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ハンド基準をわかりやすく:反則か許容かの境目を具体例で解説

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ハンド基準をわかりやすく:反則か許容かの境目を具体例で解説

はじめに(リード)

「今のはハンド?それともノーファウル?」——試合中に最も議論が起きやすいテーマのひとつがハンドです。競技規則の文言はシンプルですが、実際のプレーは速く、腕の位置や動き、当たるまでの距離など状況の差で評価が分かれます。本記事では、最新の定義と審判の見方に沿って「反則か許容かの境目」を具体例とともに整理。攻守別の考え方、カードやリスタートの扱い、トレーニングでの対策までを一気にわかりやすくまとめます。

ハンド基準をわかりやすく:まず全体像をつかむ

なぜハンドは難しいのか:同じ事象でも評価が分かれる理由

ハンドは「手や腕にボールが触れた」だけでなく、触れる前後の背景が評価に影響します。例えば、至近距離で避けようがなかったのか、腕がボールの方向に動いたのか、当たったことでどれだけ不当な利益が生じたのか——これらが総合的に見られます。さらに、審判の視点や副審・第4審・VARの情報、試合のカテゴリー(ユース/学生/プロ)によっても運用の度合いが微妙に変わることがあります。

審判が見る順番:位置→動き→距離→影響

現場では、次の順で整理するとブレにくくなります。

  • 位置:腕は自然な位置か、不自然に体を大きくしていないか
  • 動き:腕がボールへ動いたか、結果として当たっただけか
  • 距離:至近距離で回避不能だったか、反応時間はあったか
  • 影響:明確に有利/不利を生んだか、得点や決定的場面に直結したか

このフレームはプレーヤーや指導者のセルフチェックにも有効です。

今日のゴール:反則か許容かの“境目”を具体例で理解する

本記事のゴールは2つ。ひとつは、最新の定義で「どこからが反則か」をスッと説明できるようになること。もうひとつは、練習や試合ですぐ使えるフォーム・声かけ・判断基準を手に入れることです。

ハンドの基本定義と境界線:どこからが『腕』なのか

肩と腕の境目:腋の付け根ラインが基準

競技規則では、腕の範囲は「腋(わき)の付け根から下側」と定義されます。腋の付け根を通る水平ラインより上は“肩”として扱われ、肩へのボール接触はハンドになりません。迷ったら「腋の付け根ライン」を思い出しましょう。

『故意にボールへ手や腕を使う』の意味

故意とは、ボールに手や腕を使おうとする意図・動作があること。腕がボールの方向に動く、腕でボールをコントロールしようとする、ブロック目的で腕を広げるなどが該当します。逆に、腕は動かずボールが予期せず当たっただけ、という場合は故意とは言えません。

『体を大きくする』とは何か:腕の位置とシルエット

腕が体から離れて、相手のプレーやボールの通り道を不自然に広く塞ぐことを指します。特に、肘が外に開く、真横に張る、体の幅や高さを過度に大きく見せる姿勢はリスクが高いです。

頭より上・体から離れた腕は原則リスクが高い

頭上や肩より高い位置、体の外側に大きく広がった腕は、意図の有無に関係なく「体を不自然に大きくした」と解釈されやすく、反則に傾きます。

審判の判断フレーム:反則か許容かを分ける5つの観点

観点1:腕の位置は『自然か不自然か』

走る、跳ぶ、方向転換するなどの動作に伴う自然な腕の振れ幅は許容されます。一方、プレーの必要以上に広げた腕は不自然と判断されやすいです。

観点2:腕がボールへ『動いたのか/結果的に当たったのか』

ボールへ向かう能動的な動きは故意の根拠になります。逆に、ボールの軌道が変わって当たった場合や、腕が体に沿っていて避ける時間がない場合は故意性が低く評価されます。

観点3:距離と反応時間(至近距離の不可避性)

至近距離から強いシュートやクロスが来た場合、回避の余地が少ないため、同じ接触でも反則としない判断が生まれます。目安は「反応する余地があったか」。

観点4:デフレクション(味方・相手・自分の体からの跳ね返り)

胸や脚、相手/味方に当たってから腕に触れるケースは、予測困難として許容されやすい傾向。ただし、跳ね返ることを予期できた場面や腕が広がっている場合は、反則に傾きます。

