「第4の審判って、交代板を持つ人でしょ?」——確かに目立つ仕事は交代表示です。でも実際は、試合の安全と円滑な進行を影で支える“現場の司令塔”。テクニカルエリアの秩序、交代の手続き、時間管理、トラブルの予防と初動対応まで、フィールド外のほぼ全領域を担います。本記事では、サッカー第4の審判の役割とは?交代板だけじゃない全仕事を、試合前・中・後の流れに沿って網羅的に解説。選手・指導者目線での活用術やよくある誤解の整理、現場のケーススタディ、チェックリストまで詰め込みました。
目次
第4の審判とは?サッカーにおける役割の全体像
第4の審判の正式な位置づけと定義(競技規則の枠組み)
第4の審判は、主審・副審をサポートする審判員として、主にフィールド外での運営業務と秩序維持を担当します。IFAB(国際サッカー評議会)の競技規則では、交代手続きの管理、用具の確認、テクニカルエリアの監督、追加の時間の表示、記録の補助、トラブル時の初動対応などが明確化されています。判定を下す主体は主審であり、第4の審判は「助言・管理・調整」で試合を支える立場です。
どこに立つのか:テクニカルエリア周辺での基本ポジショニング
基本位置は、両ベンチの間、ハーフウェーライン付近のタッチライン外側。テクニカルエリア(監督・スタッフが入るエリア)と交代ゾーンを俯瞰しやすい場所に立ち、両チームの動き、交代の準備状況、ウォームアップの導線、ボールパーソンの配置まで見渡してコントロールします。
主審・副審・追加の審判員・VARとの役割の違い
主審は競技の最終決定者。副審は主にオフサイドやボールアウト等の判定支援。第4の審判はフィールド外の運営・秩序を統括し、判定そのものは「助言」にとどまります。追加の審判員(ゴール裏など、採用有無は大会による)はゴール前の事象を補助。VARは映像による明白な誤審修正を支援しますが、第4の審判はVARの運用には直接関与せず、レビュー中のベンチ管理や進行調整に注力します。
試合前の業務:キックオフ前に行う全チェックリスト
チームシート・メンバー表の受領と照合(背番号・スタッフ含む)
各チームのメンバー表を受け取り、先発・控え・スタッフの氏名と背番号を確認。ユニフォーム番号の重複や記載漏れ、スタッフの帯同資格などをチェックし、必要に応じて修正を依頼します。これが後の交代やカード記録の正確性の土台になります。
選手の用具・ユニフォームの確認と是正指示
すね当て、アクセサリー(指輪・ネックレスなど)、テープ色、アンダーシャツ・アンダーソックスの色合いなどを確認。競技規則に合致しない場合は是正を指示します。小さな見落としが、試合中の再入場遅延やトラブルの種になるため、ここでしっかり潰します。
交代手続きの事前説明と交代要員の確認
交代の申請方法、交代ゾーン、交代ウィンドウ(競技規則ではなく大会規定で定められることが多い)、同時交代時の流れなどをベンチに共有。控え選手の用具もこの段階で目視確認しておくと、試合中の処理が速くなります。
テクニカルエリアの運用ルール確認(スタッフ数・ウォームアップ動線)
立って指示できるスタッフの人数、ウォームアップはどこまで可か、帰陣のタイミング、ドリンクボトルの扱いなどを確認。各チームに共通ルールとして伝達し、予防的にトラブルを防ぎます。
フィールド・ボール・ベンチ周辺の安全確認
試合球・予備球の数と規格、ベンチ周りの障害物、滑りやすい箇所、広告看板の固定状況などを確認。安全上の懸念は運営に即時連絡し、改善を依頼します。
通信機器・交代表示板・記録用紙の準備とテスト
無線機器のチェック、交代表示板のバッテリー・表示確認、記録用の紙や端末の準備。主審・副審とハンドシグナルと無線の使い分けを事前に合わせておきます。
試合中の業務:交代板だけじゃない“全仕事”
交代の管理フロー:申請受付から再入場許可までの全プロセス
交代申請を受け、交代選手の用具・番号・交代対象を確認。主審・副審とタイミングを合わせ、プレーが止まったら交代表示。退く選手が完全にピッチ外へ出たことを確認してから、交代選手の入場を許可します。ここで慌てないことが事故防止の要です。
