走り切るか、最後に足が止まるか。分岐点は「どれだけ賢く電解質を補給できたか」です。なかでも汗で失われやすいナトリウムは、パフォーマンスと安全性に直結します。本記事は「サッカー 電解質 補給 プラン:汗量別ナトリウム目安と実践術」というテーマで、発汗量に合わせた現実的な補給プランを組み立てるためのガイドです。今日から使える計算法、時間帯別テンプレート、食品・ドリンクの選び方まで、嘘なく、分かりやすくまとめました。
目次
イントロダクション:勝敗を分ける“電解質プランニング”
この記事の狙いと活用法
狙いはシンプルです。「自分(または子ども)の汗量に合ったナトリウム補給量」を見積もり、練習と試合で再現できる形に落とし込むこと。まずは汗率(1時間あたりの汗量)を把握し、ナトリウムの必要量を計算。そのうえで、前半・ハーフタイム・後半、そしてリカバリーに分けて摂取計画を作ります。数回のトライ&エラーで、あなた専用の電解質プランが完成します。
サッカーにおける水分・電解質の要点
- 体液の主役は水と電解質(特にナトリウム)。筋収縮、神経伝達、体温調節に関与。
- 汗で失われるのは水だけではない。ナトリウムの不足はパフォーマンス低下や痙攣リスクに関わる。
- 「飲み過ぎ」も危険(低ナトリウム血症)。適量を、適切な濃度で。
なぜサッカーに電解質戦略が必要か
パフォーマンス・安全性・意思決定への影響
- パフォーマンス:体液が減ると心拍・体温が上がりやすく、スプリント反復や走行距離が落ちやすい。
- 安全性:暑熱下では脱水・熱中症リスクが上昇。逆に水だけ大量に飲むと血中ナトリウムが薄まる。
- 意思決定:集中力・判断力は体液バランスの影響を受ける。終盤の凡ミス予防にも直結。
サッカー特有の発汗プロファイルと環境要因
サッカーは高強度の反復運動と断続的な休息が混在。気温・湿度・風、ピッチの照り返し、ユニフォームや用具の通気性などで汗率は大きく変わります。一般的な汗率の目安は約0.5〜1.5L/時(状況次第でそれ以上もあり)。
電解質の中で“ナトリウム”が要となる理由
- 汗中で最も多く失われる電解質がナトリウム。
- 体液保持を助け、喉の渇きや飲水行動にも影響。
- 筋機能・神経伝達に関与。低下すると痙攣・倦怠感・頭痛などの要因になりうる。
汗量と汗中ナトリウム濃度の個人差を理解する
汗率(発汗量)の簡易測定:自宅・グラウンドでできる方法
- 練習・試合前にトイレを済ませ、軽装(できれば同じウェア)で体重測定。
- 時間を計測(例:90分=1.5時間)。飲んだ量を合計し、排尿があれば量を記録。
- 終了後、同条件で体重測定。
汗量(L)=(開始体重−終了体重)kg + 飲水量(L) − 排尿量(L)
汗率(L/時)=汗量 ÷ 運動時間(時)
例:開始70.0kg→終了69.2kg(0.8kg減)。飲水0.6L、排尿なし、時間1.5時間。汗量=0.8+0.6=1.4L、汗率=1.4/1.5≈0.93L/時。
汗中ナトリウム濃度の幅と決定要因
汗のナトリウム濃度は個人差が大きく、概ね20〜80mmol/L(ナトリウム換算で約460〜1840mg/L)の幅があります。遺伝、暑熱順化の程度、食塩摂取状況、運動強度などが影響します。
暑熱順化・装備・ポジションによる変動
- 暑熱順化:暑さに慣れると、同じ汗量でも汗中ナトリウム濃度が下がる傾向。
- 装備:厚手のユニフォームや防具は発汗と体温上昇を促しやすい。
- ポジション:走行距離が長くスプリントが多いMFは発汗負荷が高くなりがち。GKは局所的な発汗と装備の影響が出やすい。
汗量別ナトリウム目安レンジ
以下は「運動中に補う量」の目安です。失った分の全量をその場で補う必要はなく、まずは30〜60%の置換を狙い、残りは食事・リカバリーで補完するのが現実的です。
低発汗タイプ(〜0.5L/時)の目安
