「マネージャーの仕事は?サッカー部を変える現場力」というテーマで、今日は“現場を整える力”がチームの成長と勝率にどうつながるのかを、具体的な手順やチェックリストとともにまとめます。雑用係ではなく、成果を生むオペレーションの設計者。それがマネージャーです。この記事は、今日から実践できる小さな仕組みを積み上げ、練習・試合・安全・データ・コミュニケーションのすべてを「整える」ための実務ガイドです。
目次
はじめに:なぜ「現場力」が勝敗を左右するのか
サッカーは“準備のスポーツ”です。コーンの位置、給水の動線、交代の合図、救急対応の役割…それらが噛み合うほど、選手はプレーに集中できます。反対に、忘れ物や連絡ミス、氷が足りないといった小さな穴は、集中を削り、勝負どころで差になります。マネージャーの現場力は、ミスを減らし、時間を生み、安全と効率を担保することで、結果的にチームのパフォーマンスと勝率に寄与します。
マネージャーの定義と「現場力」とは何か
誤解されがちなイメージとの違い(雑用ではなく価値創出)
マネージャーの仕事は、単に用具を運ぶことではありません。現場の流れを設計し、課題を先回りして解決し、チームが成果を出すための“摩擦”を取り除くことです。練習が時間通りに始まる、救急対応の初動が速い、データが翌日に共有される――これらはすべて価値です。
サッカー部の成果に与える影響範囲(安全・効率・勝率)
- 安全:熱中症・外傷の初期対応、リスク可視化、情報管理
- 効率:準備・回収の時短、動線設計、在庫の標準化
- 勝率:試合運営のスムーズさ、スタッツと映像の活用、改善サイクル
「見えない貢献」を見える化する視点と指標(KPI設定)
- 練習開始の定時率:集合からメニュー開始までの遅延時間(分)
- 準備・回収時間:15分以内/10分以内の達成率
- 欠品ゼロ率:給水・氷・救急・消耗品の欠品回数/月
- 安全指標:熱中症や救急搬送ゼロ、軽傷の初期対応時間(分)
- データ反映速度:試合翌日までの映像アップ・スタッツ共有率
基本業務の全体像:練習・試合・オフの3軸
練習日:準備・実施・回収のタイムライン
標準例:集合-20分に準備開始→集合-5分に整列完了→練習終了+10分で回収完了。準備・回収は役割固定と動線設計でブレをなくします。
- 準備:コーン配置、給水・氷、ボール空気圧、メニュー掲示、RPE受付
- 実施:タイムキープ、負荷記録、負傷対応、ドリル切替時の補助
- 回収:用具カウント、洗浄・乾燥、在庫チェック、次回準備メモ
試合日:キックオフ前後の運営フロー
到着-60分で設営完了、-30分最終確認、キックオフ中はベンチワークと記録に集中、試合後は速やかに回収と共有。
オフ日:仕込み・改善・情報整理のルーティン
- 備品の補充・発注、チェックリスト更新
- 映像整理とタグ付け、スタッツのダイジェスト作成
- 次週の計画作成(天候・対戦相手・会場条件を考慮)
練習準備の現場力:15分で“整う”仕組み化
グラウンド動線設計(コーン・マーカー・ゴール配置)
- 動線の原則:走行ラインと給水ラインを交差させない
- 配置テンプレ:ウォームアップゾーン/対人ゾーン/シュートゾーンを固定化
- 図面化:簡易レイアウトをA4一枚にして保管、毎回同じ型で時短
給水・氷・救急の標準在庫(パー・セッション基準)
- 水:1人あたり500〜700ml/30分を目安(気温で増減)
- 氷:10kg/90分(夏期は15kg)を目安、アイスバッグは人数×0.3個
- 救急:三角巾2、伸縮包帯2、滅菌ガーゼ10、テーピング3、消毒、はさみ
出欠・体重・RPE受付の導線化(渋滞ゼロの配置)
- 受付テーブルを入口脇に配置、ペン・体重計・QRチェックインを一直線に
- RPEは練習直後3分以内に1〜10で入力(紙/QR)、主観負荷の偏りを見える化
- 体重は練習前後で計測し、発汗量の目安に活用
試合運営の現場力:ゲームを支える“静かな設計”
遠征・ホームのチェックリスト(忘れ物ゼロの型)
持ち物テンプレ
- ユニフォーム一式、交代ボード、メンバー表、ボール(空気圧確認)