交代ウィンドウと同時交代の優先順位管理
多くの大会で「交代回数(枠)」に加え「交代機会(ウィンドウ)」が設定されています(ハーフタイムはカウント外が一般的)。同一のプレーストップで両チームが申請した場合は、まとめて処理して試合の停滞を最小化するのが実務的。ウィンドウの消費は各チームごとにカウントします。具体的な上限と扱いは大会規定に従います。
再入場手順:負傷・出血・用具不備・出血管理の扱い
負傷や用具不備、出血で一時退場した選手の再入場は、第4の審判が確認して主審に合図します。出血は完全に止血され、血液で汚れた用具は交換されていることが条件。すね当てやアクセサリーの不備も再確認し、OKなら主審の合図で再入場します。
アディショナルタイムの助言と時間管理の根拠
追加される時間(表示されるのは「最低」分)は主審が決定します。第4の審判は、交代・負傷・VAR・時間遅延などの累積をメモし、主審へ助言。決定が下りたら交代板で明確に表示します。
テクニカルエリアのコントロール:言動・立ち位置の是正と予防的介入
立って指示できるスタッフは通常1名など、エリア運用の基本ルールを実行管理。過度な抗議や遅延行為、相手ベンチへの挑発などは、まず口頭で予防的に止め、改善がない場合は主審にエスカレーションします。カードの最終判断と提示は主審の権限です。
主審・副審との情報連携(無線・ハンドシグナル・視線)
交代準備完了、再入場可能、ベンチのリスク行動、ボールパーソンの不具合などを、無線や視線でタイムリーに共有。特にスピード感が重要です。
ベンチ間のトラブル予防とエスカレーション管理
同時に感情が高ぶりやすいのがテクニカルエリア。煽り合いの兆候を察知したら、静かな声かけや立ち位置の調整で火種を消します。収まらない場合は主審に伝達し、必要なら警告・退場の判断に繋げます。
ボールパーソン・運営との連携で試合進行を円滑化
リスタートが遅い、誤って複数のボールがフィールドに入る、といった混乱を防ぐため運営に即連絡。快適で公平な試合環境の維持は第4の審判の重要な使命です。
警告・退場の記録補助と選手特定のダブルチェック
カードが提示された時間・選手番号・理由を記録。交代直前直後は番号の取り違えが起きやすく、第4の審判がダブルチェックして主審を支えます。
安全確保:観客・ピッチ侵入・気象変化への初動対応
観客のピッチ侵入や物の投擲、落雷や激しい降雨など、試合の安全に関わる事象では運営と連携し、主審へ迅速に情報提供。中断・再開の判断材料を揃えるのが役割です。
ハーフタイムの業務:前半の整理と後半への準備
得点・カード・交代の記録突合と訂正連絡
審判団の記録を突き合わせ、相違があればここで訂正。公式記録の正確性を担保します。
用具・ピッチ・ベンチ周辺の再チェック
滑りやすい箇所の有無、広告物や器具の位置、ドリンクの氷やボトル散乱などを確認。後半に不安を残さないよう整えます。
テクニカルエリア運用の改善点をスタッフへ共有
前半の注意事項を踏まえ、「ここは注意して」「この導線でウォームアップを」など、建設的に共有します。予防が一番のファインプレーです。
試合後の業務:クローズ作業と報告
公式記録の最終確認と提出
得点者、交代、警告・退場などの最終記録を確認し、所定の提出先に届けます。誤記は大会運営や処分に影響するため最後まで丁寧に。
退場・不正行為に関する報告書作成の補助
退場や重大な不正行為があった場合、主審のレポート作成を補助。時刻、発言、行為の内容など、客観情報を整理します。
チームからの問い合わせ対応と備品回収
ベンチからの手続き確認や質問に丁寧に応対し、交代板や無線などの備品を回収・点検して終了です。
特別な状況での第4の審判の役割
主審・副審のアクシデント時:審判員の交代手順と優先順位
審判員が負傷・体調不良になった場合の交代手順は大会規定に従います。一般的には、第4の審判が主審または副審を引き継ぐ想定で準備します。リザーブアシスタントレフェリー(予備の副審)がいる大会では、その者が副審を優先して代替する運用が多いです。
