目次
ドロップボールのルール再入門:再開方法と特殊例
リード:試合の“つなぎ目”を制する
ドロップボールは、反則ではない理由で競技が止まったときに使われる再開方法です。2019年のルール改定で大きく姿を変え、「誰に」「どこで」「どうやって」再開するのかが明確になりました。これを正しく理解しておくと、思わぬチャンスを逃さず、無用なトラブルも防げます。本記事では、現行のIFAB競技規則に基づいてドロップボールを再入門。再開手順、ケース別の判断、誤解しやすいポイント、練習への落とし込みまでを実務目線でまとめます。
ドロップボールのルール再入門:いま何が変わって、何が変わっていないのか
キーワードの確認:ドロップボールとは何か
ドロップボールは、反則がなかったのに競技を停止した場面で用いられる再開方法です。審判員からボールが落とされ、ボールが地面に触れた瞬間にインプレーになります。現在は原則として、特定の1名の選手(もしくは守備側のゴールキーパー)に対してドロップされ、他の選手は4m以上離れる必要があります。
2019年の大改定以降の基本コンセプト
- 偶発的な停止後の「公平な再開」を明確化:基本は停止直前のボール支配権を持っていたチームに戻す。
- 混戦と衝突の回避:一斉に奪い合う旧来のドロップを廃止し、指定選手へのドロップ+4m距離ルールを導入。
- ペナルティーエリア(PA)内の安全配慮:PA内で止まった場合は守備側GKにドロップ、相手はPA外へ。
最新のIFAB競技規則での位置づけと確認ポイント
- ルールの根拠は「競技規則 第8条(プレーの開始と再開)」に整理。
- 審判員接触の扱いは同条に明記:特定の条件を満たす場合のみ停止→ドロップ。
- 直接得点は不可:少なくとも2人の選手に触れないと得点は認められない。
再開方法の全体像
誰にボールがドロップされるのか(原則と例外)
- 原則:ボールが止まった瞬間に「最後にボールに触れていたチーム」の中から、主審が特定の1名にドロップ。
- 例外(PA内):プレーがPA内で停止した場合は、守備側のゴールキーパーにドロップ。
- 審判員接触が理由の停止:最後にボールへ触れていたチームの選手にドロップ(PA内なら守備側GK)。
どこでドロップされるのか(位置の決まり方)
- 基本位置:プレーを停止した時点でボールがあった位置。
- 審判員接触で停止:審判員に触れた位置。
- PA内の停止:守備側GKに対してPA内でドロップ(通常はGKの近く、安全に再開できる地点)。
- ライン上の扱い:ラインはそのエリアの一部。境界上での事象は、そのエリア側のルールに従う。
いつインプレーになるのか(ボールが地面に触れた瞬間)
- ボールが地面に触れた瞬間にインプレー。
- 落下前に誰かが触れたらやり直し。
- 主審の笛は必須ではないが、指示と合図に従うこと。
プレーヤーの距離制限(4mルール)
- ドロップ対象選手以外は、ボールから少なくとも4m離れる。
- PA内でGKにドロップする場合、相手チームはPA外かつ4m以上離れる。
- 近づきすぎや妨害は警告(反スポーツ的行為)対象。必要なら間接FKで再開されることがある。
直接得点は可能か(結論:不可)
- ドロップボールからは直接得点できない(少なくとも2人の選手に触れてからでないと得点は認められない)。
- もし直接相手ゴールに入った場合:ゴールキック。
- もし直接自軍ゴールに入った場合:コーナーキック。
ケース別:よくある再開シナリオ
ボールが審判員に当たった/接触した場合
- 停止になるのは次のいずれかが起きたとき:
- 有望な攻撃が始まった(攻撃側が有利に抜けた)
- ボールの保持チームが変わった
- ボールが直接ゴールに入った
- 上記に該当しなければ続行(審判員はピッチの一部扱い)。
- 停止した場合の再開:最後にボールへ触れていたチームの選手にドロップ(PA内なら守備側GK)。
負傷者対応のために競技を停止した場合
- 反則がなく、負傷対応のみの停止ならドロップボールで再開。
- 停止時にボールを保持していたチームへ戻す(PA内なら守備側GK)。
- 重度の頭部負傷などは安全最優先。早めの停止→ドロップでスムーズに再開。
外的要因(観客・物体・動物・第二のボールなど)の侵入
- 外的要因がプレーに干渉したら主審は停止。
- 再開は、停止時にボールがあった位置でドロップ(PA内なら守備側GK)。
