットプレー戦術:直接FKと間接FKの狙いの違い
直接FKの狙い方:シュート・クイックリスタート・トリック
- シュート直狙い:壁とGKの逆を突く、GKの死角(壁の外側/内側)を狙う。
- クイック:壁が整う前に素早く。主審が笛待ち指示なら待つ。
- トリック:キッカーのフェイク、またぎ、短い横出しで角度を作る2ndタッチなど。
間接FKの組み立て:2人目関与のデザインと崩しの導線
- ワンタッチ落とし→シュート、ショート→クロス、逆サイド展開。
- ニアの囮とファーアタック、PAラインでのカットバック、グラウンダーの速いボールで混戦を作る。
- 相手のラインを押し下げる動きと「オフサイドにかからない」初速の同期が鍵。
キックテクニックの選択(インステップ/インフロント/無回転など)
- インステップ:パワーと伸び。壁上を越えるロングレンジに有効。
- インフロント:曲げて壁の外から巻く。精度勝負の近距離向き。
- 無回転:中距離でGKの判断を遅らせる。風の影響も読んで採用。
守備の壁作りと駆け引き:キーパー主導の配置と役割分担
- GKが基準角を消す。壁はシュートコースを限定し、GKの見え方を確保。
- ジャンプの有無、伏せ役(背後ケア)、詰めのタイミングを統一。
- 間接FKではニアのライン統率とオフサイド管理が重要。
実戦シーン別の攻略と対応
PA手前中央・斜め45度・ロングレンジの直接FK
- 中央近距離:壁上越え or 壁下抜きの二択を見せつつGKの初動を遅らせる。
- 斜め45度:GKの逆サイドへ巻く/ニア上を叩く/ショートで角度変更の三択を持つ。
- ロングレンジ:無回転や強いインステップでセカンド狙いも織り交ぜる。
サイド深い位置の間接FK:クロスとショートの使い分け
- 速いボールをニアへ→そらし/ニア叩き込み。
- ショートで角度を作り、PA角からの高精度クロスやカットインシュートへ。
- 相手のラインが下がりきったら、ペナルティアーク手前への戻しでミドルも有効。
自陣深くの間接FK:GK活用とリスクマネジメント
- GKに戻してのサイドチェンジ、長い対角で前進。プレス強度次第でロングクリアも。
- 中央密集でのショート再開はリスク。外へ逃がす優先順位を明確に。
風・雨・ピッチ状態がフリーキックに与える影響
- 向かい風:落ちが早い→壁上を越えやすいが届きにくい。追い風:伸びる→枠外リスク。
- 雨/濡れ芝:グラウンダーは伸びる。バウンドの手前落としが有効。
- 荒れた芝:無回転は不安定。安定重視で回転をかける選択も。
守備側の対処:反則を避けつつリスクを減らす
接触強度と距離感のコントロール
PA付近では「手を使わない」「背後から押さない」「不用意に倒さない」を徹底。体を入れ替えられそうでも、無謀なチャレンジはPKリスク。
PA付近での手の使い方と体の入れ方
- 腕は広げず、肩でコースを消す。
- 身体を前に入れる際は、足の接触位置と力の向きに注意。
戦術的ファウルの線引き:カード・位置・時間帯の考え方
- カウンター阻止の戦術的ファウルはカードの可能性。位置と時間帯で期待失点とカードリスクを比較。
- 中央でのファウルは直接FKの脅威が高い。サイドに追い込む守備を共有。
間接FK時のライン設定とオフサイドトラップ
- 全員で一斉に一歩出る合図を決めておく。
- GKと最終ラインが視線で同期。遅れた一人がトラップを壊す。
審判とのコミュニケーション術
合図の確認と質問の仕方(キャプテンの役割)
- 主審の腕の位置(間接/直接)と笛待ちの有無をまず確認。
- 質問は簡潔に要点のみ。「間接ですか?」「笛待ちですか?」など。
- キャプテンが代表して行い、他は準備に集中。
リテイクの条件:ボールの静止・壁の距離・ホイッスル
- ボールが静止していない/所定の位置でない→やり直し。
- 笛待ち指示なのに蹴った→やり直し(得点取り消しになり得る)。
- 守備側の早い飛び出しや距離未確保→状況によりやり直し+警告。
抗議によるカードリスクとチームへの影響
長い抗議はカードと時間ロスを招きます。合図の確認→即準備の流れが、結果的に最もチームを助けます。
トレーニングメニュー:直接FK・間接FKを武器にする
直接FKの精度向上ドリル(距離別・コース別)