- 氷・アイスバッグ、救急セット、マーカー、ベンチコート(季節)
- 飲料・電解質、タオル、日よけ、テント、延長コード(電源が必要な場合)
ベンチワーク:交代ボード・記録・クーリングの役割分担
- 役割固定:A=記録、B=交代、C=給水/氷、D=相手ベンチ連絡
- 記録の基本:出場時間、交代分、得点/被得点の起点、警告/退場
- 給水タイミング:ウォーターブレイク、負傷中断時の速やかな補給
審判・相手校・保護者への連絡とホスピタリティ
- 到着・会場案内・更衣室・トイレ・給水位置を明確に
- 試合後の礼節と連絡事項の共有(忘れ物・今後の連絡方法)
- トラブル時は事実ベースで冷静に記録し、顧問・責任者に報告
パフォーマンスを上げる記録とデータ活用
スタッツの設計:取る数字/捨てる数字(最小で効果最大)
- 必須:シュート(枠内/枠外)、被シュート、CK、FK、PA侵入回数、最終3分の被チャンス
- 選手別:出場分、ボール奪取、被ロスト(危険度高のみ)
- 捨てる:細かすぎて再現性の低い指標(収集負荷>効果のもの)
映像・タグ付けの基本(共有フォーマットと命名規則)
- 命名:YYYYMMDD_相手_大会_結果(例:20241001_XX高_リーグ_2-1)
- タグ:得点/被得点、CK、FK、ネガトラ/ポジトラ、ラスト5分
- 共有期限:翌日12時までにアップ、ダイジェストは3分以内で配布
練習計画へのフィードバック回路(翌週に活かす循環)
- 日曜:スタッツと課題3点に要約→月曜ミーティングで共有
- 火曜:課題ドリルの配置を再設計、木曜に再評価
- 土曜:効果測定(KPI比較)→記録と次週へ接続
安全管理とメディカル連携の基礎
熱中症・外傷の初期対応プロトコル(連絡と役割分担)
- 判断:めまい・吐き気・反応鈍化→直ちに運動中止、日陰へ移動
- 冷却:首・腋・鼠径部を冷やす、冷水・氷で体温低下を促す
- 連絡:顧問→保護者→必要に応じて救急要請(状況と時刻を記録)
既往歴・アレルギー・救急連絡の情報管理
- 名簿に既往歴/アレルギー/緊急連絡先を記録、権限管理の上で共有
- 年1回の更新、入部・復帰時は必ず確認
アイシング・テーピング対応の範囲と注意点
- 急性期はRICE(安静・冷却・圧迫・挙上)を基本に、無理な判断はしない
- テーピングは応急の固定まで。痛みが強い/腫れがひどい場合は医療機関へ
栄養・水分補給の実務対応
練習前後の補食とタイミング(現実的な選択肢)
- 練習前:バナナ、あんぱん、おにぎりなど消化しやすい炭水化物(60〜90分前)
- 練習後:牛乳+おにぎり、ヨーグルト+フルーツなど(30分以内)
試合日の水分・電解質・塩分計画(気温別目安)
- 気温15〜25℃:500ml/45分+軽電解質
- 25〜30℃:700〜1000ml/45分、塩タブレット補助
- 30℃以上:1000〜1500ml/45分、ウォーターブレイク時に積極的補給
予算に合わせたメニュー例と保管ルール
- 低予算:水+塩+レモン、麦茶+塩
- 中予算:市販の粉末電解質を大ボトル作成→紙コップ配布
- 保管:クーラーボックス2台体制(飲料/氷を分ける)、原材料ラベル表示
コミュニケーションで強化するチーム文化
監督・コーチの情報ハブになる(即時共有の仕組み)
- 試合後30分以内に「要点3つ+次回の提案」を共有
- 連絡は「誰に、いつ、何を、どの手段で」をテンプレ化
選手のメンタルサポートの基本(傾聴と記録)
- 事実と感情を分けてメモ、判断や指示を急がない
- 気になる変化(睡眠不足/食欲低下/遅刻増)を早期に共有
保護者・学校・地域との連携とコンプライアンス
- 個人情報の取り扱いは最小限、共有先と目的を明記
- 外部試合や遠征は事前説明と書面確認を徹底
会計・備品・スケジュールの“見える化”
予算運用と購入フローの透明化(承認と記録)
- 予算表に「見込み/確定/実績」を分けて月次で共有
- 購入は見積→承認→購入→領収書→台帳反映の一連管理
備品台帳・消耗品の発注サイクル(安全在庫)
- 台帳に数量・状態・最小在庫・発注先を記録
- 最小在庫割れアラート(例:氷用袋50枚、テープ2本)
