「戻すのはダメって聞いたけど、どこまでが反則?」——バックパスは試合の流れや安全面、時間の使い方に直結する大事なテーマです。この記事では、競技規則(IFAB Laws of the Game)に沿って、バックパスの基本からGK(ゴールキーパー)の扱い、反則例、OK例、実戦での使い方や練習法まで、やさしく丁寧に解説します。高校生以上の選手や指導する立場の方はもちろん、保護者の方にも伝わる言葉でまとめました。
目次
バックパスとは?基本の意味とよくある誤解
日常会話で使う「バックパス」と競技規則上の扱いの違い
日常的に「バックパス」と言うと、味方に後ろ向きにパスを出す、あるいはGKに戻すプレー全般を指します。一方、競技規則上で問題になるのは「味方が足でボールを蹴ってGKへ戻し、GKがそれを手で扱う」場面です。単に後ろへパスすること自体が禁止されているわけではありません。
- 日常的な意味:後方へのパス全般
- 規則上の「反則」対象:味方の足によるキック → GK → GKが手で触れる
バックパスが問題になる瞬間:GKが手で触れると反則になる条件
反則が成立するのは次の3条件がそろったときです。
- 味方が「足」でボールを「意図的に」キックした
- そのボールがGKへ向かった(結果としてGKが受ける)
- GKがそのボールを「手または腕」で扱った(キャッチ、スロー、一時的な触球を含む)
この3つのうち一つでも欠ければ反則にはなりません。例えば、頭や胸で戻すのはOK。足で戻しても、GKが足でコントロールし続けるなら反則になりません。
なぜこのルールがあるのか:試合のスピードと遅延防止の観点
バックパス・ルールの狙いは「時間稼ぎの抑止」と「試合のスピードアップ」です。昔はリードしているチームがGKに繰り返し戻し、手で保持→また戻す、を繰り返して時間を消費する場面が多く見られました。現在のルールはそれを避け、攻守の切り替えを速くし、ゲームの面白さと公平性を保つために設けられています。
競技規則の要点:どんなときに反則が成立するのか
意図的な足のキックがカギ:『足で』『GKへ』が揃ったらNG
「キック」は足でボールを蹴る行為を指します。味方が意図的に足でGKへ向けて蹴ったボールを、GKが手で扱うと反則です。「意図的に」がポイントで、意図の判断にはプレーの方向・強さ・体の向き・周囲とのやり取りなどが参考にされます。
スローインからGKが手で受けるのはNG
味方がスローインし、GKがそのボールを直接手でキャッチすることは反則です。間に誰か(相手や味方)が触れてプレーが変われば、この限りではありません。
足以外(頭・胸・膝・すね等)でのプレーはOK
キックは「足」に限定されます。頭、胸、肩、膝、すね等でのプレーはキックではないため、GKが手で扱っても反則になりません。ただし、後述する“トリックプレー”で意図的に足で浮かせてから頭で渡す、といった抜け道は認められていません。
ディフレクション(跳ね返り)とコントロールの違い
- ディフレクション(単なる当たり・跳ね返り):相手や味方に偶然かすって方向が変わるだけ。元の「味方の足のキック」の性質は残ると解釈されやすい。
- 明確な「プレー・コントロール」:相手が意図してボールをプレーした場合、由来がリセットされ、GKが手で扱ってもOKになることがあります。
つまり、相手に“明確にプレー”されたらOK、単なるかすり当たりの跳ね返りではNGの可能性が高い、という捉え方です。
学生年代・アマチュアでも原則は同じ
高校生やアマチュアの試合でも、原則はトップレベルと同じです。各大会要項での微調整がある場合は、事前に確認しておきましょう。
歴史の背景:バックパス・ルールはこうして生まれた
1992年の改正とゲーム性の変化
