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サドンデスとPK戦の違い:延長後の勝者はこう決まる
延長まで戦いきっても勝者が決まらない――。そんな極限の場面で試合を終わらせるのが「PK戦」です。そして日本のサッカー文化の中では、延長の「Vゴール(ゴールデンゴール)」を「サドンデス」と呼んでいた歴史もあります。今は延長のサドンデス方式(Vゴール/シルバーゴール)は廃止され、PK戦の6人目以降で使われる“サドンデス方式”だけが残っています。本記事では、用語の混同を解きほぐしながら、延長後に勝者がどう決まるのかを分かりやすく整理。ルール、手順、戦術、練習法まで、現場で使える形でまとめました。
はじめに:延長後の勝者はどう決まるのか
延長戦の目的と位置づけ
ノックアウト方式の試合で90分(前後半45分)を終えて同点なら、多くの大会は延長戦(15分×2)に入ります。延長戦の目的は「プレーそのもので優劣をつける」こと。つまり、できる限りピッチ上のゴールで勝敗を決めるための追加時間です。
なぜ“決め方の仕組み”を理解する必要があるのか
延長やPK戦のルールは細かいですが、理解しておくと次の3つで差が出ます。1つ目は「その場の判断」。交代、キッカー順、先攻・後攻の選択など、ルールがわかるだけで迷いが減ります。2つ目は「準備」。どこを練習すべきかが明確になります。3つ目は「メンタル」。勝敗が確定する瞬間のイメージが共有できれば、余計な不安が減ります。
本記事の結論と読み方ガイド
結論はシンプルです。サッカーにおける「サドンデス」は現在、PK戦の6人目以降で用いられる“即時決着方式”を指すのが主流。一方の「PK戦」は、所定の手順でキックを行う“競技方法(手続)”です。まずは用語を正しく掴み、次に90分→延長→PK戦の流れ、そしてPK戦の実務(コイントス、順番、反則、GK運用)を押さえましょう。
用語の整理:サドンデスとは?PK戦とは?
サドンデスの2つの文脈(延長のVゴール/PK戦のサドンデス)
かつては延長中に先に決めたチームが勝ちとなる「Vゴール(ゴールデンゴール)」、前半終了時点でリードしていたら勝ちの「シルバーゴール」が使われました。いずれも“サドンデス”の一種ですが、現在は廃止されています。今、サッカーで「サドンデス」という場合、一般的にはPK戦の6人目以降の“即時決着方式”を指します。
PK戦の正式名称と意味(Kicks from the Penalty Mark)
PK戦の国際的な正式名称は「Kicks from the Penalty Mark(ペナルティマークからのキック)」です。ファウルに対するペナルティキック(試合中のPK)とは別物で、勝者を決定するための特別な手続きとして試合規則に定められています。
呼称の混同を避けるポイント
「サドンデス=PK戦」ではありません。サドンデスは“決着方式”の一形態、PK戦は“決め方の手続”。PK戦は5人ずつの交互方式から始まり、決着しなければ6人目以降がサドンデス方式に切り替わります。
試合規則の全体像:90分→延長→PK戦の流れ
延長戦の基本(15分×2とアディショナルタイムの扱い)
延長戦は原則15分ハーフ。各ハーフにはアディショナルタイムが追加される場合があります。延長戦の間には短い休憩(ハーフタイムのような長い休憩ではない)があり、飲水や布陣の確認をする貴重な時間です。
延長を実施しない大会方式もある
大会規定により、延長を行わずに90分から直接PK戦に移る方式もあります。育成年代や過密日程のトーナメントで見られる形です。自分たちの大会規定は必ず事前に確認を。
延長からPK戦へ移行する条件
延長戦でも同点ならPK戦へ。タイブレーク(アウェーゴール、リーグ戦の順位など)で決める大会もありますが、ノックアウトで延長後の同点はPK戦が一般的です。
PK戦の手順と“サドンデス”の入りどころ
コイントス:先攻・エンドの選択権
PK戦の開始時、主審が安全性やピッチ・観客の状況を踏まえ、使用するゴール(エンド)を決めます。そのうえでコイントスを行い、勝った側のチームが「先攻か後攻か」を選択します。この先攻・後攻の選択は心理面に影響するため、重要な戦略ポイントです。
5人ずつの交互方式(ABAB)の基本
PK戦は基本的にABABの交互で5人ずつ蹴ります。途中で勝敗が論理的に確定した時点(例:3人目終了時点で3-0など)で終了します。5人が終わっても同点なら、次の段階へ。
6人目以降のサドンデスに突入する条件
5人ずつ終えて同点なら、6人目以降はサドンデス。各ペアのキックで「片方が成功し、もう片方が失敗した」瞬間に決着です。1人が外し、次の相手が決めたらそこで終了。逆に、両方成功・両方失敗なら次のペアへ続きます。
サドンデスとPK戦の違いを一言で
概念としてのサドンデス(“即時決着”の仕組み)
