夏はサッカーにとって熱い季節。全国大会や強化合宿、毎年盛り上がるこの季節に、熱中症のリスクが大きくなることは見過ごせません。
選手としてはもちろん、指導者や保護者も「どうしたら安全にプレーできるのか」気になりますよね。
この記事は、高校生以上のサッカープレーヤー、そして子どもを見守る保護者の方に向けて、医学的知見や現場で使えるノウハウをもとに、熱中症対策を詳しく解説します。
夏のグラウンドで実践できることから、最新研究のエッセンスまで、幅広くカバー。安全第一で夏を乗り切るための決定版ガイドです!
はじめに:夏場のサッカーと熱中症リスク
日本の夏はサッカー選手にとって過酷
炎天下のグラウンド。日本の夏は、35度近い高温と湿度が組み合わさり、サッカー選手にとって決して優しくありません。
都会の人工芝グラウンドは、実際の気温以上に体感温度が高くなりがちです。芝面の近くでは体感温度が40度を超えることも珍しくありません。
試合や練習に集中する気持ち、勝利へのこだわり、熱い想い。それらがときに「自分はまだ大丈夫」と油断につながり、命を脅かす危険を招いてしまうことも。
実際の熱中症発症事例
残念ながら、毎年サッカーの試合・練習現場での熱中症事故はゼロではありません。
例えば、試合中にピッチサイドで倒れてしまった選手、合宿初日の強度の高い練習で急に頭痛や吐き気を訴えた高校生、ウォーミングアップ後にふらつきで歩行困難になった小学生など、さまざまな年代での報告があります。
中には救急搬送が必要となり、重篤な後遺症を残す“重症化”ケースも報道されています。
こうした事例から、「自分だけは大丈夫」という過信や「他人事」と思わず、正しい知識と対策が求められているのです。
熱中症とは何か?サッカー選手が知っておくべき基礎知識
熱中症の定義と種類
「熱中症」とは、高温・多湿な環境下で体温調節機能がうまく働かず、体内に熱がたまってしまった状態を指します。
分類としては、熱痙攣、熱失神、熱疲労、熱射病などに分けられます。
・熱痙攣:筋肉のけいれん、つる症状(主に水分・塩分不足)
・熱失神:めまい、立ちくらみ、失神(急激な血圧低下)
・熱疲労:全身の倦怠感、頭痛、吐き気(脱水や塩分不足)
・熱射病:意識障害・高体温(救命措置が必須)
サッカーでの発症例や初期症状
サッカーに多いのは、熱痙攣と熱疲労です。繰り返すダッシュや長時間の激しい運動と発汗、装備による通気性の悪さ、休憩時間不足が発症を後押しします。
多くのケースで最初に
・異常な発汗や顔のほてり
・やたらと喉が渇く
・手足のけいれんやしびれ
・ふらつき、めまい、吐き気
・やる気や集中力の低下
などが見られることが多いです。
この時点で適切に対応できるかが、重症化を防ぐ鍵となります。
熱中症がサッカー選手に及ぼす影響
パフォーマンスへの影響
熱中症の初期段階でも、判断力や持久力、集中力の大きな低下が起こります。
水分・塩分が不足しはじめると、筋肉が思い通り動かなくなったり、プレーがぎこちなくなったりすることも。
疲労が溜まることで、守備やポジショニングの遅れにつながり、チームの戦術遂行にも支障が出ます。
「集中が続かない」「なんとなく体が重い」と感じ始めたときは、体のサインを無視しないようにしましょう。
短期・長期の健康リスク
熱中症が進行すると、最悪の場合、生命に関わる事態になることはよく知られています。
短期的には「その日の活動を継続できない」「救急搬送レベルの危険な状態」に陥るリスクが高まります。
また、一度重度の熱中症になると、数日から数週間、熱に弱くなる「感作」が起きやすく、再発リスクも高いです。
最も注意が必要なのは熱射病です。意識障害や臓器障害をきたし、後遺症が残ることや、数日経って初めて深刻な問題を起こすこともあります。
たった1回の重症化が、人生に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。
高リスクになる環境やプレー状況の特徴
温度・湿度・直射日光の関係
温度が高いだけでなく、湿度が高い日は熱中症リスクが大きく上がります。
汗が蒸発しにくく、体温が下がらないためです。特に午前10時から午後3時の直射日光には注意です。
曇りの日や夕方も油断は禁物。風が弱く、熱がこもりやすい人工芝や囲まれたグラウンドは、気温以上に体への負担が大きくなります。
試合・練習強度と運動時間
連戦となる大会、本番を想定した強度の高い練習を行う日は注意が必要です。
