走る、切り返す、跳ぶ、また走る。サッカーは「止まらない」スポーツです。実はプレーの切れ味や判断の速さは、ボールタッチの技術だけでなく、どれだけ適切に水分と電解質を補給できているかにも左右されます。本記事では「サッカーの水分補給量の目安|練習・試合で差が出る補給術」をテーマに、今日からすぐ使える実践ノウハウをまとめました。嘘や誇張のない客観的な目安を土台に、個人差や環境差をどう埋めるかまで具体的に解説します。
目次
なぜ水分補給がパフォーマンスと安全に直結するのか
体重-2%の脱水で起こるスプリント・判断力低下
運動中の体重が約2%減る程度の脱水でも、スプリント反復や敏捷性、判断スピードの低下が起きやすくなることが知られています。サッカーでは一瞬の遅れが失点に直結します。ラスト10分の脚の重さ、パスのズレ、戻りの遅れは、技術の問題だけではなく“脱水の見えないダメージ”が重なっている可能性が高いのです。
熱中症・低ナトリウム血症の基礎知識
暑熱環境では体温が上がりやすく、汗で水分と電解質(特にナトリウム)が失われます。補給が足りないと熱中症のリスクが上がり、逆に水だけを大量に飲むと、血中ナトリウムが薄まって「低ナトリウム血症」を招くおそれがあります。どちらもパフォーマンス低下だけでなく安全面の重大リスクです。
サッカー特有の反復ダッシュと体温上昇の関係
サッカーは有酸素運動と無酸素運動が交互に繰り返されるスポーツ。短時間の高強度スプリントが積み重なると代謝熱が増え、体温はどんどん上がります。体温が上がると汗が増え、さらに脱水が進む—この悪循環を断ち切るのが、計画的な水分・電解質補給です。
給水量の基本目安(練習・試合)を先に把握する
原則:運動中の体重減少を2%未満に保つ
まずの目標はシンプルです。「運動前後の体重差が2%未満」。体重70kgならマイナス1.4kg以内が目安。これを超えるとパフォーマンス低下が出やすく、リスクも上がります。
時間当たりの目安:0.4〜0.8L/時を個人の発汗量で調整
一般的な目安は「0.4〜0.8L/時」。ただし個人差が大きく、暑い日のMFやFWなど走行距離が増えるポジションは1.0L/時近く必要になる場合もあります。汗の量と塩分量(塩味を強く感じる、白い塩跡が残るなど)で、ナトリウム補給も調整しましょう。
ハーフタイムを含めた試合1試合あたりの概算
90分(前後半各45分)+ウォームアップ20〜30分を想定すると、暑い日は総量1.2〜1.8L程度になるケースが多いです。例えば、ウォームアップで200〜300ml、前半で400〜600ml、ハーフタイムで300〜500ml、後半で400〜600mlといった配分が目安です。
練習前の準備(プレハイドレーション)
2〜3時間前:5〜7ml/体重kgの補給
体重×5〜7mlを目安に、体内の水分タンクを満たしておきます。体重70kgなら350〜490ml。食事と一緒に摂ると吸収も穏やかで、トイレも近くなりにくいです。
直前(15〜30分前):3〜5ml/体重kgの微調整
体重×3〜5ml(70kgなら210〜350ml)を追加。ここは「喉が渇く前に軽く入れる」イメージ。暑い日はナトリウムを含む飲料の比率を上げましょう。
尿の色と体重で“準備完了”を判定する
薄いレモン色ならOK、濃い琥珀色は水分不足のサイン。加えて、練習前の体重を把握する習慣をつけると、後の評価が正確になります。
練習・試合中の給水量の目安と配分
15〜20分ごとに小分けで200〜250mlを基本に
一気飲みは胃に負担がかかりやすく、吸収もばらつきます。15〜20分ごとに200〜250mlを基本とし、状況に応じて増減しましょう。給水ブレイクがない場合は、スローインやセットプレーの前後、プレーが切れた瞬間に素早く一口。
気温・湿度・ポジションで0.4〜0.8L/時の範囲を動かす
- 涼冷環境:0.4L/時を基準に、電解質はやや控えめでもOK
- 温暖〜暑熱環境:0.6〜0.8L/時を目安。発汗が多い選手は1.0L/時近くになる場合あり
- ポジション差:MFやサイドの上下動は多め、GK・CBはやや少なめが一般的
前半・ハーフタイム・後半の具体的な配分例(高校生・成人)
例:温暖日(最高気温22〜25℃)
- ウォームアップ:200〜250ml(6〜8%糖質+少量ナトリウム)
- 前半:合計350〜450ml(小分けで)
- ハーフタイム:250〜350ml(必要に応じて電解質強め)
- 後半:合計350〜450ml
例:暑熱日(WBGT 28以上)
- ウォームアップ:250〜300ml
- 前半:合計500〜600ml(氷スラリーや冷却飲料も検討)