同時多発的な交代・負傷時の進行管理
両チームの交代・治療・用具修正が重なった際は、処理順を明確にし、主審と合図を合わせて一つずつ安全に片付けます。優先順位は安全>正確>速さ。慌てないほど早く終わります。
脳振盪評価・メディカルタイムアウト時の手続き連携
脳振盪が疑われる場合は直ちに競技から外し、医療スタッフの評価を優先。追加交代や特別手続きの有無は大会規定に準拠します。第4の審判は時間管理、表示、記録、再入場の可否確認を担当します。
競技者が11人未満になった場合の対応支援
退場や負傷で人数が減少した場合でも、試合は規則上、各チーム7人未満になるまでは継続可能です。第4の審判は交代可能性、再入場可否、チームのフォーメーション調整中の安全確保をサポートします。
試合の中断・再開(落雷・照明・観客トラブル)時の調整窓口
落雷や照明トラブル、観客の混乱などで中断が必要な場合、運営・警備・主審の間に立って情報を統合。再開条件(時間・安全・ピッチ状況)を整理し、選手・スタッフへの周知を助けます。
競技規則と大会レギュレーション:違いを理解する
IFAB競技規則における第4の審判の記載ポイント
IFABは第4の審判の基本任務(交代管理、用具・テクニカルエリア監督、追加時間の表示、記録補助、安全面の助言など)を定義。判定の最終権は主審にあり、第4の審判は助言と運用で支えます。
大会ごとのローカルルール(交代枠・クーリングブレイク)の違い
交代枠(例:5人交代)、交代ウィンドウ、延長戦での追加交代、クーリングブレイクや飲水タイム、脳振盪による追加交代などは大会規定に依存。試合前の共有が非常に重要です。
プロとユース/アマチュアでの運用差異
ユースや地域大会では第4の審判が不在の場合もあります。その場合、副審や運営がいくつかの業務を兼務。プロでは無線・交代板・ボールパーソン運用などが整備され、役割分担がより細かくなります。
選手・指導者向け:第4の審判を活用する実践アドバイス
スムーズな交代のためのベンチ運用術(準備・タイミング・合図)
控え選手は早めに用具を整え、ゼッケンや上着はすぐ脱げる状態に。第4の審判に「誰と誰が交代か」を明確に伝え、次のプレーストップを逃さないよう視線で合図。ボールが切れる前から近くで待機できると素早く進みます。
テクニカルエリアでのNG/OK行為とリスク管理
OK:コーチ1名の立位指示、短時間の戦術ボード使用、ウォームアップの所定エリア利用。NG:継続的な抗議、相手ベンチへの挑発、タッチラインを越える進出、VAR判定への圧力。NG行為はチームに不利益(警告・退席)を招くため、スタッフ間で役割と立ち位置を決めておくと安心です。
意見・抗議の適切な伝え方:窓口としての第4の審判
判定に関する最終決定者は主審ですが、冷静な「質問」や「確認」は第4の審判が窓口になることが多いです。感情的な抗議は逆効果。簡潔に要点を伝えると、次のプレーに活かせる情報が返ってきます。
タイムマネジメントで損をしないためのコツ
交代の準備を遅らせると、次のプレーストップまで数分ロスすることも。リード時の落ち着いた進行はOKですが、故意の遅延は追加時間に反映されうることを理解しておくと、無駄なリスクを避けられます。
よくある誤解と真実:第4の審判は“交代板係”ではない
アディショナルタイムを決めるのは誰か
決めるのは主審。第4の審判は時間消費の根拠を整理して助言し、表示を担当します。表示されるのは「最低」分であり、実際はそれ以上になることもあります。
口頭注意と警告(イエローカード)の違い
第4の審判は口頭での注意や是正は行いますが、カード提示の権限は主審にあります。注意を無視する行為や再三の違反は、主審へのエスカレーション対象です。
VAR導入後に高まった第4の審判の重要性
レビュー中はプレーが止まり、ベンチの緊張が高まります。この時間の秩序維持、情報の行き来の管理、再開準備の段取りで、第4の審判の存在感はむしろ増しました。
第4の審判が裁定を“変更”するわけではない理由