年間カレンダー・週次ToDo・当日チェックのテンプレ
- 年間:大会・試験・休校・遠征・合宿の山場を先にブロック
- 週次:火=在庫チェック、木=天候確認、金=試合準備
- 当日:集合/交通/会場/天候/救急/配布物の5点確認
スカウティングと相手分析の支援
事前リサーチの項目(フォーメーション・セットプレー)
- 基本布陣、ビルドアップ傾向、キー選手の特長
- CK/FKの狙い、スローインのパターン、守備ブロックの高さ
現地観察の着眼点と記録フォーマット
- 最初の10分の圧力、左右非対称の有無、裏抜け頻度
- 記録テンプレ:時刻/状況/位置/意図(簡潔な4点)
試合後の振り返りシート(次戦へのアクション)
- よかった3つ/改善3つ、次戦のトレーニング提案2つ
- 映像リンクとタイムコードを併記し、共有期限を決める
デジタルツール活用で現場力を底上げ
共有ドライブと命名規則(検索性と権限管理)
- 階層:01_試合/02_練習/03_安全/04_会計/05_資料
- 命名は日付先頭で統一、権限は「閲覧/編集」を役割で分離
スプレッドシートで作るダッシュボード(KPI可視化)
- 指標:準備時間、欠品ゼロ率、RPE平均、怪我件数、映像共有速度
- 色分けで閾値を設定(例:準備15分以下=緑/20分超=赤)
連絡ツールの使い分け(緊急/通常/保管のルール)
- 緊急:電話→チャット→掲示の順に多重化
- 通常:チャットで連絡、重要事項はドライブに保存しURLで共有
1日の動きと年間の山場:カレンダーで見る仕事
新チーム立ち上げ期(引継ぎと制度設計)
- 役割表・チェックリスト・台帳の初期整備
- “15分で整う”準備動線と在庫基準の導入
夏シーズンの猛暑対策(練習設計とリスク管理)
- 時間帯の工夫、ウォーターブレイクの明確化、冷却設備の増強
- WBGTや気温の把握、休憩と負荷管理の徹底
冬の受験・感染症シーズン対応(人員計画と衛生)
- 人員欠けの想定、メニューの調整、室内代替メニュー
- 手指衛生・用具消毒・体調チェックのルール化
マネージャー成長ロードマップと引継ぎ
1年目のミニマム(安全・記録・時間厳守)
- 安全セットの場所と使い方、連絡フローを暗記
- 準備・回収の所要時間を毎回記録して短縮
2年目の改善テーマ(自動化・標準化・教育)
- チェックリストのテンプレ化、在庫アラートの自動化
- 後輩へのOJT導線(観察→同伴→単独)
引継ぎドキュメントと研修の作り方
- 「型」と「理由」をセットで記載、動画マニュアルも活用
- 最初の2週間はダブルチェック期間を設ける
よくある課題と失敗回避チェックリスト
ありがちなトラブル事例と予防策
- 氷不足→使用量の記録と季節係数で発注量を調整
- 忘れ物→前日/当日の二重チェック、責任者の指差し確認
- 連絡の行き違い→単一の最新版管理(ドライブURL)
事前準備チェック(天候・交通・備品・連絡)
- 天候:気温/降雨/風速、熱中症指数
- 交通:出発・到着時刻、迂回路、駐車
- 備品:ボール・ビブス・救急・氷・給水・交代ボード
- 連絡:対戦相手・審判・保護者・施設
試合後の振り返りポイント(再発防止の仕組み)
- 「事実→原因→対策→担当→期限」を1枚にまとめ、次戦で検証
- 再発ゼロの確認をKPI化し、達成をチームで称える
まとめ:現場力でサッカー部は変わる
今日から始める3アクション(習慣化の第一歩)
- チェックリストを1枚作る(準備/回収/救急/試合)
- 在庫の最小基準を決める(氷・給水・救急)
- データの命名規則と共有期限を統一する
KPIで見る成長の指標(時間短縮・欠品ゼロ・安全指標)
- 準備時間15分以内の達成率
- 欠品ゼロ連続日数の更新
- 救急初動までの平均時間の短縮
次の一歩:後輩育成と仕組みの“外在化”
仕組みは人を助け、人は仕組みを育てます。マニュアル、動画、チェックリストを外在化し、誰でも同じ品質で運営できる状態を目指しましょう。マネージャーの現場力が整えば、選手はプレーに集中し、チームは自然と強くなります。今日の小さな一歩が、明日の勝利に必ずつながります。