バックパス・ルールは1992年に導入されました。背景には、1990年のワールドカップなどで見られた極端な時間稼ぎがあり、観客・選手・メディアからの不満が高まっていたことが挙げられます。改正後、GKは足でのプレーが求められるようになり、守備から攻撃への切り替えが速くなりました。
時間稼ぎの抑止とGKの足元技術向上という副次効果
ルールは時間稼ぎを抑えただけではありません。GKのファーストタッチ、パス精度、判断力の向上を促し、ビルドアップの一員としての役割が強化されました。現代サッカーでGKが「11人目のフィールドプレーヤー」と言われる理由の一つです。
GKが手で扱える/扱えないケース早見
手で扱えない:味方の意図的な足のキックがGKへ向かった場合
もっとも典型的な反則パターン。GKは足でコントロール・パス・クリアで対処しましょう。ボールの由来が変わらない限り、後から拾い上げても反則のままです。
手で扱えない:味方のスローインを直接受けた場合
味方のスローインを直接キャッチするのはNG。ワンバウンドでも「直接」に含まれます。
手で扱える:味方が頭・胸・膝・すね等で戻した場合
足以外でのプレー由来はOK。ただし、足で意図的に浮かせて頭に当てるなどのトリックは不可(後述)。
手で扱える:相手に当たってから戻った場合や明確なリバウンド
相手の明確なプレー(コントロール・チャレンジ等)を経て戻ってきたならOK。単なるかすり当たりのディフレクションだけでは由来は変わらない点に注意。
注意点:GKが一度足で触れた後でも、由来が『味方の足のキック→GK』なら手は使えない
足でトラップしても、元の由来は残ります。足で止めた直後に拾い上げると反則です。相手にプレーされるなど、由来が変わらない限り手は使えません。
基本ルール:ペナルティエリア外ではGKも手を使えない
当然ですが、ペナルティエリア外での手の使用はGKも反則(直接フリーキック)です。バックパス云々の前に、位置の確認は最優先事項です。
反則になったらどうなる?再開方法と主審の見方
再開は間接フリーキック(インダイレクト)
バックパスの反則は間接フリーキック(インダイレクトフリーキック=IFK)で再開します。GKが手で扱った地点が反則地点です。自陣ゴールエリア内での反則なら、IFKはその地点に最も近いゴールエリアライン上(ゴールラインに平行)から再開します。
反則地点と壁の距離の基本
- 壁の距離は9.15mが原則。
- 守備側は自陣ペナルティエリア内でのIFKでも9.15m離れる必要があります(ただしゴールライン上、ゴールポスト間に位置するのは可)。
- ボールは静止してから再開。主審の合図が必要な場合は笛を待ちます。
主審が見る『意図』の手がかり:方向・強さ・体の向き・合図
「GKへ向けた意図」は、ボールの方向・スピード、蹴った選手の身体の向き、目線や声かけ、周囲の状況など、複数の要素から総合的に判断されます。明確なGKへの戻しと見なされれば反則の対象になります。
アドバンテージの考え方と適用されにくい場面
この反則は多くが守備側のペナルティエリア内で起きるため、攻撃側に著しい有利が継続するケースは少なく、アドバンテージは適用されにくい傾向にあります。基本は笛→IFKで再開です。
反則例とOK例を具体的に学ぶ
反則例1:DFがGKに向けて足ではっきり戻し、GKがキャッチ
最も典型的。DFが「落ち着け」の意味でGKに戻したが、GKが手で取ればIFKです。GKは足でコントロール→パスかクリアで対応しましょう。
反則例2:味方のスローインをGKが直接キャッチ
スローイン由来の直接キャッチはNG。ワンバウンドも「直接」に含まれます。間に相手や味方が明確にプレーしていればOKです。
反則例3:足でボールを蹴り上げて頭で渡す等のトリックプレー
