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延長戦とは何か?基本の仕組みと注意点

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延長戦は、勝敗を必ず決める必要がある試合で、90分では決着がつかなかった時に使われる「時間の追加ルール」です。仕組み自体はシンプルですが、実際に延長に入ると、体力・集中力・戦術の“差”が一気に表面化します。この記事では、延長戦の基本ルールから運用の流れ、カテゴリー別の違い、勝つための戦術・コンディショニング・メンタル設計、さらには大会規定の読み解き方までを一気に整理。試合で迷わないための実戦的な注意点も詰め込みました。

延長戦とは?基本の定義

正式な位置づけと採用の判断(大会規定で決まる)

延長戦は、90分(前後半各45分)の競技時間で勝敗が決まらない場合に、勝者を決める追加のプレー時間です。採用の有無・時間・方式は、事前に定められた「大会規定」で決まります。つまり、同じサッカーでも、ある大会は延長戦あり、別の大会は延長戦なし(直ちにPK方式)ということが普通にあります。

  • 延長戦の目的:90分で決着がつかない試合に、プレーで勝者を分ける機会をもう一度与える。
  • 採用の判断:大会規定に明記。トーナメントでは採用されやすく、リーグ戦では採用されにくい。
  • 試合記録:延長戦も「試合の一部」。警告・得点・交代はすべて公式記録に含まれます。

延長戦とPK方式(勝者を決める方式)の違い

延長戦は「サッカーのプレー」を継続して勝負を決める時間。一方、PK方式(Kicks from the Penalty Mark)は、延長戦でも決まらなかった場合に用いる「タイブレーク」です。PKは試合のプレー時間に含まれず、個別の手順で勝者を決めます。

  • 延長戦:11人対11人(退場者がいれば人数差あり)での通常プレー。戦術・体力・集中力が反映される。
  • PK方式:試合終了後の手順。キッカーは「延長戦終了時にピッチ上にいる選手」から選出。
  • 戦略への影響:延長戦で仕留めにいくか、PKに備えて守備的に進めるかはゲームプランの核になります。

歴史的なルールの変遷(ゴールデンゴール/シルバーゴールの廃止)

かつては延長中の「先制点で即終了(ゴールデンゴール)」や「前半終了時点でリードしていれば終了(シルバーゴール)」が採用された時期がありました。現在はこれらは廃止され、延長戦は原則として定められた時間を最後までプレーします。よって、延長前半で1点取っても、すぐに試合が終わることはありません。

延長戦のルールと試合運営の流れ

時間配分とインターバル:一般的には2本×15分

延長戦は「前後半各15分=合計30分」が一般的です。90分終了後、延長開始までに短い休憩が認められることが多く(大会規定によるが目安は最大5分)、延長の前半と後半の間にはごく短いインターバル(目安1分程度の飲水)が設けられます。

  • 総プレー時間目安:120分+アディショナルタイム
  • 休憩:90分→延長開始の間に短い休憩、延長ハーフ間に短い飲水

アディショナルタイムは延長戦でもあるのか

あります。延長前半・延長後半にも、選手交代や負傷、VARレビュー等によるプレーの中断時間はアディショナルタイムとして加算されます。延長戦で「時間を使う」行為は、結局追加されやすいことも理解しておきましょう。

キックオフとエンドの決め方(コイントスの基本手順)

延長開始前に、原則として再度コイントスが行われます。勝ったチームは「キックオフ」または「どちらのゴールを攻めるか」を選択し、もう一方を相手が選びます。延長の後半開始時は、前半から攻める方向を入れ替え、通常通りキックオフで再開します。

交代枠と交代機会:大会規定で変わるポイント

交代人数と交代「機会」の扱いは大会規定で決まります。現在は多くの大会で最大5人交代が認められていますが、延長戦で「追加の交代枠(いわゆる6人目)」を認めるかは大会次第です。また、交代を行える“機会”の回数は、延長戦に入ると1回分増える運用が一般的です(ハーフタイム、延長開始前、延長ハーフタイムおよび認められた飲水・クーリングブレイクは交代機会にカウントされないのが通常)。