特に、シーズン序盤や合宿初日など、まだ暑さに体が慣れていないタイミングはリスクが高くなります。
また、ウォームアップから片付けまで含めて、グラウンドにいる時間が2時間を超える際は、こまめな休憩や給水を徹底したいところです。
熱中症対策の基本:環境認識と適応行動
暑さ指数(WBGT)の活用
気温や湿度だけでなく、暑さ指数(WBGT)を活用することが推奨されています。
WBGTは、「気温」「湿度」「輻射(ふくしゃ)熱」を総合的に評価し、熱中症リスクを数値化できます。
日本サッカー協会や学校体育でも、WBGTの活用が広まりつつあり、環境省の熱中症予防情報サイトなどでリアルタイムにチェック可能です。
・WBGT28℃を超えると熱中症リスク大幅UP
・31℃以上なら原則運動中止(または激しい運動・試合の延期)が推奨されています
服装・装備の選び方
ウェアは吸汗速乾性が高いものを選びましょう。
最近では首や脇の冷却グッズ、インナーキャップタイプの冷却タオルも登場しています。
シャツの重ね着や濃い色のウェアは熱がこもりやすいため、なるべく淡い・明るい色のものがオススメです。
シンガードやソックス内も蒸れやすいので、ベンチで外したり、着替えを用意したりする工夫も効果的です。
現場で使える!具体的な熱中症予防策
休憩の取り方とタイミング
「のどが渇いたと感じる前」「だるい、と思う前」に給水・休憩をとることが重要です。
理想は20-30分ごとに3-5分の休憩を設けること。
特にハーフタイムだけでなく、練習やゲームの合間にも水分補給タイムを組み込みましょう。
給水は「全員参加」が原則。一人でも遅れたり、サボったりしない雰囲気づくりをしましょう。
グラウンドやベンチでの工夫
テントやパラソルによる日陰づくりは非常に有効です。
保冷剤や濡れタオル、冷却スプレーなどをベンチに常備し、首筋や腋の下など大きな血管が通る部分を冷やすと良いです。
人工芝では、ベンチ横のコンクリートより土や芝生エリアにタオルを敷いて座った方が、体感温度が下がります。
チェックリスト化のすすめ
熱中症予防のためのチェックリストをチームで作成することを推奨します。
・冷却グッズの準備
・日陰確保の有無
・水分/塩分補給プランの確認
・当日のWBGT値チェック
・具合の悪そうな人はいないか(体調申告タイム)
など、事前準備から片付けまでチームで意識できる仕組みを作れると、より安全な環境づくりに繋がります。
水分補給・栄養補給のプロの工夫
水分・電解質の摂り方
汗とともに体から失われるのは水分だけでなく、塩分(ナトリウム)やカリウムなどの電解質です。
基本は「水」だけでなく、適度なナトリウムや糖分を含むスポーツドリンクや経口補水液をうまく組み合わせるべきです。
ただし、飲みすぎによる「低ナトリウム血症」にも注意。大量の汗をかいた練習・試合では、塩分タブレットや塩飴、手作りおにぎりで塩分補給も有効です。
飲み方のタイミング例
理想は、「こまめに、少しずつ」。
例えば、練習のウォーミングアップ前、練習開始後15-20分、合間ごと、そして終了直後など。強度が高い練習や試合中は、給水タイムを設けて「喉が渇く前」に飲むことが基本です。
一度に大量に飲みすぎると腹痛やパフォーマンス低下の原因になるため、200ml程度を数回に分けて摂取するのがコツです。
ナトリウム・糖分バランスの大切さ
汗で大量に塩分が失われるため、真水やミネラルウォーターだけだと体液のバランスが乱れることも。
ナトリウムは神経伝達に不可欠で、不足すると足がつる、けいれんなどが起こりやすくなります。
また、糖分(ブドウ糖・果糖)は、筋肉や脳のエネルギー源。「極端に甘すぎるドリンク」や「無糖で塩分のみ」など極端なバランスを避け、適度な塩分・糖分が同時に補給できるアイテムを選びましょう。
高校生・大人・子供のための対策ポイントの違い
年代ごとに異なるリスク要因
同じサッカー選手でも、高校生、大人、子供では「体の特徴」「暑さへの適応力」が異なります。
・小・中学生は体温調節機能が未熟で、発汗量も少なく、リスクが高い。
・高校生〜成人は体力や経験値は上がるものの、「部活の勝利至上主義」や「無理をしてしまう」心理的リスクが大きい。
・大人(社会人プレーヤー、保護者・指導者世代)は加齢による感覚の鈍化や持病(高血圧、糖尿病など)が隠れリスクになることも。
年齢別の対策例
- 小学生:練習時間短縮、必ず保護者同伴、本人の意思表示をサポート(我慢しすぎさせない)、親が体調チェック