観点5:転倒・スライディング時の『支え手』の扱い

地面に倒れながら体を支えるための手(支え手)は、自然な範囲なら許容されやすいです。ただし、支え以上に腕を伸ばして通り道を塞げば反則の可能性が高まります。

具体例でわかる境目:許容となりやすいケース

至近距離のシュートが防ぎようなく腕に当たった

1〜2mの距離で至近距離からの強いシュート。腕は胸の横か体に近い位置。回避不能と判断され、プレーオンになることが多いです。

自分の体(胸・脚)から跳ね返って腕に触れた

トラップやブロックで自分の体に当たり、その直後に腕へ。腕が体に沿っていれば許容されやすいケースです。

スライディングで地面を支える『支え手』に当たった

スライディングで片手が地面についており、バランス保持のために必要な角度・長さで触れている。通り道を塞ぐ目的が認められなければ、反則としない判断があります。

腕が体に密着しておりシルエットを広げていない

肘を畳み、手を胸や腹部に添える形。ボールが当たっても体を大きくしておらず、反則になりにくいです。

走行中・ジャンプ中の自然なバランスの腕で回避不能

上半身のバランスを取るための腕の振りが自然な範囲で、ボールの変化が急だった場合。反応時間がなければ許容に傾きます。

具体例でわかる境目:反則となりやすいケース

クロスやシュートに対して腕でブロックする動きが認められる

腕がボールへ出る、肘で止めるような明確な動作は故意と評価されやすく、反則の可能性が高いです。

腕が体から離れて体を不自然に大きくしている

肘を張って幅を広げる、脇を開いて通り道をふさぐなど。腕位置が主因で反則となる典型例です。

頭より高い位置・真横に大きく広げた腕に当たる

頭上の腕や、肩ラインよりも外側に強く張った腕はリスクが高い。意図がなくても反則とされやすい領域です。

腕でボールをコントロール・保持しようとした

腕でトラップ、押さえ込む、進路を変えるなどの操作は、故意のハンドと判断されやすくなります。

攻撃側が手や腕に触れた直後に得点・決定機につながる

攻撃側の選手自身の手や腕に偶発的に触れ、その「直後」に得点した場合は原則として反則です。直後の「決定機」については、競技規則の文言では得点そのものへの直結が重視され、判断は大会運用に左右されることがあります。

攻撃側のハンド基準:ゴール前の“即時性”がカギ

得点または明白な得点機会への直結は原則反則

攻撃側の選手が手や腕に触れた「直後」に自ら得点する、または相手ゴールに直接入る場合は反則です。偶発的であっても取り消されます。

意図がなくても直後のゴール・決定機は取り消されやすい

特に「直後の得点」は明確に取り消し対象です。一方、偶発的な手腕接触の後にプレーが続き、別の味方が時間をおいて得点した場合は、反則とならない運用が一般的です。

腕と肩の境界を意識したフィニッシュの身体操作

混戦では、肩でのリダイレクトは合法でも、上腕に触れると反則になります。胸・肩での処理を優先し、腕は極力体に寄せておくのが安全です。

手で押し込む・手で有利にする試みと懲戒の可能性

意図的に手で押し込む、手でコントロールして有利にする試みは、反則に加えて警告(非紳士的行為)となる場合があります。

守備側のハンド基準:『自然さ』と『回避可能性』の評価

ブロック時のフォーム:肘の開き・腕の高さが評価される

ブロック姿勢で肘が開いていないか、腕が頭より高くないかがポイント。体に沿う畳み方が安全です。

反応時間がない場面と判断への影響

至近距離・高速のシュートに対して、明らかに回避不能であれば許容されやすい。ただし、腕が広がっていれば反則に転じます。

サポートアームの扱い:地面を支える手はどうなるか

転倒やスライディング時の支え手は、体重を支えるための自然な位置なら許容されがちです。通り道を塞ぐように伸ばす、ボールへ動かすと反則評価の余地が生まれます。

守備者の意図の無と“結果としての優位”の関係

意図が無くても、腕の位置が不自然で明らかな優位を得た場合は反則になることがあります。意図と結果の両方が見られる点を押さえましょう。

カードの基準:ただのハンドと懲戒の違い

攻撃阻止(SPA)とDOGSO:カード色の分かれ目

有望な攻撃(SPA)を故意のハンドで止めた場合は警告の対象。明白な得点機会(DOGSO)を手で阻止した場合は原則退場です(自陣PA内のGKの正当な手の使用を除く)。

ゴールを手で防ぐ・手で得点を狙う行為

守備側が手でゴールを防げば退場の可能性が非常に高いです。攻撃側が手で得点を狙う、または得点する行為は反則で、警告が科されることがあります。

反復・目に余る非紳士的行為への対応

繰り返しの故意的ハンドや審判を欺く行為(シミュレーション的なアピールなど)は、警告の対象となり得ます。

リスタート・判定運用:FK/PK、アドバンテージ、ビデオ判定

直接FKとPKの区別:犯行地点で決まる

ハンドは直接FKの対象。守備側の反則が自陣ペナルティーエリア内で起きればPKです。攻撃側の反則なら相手の直接FK(自陣PA内で攻撃側が反則した場合は間接FKとなるケースがあり得ますが、ハンドの適用は状況依存です)。

アドバンテージの適用とその後の処置

明確な得点機会が継続するならアドバンテージを適用することがあります。DOGSO相当でも得点が入れば、再開時に警告で処理される運用が一般的です。

VARの対象と現場主審の最終判断:青年・学生年代との違い

VARは得点、PK、退場、選手誤認に関わる「明白で重大な誤り」を補正するために用いられます。最終判断は主審。ユース・学生年代ではVARがないことが多く、現場の一発判定が基準になります。