  • 確認すべき点:交代人数の上限/延長戦で増えるか/交代機会の回数
  • GKの例外:負傷時の交代や、PK方式前の交代可否も大会規定を要確認

警告・退場・シミュレーションの扱いと注意点

延長戦は試合の続きなので、警告や退場の扱いは90分間と同じです。シミュレーション(反スポーツ的行為)は警告対象。延長中の一瞬の感情でカードをもらうとチームのダメージは更に増大します。なお、退場により出場選手が7人未満になった場合は試合続行ができません。

VAR・テクノロジー運用の有無と影響

VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)やゴールラインテクノロジーは、大会で導入されていれば延長戦でも適用されます。ゴール、PK、直接退場、重大な見落としなど、通常と同様の対象に限定されます。延長戦での判定は勝敗に直結するため、落ち着いて再開手順(ドロップボール/間接FK/PK等)を把握しましょう。

暑熱時の飲水・クーリングブレイクの考え方

暑熱環境では、主審の判断や大会の方針により「飲水(約1分)」や「クーリングブレイク(約90秒〜3分)」が設けられることがあります。延長戦でも同様で、体温・水分・電解質の管理が勝敗に直結します。ブレイクは戦術確認の貴重な時間にもなります。

競技カテゴリー別の主なバリエーション

プロ公式戦でよくある運用例と例外

多くの主要トーナメントでは「延長戦(15分×2)→決しなければPK方式」という流れが一般的です。一方、日程過密や大会特性から、延長を省略して90分から直接PKに進むカップ戦も存在します。国や大会によってルールが異なるため、必ず大会要項を確認しましょう。

学生・ユース世代に多い時間短縮や方式の違い

学生・ユースの試合では、選手の安全と大会運営の都合から、延長時間を短縮(例:10分×2など)したり、延長を行わないでPK方式に移ることが珍しくありません。学年・大会・地域でばらつきがあるため、「延長あり/なし」「時間」「交代枠」の3点は事前確認が必須です。

地域リーグ・カップ戦でのローカルルールと確認ポイント

地域主催の大会やカップ戦では、ピッチコンディションや施設(照明・ロッカー・VARの有無)によって運用が変わることも。ローカルルールが存在する場合は、マッチコーディネーションミーティングや主催者の通達で明確にされます。口頭説明だけに頼らず、文書の原本を手元に置いておくのがおすすめです。

延長戦に強くなるための戦術とマネジメント

90分から120分へ:ゲームプランの再設計

延長を前提にしたゲームプランは、90分完結型とは異なります。「勝ち切る」「耐えてPKへ」「前半は抑え後半勝負」など、複数のシナリオを用意し、延長突入時点のスコア、相手の消耗度、自軍の交代残数で分岐させます。

  • 延長突入チェック:走行量、主力の疲労、カード状況、セットプレーでの優位
  • ギアチェンジの設計:開始5分は無理をしない/後半10分で再加速…など時間帯ごとの強弱

交代戦略と負荷分散(走行量・ハイインテンシティの管理)

延長での強さは「最後に走れるか」。ハイプレスの継続は代償が大きく、交代カードの切り方が勝敗を左右します。ウイングやボランチなど走行量の多いポジションは、延長用に一枚温存しておくのがセオリーです。

  • 交代の基本軸:走れるか/デュエル勝率/セットプレー貢献/PKキッカー適性
  • 交代機会の節約:インターバルや飲水での交代は“機会”にカウントされにくい(大会規定確認)

守備ブロックの調整とプレッシング再配置

延長では、前線プレッシングを局面限定(相手CBが背向き、GKへのリターン時など)に絞り、コンパクトさを保つことが鍵。ミドルブロックのライン設定を5〜8メートル落として背後を消し、中央の守備強度を維持します。ラインコントロール役(CB・アンカー)を明確に。

セットプレー・ロングスロー・リスタートの優先度

疲労が出る延長では、セットプレーの一発が最も効率的です。キッカーの位置、ニア・ファーの役割、セカンド回収の配置をシンプルに固定しておきましょう。ロングスローは天候・ピッチ状態次第で武器になります。