- ナトリウム損失の目安:およそ300〜700mg/時(汗中濃度の個人差を含む)
- 運動中の補給目安:150〜300mg/時
- ポイント:水だけで済ませがちだが、少量のナトリウムを一緒に。飲み過ぎに注意。
中発汗タイプ(0.5〜1.0L/時)の目安
- ナトリウム損失の目安:400〜1000mg/時
- 運動中の補給目安:200〜500mg/時
- ポイント:前半・HT・後半で分割。スポーツドリンク(やや塩分高め)+タブレット等で調整。
高発汗タイプ(1.0〜1.5L/時)の目安
- ナトリウム損失の目安:800〜1500mg/時
- 運動中の補給目安:400〜700mg/時(必要に応じて〜800mg/時まで検討)
- ポイント:ハーフタイムでまとまった量を。胃に優しい濃度をキープし、炭水化物も併用。
超高発汗タイプ(>1.5L/時)の目安と注意点
- ナトリウム損失の目安:>1200mg/時(汗中濃度が高い人はさらに増える)
- 運動中の補給目安:600〜900mg/時を上限目安に慎重に設計
- 注意点:飲水は0.3〜0.8L/時を基本レンジに。1.0L/時を超える大量飲水は低ナトリウム血症のリスクが上がるため注意。個別に専門家へ相談を。
ナトリウム必要量の算出ステップ
ステップ1:体重変化から汗率を推定する
前述の式で汗率(L/時)を求めます。数回(気温の違う日)で平均を取ると精度が上がります。
ステップ2:汗ナトリウム濃度(仮値)を設定する
- まずは仮値として600〜1000mg/Lを設定(中間の800〜900mg/Lから始めると実務的)。
- 汗が白く塩を吹く・ウェアに白い輪が出やすい→高め(1000〜1200mg/L)を仮定。
- 暑さに慣れている・普段の塩分摂取が少ない→やや低め(600〜800mg/L)を仮定。
ステップ3:置換率(何割補うか)を決める
- 試合中:30〜60%を基本。暑熱・長時間・痙攣歴がある場合は上限寄り。
- 残りは試合後24時間の食事・飲料で補完。
ステップ4:1時間あたりのナトリウムmgを計算する
式:必要ナトリウム(mg/時)=汗率(L/時) × 汗Na濃度(mg/L) × 置換率
例:汗率1.0L/時、汗Na 900mg/L、置換率50%→ 1.0×900×0.5=450mg/時
ステップ5:練習・試合全体の必要量を見積もる
90分なら「450mg/時×1.5=約675mg」。これを前半・HT・後半に分けて摂取。追加の延長や気温上昇があれば、HTや給水タイムで上乗せします。
実践プラン:試合前・試合中・試合後の補給テンプレート
試合前:過不足を避けるプリロード戦略
- 2〜3時間前:体重×5〜7mLの飲水(例:70kg→350〜490mL)。ナトリウム200〜400mgを含めるとベター。
- 30〜60分前:200〜300mLを追加。暑熱下や高発汗タイプはナトリウム100〜200mgを追加入れ。
- 食事:炭水化物中心+適量の塩(スープ、味噌、梅など)。
試合中:前半/ハーフタイム/後半の摂取タイミング
- 前半:15〜20分おきに少量ずつ。合計で自分の「時あたり目安」に近づける。
- ハーフタイム:集中補給。ナトリウム総量の40〜60%をここで確保しやすい。
- 後半:前半と同様に分割。終盤の脚攣り対策に、やや塩分濃いめでもOK(胃が許す範囲で)。
試合後:リカバリーの水・ナトリウム・炭水化物比率
- 失った体重1kgにつき1.25〜1.5Lの補水を目安に、ナトリウムを含む飲料・食事で補完。
- 炭水化物:1.0〜1.2g/kg/時(初期2〜4時間)を目安に、回復を前倒し。
- 塩分は食事で自然に増やしやすい(汁物、発酵食品、適量の塩)。
二部練・連戦時の調整
- セッション間:短時間での再水和を優先。やや高ナトリウムの飲料を選ぶ。
- 朝から高温予報:プリロードのナトリウム量を+100〜200mg。
