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サッカー アディショナルタイム 計算の根拠とよくある誤解

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終盤に掲示されるアディショナルタイム(いわゆる追加タイム)。「なんで今日は長いの?」「ボールが切れた時間、全部足してるんでしょ?」と感じたことはありませんか。この記事では、IFAB(国際サッカー評議会)の競技規則に基づく考え方を土台に、アディショナルタイムの計算の根拠と、現場や観戦で起きがちな誤解を整理します。実戦での判断やメンタル面にも触れ、プレーにも観戦にも役立つ“見えない時計”の捉え方をまとめました。

この記事の狙い

なぜアディショナルタイムの理解が重要か

アディショナルタイムは、勝敗を左右する数分間です。ここでの振る舞いが「1点」を生むことも失うこともあります。仕組みを正しく理解できれば、終盤の判断がぶれにくくなり、不要な抗議や集中の乱れも減らせます。誤解は、戦術ミスや無駄なカードに直結します。

この記事で得られること

  • 競技規則に沿ったアディショナルタイムの考え方
  • 加算対象になりやすい事象の見極め
  • よくある誤解への明確な答え
  • 選手・指導者の実践ポイントと観戦の納得感を高める視点

用語整理—アディショナルタイム/ロスタイム/延長戦の違い

アディショナルタイムとは何か(競技規則の位置づけ)

IFAB競技規則(Law 7)では、各ハーフの「失われた時間」を主審が判断して補填します。この補填が一般に「アディショナルタイム(stoppage time)」と呼ばれます。表示されるのは第4の審判員のボードに出る「最低◯分」で、実際に流れる時間はこれ以上になる場合があります。

ロスタイムという呼称と日本語の慣用

「ロスタイム」は慣用的な日本語で、意味としてはアディショナルタイムと同じです。ただし競技規則上の正式表記は「失われた時間の補填」であり、国際的には「stoppage time」「additional time(補足時間)」の呼び方が使われます。

延長戦・PK方式との関係(別物であること)

アディショナルタイムは90分(45分×2)や延長戦各ハーフの“中”で行う補填です。一方「延長戦」は規定時間で決着しない場合に追加するハーフ(通常15分×2)。「PK方式(KFTPM)」は延長後でも決しない場合に勝敗を決める手段で、アディショナルタイムとは別物です。なお、延長戦の各ハーフでもアディショナルタイムは存在します。

計算の根拠—何が『失われた時間』に当たるのか

IFAB競技規則の考え方:失われた時間の補填

競技規則の本質は「公平性のために失われた時間を補う」こと。狙いは“ボールインプレー時間を一定にする”ことではなく、プレーできなかった原因があれば、その分を主審が補います。秒単位での機械的加算ではなく、時計と状況認識を合わせた主審の裁量が前提です。

加算対象の主な事象一覧(交代・負傷対応・警告/退場・VAR・飲水/クーリング・得点/セレブレーション・遅延行為・その他)

  • 交代手続き:カード掲示、選手の入退場に要した時間
  • 負傷の評価・治療・担架搬送:特に長引いた場合
  • 警告・退場の手続き:カード提示や説明など
  • VARチェック/オンフィールドレビュー(OFR):確認や映像レビューにかかった時間
  • 飲水/クーリングブレイク:高温条件などで公式に設けられた休止
  • 得点後のセレブレーション:再開までに要した時間
  • 遅延行為:フリーキックやゴールキックで不当に再開を遅らせた場合
  • その他:用具不備の対応、外的要因による中断など

注意点として、加算は“実際に失われた分”がベースです。たとえば交代回数が多くても速やかに行われたなら加算は小さく、逆に1回でも入退場に時間がかかれば加算は増えます。

『ボールが外に出た時間はすべて加算』ではない理由

スローインやゴールキックなど、通常のリズムでの再開準備は「試合の一部」であり、原則として自動的な加算対象ではありません。過度に時間をかけたり、ボール回収が極端に遅れたり、用具の問題が生じたりした場合に「失われた時間」として主審が判断します。マルチボール制の導入も、外に出た時間が即座に加算されない理由の1つです。

誰がどうやって数えているのか

主審の時間管理(クロノグラフ・手元計時の基本)

主審は通常、腕時計やストップウォッチを2本使い、「試合用」と「中断計測用」を併用します。中断があれば計測を開始し、再開で止めるなどの方法で合計を把握します。完全な秒読みというより、時計の実測+状況の体感を組み合わせ、最終的に主審が責任を持って決定します。

副審・第4の審判員・VARによる補助と情報共有

第4の審判員は交代や中断の累積を記録し、主審に助言します。VARが導入されている試合では、チェックやレビューに要した時間を無線で共有します。最終決定権は主審にありますが、チームとして時間情報を共有するのが近年のスタンダードです。

なぜ掲示は『最低○分』なのか(Minimum表示の意味)

ボードに表示されるのは“最低”の補填時間です。表示後に得点や負傷、遅延行為などが発生すれば、その分はさらに加算されます。逆に、表示より短く終わることは基本的にありません(誤表示など特殊な事情を除く)。

よくある誤解と正しい理解

『交代1人=30秒』は公式ルールではない

「交代1人30秒」という言い回しは、説明や目安として使われることはありますが、IFAB競技規則に“固定秒数”の規定はありません。実際には、退場・入場のスムーズさで加算量は前後します。

『攻撃中は笛を吹かない』という決まりはない

時間が来れば主審はハーフを終了できます。攻撃の流れを尊重して数秒様子を見るケースは現場判断としてあり得ますが、規則上の義務ではありません。例外的に、ハーフ終了間際にPKが与えられた場合は、その実施までハーフが延長されます。