- ハーフタイム:350〜500ml(電解質濃度を十分に)
- 後半:合計500〜600ml
試合当日のタイムライン例(キックオフ3時間前から)
3時間前〜90分前:食事と同時にプレロード
主食+たんぱく質+野菜・果物の食事と一緒に350〜500ml。塩分のある味噌汁やスープを活用するとナトリウムも確保できます。
ウォームアップ中〜前半:喉の渇きの前に少量ずつ
アップ開始から15分ごとに100〜150ml。ベンチに戻るたびに一口。試合中は200〜250mlを小分けで。
ハーフタイム:体重差と発汗感覚で量を決める
可能なら上着と靴を脱いでサッと体重を測り、前半での減少を把握。汗の塩味が強い、ユニに白い跡が出ているなら電解質をしっかり。足が重い・頭痛・集中力低下を感じたら量と塩分を増やします。
後半〜試合直後:次の予定を見据えた計画的補給
終了直後は脳と筋の回復が最優先。糖質6〜8%+ナトリウム入り飲料を250〜500ml、その後30分以内に食事または補食とともに追加で摂ります。連戦なら、次の試合に向けたリハイドレーション計画も同時にスタート。
自分の発汗量を知る:簡易スウェットテスト
準備するものと手順(体重計・ボトル・メモ)
- 体重計(できれば0.1kg単位)
- 飲んだ量がわかるボトル
- 排尿の有無と量をメモ
手順
- 練習直前にトイレを済ませ、軽装で体重測定
- 練習中に飲んだ量を記録(ml)
- 練習後すぐに同条件で体重測定(排尿したら量を差し引く)
計算式:発汗量(L/時)=(運動前後体重差+摂取量−排尿量)÷運動時間
体重差はkgをLに読み替えてOK(1kg≒1L)。例えば、前後差-1.0kg、摂取量600ml、排尿0、運動時間1.5時間なら、(1.0L+0.6L−0L)÷1.5h=約1.07L/時。これがあなたの環境下での発汗量の目安です。
結果の使い方:環境別プロファイルを作る
涼しい日、暑い日、雨の日など条件を変えて3回はテストし、「自分の0.4〜0.8L/時の立ち位置」を決めましょう。ポジションや練習強度別のメモも有効です。
何を飲む?水・電解質・糖質の最適バランス
ナトリウム目安:20〜30mmol/L(約460〜690mg/L)
汗で失われやすいのはナトリウム。飲料中の目安はナトリウム20〜30mmol/L(約460〜690mg/L)。食塩量に換算すると約1.2〜1.8g/Lです。長時間・高発汗時はこのレンジを意識しましょう。
糖質濃度:6〜8%で吸収とパフォーマンスの両立
糖質は筋と脳の燃料。6〜8%の飲料は吸収が良く、持久・スプリントの両立に向きます。甘すぎると飲みにくい人は、半分に薄めるなどで調整してOK。
水だけのリスクと、夏場の電解質戦略
水だけを大量に飲むと、血中ナトリウムが薄まるリスクが上がります。夏場は電解質入りを基本にし、汗に塩跡が残る人は電解質タブレットや粉末を活用。ハーフタイムで電解質を集中補給するのも有効です。
冬場・涼冷環境での微調整(温度と甘さの体感)
寒いと喉の渇きに気づきにくく、無補給になりがち。温めのスポーツドリンクやスープ類で電解質を確保すると飲みやすく、胃にも優しいです。糖質濃度は6%前後を目安に。
ポジション・年齢・体格による違いを補給に反映する
GK/DF/MF/FW:走行様式と発汗パターンの違い
- GK:走行距離は少なめでも、集中持続のためにハーフタイムの電解質補給が重要
- DF(特にSB):スプリントと対人で発汗多め。暑い日は上限寄り
- MF:最も走る傾向。0.6〜0.8L/時、条件次第でそれ以上も
- FW:反復ダッシュと競り合いで発汗増。小分け補給を徹底
高校生・大学生・社会人:発達段階と自己管理能力
若年層は喉の渇きに気づくのが遅れがち。練習メニューに「給水シグナル(笛)」を組み込み、15〜20分ごとの習慣化を。社会人は業務・睡眠の影響で慢性的に水分不足になりやすいため、通勤中や午前中のベース補給を意識しましょう。
保護者視点:小中学生の“飲めない・飲み忘れ”対策
- 名前入りボトルで「自分の分」を可視化
- 飲んだ目盛りが見えるボトルで「今日のノルマ」を明確化
- 味に飽きる→薄味を2種用意して交互に
- コーチと「給水タイムの合図」を共有
環境要因とリスク管理
WBGT(暑さ指数)で練習強度と給水頻度を決める
WBGTは気温・湿度・輻射熱をまとめた指標。28以上は熱中症リスクが高く、強度や時間を下げ、給水回数を増やす判断材料になります。チームで当日のWBGTを共有しましょう。
高地・寒冷・人工芝(照り返し)の影響
- 高地:乾燥で不感蒸泄が増え、脱水が早い。意識的にこまめに