- 干渉がなければ続行可能。迷ったら安全側の判断が優先される。
偶発的な接触で反則がなく停止した場合
- 例:双方がボールにプレーしに行って衝突、反則はなし。安全確保で止めた場合。
- 再開は停止時にボールを保持していたチームへドロップ(PA内なら守備側GK)。
ペナルティーエリア内での停止と再開
- 理由を問わず、PA内で止まったら守備側GKにドロップ。
- 相手チームはPA外に退き、4m距離を確保。
- GKはボールが地面に触れた後、手で扱ってもよい(バックパスの適用対象ではない)。
視界不良・照明トラブル・ホイッスル等の異音混入
- プレー継続が困難、または選手がプレーを止めざるを得ない状況なら停止。
- 再開はボール位置に応じてドロップ(PA内なら守備側GK)。
- 状況が改善し次第、主審の管理下で再開する。
スローイン・ゴールキック・コーナーキック中に起きた場合
- まだインプレーでない時点のトラブル(投げる前、蹴る前など)は、原則として元の再開をやり直し。
- インプレーになってから外的要因や審判員接触の条件を満たしたら、ドロップで再開。
- 「インプレー」の基準:
- スローイン:ボールがフィールド内に入ったとき
- ゴールキック/コーナーキック:ボールが蹴られて明確に動いたとき
特殊例と誤解されがちなポイント
ドロップボールから直接ゴールになったら?(取り扱い)
- 直接相手ゴール:得点は無効。再開は相手のゴールキック。
- 直接自軍ゴール:得点は無効。再開は相手のコーナーキック。
- 得点が有効なのは、少なくとも2人の選手に触れた後のみ。
ゴールキーパーにドロップする場面の注意点
- GKはボールが地面に触れてインプレーになった後、手で扱える。
- 相手チームはPA外+4mの距離。味方はPA内にいてもよいが、4mは守る。
- GKが味方に短くつける前提での素早い再開が有効。合図をチームで統一しておく。
ボールがインプレーでなかった場合の扱い(やり直しの基準)
- もともとボールがアウトオブプレー(交代手続き中、得点後、スローイン前など)で止まっていたなら、ドロップではなく元の再開に戻る。
- ドロップのボールが地面に触れる前に触られたらやり直し。
- 着地地点が危険・不適切な場合は、主審が位置を調整してドロップする。
4mの距離を守らない/妨害があった場合の処置
- ドロップ対象外の選手が4m未満に接近・妨害:警告(距離を保たなかった)。
- 主審がプレーを止めて警告した場合、間接フリーキックで再開されることがある(反則地点から)。
- 軽微でプレーに影響がなければ注意・再開の流れもあり得る。いずれも主審のマネジメント下。
審判員への接触で“有利”と判断される条件
審判員への接触は、通常はプレー続行です。停止が必要なのは「有望な攻撃の開始」「保持チームの変更」「直接ゴール」のいずれかが生じたとき。いわゆる“アドバンテージ”の適用とは別のロジックで判断されます。
選手・指導者・保護者が押さえる実務ポイント
選手の振る舞い:最短で再開するためのポジショニング
- 指定選手:主審の指示を正面で受け、コントロールしやすい面を作って待つ。
- 周囲の味方:4mを確保しつつ、次の最初のパスコースを用意(内側・外側の2択)。
- 相手:4mを守りながら、インプレー直後に圧力をかけられる角度に立つ。
GK・DF・MF・FW別:再開直後の判断と役割
- GK:PA内のドロップは最短でキャッチ→配球。相手のブロック数を見て、速攻か保持か即断。
- DF:背後管理。相手が4m明けから一気に寄せる瞬間に備え、最初のサポート角度を確保。
- MF:前向きで受けるラインと、後ろでやり直すラインの“二段”。声で選択を統一。
- FW:相手の集中が切れる瞬間に背後を狙う。オフサイドラインの位置取りを早めに共有。
フェアプレーと“返す”文化:現行ルールとの関係
- 相手の負傷で止まった場合、ドロップ後に相手へ“返す”選択はチームの判断。強制ではない。
- ただし、4mルールと指定選手の制度で危険な衝突は起きにくい。返すなら合図を決めておく。
- スコアや時間帯で運用を変えるなら、事前の合意とベンチのコントロールが大切。
試合マネジメント:時間帯・スコア・エリア別セオリー
- 自陣PA内:GKが確実に保持。相手ブロックが整う前に外へ素早く展開。
- 自陣ハーフ:前進の“初手”が命。タッチライン側の安全地帯へ逃がすプランBも常備。