『ホームだから長い/短い』に根拠はない

アディショナルタイムの決定は主審の職務で、補助を受けながら中断事象に基づいて算定されます。リーグや大会の審判部は審判レポートや映像をもとに評価・レビューを行います。試合ごとの差は中断の多寡と進行の実態が主因で、チームのホーム/アウェイは規則上の要因ではありません。

アディショナルタイム中に起きた中断も原則加算されうる

表示後に負傷対応や遅延行為、VARなどがあれば、その分はさらに加わります。表示時間を使い切ったからといって直ちに終了とは限りません。

VARがあると無限に長くなる?実際の管理と上限の考え方

VARチェック/レビューの分は加算対象ですが、「無限」に伸びるわけではありません。映像確認は効率化が進んでおり、主審は安全と公平の範囲で必要分のみ補います。あらかじめ上限分数を決めているわけではなく、事象に応じて必要量を補填します。

具体例で理解する算定イメージ

ケース1:前半、軽微な中断が散発した場合

  • 負傷で約40秒の治療(プレー外)
  • 警告1回で手続き約30秒
  • ゴール後の再開まで約45秒

合計でおよそ2分前後。第4の審判員は「最低2分」を掲示する可能性が高いイメージです。小さな遅延が続くと、トータルで数分になることがわかります。

ケース2:後半、得点と交代とVARチェックが重なった場合

  • 得点後のセレブレーションと整列で約1分20秒
  • 交代3名・2回のウインドウで計約1分
  • VARオフサイドチェック(オンフィールドレビューなし)約1分
  • 負傷で担架搬送約1分30秒

概算で5分程度。終盤にもう1度負傷中断が起きれば「最低5分」掲示後に+1〜2分延びる、といった展開も起こり得ます。

ケース3:度重なる遅延行為と負傷対応があった場合(仮想例の内訳)

  • GKの再開遅延が累積して約1分(注意・カード手続き含む)
  • 相手FK地点の修正と壁の距離確保で約40秒
  • 負傷2回で計2分
  • 交代2名で約40秒

合計でおよそ4分20秒。主審は「最低4分」か「最低5分」を掲示する判断を取り得ます。表示後にさらに遅延があれば、その分上乗せされます。数値はあくまでイメージで、実際は主審の実測と体感で決まります。

近年アディショナルタイムが長く感じられる理由

正確な補填を徹底する流れ(国際大会での傾向)

近年、国際大会では「得点後のセレブレーションやVARの確認時間も丁寧に補填する」方針が徹底される傾向があります。結果として、従来より長いアディショナルタイムが掲示される試合が増えました。

交代枠の増加やセレブレーションの所要時間の影響

交代枠の拡大(例:5人交代)により、中断の機会は増えがちです。得点後のセレブレーションも重要な加算対象になり、接戦ほど長くなる傾向が生じます。

飲水・クーリングブレイクや脳振盪対応の重視

高温多湿環境では飲水/クーリングブレイクが導入される場合があり、これは明確な加算対象です。加えて、頭部外傷(脳振盪)対応の重視により、慎重な評価・交代が行われることで中断が長くなることもあります。

選手と指導者のための実践的アドバイス

終盤のゲームマネジメント:集中力とリスク管理

  • 掲示が「最低」である前提で、+1〜2分の余白を常に想定する
  • セットプレーの守備組織は最短で整えるルール化(合図・役割固定)
  • ベンチは中断時間を簡易で記録し、想定タイムを共有
  • 終盤の交代は狙いとスピードを両立(無駄に長引かせない)

不要な遅延を避けるメリット(カード・失点リスクの回避)

遅延行為は警告のリスクがあるだけでなく、結果的にアディショナルタイムを伸ばし、自分たちが守る時間を増やすブーメランになりがちです。素早い再開は相手のペースに乗ることとは限らず、むしろ自チームのコントロール維持に有効です。

『笛が鳴るまでやめない』を習慣化する方法

  • トレーニングで「残りX分+主審裁量」のシミュレーションを実施
  • スコアと時間帯別の意思決定(逃げ切り/追撃)の合図を共通化
  • AT表示後の“追加の追加”を経験化(負傷・VARが入った想定)

観戦・応援の視点:納得感を高めるチェックポイント

どの中断が加算対象になりやすいかを見極める

負傷対応、交代、カード手続き、VAR、飲水/クーリング、長いセレブレーション、露骨な遅延。このあたりが主な加算源です。逆に、通常のスローインやゴールキックの段取りは、よほど遅くない限りは“すべて加算”ではありません。

掲示時間と実際の終了時刻がズレる理由を読み解く

表示は「最低」。表示後の中断はさらに上積みされます。また、スタジアムの時計やテレビのタイム表示は参考値で、公式な計時は主審の腕元にあります。

抗議ではなく建設的な理解へ

納得感は、知識で大きく高まります。中断の内訳を思い出しながら試合を振り返ると、掲示の理由が見えやすくなります。不要なヤジよりも、次のプレーで後押しする声がチームの助けになります。

まとめ—『見えない時計』を理解して試合を有利に進める

本質は『失われた時間の公正な補填』

アディショナルタイムは、主観で伸ばしたり縮めたりする仕組みではなく、失われた時間を公平に補うためのものです。主審は時計と状況を総合して決め、表示は「最低」。これが原則です。

誤解を手放し、準備と対応で差をつくる

「交代=30秒」や「攻撃中は笛なし」といった固定観念を捨て、終盤の準備とコミュニケーションを磨きましょう。不要な遅延を避け、集中を切らさず、笛が鳴るまでやり切る。たった数分が、シーズンの明暗を分けます。アディショナルタイムの“見えない時計”を味方につけることが、最後のひと押しになります。

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