- 距離帯ごと(18〜22m、23〜28m、28m〜)に10本×3セット。コース指定(ニア上/ファー上/壁外巻き)。
- マーカーで“壁の端”と“枠内ゾーン”を可視化し成功率を記録。
- ラスト5本は試合想定:助走制限、GK役配置、1本勝負の緊張感。
間接FKの連携パターン練習(2〜4人連動)
- ショート→ワンタッチ落とし→シュートの基本形。
- ショートフェイク→逆サイド展開→ファー詰め。
- ニア囮→ファー2ndライン侵入→折り返しの三段攻撃。
GKの壁指示・ポジショニング・セーブ練習
- 壁の枚数と位置決め→構え→見え方確認→ショット対応までの一連。
- 間接FK対応:ライン統率のコール、飛び出す/待つの判断の反復。
審判役を立てた判定理解トレーニング
- チーム内で審判役をつけ、間接/直接の合図、笛待ち、やり直し条件を実践。
- 意図したクイック再開と、笛待ちの混同をゼロにする。
カテゴリー別の注意点(高校・大学・社会人・ジュニア)
試合時間・ピッチサイズ・ボールサイズに応じた配慮
- ジュニア年代はボールサイズやゴールサイズが異なる場合があり、FKの飛距離・弾道が変化。
- 高校以上はサイズ5が一般的。ロングレンジの到達点と壁越えの高さ基準を掴む。
審判体制やテクノロジーの有無(副審・追加審判等)
- 副審不在/1人制の試合では、主審のシグナルを特に明確に確認。
- 上位カテゴリーでは主審・副審・第4の審判員等が連携。合図が整理されやすい分、クイックも通りやすい。
少年年代で起きやすい反則とコーチングのポイント
- ダブルタッチ、ボール非静止での再開、笛待ち無視が頻発→反復で習慣化。
- バックパスの概念理解を早めに。浮き球での戻し、サイドアウトの判断を教える。
ケーススタディ:成功と失敗から学ぶ
クイックで決めた直接FKの再現条件
- 主審が笛待ちを指示していないことを即確認。
- ボールを静止→キーパーが指示で前を向いていない瞬間を逃さない。
- 蹴る人と止める人の役割を事前共有(声かけは最小)。
ホイッスル待ちを怠って取り消しになった例
壁管理で主審が「笛で再開」の合図→それに気づかずシュート→ゴールネットを揺らすも取り消し。教訓は「笛の有無を必ず確認」。感情的な抗議は追加のカードリスクも。
PKか直接FKかで混乱したシーンの整理術
- 接触+守備側の自陣PA内=PK。接触なし=間接FKの可能性。
- 主審の最初の合図(PKならペナルティマークを指さす動作がある)が最優先。
- 迷ったらキャプテンが「接触の有無」と「再開方法」を確認。
最新ルールへの備え:アップデートの追い方
毎年の競技規則改正のチェック方法
- IFABの競技規則は毎年更新。多くの大会で新シーズン開始前(概ね夏頃)に適用。
- 所属連盟・協会の通達で国内適用時期を確認。大会要項も必ず読む。
信頼できる情報源と更新タイミングの把握
- 公式の競技規則・通達・審判教育資料を一次情報として参照。
- 指導者講習や審判講習での最新解釈を共有し、チーム内で統一理解を図る。
まとめとチェックリスト:現場で迷わないために
試合前・試合中・試合後の確認項目
- 試合前:セットプレーの合図(クイック可/笛待ち)、役割分担、壁の枚数と優先コースを共有。
- 試合中:主審の腕(間接/直接)と笛の有無、ボール静止、位置を必ず確認。
- 試合後:成功/失敗パターンを動画やメモで可視化。成功率と選択判断を振り返る。
一目で分かる直接FK/間接FKの判断ポイント総括
- 主審の腕:上げっぱなし=間接、腕上げなし=直接。
- 接触の有無:接触ありの多く=直接/接触なしの多く=間接。
- 場所:守備側の自陣PA内での直接FK反則=PK/間接FK反則=間接FKのまま。
- 再開条件:ボール静止・所定位置・笛待ちの有無を確認。
- 得点可否:直接FK=直接得点可(自陣へは不可)/間接FK=他者接触が必要。
おわりに
直接FKと間接FKの違いは、ルールを知っているかどうかだけでなく、1プレーの準備・意思決定・実行速度に直結します。合図→判断→配置→再開の流れをチームで共通言語にして、セットプレーを“再現性のある武器”にしていきましょう。今日の練習から、ボールの静止と合図確認、そして1本目の精度にこだわってみてください。