よくある誤解Q&A:中高生・保護者の『それ本当?』に回答

『手に当たったら全部ハンド』は誤り

腕に触れても、自然な位置・回避不能・デフレクションなどでは反則とならないことがあります。

『手を背中に回せば安全』は万能ではない

背中に回しても、腕が体から離れて大きく広がればリスクはあります。動きの中で自然に畳むのが基本です。

『至近距離なら絶対セーフ』でもない

至近距離でも、腕が不自然に広がっていれば反則になることがあります。

『肩はOK』の正しい範囲

腋の付け根ラインより上が“肩”。それより下の上腕は腕として扱われます。

『攻撃は厳しく守備は緩い』わけではない

攻撃側は「直後の得点」に厳格な基準がある一方で、守備側は腕の位置や自然さが重視されます。見ているポイントが違うだけです。

技術と戦術:ハンドを避けるフォーム作り

クロスブロックの肘・手の“畳み方”

肘を軽く曲げ、手は胸〜腹に添える。肩は前に入れ、脇を締めてシルエットを小さく。脚でラインを切り、腕で切らないのが原則です。

スライディングの支え手と上半身の角度

支え手は体の真下〜やや内側に置き、肘を伸ばし切らない。上半身は斜め前に倒し、腕で通り道を塞がない角度を習慣化します。

壁(フリーキック)の作り方:顔面保護と腕の位置

顔を守る手は胸前で軽く重ね、肘は外に張らない。ジャンプする場合も手は体に沿わせ、着地で広がらないよう意識します。

ジャンプ・着地で『体を大きくしない』腕の使い方

踏切での腕振りは前後の小さな弧に留め、着地直前に肘を畳む。競り合いでも“肩で勝つ、腕で勝たない”を徹底します。

ドリル例:反応時間と腕位置の意思決定トレーニング

  • 至近距離シュート反応:2mからの連射を体正面でブロック。毎回「腕のチェック」を声に出す。
  • デフレクション対応:マーカーに当てて軌道を変えたボールに対し、腕を畳んだままブロック。
  • スライディングの支え手:コーチが角度を指定。手の位置が外に出たら即修正のフィードバック。

攻守の実戦判断フローチャート

ステップ1:腕の位置(自然/不自然)

まず腕が体に沿っているか、シルエットを広げていないかを確認。

ステップ2:ボールへ腕が動いたか

腕がボールの方向に出ていれば故意に近づき、反則に傾きます。

ステップ3:距離・反応時間・デフレクション

至近距離・急な跳ね返りは回避不能の要素となり、反則度合いが下がります。

ステップ4:結果の影響(得点/決定機)

攻撃側の「直後の得点」は原則反則。守備側はDOGSO/SPAに該当するかを確認。

ステップ5:再開・懲戒の整理

反則ならFK/PKを決定。必要に応じて警告/退場、アドバンテージ適用時の後処理も整理します。

保護者・指導者のための声かけガイド

判定に対するリスペクトと安全の優先

子どもや選手には「腕の位置をまず整えよう」「審判の基準に合わせよう」と伝え、感情的な抗議ではなく次のプレーへ切り替える習慣を。

誤解を招かないキーワードの使い方

「今のは至近距離で不可避」「腕が広がっていた」など、判断基準の言葉で振り返ると理解が進みます。

トレーニングでの注意喚起と成功体験の作り方

練習中から毎回「腕チェック」を合言葉に。うまく畳めた場面を切り取って褒めると、試合でも再現性が高まります。

最新の基準を追うには:公式情報の確認ポイント

IFAB競技規則の該当章を読むコツ

ハンドは競技規則第12条(ファウルと不正行為)に記載。定義部分と「解釈・指針」をセットで読むと理解が深まります。

国内連盟の講習資料・事例動画の活用

国内連盟や審判委員会が公開するクリップは、実際の判定基準を学ぶ近道。文章より映像がわかりやすい場面が多いです。

年ごとの微修正に振り回されない理解の軸

毎年細かな表現が調整されますが、軸は「腕の自然さ」「腕の動き」「距離・反応時間」「結果の影響」。この4本柱で解釈すれば、変更にも対応しやすくなります。

まとめ:『意図×腕の位置×影響』で境目を判断する

実戦で使える3チェック

  • 意図:腕はボールへ動いたか
  • 位置:体を不自然に大きくしていないか
  • 影響:得点・決定的機会に直結したか

練習での再現とクセの矯正

至近距離・跳ね返り・スライディングを想定した反復ドリルで、腕の畳み方をルーティン化。映像でセルフチェックすると矯正が早まります。

試合で迷わないための準備

チームとして「壁の手」「ブロックの肘」「支え手の角度」を事前に合意。審判の基準に合わせて早めに修正する柔軟さも勝負のうちです。

あとがき

ハンドは“白黒”で割り切れないからこそ、原則と具体例をセットで覚えるのが近道です。今日の基準をチームの共通言語にし、練習で小さな成功体験を積み上げてください。判断に迷いが減るほど、守備は安定し、攻撃は継続性を持てます。次の試合から、まずは「腕の位置」から整えていきましょう。

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