- 寒冷:喉が渇きにくい。温かい飲料で摂取しやすく
- 人工芝:照り返しで体感温度が上がりやすい。冷却と電解質強化
チームで共有すべきルールとチェックリスト
- 練習前の体重記録と終了後の再計測
- 15〜20分ごとの給水合図
- 各自ボトルの容量・中身(電解質濃度)・補充ポイントの標準化
- 体調チェック(頭痛・吐き気・めまい・集中力低下)の申告ルール
よくある失敗と改善策
飲み過ぎ・飲まな過ぎのサイン(むくみ・頭痛・集中力低下)
- 飲み過ぎ:手足のむくみ、体重増、吐き気、頭痛(電解質不足を伴うことも)
- 飲まな過ぎ:口渇、尿が濃い、頭痛、足がつる、集中力低下
体重変化と体感をセットで記録し、次回へ反映します。
トイレが近くなる問題への実践的解決
- プレハイドレーションを2〜3時間前に済ませる
- 直前は少量ずつ(100〜150ml)を数回
- 電解質入りで水分保持を高める
- 冷たすぎ・一気飲みを避ける
ボトル運用:個別マーク・容量・補充タイミングの標準化
- 1人1本、はっきり識別できるマーク
- 容量は練習時間に合わせて(例:90分練習→750〜1000ml)
- アップ前、ハーフタイム、練習後での補充ルールを決める
回復のための水分補給(リハイドレーション)
運動後:体重1kg減少につき1.25〜1.5L+ナトリウム
汗はそのまま全部が飲料として戻らないため、やや多めが基本。体重が1kg減っていたら1.25〜1.5Lを目安に、ナトリウムも合わせて補給します。
食事と合わせる:スープ・味噌汁・果物・乳製品の活用
液体だけでなく、塩分と水分を含む食品を活用すると吸収・保持が安定します。味噌汁やスープ、果物、ヨーグルトなどを組み合わせましょう。
連戦・遠征時の“寝る前ハイドレーション”
就寝2〜3時間前に300〜500ml、就寝直前に100〜200ml。夜間のトイレ問題を避けたい場合は、前半の量を多めに、直前は控えめにします。電解質入りだと夜間の脱水予防にも有効です。
サプリ・飲料に関する実務的Q&A
尿の色はどこまで目安になる?
薄いレモン色が目安。ただし、ビタミン剤などで色が濃くなる場合もあるため、体重変化やコンディションとセットで判断すると精度が上がります。
カフェイン・炭酸・エナジードリンクの扱い方
- カフェイン:適量は集中にプラスに働くことも。利尿の影響は個人差あり。練習で試してから試合へ
- 炭酸:胃が張りやすく、人によってはパフォーマンス低下。試合中は避けるのが無難
- エナジードリンク:高糖質・高カフェインで刺激が強い。タイミングと量の管理が難しく、試合中の主飲料には不向き
プロテイン・クレアチンと水分の関係
プロテインは水分と一緒に摂るのが基本。クレアチン使用時は細胞内の水分保持が高まるため、日常的な水分摂取量を意識的に上げておくと安心です。どちらも「飲み慣れ」を練習で作ってから試合へ。
胃の揺れ・脇腹痛を避ける飲み方
- 小分け・こまめに飲む
- 冷たすぎない(5〜15℃程度)
- 糖質濃度が高すぎる場合は薄める
- アップ前から少しずつ入れて胃を慣らす
練習・試合で差が出る“自分専用の補給プラン”の作り方
3回のスウェットテストで“個人基準値”を決める
季節や強度を変えて3回実施し、平均値とレンジを取得。これがあなたの「時給水分量」と「必要ナトリウム量」の出発点です。
季節・時間帯・対戦強度で3パターンを用意
- 涼冷パターン:0.4〜0.5L/時、電解質控えめ
- 温暖パターン:0.5〜0.7L/時、標準電解質
- 暑熱パターン:0.7〜1.0L/時、電解質強化+冷却策
試合当日の微調整フロー(主観×客観で判定)
当日のチェック
- 朝の体重と尿色を確認
- WBGT・天気・ピッチ(人工芝/天然芝)を確認
- ウォームアップ中の発汗感覚で上限/下限どちらに寄せるか決定
この流れをルーティン化すると、コンディションのブレが減り、終盤の走力・判断力に差が出ます。
まとめ:体重-2%未満と0.4〜0.8L/時を軸に、環境と自分で最適化する
今日からできる3ステップ(準備・実行・評価)
- 準備:試合3時間前からプレハイドレーション。飲料は糖質6〜8%+ナトリウム20〜30mmol/L目安
- 実行:15〜20分ごとに200〜250ml。条件に応じて0.4〜0.8L/時で調整
- 評価:体重変化と体感(脚の重さ・頭痛・集中)を記録し、次回へ反映
チームで取り組むと継続できる理由
個人任せにしないで、チームとして「計測・合図・補充」を仕組み化すると、続けやすく、事故も防げます。水分補給は才能ではなく習慣。プレーの切れ味を最後まで保つために、今日から“飲み方の質”を磨いていきましょう。