サドンデスは「即時決着」を意味する概念。現在のサッカーではPK戦の6人目以降に適用され、同じ“回”の2本の結果が分かれた瞬間にゲームが終わります。
手続としてのPK戦(定められたキックの競技方法)
PK戦は、コイントス、登録選手の確認、順番の申告、交互キックなど一連の手続きを含む“競技方法”。その内部にサドンデス区間が存在します。
勝敗が確定する瞬間の違い
延長のVゴール時代のサドンデスは「ゴールが入った瞬間」に終わりました。対してPK戦のサドンデスは「同一ペアの結果が分かれた瞬間」に終わります。ここが“即時”の質的な違いです。
ルールの細則:ここで差が出る重要ポイント
出場資格と人数の同数化(退場者が出た場合)
PK戦に参加できるのは、延長終了時点でフィールド上にいた選手(治療や装備調整で一時的に外に出ている選手を含む)のみ。退場者がいて人数差が生じている場合、人数の多い側は“同数化”のためにキッカー資格から選手を外す必要があります(除外された選手はPK戦に参加不可)。GKは必ず1人残さなければなりません。
ゴールキーパーの交代・交替と装備の確認
PK戦の最中でも、GKはフィールドプレーヤーとポジションを入れ替えられます。GKが負傷して続行不能となった場合、チームに交代枠が残っていれば控えGKや登録済みの控え選手を投入できる大会があります(大会規定の上限に従う)。なお、GKとキッカー双方とも、用具(シンガード、ストッキング、シューズなど)の不備があれば開始前に必ず整えます。
反則時の判定(やり直し/警告)の基本
キッカーのフェイントは「助走中の緩急」は容認されますが、蹴る動作を完了しかけてから完全に止まる行為は反則です。原則としてキックは失敗として扱われ、キッカーは警告の対象になることがあります。GKはキックの瞬間、少なくとも片足の一部がゴールライン上(もしくはその上方)にある必要があります。早く前に出てセーブした場合はやり直しとなる可能性が高く、繰り返せば警告の対象になります。
歴史と現在:Vゴール/シルバーゴールの廃止と今
Vゴール・シルバーゴールの導入と廃止の経緯
1990年代後半から2000年代前半にかけて、延長の決着を促す目的でVゴール(ゴールデンゴール)やシルバーゴールが導入されました。しかし守備的になる副作用や公平性の観点から段階的に廃止。現在は延長は通常の15分×2のみで、同点ならPK戦という形が主流です。
“ABBA方式”試験の背景と現在の標準
PK戦の先攻有利を軽減する狙いで、テニスのタイブレークに似た“ABBA方式”が一部大会で試験導入されましたが、現時点では標準化されていません。多くの大会は従来のABAB交互方式を採用しています。
主要大会の最新傾向(延長実施の有無とPK移行)
ワールドクラスの大会や国内主要カップ戦では、決勝トーナメントで延長を行い、それでも決まらなければPK戦へ移行するのが一般的。一方で、育成年代や初期ラウンドでは延長を省略してPK戦に直行するケースも珍しくありません。
戦術と心理:サドンデス状況の意思決定
先攻・後攻の選択戦略と傾向データの意味合い
先攻がやや有利という傾向は、さまざまな分析で示唆されています(おおむね先攻の勝率は50%台後半の報告が多い)。ただし個々のチームにより心理的・技術的な差があるため、絶対ではありません。自チームが“先に決め切る”ことに強みがあるか、“追う立場”で集中を保てるかを事前に評価し、コイントスで迷わない基準を持っておきましょう。
キッカー順の設計(1〜5人目、6人目以降の考え方)
1〜5人目は「前半で主導権を握る」「3人目・5人目で流れを締める」など役割設計がポイント。安定したキッカーを1〜3人目に集め、5人目は勝敗が懸かる可能性が高いと想定して強心臓の選手を置くのが一般的です。6人目以降はサドンデス。全員が蹴る可能性があるため、GKも含めたフルローテーションの練習が必須です。
GKの準備:相手情報・読み・プレショット対応
相手キッカーの利き足、助走の癖、視線、過去傾向(高さ・コース)を事前に集め、短いキーワードでメモ化。ゴール中央でのルーティン(呼吸・ポジショニング確認・合図)を一定化し、蹴る直前の“微かな合図”に集中できる状態を作ります。サドンデスでは一つのプレーで決着するため、セーブ後のリバウンドに反応せず(PK戦はリバウンドなし)、すぐに次の手続きへ切り替える冷静さが必要です。
トレーニング設計:延長とPKに勝つ準備
疲労下でのキック精度とルーティンの確立
PKは“技術×再現性×メンタル”。延長の疲労を想定して、スプリントやシャトルラン直後にキック練習を行い、心拍が高い状態での精度を鍛えます。助走の歩数、ボール設置、視線、呼吸、キーワード(例:「軸足」「面」「押し出す」)までルーティンを固定化しましょう。
呼吸・視線・自己対話などメンタルスキル