- 敵陣:直接得点はできないため、ワンタッチを挟む設計(壁役の配置、クロスorショート)。
- リード時:リスクコントロール優先。相手の4m開けの形を見て安全に保持。
- ビハインド時:相手の戻り切らない瞬間にテンポアップ。スローで再開させない。
ジュニア年代・学校現場での教え方と伝え方
- 合言葉でルール化:「4メートル!」「ワンタッチ!」など短いコールを共通化。
- 役割を固定しすぎない:指定選手が変わっても全員が“次の一手”を理解できる形に。
- フェアプレーの確認:返す・返さないは状況と約束の共有。感情に流されないこと。
練習に落とし込む:再現ドリルとコーチングキュー
ドロップボール想定のビルドアップ開始ドリル
- 設定:PA内でGKにドロップ→GKがキャッチして再開。相手はPA外スタート。
- 目的:最初の配球判断(サイド、中央、ロング)の意思決定スピードを高める。
- キュー:「見て→決めて→蹴るを3秒以内」「4m後の最初の圧力に1本で外す」。
守備側の即時プレッシング導入ドリル
- 設定:自陣ハーフで相手にドロップ。守備側は4mから一斉に圧縮。
- 目的:インプレー直後のトリガー(落下→第一タッチ)で奪い切る連動。
- キュー:「最初の受け手の利き足側を切る」「2人目は縦パスの受け手を先取り」。
ゲーム形式での4mルール遵守を習慣化する工夫
- 仮ラインのマーカーを置き、4mの感覚を体で覚える。
- ルール違反は即座に相手ボールの間接FKに切り替えるトレーニングルール。
- キャプテンに“距離コール”の責任を与える。
合図・コールの共通言語化(チームルール)
- 「キープ(保持)」「スイッチ(サイドチェンジ)」「ワン(ワンタッチで)」など短文で即統一。
- 返す際は「リターン」の一声で全員が理解。相手にも伝わる明確なコールを。
- ベンチからも同じ言い回しを徹底し、全学年で共通化する。
よくある質問(FAQ)
主審の合図前にプレーしてよい?
ボールが地面に触れてからがインプレー。落ちる前に触ればやり直し。笛は必須ではありませんが、主審の指示に従ってください。
相手が4mの距離を守らないときは?
主審は注意・警告の対象とできます。妨害がプレーに影響し、主審が試合を止めて警告した場合は、間接フリーキックで再開されることがあります。まずは冷静に距離の確保を主張し、味方キャプテン経由で伝えるのが賢明です。
風で落下地点がずれた/バウンド前に触れたら?
地面に触れる前に誰かが触れたらやり直しです。風などで不適切な位置になりそうな場合は、主審が安全な地点へ調整してから再開します。
インプレーでないときに停止した場合はどうなる?
もともとボールがアウトオブプレー(スローイン準備中など)なら、ドロップではなく元の再開を行います。
競技規則の更新で今後変わる可能性は?
競技規則は毎年更新されることがあります。ドロップボールの基本概念は近年安定していますが、最新の競技規則を確認しておくと安心です。
チェックリスト:ピッチで迷わないために
再開手順の3ステップ
- 停止理由とボール位置を確認(PA内か否か)。
- 誰にドロップか決定(原則:保持側、PA内は守備側GK)。
- 4m確保→ボールが地面に触れたらインプレー。
ポジション別ワンフレーズ合図例
- GK:「キープ」「リリース(投げる)」「スイッチ」
- DF:「内切れ」「外へ」「戻す」
- MF:「ワン」「ターンOK」「縦!」
- FW:「背後」「足元」「壁になる」
試合前ミーティングで確認すべき項目
- 4mルールとPA内の相手退避。
- “返す/返さない”の方針と合図。
- 最初の配球パターン(中央・サイド・ロング)の優先順位。
まとめ:ドロップボールを“偶然”から“準備済み”へ
今日から実践できるミニ習慣
- 4mの距離感をチームで声掛けして守る。
- ドロップ直後の“初手”を2パターン用意しておく。
- PA内はGKの合図で即時展開。全員が同じ言葉で動く。
チームに浸透させるための運用ポイント
- 週1回、ゲームの中でドロップ想定の再開を3本だけ挟む(短く高頻度)。
- キャプテン主導でベンチも含めた合図統一。
- “返す”判断は事前共有。感情ではなくチーム方針で。
ドロップボールは、ルールを知っていれば安全に、そして時にアドバンテージにも変えられる“つなぎ目”です。再開方法と特殊例を押さえ、練習で小さく積み重ねることで、試合本番での迷いは消えます。今日のトレーニングから、準備を始めましょう。