- 胃の負担が出るなら、固形食の塩(おにぎり+梅、塩むすび、スープ)で分散。
飲料・サプリ・食品の選び方
ラベルの読み方:ナトリウムmg表示とg食塩相当量の換算
- 食塩相当量(g)=ナトリウム(g)×2.54
- ナトリウム(mg)=食塩相当量(g)÷2.54×1000
- 例:食塩相当量1.0g=ナトリウム約394mg
スポーツドリンクはおよそ400〜600mg/Lのナトリウムが一般的。自分の目標値に足りなければ、タブレットや粉末で上乗せを。
スポーツドリンク/タブレット/粉末の使い分け
- スポーツドリンク:水分+電解質+糖を一度に補える。試合中のベース。
- タブレット:ナトリウムだけを狙って増やせる。ハーフタイムなどに便利。
- 粉末:濃度を自分で調整可能。遠征やコスト管理に有利。
食品活用:おにぎり・梅・スープ・塩飴などの組み合わせ
- おにぎり+梅:炭水化物とナトリウムを同時に。試合前後に相性◎
- スープ・味噌汁:飲みやすくナトリウムを摂りやすい。リカバリーで。
- 塩飴:少量ずつ舐められるが、ナトリウム量は製品差が大。ラベルで確認を。
カフェイン・炭酸・人工甘味料の扱い
- カフェイン:軽〜中等量(1〜3mg/kg)は集中や自覚的疲労の改善に役立つ人も。就寝時間と胃の具合に配慮。
- 炭酸:満腹感やゲップで飲水が進まない人は避ける。
- 人工甘味料:胃腸に合わない人もいる。重要日は事前の練習でテスト。
不足・過剰のサインとリスク管理
ナトリウム不足の兆候と対処
- 兆候:脚の痙攣、めまい、頭痛、極端な疲労感、指のむくみ。
- 対処:ナトリウムを含む飲料やタブレットを少量ずつ追加。水だけの大量摂取は控える。
取り過ぎに配慮すべき人のチェックポイント
- 高血圧、腎・心疾患、減塩指示を受けている→主治医と相談のうえで設計。
- むくみが強い、体重が急増する→飲み過ぎの可能性。摂取量とタイミングを見直す。
真夏の熱中症対策と現場での意思決定
- 飲水は0.3〜0.8L/時を基本。気温・湿度・風を見て柔軟に。
- 気分不良・頭痛・悪心・混乱があれば即休止・冷却・補水。重症感があれば医療機関へ。
年代・体格・ポジション別の微調整
高校生と成人での考え方の違い
- 高校生:体格が変化途上。安全第一で置換率は30〜50%から。練習で慣らしてから増やす。
- 成人:体格・習慣が安定。発汗タイプに応じて上限寄りの設計もしやすい。
GK/DF/MF/FWの動きに応じた調整
- GK:走行は少ないが装備で熱がこもりやすい。HTで集中的に。
- DF/FW:スプリント反復が多い。短時間でこまめに。
- MF:総走行距離が長く、汗率が上がりやすい。全時間帯で計画的に。
体格・発汗特性による個別化
- 体重が重いほど汗量が増えやすい傾向。ナトリウムも比例して増加。
- 汗の塩跡が目立つ・塩味を強く感じる人は汗中濃度が高い可能性。
ケーススタディ:汗量別の具体プラン3例
ケース1:夏・中発汗の高校MF(90分想定)
- 前提:汗率0.9L/時、汗Na 900mg/L、置換率40% → 必要Na ≈ 0.9×900×0.4=324mg/時(試合全体約485mg)
- 前:2時間前に400mL+Na200mg、30分前200mL
- 前半:スポドリ合計300mL(Na約150mg)
- HT:スポドリ300mL+タブレット150mg
- 後半:スポドリ300mL(Na約150mg)
- 後:体重減0.6kg→0.8Lを目安に補水。塩分のある食事+炭水化物で回復。
ケース2:冬・低発汗の社会人DF(90分想定)
- 前提:汗率0.4L/時、汗Na 700mg/L、置換率30% → 必要Na ≈ 84mg/時(試合全体約125mg)
- 前:2時間前に300mL、Naは少量(100mg程度)
- 前半:水または薄めのスポドリ200mL
- HT:スポドリ200mL(Na約100mg)
