ピッチで「今日は体が重い」と感じる日の多くは、実は隠れ脱水が原因です。喉が渇く前からパフォーマンスは落ち始め、スプリント、判断、技術精度にじわじわ影響します。本記事では、サッカー現場で使える具体策に絞って、脱水症状のサインと対処法を整理します。練習・試合にそのまま持ち込めるチェックリストや運用のコツも紹介します。
目次
先に結論:脱水を防ぐ4原則
量:体重変化±2%以内を維持する
練習・試合の前後で体重差が±2%を超えると、パフォーマンス低下や痙攣リスクが上がります。開始前に測って、終わったら再計測。失った体重1kgにつき1.25〜1.5Lの補水で埋め合わせるのが目安です。
タイミング:前日から・ウォームアップ前・給水タイムとハーフタイム・直後のリカバリー
前日からこまめに水分+塩分を入れ、当日はウォームアップ前に5–10mL/kgを目安に補水。給水タイムとハーフタイムで確実に飲み、終了後は体重差に応じて計画的に戻します。
中身:水+電解質(ナトリウム)+必要に応じて炭水化物
長時間や暑熱下では水だけでは不十分。ナトリウムを含む飲料(目安:ナトリウム約460–700mg/L)、90分級や連戦では炭水化物(4–8%濃度)もプラス。甘すぎ・薄すぎを避け、状況で使い分けます。
冷却:首・腋窩・鼠径部の迅速冷却と日陰の確保
体を冷やすと心拍と体温上昇を抑えられます。氷嚢や冷タオルを首・腋の下・鼠径部に当て、日陰と風を確保。強い熱ストレス時は冷水・氷スラリーの併用が効果的です。
なぜサッカーで脱水が起こりやすいのか
気温・湿度・直射日光と芝ピッチの照り返し
湿度が高いと汗が乾かず体が冷えにくい上、芝の照り返しで体感温度が上がります。直射日光の有無で負荷は大きく変わります。
競技特性:高強度インターバルと反復スプリント
走って止まるの反復で発熱が大きく、汗での水分・塩分損失が加速。後半にかけて体温と心拍が上振れしやすい競技特性です。
装備・ウェア・シンガードが与える影響
すね当てやソックスの重ね履きは通気性を下げ、下肢の放熱を妨げます。吸汗速乾素材でも、湿度が高いと乾きにくい点は要注意です。
試合フォーマット(交代・給水タイム)の制約
交代制限やプレーの流れで給水機会が限られるのがサッカー。暑熱時に設けられる飲水タイムは最大限活用しましょう。
個人差:発汗量と汗中ナトリウム損失のばらつき
同じ負荷でも汗量は人により2〜3倍差、汗の塩分量も大きく異なります。自分の傾向を知ることが対策の近道です。
ライフスタイル要因:睡眠不足・前日の食事と飲酒・移動疲労
睡眠不足や飲酒は利尿を促し、体液バランスを崩します。長距離移動も軽い脱水を招くため、前日からのケアが重要です。
脱水症状の基礎知識とパフォーマンスへの影響
脱水のタイプ(等張性・高張性・低張性)とスポーツ現場で多い型
主に水が足りない「高張性脱水」がスポーツで起こりやすい一方、飲みすぎ+塩不足の「低張性(低ナトリウム血症)」も稀に発生。水・塩・糖のバランスが鍵です。
熱中症との関係:熱けいれん・熱疲労・熱射病の連続性
脱水は熱中症の引き金。筋けいれん→強い倦怠やめまい→意識障害・高体温と重症化します。早期対応で連鎖を断ちます。
身体への影響:体温上昇・循環負荷・血漿量低下
汗で血漿量が減ると心拍が上がり、体温も下がりにくくなります。結果として同じ運動でもきつく感じます。
パフォーマンスへの影響:スプリント・判断力・技術精度・怪我リスク
2%前後の脱水でもスプリント反復、キック精度、トラップ安定性が落ちます。踏ん張りが利かず怪我の誘因にもなります。
意思決定の遅れと反応時間の悪化
脱水は脳の働きにも影響し、視野狭窄や判断遅れが起こりやすくなります。終盤のミスを減らすには水分戦略が効きます。