GKの役割拡張とPKを見据えた準備

延長のGKは、守るだけでなく「試合を落ち着かせる」役割が重要。ビルドアップのテンポ管理、クロス対応のコール、セットプレー時のマッチアップ指示などでチームを前に進めます。PKに入る可能性がある場合は、キッカーの傾向メモやコールサインをベンチと共有しておくと効果的です。

ボール保持と陣地回復:時間帯別のリスク管理

延長前半はリスク低減、後半は相手の消耗を見て仕掛ける、といった時間帯ごとの方針が有効。ビルドアップでは、サイドに誘導してからのタッチライン活用(相手の出口を限定)や、逆サイドチェンジで呼吸を整えるなど「休むための保持」を織り交ぜます。

フィジカルとコンディショニングの実践

延長を想定した持久系・反復スプリントの組み立て

試合終盤でも質を落とさないために、「有酸素ベース×反復スプリント(RSA)」の両立が重要です。週の中で、短時間・高強度の反復ダッシュ(10〜30m×レスト短め)と、ボールを使ったインターバルポゼッションを組み合わせます。

  • 例:反復スプリント 10m×6本+20m×6本×2セット(レスト20〜30秒)
  • 例:6対6+フリーマンのポゼッションを1〜2分×6本(間レスト1分)

エネルギー補給・水分・電解質:いつ何を摂るか

延長で走り切るには、90分終了前からの準備が勝負です。ハーフタイム・飲水タイム・延長前のインターバルで、消化に負担の少ない炭水化物(ジェル、バナナなど)と、ナトリウムを含むスポーツドリンクを適量摂取。甘さが強いものは少量ずつ。

  • タイミング:ハーフタイム/後半中の飲水/90分後の短い休憩/延長ハーフ間
  • 量の目安:喉の渇きに先行して少量頻回。一気飲みは避ける。

痙攣(つり)予防と応急対応

筋痙攣は、疲労・脱水・電解質バランス・冷えなど複合要因で起こります。予防は「事前のトレーニングと補給」。兆候が出たら、対象筋のストレッチ、患部の保温、少量の電解質入り飲料の摂取など、できる範囲で即時対応します。無理をすると肉離れのリスクが上がるため、プレー続行の判断は慎重に。

延長後のリカバリー(睡眠・栄養・ケア)

延長の翌日は、早めの補食(炭水化物+たんぱく質)、十分な睡眠、軽いジョグとモビリティで循環を促進。可能であればアイスバスや交代浴で炎症を抑え、翌々日に段階的に強度を戻します。次の試合が近い大会では、リカバリーの質がそのままパフォーマンスに直結します。

メンタルとコミュニケーション

延長戦のプレッシャーに強いメンタル設計

延長は「失点の重み」が増します。呼吸を整える、合言葉を決める、セットプレー前に確認する“3点チェック”など、小さなルーティンで心拍と集中をコントロール。ベンチも落ち着いたトーンで、次のプレーに意識を向けさせます。

ベンチとピッチの情報共有(合図・簡潔な指示)

延長の短いインターバルは超貴重。守備ラインの高さ、セットプレー配置、交代の順序、PK候補など、優先順位を決めて「短く・一つずつ」伝えます。合図(手サイン・単語)を事前に共有しておくと混乱が減ります。

主審・相手・観客への適切な対応と集中維持

判定への抗議で集中を切らすのは損。キャプテンが代表して簡潔に確認し、すぐ次のプレーへ。相手の挑発には乗らない、観客の声は“環境”として受け流す、これが延長での落ち着きに直結します。

PK突入を視野に入れた心構えと役割確認

延長後半に入ったら、PKの準備も並行して進めます。キッカー候補、順番、GKの事前メモ、リバウンド対応の役割などを共有。疲労度を見て、キッカーを入れ替える柔軟性も持ちましょう。