深呼吸2回+視線固定(狙うコースの一点を見る)+自己対話(短い肯定フレーズ)で“迷いを切る”仕組みを作ります。サドンデスでは特に、順番が突然回ってくることを想定し、ベンチでのミニ・ルーティン(手の握開、呼吸、イメージ)も用意しておくと安定します。
GKのデータベース構築と反復練習の工夫
相手情報は「コース(左・右・中央)」「高さ」「助走角度」「利き足」「過去のプレッシャー下の選択」に分解して記録。練習では左右へ“先に動かない”ステップの反復(ライン上でのスプリットステップ→リード足→ダイブ)を行い、反則回避と反応速度を同時に磨きます。
実戦シナリオで理解する:延長終了から決着まで
タイムライン例:延長終了〜コイントス〜5人目〜サドンデス
延長終了のホイッスル→即座にキャプテンと主審がゴール使用の確認→コイントスで先攻・後攻の決定→両チームがキッカー順を申告→1〜5人目までABAB→同点なら6人目からサドンデス→決着→勝者によるセレブレーションと敗者の整列。時間は限られるので、申告や選手の準備を迅速に。
サドンデス突入時のベンチ・ピッチ内の連携
5人目終了が見えてきたら、6〜8人目の優先候補をすぐ共有。GKには相手の次キッカー候補を伝え、分析担当は短い指示で要点だけ提示。ベンチは「誰が行くか」「どのコースを狙うか」を簡潔に決め、迷いを排除します。
監督・主将のチェックリスト(役割分担)
監督:先攻・後攻の選択基準、キッカー順の最終決定、GKの情報入力。主将:主審とのコミュニケーション、味方への簡潔な共有、遅延の防止。コーチ:個別の声がけ(キーワード)、ボール・スポットの確認、用具の最終チェック。
育成年代・保護者が知っておきたいこと
大会ごとの方式の事前確認と周知
延長の有無、交代枠、同数化の扱い、ベンチ入り人数などは大会で異なります。選手・保護者・スタッフ全員で“当日の決め方”を事前共有しておくと、現場がスムーズになります。
選手のメンタルケアと翌日のリカバリー
PK戦は強い感情を伴います。終わった直後は「責めない・引きずらない・次に活かす」の3点を徹底。翌日は睡眠、栄養、軽い有酸素とモビリティでリカバリーし、心身の再起動を図りましょう。
スポーツマンシップと視点の切り替え
勝っても負けても、相手リスペクトと握手は忘れずに。PK戦は実力の一部であり、偶然の要素もあります。過程の質(準備・判断・実行)に視点を戻し、次のチャレンジに向かいましょう。
よくある質問(FAQ)
延長で退場者が出た場合、PK戦の人数はどうなる?
延長終了時に人数差がある場合、多い側が“同数化”としてキック資格者を減らします。除外された選手はPK戦に参加できません。GKは必ず1人残す必要があります。
GKが負傷したらPK戦中でも交代できる?
大会規定の範囲で、GKが負傷し続行不能のときは交代可能な場合があります。交代枠の運用は規定次第ですが、GKとフィールドプレーヤーのポジション入れ替え(交替)は許容されます。
同じ選手が2回目を蹴れるのはいつから?
両チームの“キック資格者全員”が1回ずつ蹴った後です。GKを含め、全員が1巡するまでは同じ選手が2回目を蹴ることはできません(順番は2巡目以降に再設定可能)。
フェイントはどこまで許される?
助走中のリズム変化や小さなフェイントは認められますが、蹴る直前に完全に止まるのは反則。原則としてそのキックは失敗扱いとなり、キッカーは警告の対象になり得ます。GKはキックの瞬間、少なくとも片足がライン上(またはその上方)にある必要があります。
先攻と後攻、どちらが有利と言える?
統計的には先攻がやや有利という傾向が報告されていますが、絶対ではありません。チームの特性(決め切る力、追う状況での集中力、GKのセーブ傾向)に応じて選択基準を準備しておくことが重要です。
まとめ:延長後の“勝者の決まり方”を武器にする
要点の再確認(フロー・ルール・心構え)
延長は15分×2。決まらなければPK戦へ。PK戦はABABの5人ずつ、同点なら6人目以降がサドンデス。サドンデスは“即時決着の仕組み”であり、PK戦という“手続”の内部で使われます。出場資格、同数化、GKの扱い、反則の基本を押さえ、迷いを減らしましょう。
次の試合に向けたチェック項目
大会規定の確認(延長の有無/交代枠/同数化)/コイントス時の選択基準(先攻 or 後攻)/キッカー順のテンプレ(1〜5+6人目以降の想定)/GKの相手情報メモ/ルーティンの共通言語(呼吸・視線・キーワード)。
チーム内共有のテンプレート化のすすめ
ベンチボード用の「PK用シート」を一枚用意。キッカー順、バックアップ、相手傾向、合図、役割分担を書き込めるようにしておくと、延長終了からの数分で全員が同じ絵を見られます。準備は最大のメンタルケア。サドンデスとPK戦の違いを正しく理解し、延長後の勝負を“取りに行く”チームになりましょう。