足で意図的に浮かせ、頭・胸などを経由してGKに渡すのは規則の趣旨を避ける行為として扱われ、反スポーツ的行為(警告の対象)+IFKになります。
反則例4:GKが足でトラップした直後に手で拾い上げる
由来が味方の足のキックであり続ける限り、足→手の切り替えはNG。相手の明確なプレーを挟まない限り、最後まで手は使えません。
反則例5:セットプレーからの意図的な足の戻しをGKが手で扱う
自陣のフリーキックやスローイン後でも同様。味方が足で意図的にGKへ蹴ったボールを、GKが手で扱うとIFKです。
OK例1:味方のヘディングの戻しをGKがキャッチ
頭は「足」ではありません。GKのキャッチOK。
OK例2:味方の胸・膝・すねでの戻しをGKがキャッチ
胸・膝・すね等もOK。自然なプレーであれば問題ありません。
OK例3:相手に当たって方向が変わって戻ったボールをキャッチ
相手が明確にプレーした場合は由来がリセットされ、GKが手で扱えます。単なるかすり当たりのディフレクションではリセットされない点に注意。
OK例4:味方がクリアしたボールが結果的にGK方向に流れただけのケース
「GKへ向けた意図がない」強いクリアやブロックが偶然GKへ流れた場合は、意図的な戻しではないため、GKが手で扱っても反則にならないことがあります。
OK例5:強風やピッチ状況で戻ったボールをGKがキャッチ
強風やイレギュラーバウンドでボールが戻っただけなら、意図的な足のキックによる「GKへの戻し」とはみなされません。
トリックプレーとは何か:やってはいけない具体行為
意図的に足で浮かせ、頭や胸でGKに渡せる形にする行為
足でボールを持ち上げ、頭・胸などでGKに渡せる形にするのは、ルールの意図を回避するトリックと見なされます。成功・不成功に関わらず反則の対象です。
反スポーツ的行為としての扱いと罰則(間接FK+警告の可能性)
この行為は反スポーツ的行為として警告(イエローカード)の対象になり、再開は間接フリーキックです。GKが受け手として関わった場合でも、状況により関与選手が処分されます。
境界線の考え方:自然なプレーと不自然な操作
自然なヘディングの戻しはOK。一方、明らかに足で意図的にボールを浮かせ、頭や胸へ持ち替えるのは不自然でトリックと判断されやすいです。プレーの目的と動作の自然さが境界線になります。
戦術としてのバックパス:使いどころと質を高めるコツ
プレス回避・サイドチェンジの起点としてのGK
バックパスは「逃げ」ではなく「攻撃の第1歩」。GKを経由することで、プレスの方向を逆手に取り、サイドチェンジや縦パスのコースを作れます。GKを3人目・4人目の連係に組み込む設計が鍵です。
体の向き・サポート角度・タイミングの設計
- 体の向き:受け手(GK)が次の選択肢を持てる足元へ。
- サポート角度:縦・斜め・横の3方向で三角形を作る。
- タイミング:相手が寄せる「前」に戻す。遅い戻しはリスク増。
GKのファーストタッチと次の一手(パスかクリアか)
GKはファーストタッチで相手の進行方向と逆へボールを置き、前向きにパスを打てる姿勢を作るのが理想。圧力が強い時は迷わず長いクリアで回避し、二次攻撃に備えましょう。判断の速さが命です。
リスク管理:失点につながる戻しを避ける判断軸
- ゴール正面での弱い戻しは避ける(カット=即失点の危険)。
- バウンドが読めないピッチでは浮き球・アウトサイドは控える。
- GKが利き足で処理できる方向・強さで戻す。
- 声かけ(キーパー!・戻せ・ターン)で共通認識を作る。
練習メニュー:チームと家庭でできる実践ドリル
3人組ロンド:DF—GK—DFでの一発回避と戻しの質
DF2人とGK1人、クロスに立つ守備者1人。DF→GK→逆DFの一発回避を狙い、戻しの強さ・足元の置き所を徹底。守備の寄せ速度を段階的に上げて難易度を調整します。
