目次
導入:守備の質は「5mの扱い」で変わる
守備で一番大切なのは、ボールに寄せる勇気でも、派手なスライディングでもありません。実は「味方との距離感」を一定に保つことです。特にカギになるのが「5m」という目安。たった5mですが、この距離を詰めたり緩めたりするタイミングが揃うだけで、チームの守備は見違えるほど連動します。本記事では、なぜ5mが効くのか、どう測るのか、ポジション別やブロック別の使い方、トレーニング方法まで、現場で使える形でまとめます。難しい理屈よりも、今週末の試合で実感できるコツを大切にしました。
なぜ「5mの距離」が守備連動を変えるのか
5mがもたらす制限と選択肢の削減
守備の目的は「相手の選択肢を減らす」こと。5m以内に守備者がいると、相手は余裕をもって前進・前向き・前進パスの3つを同時にとりにくくなります。寄せが遠いと、相手は顔を上げて判断の時間を確保できますが、5mまで近づくと、ファーストタッチの自由度が落ち、視線を下げさせることができます。結果として、横パスやバックパスが増え、ボール保持の質が下がります。
また、5mは「次の味方が間に合う距離」です。1人目が寄せ、2人目が5mのサポートに入ると、二重のプレッシャーがかかり、ボール奪取の確率が上がります。逆に7〜8m以上に開くと、カバーがワンテンポ遅れ、ワンタッチで剥がされやすくなります。
ボール・人・ゴールの三角関係における5m
守備は常に「ボール」「自分(味方)」「自陣ゴール」の三角形で考えます。5mの距離を保ちながら三角形を小さくしていくと、パスコースの角度が絞られ、相手の選択肢が自然と偏ります。これにより、奪い所をチームで共有しやすくなります。三角形が大きくなる(=間延びする)と、ボール移動の時間よりも味方のスライドが遅れ、ギャップが生まれます。
体力効率と回復の観点からの5m
5mは体力管理の基準にもなります。守備で消耗するのは「反復ダッシュ」と「向き直り」。5m単位での小さな調整と細かい歩数の修正は、長いダッシュより省エネで、しかも回数を重ねられます。コンパクトに5mで繋がっていれば、ボールが動いた時の「最初の2歩」で届く回数が増え、長距離スプリントに頼らなくてよくなります。結果、試合終盤まで強度を維持しやすくなります。
守備の距離感を可視化する基準
度数法ではなく「歩数」「肩幅」「ライン間」の簡易測定
試合中にメジャーは使えません。おすすめは「自分の歩幅」を基準化する方法。ウォーミングアップで普段の一歩を測り、だいたい1歩=70〜80cmと把握します。5mは約7歩前後。この「7歩」を合言葉にすると、ピッチ上で距離をすぐに想像できます。また「肩幅×8〜10」が5mの目安と覚えるのも手です。ライン間は、背中の味方と自分の間に「成人1人分=約0.5mの空間が10個あるか?」とイメージするとズレに気付きやすくなります。
コンパクトネス(縦20〜30m/横35〜45m)の目安
チーム全体のサイズ感として、ミドルブロック時は縦20〜30m、横35〜45mのコンパクトさを1つの目安にできます。もちろん相手レベルや自チームの走力で前後しますが、これを超えて広がると、5mを保つのが難しくなります。全体の箱がコンパクトであればあるほど、個人の5m管理が生きます。
ハーフスペースと外レーンでの距離目標
中央密度を保ちつつ外で奪うには、ハーフスペース(サイドと中央の間のレーン)での5mが大切。ハーフスペースでは「縦5m・横5m」の正方形を保つイメージ、外レーンでは「縦7m・横3〜5m」で内側を締めるイメージが有効です。外ではタッチラインが味方になるため、横の距離は詰め気味、縦は背後をケアする余白を少し残します。
3つの軸で考える距離感:横・縦・深さ
横スライドでの5m:隣とのギャップ管理
横方向は「隣の味方と常に腕を伸ばせば触れられる距離=約1.5〜2m」を理想にし、ボールサイドへ寄るほど隣が5m以内に入るよう微調整します。ボールが外へ出た瞬間、内側の選手は半歩先行してスライドを開始。隣とのギャップが5mを超えたら「寄る」の合図。大外に振られても、中央の3人が5mで繋がっていれば、縦パスのレーンは自然に塞げます。