隠れ脱水を見逃さないサイン
体重変化:練習前後の比較で把握する
同じ時間帯・同じ服装で測るのがコツ。±2%以上の変動は要対応、継続するなら対策を見直します。
尿の色・回数・朝の尿でのセルフチェック
薄いレモン色が目安。朝の尿が濃い・量が少ないなら、前日の水分・塩分が不足しています。
喉の渇きは遅れて出るサインである
喉の渇きは体内の水分不足が進んでから感じます。喉任せにせず、計画的に飲みましょう。
口・唇の乾燥、目の乾き、皮膚の張り
軽い乾燥感や皮膚の張りの低下は隠れ脱水のヒント。早めに補水・塩分を。
頭痛・めまい・ふらつき・集中力低下
試合中の集中切れやふらつきは要注意。水分と冷却で改善することが多いです。
筋けいれん・こむら返りと塩分不足の可能性
汗で塩分を多く失うと痙攣が出やすくなります。水だけでなくナトリウム補給を。
心拍数の上振れと主観的運動強度(RPE)の変化
いつもより心拍が高い、きつさが早く来るのは脱水の合図。給水と冷却でリセットしましょう。
汗が急に減る・鳥肌・寒気など危険シグナル
発汗の急減、悪寒、鳥肌は危険の兆候。直ちに中断し、冷却と救護体制に移行します。
試合中・練習中の即時対処フロー
ピッチ上のセルフチェック:給水タイムとハーフタイムの確認ポイント
尿意・喉の渇き・頭の重さ・脚の攣り気配を簡単に確認。体重を測れるならハーフで測定すると精度が上がります。
異変を感じたら:中断→日陰移動→冷却→補水→再評価の手順
無理をしないのが最短ルート。2–3分で首・腋窩・鼠径部を冷やし、ナトリウム入り飲料を少量ずつ飲んで状態を再評価します。
飲料の選択:水・スポーツドリンク・経口補水液の使い分け
軽度は水または低〜中濃度のスポドリ。発汗が多い・攣り気味ならスポドリ優先。フラつく・吐き気など明らかな脱水には経口補水液を少量ずつ。
電解質補給:ナトリウム量の目安と取り方
長時間・高温時はナトリウム約300–600mg/時を目安に飲料や塩タブレット、梅干し等で分割摂取。喉が渇いてからまとめ飲みはNGです。
クーリング:首・腋窩・鼠径部の冷却、氷嚢・ミスト・冷タオル
皮膚を濡らして風を当てると気化熱で効率的に冷えます。氷嚢は直接当てずタオル越しに。
続行/中止の判断基準と救急要請の目安
意識がはっきりしない、歩行困難、嘔吐、痙攣、体温が高い疑いは即中止・救急要請。軽快が遅い場合も無理をしないでください。
事前の予防戦略(前日〜当日)
前日からの水分計画と食塩・炭水化物の準備
3食で汁物や塩気のあるおかずを加え、こまめに水分を。炭水化物はグリコーゲンと一緒に水を貯める助けになります。
当日の朝のチェックリスト:体重・尿色・体調
起床時体重、尿色、主観的体調を確認。濃い尿・体重減・頭が重いなら、朝食で水分+塩分を追加します。
キックオフ時刻と気象条件に合わせたプランニング
暑さ指数(WBGT)と日照をチェック。開始2–3時間前から分割で補水し、給水タイミングも事前に決めておきます。
ウォームアップ前のプレクーリング(氷スラリー等の活用)
暑熱時は冷たい飲料や氷スラリーを少量ずつ。内側から冷やすと心拍の上振れを抑えられます。
ウェア・ソックス・シューズ選択と通気性
通気性の高いウェアと、足首周りの締め付けを抑える組み合わせを。濡れたソックスはこまめに交換を。
日焼け対策と皮膚保護
日焼けは体力を奪います。日焼け止め、帽子(ベンチ待機時)、ネッククーラーで守りましょう。
休憩時・ハーフタイムの最適化
15分でやるべき優先順位:補水→冷却→補食→戦術確認
最初の3–5分で水分・塩分、同時に首周りを冷却。次に軽い補食、最後に戦術確認が効率的です。
胃腸トラブルを避ける摂取量と温度の工夫
一気飲みはNG。10–15℃前後の冷たい飲料を、数回に分けて合計300–500mLを目安に。