よくある誤解とQ&A

「延長戦は必ず行う?」:大会形式による違い

必ずではありません。延長を行わずに、90分から直ちにPK方式に入る大会もあります。大会要項を必ず確認しましょう。

「延長戦の得点は記録にどう反映される?」

延長の得点も公式の「試合得点」に含まれます。結果表記では「延長(AET)」と注記されることがあります(例:2-1 AET)。

「PKに備えて時間稼ぎは有効?」の是非

リスクが高い戦略です。遅延行為は警告の対象であり、アディショナルタイムで相殺されることも多い。ボールを保持してリスクを抑える「賢い時間管理」は有効ですが、露骨な時間稼ぎは逆効果になり得ます。

「延長戦の交代枠は必ず増える?」:確認すべき条項

必ずではありません。延長で追加交代を認めるかは大会規定次第です。「交代人数」「交代機会」「延長時の扱い」の3つをセットで確認しましょう。

試合前にできる準備チェックリスト

選手向け:装備・補給・ルーティン

  • スパイク2足(ピッチ状態で変更可)、靴ひも・テーピング予備
  • 個人ボトル:スポーツドリンク+水、ジェルや軽食(バナナ、ライスバーなど)
  • ルーティン:呼吸法、合言葉、セットプレーでの役割確認
  • 防寒・保温具:天候変化に対応し、痙攣とパフォーマンス低下を予防

指導者向け:ゲームモデル・交代計画・想定問答

  • プランA/B/C:先行時/同点/劣勢の延長シナリオ
  • 交代マップ:ポジション別の温存・投入タイミング、PK候補の把握
  • セットプレー台本:2〜3パターンに絞り、コール名で瞬時共有
  • 大会規定の抜粋:交代・時間・方式・テクノロジーの該当条項を紙で携行

保護者向け:当日のサポートとアフターケア

  • 水分・補食の準備とラベリング(取り違え防止)
  • 試合後の移動・食事・睡眠をスムーズにする段取り
  • 声かけは肯定的に:結果よりもプロセスと姿勢を評価

大会規定の読み解き方

必ず確認すべき項目(時間・交代・方式・テクノロジー)

  • 延長の有無/時間(15×2か、短縮か)
  • 交代人数の上限、延長での追加枠、交代機会の回数
  • 延長後の方式(PKの手順、登録人数、同数化ルール)
  • VAR・ゴールラインテクノロジー・飲水/クーリングブレイクの運用

当日の周知方法とキャプテンの役割

キックオフ前のミーティングや主審からの説明で、運用の最終確認を。キャプテンは要点をチームに伝え、延長突入時に混乱がないようにします。コイントス時の選択も、ゲームプランに沿って判断できるよう準備しておきましょう。

不測の事態(天候・停電等)と再開手順の確認

悪天候や設備トラブルで中断した場合、再開方法・中断時点の扱い・選手の再登録可否などは大会規定と主審の指示に従います。ベンチは中断開始時刻・残り時間・カード状況をメモし、再開時に素早く共有できるように。

まとめ:延長戦を味方につけるために押さえる要点

ルール理解→戦術→準備→実行の一貫性

延長戦は「ルールを知っているチーム」が有利です。交代、インターバル、テクノロジーの運用など、細部の理解がそのまま選択肢の多さになります。そこに戦術と準備を乗せ、現場でシンプルに実行する。この一貫性が勝敗を分けます。

小さな判断で勝負を分ける“延長のディテール”

フリーキックの配置、スローインの選択、コイントスの判断、飲水時の一言。延長は「小さなディテール」の積み重ねです。焦らず、一つずつ正しく選ぶこと。ミスは起こる前提で、起きた後のリカバリー手順も決めておくとブレません。

次の試合へつなげるコンディション管理

トーナメントでは、延長のダメージを翌日に残さない工夫が必須。補食・睡眠・ケア・移動のストレス軽減までを含めて試合と考えましょう。延長戦を制し、なおかつ次の試合で走れるチームが最後に勝ちます。

延長戦とは何か?基本の仕組みと注意点を正しく理解しておけば、ピッチ上の迷いは減り、最後の30分を“味方”にできます。大会ごとの規定を必ず確認し、現場での意思決定をシンプルに。準備の差が、120分目の一歩を軽くしてくれます。

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