第4の審判はあくまで助言者で、最終決定者は主審。重要な事象の「見落とし情報」を提供することはありますが、裁定の変更権は持ちません。
ケーススタディ:現場で起きる“あるある”と最適解
背番号ミス・二重交代を未然に防いだチェック手順
ある試合で、同じ番号の控えがスコアシートと異なるユニフォームを着用して登場。第4の審判が交代前チェックで発見し、即座に正しいユニフォームへ交換。二重交代も、申請カードに「OUT/IN」を明確に記入して順番を口頭確認するルーチンで混乱を回避できました。
テクニカルエリアの衝突を収めたコミュニケーション設計
接触プレー後に両ベンチがヒートアップ。第4の審判は、まず両ベンチの“立って指示できる担当者”を特定し、その他は着席を促すルールを再周知。代表者間の会話ルートに絞ることで声量と人数を減らし、事態の沈静化に成功しました。
荒天中断での連絡系統と再開準備の段取り
落雷の可能性で一時中断。第4の審判は運営と天候情報を共有し、選手の退避ルート、再開のウォームアップ時間、追加時間の扱いを整理。再開時は交代申請が集中するため、先着順とウィンドウ管理を事前周知し、スムーズな再開を実現しました。
第4の審判の業務チェックリスト(保存版)
試合前のチェック項目
- メンバー表(選手・スタッフ・背番号)の照合・修正
- 用具・ユニフォーム(色・テープ・アクセサリー)確認
- 交代手続き・ウィンドウ・脳振盪対応など大会規定の共有
- テクニカルエリア運用(立位人数・導線・ウォームアップ)確認
- 試合球・予備球・ベンチ周辺の安全確認
- 無線・交代板・記録用具のテスト
試合中のチェック項目
- 交代申請の受理・番号確認・表示・入退場の順守
- 再入場(負傷・用具・出血)の確認と主審への合図
- テクニカルエリアの秩序維持と予防的介入
- アディショナルタイム根拠のメモと助言、表示
- カード・得点・交代の記録と番号ダブルチェック
- 運営・ボールパーソンとの連携、トラブル初動対応
試合後のチェック項目
- 公式記録の突合・提出
- 退場・不正行為のレポート補助
- 備品回収・機器の停止・運営への引き継ぎ
まとめ:第4の審判の役割理解が試合を円滑にする
選手・指導者・保護者が知っておくべき最重要ポイント
- 第4の審判は判定を「決める人」ではなく、試合を「回す人」。交代・再入場・テクニカルエリア管理・時間表示・安全対応の要です。
- 追加時間を決めるのは主審。第4の審判は根拠整理と表示を担います。
- 大会規定(交代枠・ウィンドウ・飲水・脳振盪対応)を事前に共有すると、無駄な混乱が激減します。
“交代板だけじゃない”が勝敗と安全に直結する理由
交代の1分短縮、ベンチの小さな火種の早期消火、再入場の適切なタイミング——これらはすべて、守備の整い方や攻撃の勢い、そして選手の安全に直結します。第4の審判の仕事を理解し、協力するほど、チームは本来の力を発揮しやすくなります。
FAQ:サッカー第4の審判の役割に関する疑問
第4の審判は何を基準に交代を許可する?
交代申請の有無、交代選手の用具適合、交代対象の特定、プレー停止のタイミング、退く選手の完全退場(ピッチ外へ)を確認。これらが整ったら主審の合図に合わせて入場を許可します。
交代選手の準備不足(すね当て・アクセサリー等)の扱いは?
不備があれば是正完了まで交代を保留。用具が整ってから再度申請し、最初の停止機会で手続きします。安全と公平性が最優先です。
追加副審やリザーブアシスタントレフェリーとの違いは?
追加副審(採用大会のみ)は主にゴール周辺の事象を補助。リザーブアシスタントレフェリーは副審の代替要員。第4の審判はフィールド外の運営・管理が主務です。
第4の審判とVARの役割分担は?
VARは映像による誤審修正の支援。第4の審判はレビュー中のベンチ管理、時間管理、再開準備など現場運用を担当します。VARの判定決定権はありません。
地域・アマチュアカテゴリーでも第4の審判は配置される?
大会によります。配置がない場合、副審や運営が一部業務を兼務します。いずれのレベルでも、交代やテクニカルエリアの基本ルールは共通して重要です。