縦の5m:前後の連動と裏抜け対策
前線が出たら中盤は5mつめる、最終ラインもそれに合わせて3〜5m前進。この前後の連動が切れると、縦パス1本でライン間に前向きの受け手を作られます。裏抜け対策は、最終ラインの背後に「5mの余白」を残しつつ、相手の足元へパスが入る瞬間に1歩前へ。蹴られる前に下がりすぎないことがポイントです。
深さの5m:カバーシャドーとパスコース遮断
ボール保持者に寄せる時、背中側のパスコースを「体の影」で消すのがカバーシャドー。受け手の足元から5m以内に入る角度をとると、前向きの縦パスをほぼ真っ直ぐ切れます。角度が浅いと斜めのパスを通されるため、寄せる前に1歩の角度修正を習慣化しましょう。
ポジション別の距離感ガイド
最前線の守備(CF/WG):カーブプレスと5mの角度
CFはCBへ寄せる時、直線ではなく「カーブ」を描いて5mに入ります。内側のボランチへのパスコースが自分の背中に隠れる角度が理想。WGはSBへ寄せながら、外切りか内切りかを事前に決め、5mで同調。2人目が遅れたら直線プレスは禁物。5mを保って遅らせつつ、奪い所へ誘導します。
中盤(ボランチ/インサイド):三人称カバーの5m
ボランチは「自分−味方−相手」の三人称カバーを意識。味方が出た瞬間、自分は相手の受け手と5mでリンク。もう一人はその背中に5mで保険を置くイメージです。インサイドはハーフスペースで縦5m・横5mの箱から出過ぎないこと。飛び出す時は、背中の人と目線を合わせ、合図を共有してから。
最終ライン(CB/SB):ラインコントロールとオフサイド運用
CB同士は常に5〜8mをキープ。広がり過ぎは一発の斜めスルーパスのリスク、詰め過ぎはサイドの守備者不足のリスク。SBはWGとの距離が5m以内だと、外→中のカバーが間に合います。オフサイドラインは「ボールが持ち上がったら半歩下がる」「相手が背向きなら半歩上げる」の微調整を全員で統一。
GKの5m:スイーパーキーパーの立ち位置
GKは最終ラインと5〜10mの距離を保ち、背後のスペースを自分のテリトリーに。相手が前向きで時間がある時は5m下がる、背向きや浮き球時は5m前に出る。声かけでラインを押し上げ、背後処理の第一歩を早くするのが大切です。
守備ブロックごとの距離感
ハイプレスでの5m:背中のスペース管理
前から行くときほど、5mが命。1人目のプレスに2人目が5mで重なると、内側の縦パスを制限できます。背後の最終ラインは、相手の1列目と自分のライン間が最大でも20mに収まるよう、全体で前に詰めます。背中のスペースはGKと分担。
ミドルブロック:遅らせと奪い所の設計
ミドルでは、中央を閉じて外へ誘導。外に出た瞬間、ボールサイドの3人が5mで三角形を作り、サイドラインを「味方の守備者」として使います。奪い所はハーフスペースの浮き球や、相手SBの内向きトラップ時。ここで距離を一気に詰めます。
ローブロック:ペナルティエリア前のギャップゼロ化
PA前はギャップを「0」に近づける意識。最終ライン同士の間隔は5〜6m、ボランチとのライン間は10〜12mを目安に。外は出させても中央のシュートコースだけは消す。クリア後の押し上げで、5m基準を素早く取り戻します。
トリガーと合図:いつ5mを詰めるか緩めるか
受け手の背中・逆足・浮き球
背向きの受け手、逆足でのコントロール、浮き球の滞空は「詰めてOK」の合図。落ちてくる瞬間に5mへ一気に入ると、ミスを誘えます。
トラップ方向・体の向き・視線
内向きトラップ=内切りで圧縮、外向きトラップ=外切りで遅らせ。相手の視線が背後に上がったら、無理に詰めず5mを維持してブロックを整えます。
サイドチェンジの滞空時間
ロングボールの滞空は「全員で5m前進」の合図。着弾前にラインごと数m押し上げ、受け手に前を向かせない。低い弾道なら無理をせず、2人目が5mで受ける準備を。
ファーストタッチの質と2人目の距離
ファーストタッチが足元に収まらない、流れる、浮く——この3つはスイッチです。1人目が迷わず寄せ、2人目が5mで奪い切る距離に入ります。