氷・冷水・涼しい空間の確保と人員配置
ベンチ裏にクーラーBOX・氷嚢・ミストを常備。役割分担を決めて、選手が迷わない動線に。
後半に向けた個別調整:汗量の多い選手への対応
汗で白く塩が吹くタイプには、ナトリウム入り飲料や塩タブレットを優先配備。攣りやすい選手には事前に声かけを。
練習設計とチーム運用のポイント
暑熱順化:期間・負荷の上げ方・モニタリング
7–14日かけて徐々に負荷・時間・防具着用を増やすのが基本。心拍・体感温度・体重差を記録します。
ドリル設計:給水間隔と影の確保
10–15分ごとに短い給水を設定し、待機列は日陰に。ゴール裏やタッチラインにボトルステーションを配置。
交代・ローテーションとポジション特性の考慮
走行距離の多いサイドや前線は早めのローテ。セットプレー前後など、自然な給水のきっかけも作ります。
暑さ指数(WBGT)の運用と中止・延期の判断
WBGTが高い日は時間短縮・開始時刻の変更・装備軽量化を検討。危険域では中止をためらわない方針を共有します。
遠征・連戦時の水分・塩分・補食のオペレーション
各自ボトル2–3本+予備電解質、チームで氷・体重計・テントを持参。移動中もこまめに飲みます。
記録と振り返り:チームとしてのデータ管理
体重差、尿色、痙攣の有無を練習日誌に。季節や会場ごとの傾向が見えて改善が進みます。
年代・個人差への配慮
高校生・大学生・社会人での違いと留意点
高校生は順化が未熟、社会人は生活リズムの影響が大きめ。各年代で睡眠・食事・補水のルールを明確に。
思春期・子どもの体温調節の特性と保護者の関わり
子どもは発汗能力が低く、体温が上がりやすい。保護者はボトル残量の確認や休憩の声かけを。
汗っかき・塩が吹くタイプへの個別戦略
白い塩跡、目にしみる汗は塩損失が多いサイン。ナトリウム入り飲料や梅干しを計画的に。
女性選手や低体重選手の留意点
体表面積や汗率が異なり、冷え方・脱水の出方も個人差が大きい。体重差と症状で個別に調整を。
カフェイン・アルコール・エナジードリンクの扱い
直前のアルコールは論外。カフェインは少量なら可ですが、利尿や胃の負担に注意し、夜の睡眠も優先。
よくある誤解と事実
水だけ飲めば十分?電解質の重要性
長時間・大量発汗では水だけだとパフォーマンス低下や痙攣の一因に。塩分を含む飲料を併用しましょう。
冷たい飲み物は良くない?飲料温度と吸収
適度に冷えた飲料は飲みやすく体温も下げやすい。極端な一気飲みだけ避ければOKです。
塩タブレットを取れば安心?量とタイミング
塩だけでは水がなければ働きません。少量をこまめに、水分とセットで。
痙攣はストレッチ不足?複合要因としての水分・塩分・疲労
ストレッチだけで解決しないことが多い。水・塩・糖、冷却、ペース配分を同時に見直します。
体重が減るほどキレが出る?脱水とコンディションの違い
水分が抜けただけの軽さは錯覚。2%で明確にパフォーマンスが落ちます。
喉が渇いてから飲めばいい?遅延サインの限界
喉の渇きは遅れて到来。事前の計画とこまめな摂取が結局いちばん楽です。
自己管理ツールと簡易モニタリング
体重・尿色・自覚症状の3点法
「体重差」「尿色」「だるさ・頭痛・攣り」の3点を毎回チェック。シンプルでも効果的です。
個人の発汗量を把握する簡易計測
発汗量=(前後体重差+飲んだ量−排尿量)。1時間あたりの目安を知ると、飲む量を調整できます。
汗中ナトリウムの傾向を推定する目安
白い塩跡、ウェアの結晶、目のしみ。これらが強い人はナトリウム補給を厚めに設定。
心拍・RPE・主観的体温感覚の活用
いつもより心拍が高い・体が熱い感覚は早期サイン。RPEも合わせて記録しましょう。
シンプルなチェックシートとアプリの活用