- 中高生:自主的な体調報告、セルフチェック習慣化、コーチによる「無理の禁止」徹底、部全体で啓発活動
- 大人:体調が不安な日は見学・休養も選択肢、保険証や緊急連絡先の携行、事前の持病管理、各自のペースでの給水推奨
緊急時に備える!現場での応急処置と救急連絡
熱中症の見分け方
「顔色が悪い」「呼びかけにすぐ答えない」「ふらふらしている」「大量に汗をかいている、逆に汗が止まっている」
これらが見られたら、すぐにプレーを止めて対応を始めてください。
「自分で歩けるか」「しっかり返答できるか」が一つのチェックポイント。意識障害があれば即救急要請が鉄則です。
現場対応のフローチャート
- ①安全な日陰や室内(クーラー下)に移動
- ②靴・シンガード・靴下などを脱がせて通気を良くする
- ③首・脇・足の付け根などを氷や保冷剤・冷たい水で冷やす
- ④意識がはっきりしていれば、水分・塩分を少しずつ飲ませる(吐き気・意識障害なら絶対に無理強いしない)
- ⑤改善しなければ救急要請(119番)。
意識がない・言動がおかしいなら即救急車。
また、倒れた人を囲んでしまうと風通しが悪くなりますので、周囲で風を送るように心がけましょう。
専門機関への連絡の手順
救急車要請時は「サッカーの暑熱環境下での熱中症疑い」「意識の有無」「年齢」「状況」などを伝えます。
医療機関への搬送後、選手の名前・経過・持病の有無などを整理して伝えると、処置がスムーズになります。
可能であれば、保険証・医療情報の携行を普段から徹底しましょう。
監督・コーチ・保護者ができる熱中症予防サポート
事前の周知徹底
指導者や保護者が「今日は暑いから注意しよう」「無理は絶対禁止」と毎回声かけするだけで、予防効果は格段に上がります。
チェックリストやWBGTの掲示、チーム方針の明文化など、小さいことの積み重ねが事故を防ぎます。
保護者への情報共有
お子さんを預かるクラブ、学校、地域スポーツ団体では、事前に「当日の暑さ指数」「持ち物(ドリンク、塩分タブレット、冷却グッズ)」の連絡を徹底しましょう。
家庭でも「今日の体調どう?」と朝の健康チェックを行うと同時に、帰宅後の「異変ないか」確認も大事です。
リーダーの見守りポイント
「自分では申告しづらい」「プレーを抜ける勇気が出ない」…これは誰にでもある心理です。
リーダーやスタメン選手だけでなく、全員参加の雰囲気づくり、補欠や下級生への声かけも、事故予防に直結します。
また、休憩中も無理な日焼け、遊び過ぎ、遊び呆けによる脱水を見逃さないことが重要です。
最新研究と現役プレーヤーが実践する熱中症対策
科学的根拠に基づいた新しい対策
最近の研究では、プレクーリング(練習前に体を冷やす)やクーリングダウン(運動直後に体を冷やす)の有用性が明らかになりつつあります。
体温上昇を“先取り予防”できるアイスバス、冷却ベスト、冷却タオルの活用がJリーグや海外クラブでも積極的に取り入れられています。
また、「睡眠によるリカバリー」「十分な栄養摂取」も、熱中症リスクを下げる重要なポイントとされています。
トップ選手たちの熱中症対策インタビュー
実際にプロやトップアマのサッカー選手たちは、「強いチームほど休憩を軽視しない」「水分補給のタイミングをチームで決めている」など、意識的な熱中症対策を行っています。
「真夏は練習強度よりも体調管理を最優先する」「リーダーが率先して給水・塩分補給を言い出す」など、現場ならではの声も聞かれます。
自主的な「冷やす・飲む・無理しない」の徹底こそ、サッカーの“新常識”と言えるでしょう。
まとめ:安全に夏場のサッカーを楽しむために
この記事のまとめ
サッカーは、夏の太陽の下でもっとも熱く盛り上がるスポーツのひとつです。しかし、それと同じくらい、熱中症のリスク管理が不可欠です。
・正しい知識を身につけ、自己管理・周囲の仲間や指導者も巻き込んで安全第一を徹底しましょう。
・こまめな休憩、水分・塩分補給、無理をしない勇気、冷却グッズの活用
・異変があった場合、迅速かつ適切な応急処置と医療機関との連携
を意識することが、安全で楽しい夏サッカーの鍵です。
継続的な実践の重要性
一度だけの対策では、十分とは言えません。「自分も・仲間も・後輩も」守るために、毎回の練習や試合で熱中症対策を実践することが大切です。
サッカーの技術向上と同じように、熱中症対策も「考えて」「準備して」「続ける」ことが不可欠です。
プレーも体も万全のコンディションで、夏のグラウンドを思い切り楽しみましょう!