1タッチ・2タッチ制限でのビルドアップ練習
ペナルティエリア周辺で1~2タッチ縛りの回し。GKのファーストタッチでの方向づけと、DFのサポート角度を磨きます。ボールスピードと声の質(短く、具体的)を評価軸に。
状況別コール(声かけ)例:『ターン』『戻せ』『逆』
- ターン:前を向ける余裕あり。
- 戻せ:GK経由で組み直し。
- 逆:逆サイドへ展開の合図。
言葉は短く、誰に向けての指示かを明確に。GKは名前を呼んで「太郎、逆!」のように指名制で伝えると伝達ミスが減ります。
自宅での基礎:壁パスとファーストタッチの方向づけ
壁に対してインサイドで壁パス→ファーストタッチで角度を変える→またパス、を繰り返すシンプルドリル。左右の足で実施し、タッチ後の体の向きを意識します。GK志望者はトラップからのロングフィード(手投げ→ボレー)も追加で。
評価チェックリスト:意図・精度・安全の3観点
- 意図:なぜ戻すのか?(プレス回避・向き直し・時間確保)
- 精度:強さ・コース・足元/利き足へ置けているか
- 安全:相手に読まれない体の向き・バウンドの管理・ゴール前のリスク回避
よくある質問(Q&A)で不安を解消
Q1:ヘディングでの意図的な戻しは反則?
A:反則ではありません。頭は足ではないため、GKが手で扱えます。ただし、足で浮かせたボールを頭に乗せるような不自然な操作はトリックプレーとなりNGです。
Q2:膝やすねは『足』に含まれる?
A:「キック」は足でボールを蹴る行為を指します。膝やすねでのプレーはキックに当たりません。自然な戻しであれば、GKの手の使用はOKです。
Q3:GKが一度足で触った後なら手を使ってよい?
A:いいえ。由来が「味方の足のキック→GK」のままであれば、足で触った後でも手は使えません。相手が明確にプレーして由来が変わった場合は、手の使用が可能になります。
Q4:『GKへ向けた意図』はどう判断される?
A:ボールの方向・強さ、蹴った選手の体の向き、周囲の声・合図などを総合して主審が判断します。明らかにGKへ戻す動作であれば、意図ありと見なされやすいです。
Q5:フットサルとの違いはある?(別競技規則の注意)
A:フットサルは競技規則が別です。GKへのバックパスに関する制限や回数制限など、サッカーとは異なるルールがあるため、フットサルはフットサルの規則を確認してください。
安全とフェアプレーの視点
無理な戻しで味方を追い込まない:判断とコミュニケーション
プレスが強いのに弱いボールで戻すのは危険です。GKの状況(体勢・利き足・相手との距離)を見て、声で確認してからプレーしましょう。「ない!」のコールも立派な守備です。
主審の裁量を尊重する姿勢
意図の判定には主審の裁量が伴います。感情的にならず、プレーとコミュニケーションで解決する姿勢を大切にしましょう。
大会要項・地域差の事前確認
基本は国際基準に沿いますが、学生年代や地域大会で運用の注意点が示されることがあります。試合前に必ず大会要項を確認しておくと安心です。
まとめ:今日から実践できるチェックポイント
『足で』『GKへ』『手で扱う』が揃わないように設計する
戻す側は「足で」「GKへ」を必要最小限に。GKは手ではなく足での処理を基本にし、由来が変わらない限り拾い上げないこと。
戻す前に周囲をスキャンし、逆サイドの出口を確保
戻しはあくまで手段。逆サイドや縦の出口を見つけてから実行すると、相手のプレスをいなせます。体の向きで次の一手を作りましょう。
GKは足元の技術と声かけでリスクを最小化
ファーストタッチで相手と逆へ置く、利き足で蹴れる位置取り、明確なコール。この3点を徹底すれば、バックパスは強力な武器になります。ルールの意図を理解し、チーム全員で同じ絵を描けるようにしていきましょう。