- 後半:必要に応じて100〜200mL
- 後:食事で自然に補完。飲み過ぎ防止を最優先。
ケース3:真夏・高発汗FWの二部練(2×90分)
- 前提:汗率1.3L/時、汗Na 1000mg/L、置換率50% → 必要Na ≈ 650mg/時(1セッションあたり約975mg)
- 午前:前半350mL(Na200mg)、HTで450mL+タブレット300mg、後半350mL(Na200mg)
- 間:1.0Lを目安に補水(Na400〜600mg)+炭水化物
- 午後:午前と同様。胃が重いときは濃度を少し下げ、HTで固形+スープへ切替。
チームで運用するための仕組み化
共通プロトコルと個別カードの作成
- 共通:測定手順(体重・飲水記録・環境記録)を統一。
- 個別:汗率・目標Na/時・HT摂取量を「選手カード」に明記。
ボトルラベリングと補給テーブルの設計
- 各自ボトルに「Na/時目標」「HT目標」をシールで表示。
- ベースのスポドリ、濃いめ、タブレット、常温水をゾーン分けして配置。
遠征・アウェイでの在庫とコスト管理
- 粉末・タブレット中心に。1人1試合あたりの必要Na総量(mg)を事前積算。
- 現地水質や気温に合わせて濃度を微調整できるようにする。
よくある質問
水だけではダメなの?
短時間・低発汗なら水だけで問題ない場合もあります。ただし試合のように発汗が増える状況では、ナトリウムを一緒に補う方が体液維持とパフォーマンスに有利です。
減量・減塩と両立できる?
できます。運動中は必要量を確保し、日常の食事で全体の塩分をコントロールします。健康上の制限がある場合は医療者と相談を。
胃が弱い/こむら返りが多い時の対策
- 胃:冷やしすぎない、濃度を少し下げる、分割摂取。固形食と組合せて総量を稼ぐ。
- 痙攣:ナトリウム不足が一因のことも。置換率を上げ、HTで確実に摂る。筋疲労・コンディショニングの見直しも並行。
塩タブレットはいつ使う?
短時間でナトリウムだけを上げたい場面(HT、給水タイム)で有効。スポドリだけで目標に届かないときの上乗せに。
今日から始める7日間チェックリスト
初日のベースライン測定
- 体重、飲水量、運動時間、気温・湿度を記録。汗率を算出。
- 仮の汗Na濃度(600〜1000mg/L)と置換率(30〜50%)を設定。
練習強度・天候・体重の記録
- 2〜5日目:環境が違う日に再測定。平均とレンジを把握。
- 試した飲料・食品、胃の感覚、脚攣りの有無をメモ。
試合日のプラン作成・振り返り
- 6日目:前半・HT・後半のNa量と飲水量を具体化。
- 7日目:実行→結果を記録。翌週、置換率や濃度を微調整。
エビデンスの要点と参考レンジまとめ
汗率の一般的レンジと安全な補給量
- 汗率:およそ0.5〜1.5L/時(条件により変動)
- 飲水:0.3〜0.8L/時を基本。大量飲水はリスク。
ナトリウム補給の参考レンジと個別化の重要性
- 汗Na濃度の一般的幅:20〜80mmol/L(約460〜1840mg/L)
- 運動中のNa補給:発汗量に応じておよそ150〜700mg/時(必要に応じて〜900mg/時)
- 個別化:汗率測定と試行で、自分の“ちょうど良い”を見つける。
次の一歩:専門テストの活用と医療連携
- 汗成分分析(専用パッチ等)が受けられる環境なら、客観データで最適化。
- 既往症や服薬がある場合は、医療者に相談しながら運用。
まとめ:電解質は“賢く足す”が正解
サッカーの電解質戦略は、強さではなく賢さの勝負。自分の汗率を測り、仮の汗Na濃度と置換率を決め、前半・HT・後半に分割して実行する。これだけで「足がつらない」「最後まで走れる」確率が上がります。水だけでも、塩だけでも不十分。状況に合わせた“ちょうど良い”を、7日間の記録と小さな調整の積み重ねで育てていきましょう。次のキックオフで、その違いを体感できます。