スマホのメモでOK。練習日付、WBGT、体重差、尿色、症状、対策を残します。
危険信号と受診の目安
直ちに運動中止すべき症状
意識混濁、ふらつき、嘔吐、激しい頭痛、けいれん、発汗の停止や皮膚の熱感。迷わず中止です。
現場での一次対応:冷却優先と体位管理
日陰へ移し、衣服を緩め、首・腋窩・鼠径部を冷却。反応が悪い場合は横向きで気道確保。
経口が難しい時の対応と救急要請の判断
吐き気や意識低下があれば無理に飲ませず、救急要請。重い熱中症が疑われるときは迅速に冷却を継続します。
回復後の復帰プロトコル:段階的復帰と再評価
24–48時間は高強度を避け、体重・尿色・自覚症状が安定してから段階的に復帰。原因分析もセットで。
試合当日の持ち物チェックリスト
個人用:ボトル・電解質・補食・冷却グッズ
ボトル2–3本、電解質粉末またはタブレット、ジェルやバナナ、氷嚢/冷タオル、着替えソックス。
チーム用:クーラー・氷・ミスト・テント・体重計
大型クーラーと氷、ミストスプレー、タープ/テント、折りたたみ体重計、紙コップや予備ボトル。
天候別・会場別の可搬セット
炎天下は日陰装備を増強。遠征先では給水ポイントの位置や水場の有無を事前確認します。
7日間アクションプラン:暑熱順化と補水習慣の定着
Day1-2:現状把握と軽負荷+補水ルーティン
起床体重と尿色を記録し、練習前後の体重差を測定。10–15分ごとの給水習慣を作ります。
Day3-4:負荷漸増と発汗量の推定
徐々に走行距離と強度を上げ、発汗量を計算。飲む量とナトリウム量を個別に調整します。
Day5-6:試合想定の給水・冷却リハーサル
飲水タイムの手順、ハーフタイムの優先順位、ボトル配置を本番同様に確認。
Day7:本番シミュレーションとチェックリスト最終調整
キックオフ時刻・天候に合わせた通し練。問題点を洗い出し、持ち物と役割を確定します。
FAQ:現場でよくある疑問に答える
トイレが近くなるのが不安:頻度とタイミングの調整
直前にまとめて飲むと近くなります。2–3時間前から分割で飲めば、試合中の尿意は減らせます。
経口補水液は常用すべき?使い所の考え方
体調不良や明らかな脱水時に有効。日常の練習ではスポドリや水+塩で十分なことが多いです。
塩分の取り過ぎは大丈夫?健康面とのバランス
短時間で過剰に取る必要はありません。発汗量に応じた範囲で、食事の塩分も含めて調整しましょう。
下痢・嘔吐後に運動してもいい?復帰の目安
体重・尿色・食欲が戻ってから軽い運動へ。無理は禁物で、段階的に戻しましょう。
湿度が高い地域・高地・夜間の試合での注意点
湿度が高いと冷えにくく、夜でも熱はこもります。高地は呼吸負担が増えるので、こまめな給水とペース管理を。
冬でも脱水は起こる?寒冷環境の特徴
乾燥とトイレ我慢で隠れ脱水は冬も起こります。温かい飲料での補水も有効です。
参考情報とガイドラインの活用
公的機関・スポーツ医学団体のガイドラインの見方
環境省の暑さ指数(WBGT)、国内スポーツ団体、スポーツ医学団体の熱中症・水分補給指針を定期的に確認。更新頻度と季節情報もチェックします。
チーム内ポリシー作成のテンプレート
「WBGT閾値」「給水間隔」「ハーフタイム手順」「持ち物」「救急連絡フロー」を1枚に整理し、全員に共有します。
選手・保護者・指導者への共有方法
ロッカーやグループチャットで画像化して配布。遠征前には再周知して徹底します。
まとめ
脱水は「気合」で乗り切るものではなく、準備と運用で確実に減らせます。体重差±2%以内、計画的なタイミング、ナトリウムを含む中身、首・腋窩・鼠径部の冷却。この4原則をチームに根付かせれば、終盤の一歩、最後の判断が変わります。隠れ脱水のサインを逃さず、今日の練習から実践していきましょう。