コミュニケーションと合言葉
声かけ3語ルール(寄る・切る・待つ)
複雑な指示は間に合いません。「寄る」「切る」「待つ」の3語で十分。寄る=強度アップ、切る=角度で消す、待つ=遅らせ。合図をチームで統一しましょう。
手のジェスチャーと首振りの頻度
指で「内」「外」を示す、掌で「ストップ」を示すなど、視覚的な合図を習慣に。首振りは4秒に1回を目標に。5mの味方と目を合わせるだけで、連動の精度が上がります。
キャプテンとGKの配分
前線のスイッチはキャプテン、ラインの上下はGK。役割を分けると、全体の声が整理されます。大事なのは、誰が言うかを明確にすること。
試合で使えるチェックリスト
キックオフから5分の距離感リセット
入りは乱れがち。最初の5分で「縦20〜30m/横35〜45m」「隣と5m」を確認。ベンチから声をかけ、早めに修正します。
守備→攻撃のトランジション時の5m
奪った直後は散らばりやすい。パス2本分は「5mで繋ぐ」を合言葉にすると、即時奪回されにくく、二次攻撃に移れます。
リード時/ビハインド時の調整
リード時は5mを保ったまま遅らせを優先。ビハインド時はハーフスペースで5mを前へ移動させ、奪い所を高めに設定。状況によって「守る5m」「奪う5m」を使い分けます。
具体的トレーニングメニュー
5mグリッドでの2対2+サーバー
10×10mの正方形の中で2対2。外にサーバーを置き、サーバーが入れた方向に素早く5mで圧縮。ねらいは、寄せと2人目の5mを連動させること。制限時間30秒で区切り、強度を担保します。
連動スライドシャトル(5-10-5)
マーカーを5m-10m-5mで配置。笛で右5m、中央へ10m、左へ5mとスライド。常に隣と5mに入るよう声を掛け合いながら移動。心拍を上げつつ距離感の体内化を狙います。
シャドープレスとカバーシャドーの反復
ボール役のコーチに対し、1人目が角度を取り5mで寄せ、2人目が背後5mで縦パスを消す。左右へ移動しながら、影で消す感覚を反復。15〜20本×2セット。
限定ゲーム:5m離れたら失点ルール
6対6のミニゲームで、守備側の隣同士が5m以上開いたら相手に1点。厳しめのルールで距離意識を強制的に習慣化します。審判役はベンチが担当し、明確に宣言します。
よくあるミスと修正法
ボールウォッチングで間延び
視線がボールに釘付けになると、隣との距離が広がります。対策は「ボール1:味方1:相手1=3分割で見る」こと。4秒に1回の首振りで、隣との5mを確認します。
詰めすぎによる一発で剥がされる
1mまで寄ると、ワンタッチでかわされやすい。理想は「触れるけど飛び込まない」5m〜腕1本分。踏み込みの前に半歩の減速を入れ、相手のタッチに合わせます。
最終ラインのバラつき
4人の高さが揃わないと、オフサイドが機能しません。基準は「ボールが横に動いたらラインは横に5m、縦に1〜2mの微調整」。GKの声で同期させましょう。
ファウルリスクの高い詰め方
後ろからの押しや、無理なスライディングはファウルの元。体を並走させ、5m→3m→腕1本の順で距離を詰め、進路を閉じる形でボールを奪います。
カウンター対策とリスク管理
レストディフェンスの5m配置
攻撃中も「残る守備」をセット。ボールサイドの背後に3人(SB/CB/ボランチ)が5mで三角形を形成。中央と逆サイドのスイッチに即応できる配置を保ちます。
セットプレー明けの距離再構築
CKやFK後は隊形が崩れがち。クリア後5秒で「隣と5m」「ライン間10〜12m」をリマインド。ベンチはここで必ず合図を。
人数不利時の5mと遅らせ
カウンターで数的不利なら、無理に奪い切りを狙わず「遅らせの5m」。ボール保持者から斜め5mの位置に立ち、内側を切りながら走路を狭め、戻りを待ちます。
データで見る5mの効果(測り方の工夫)
自主計測:GPS/スマホアプリの活用
GPSトラッカーやスマホのトラッキングアプリで、守備時の平均スプリント回数や移動距離を計測。5m基準の練習を始めた週と比べ、スプリント依存が減り、ボール奪取位置が前へ寄れば効果が出ています。
動画分析:静止画で距離を推定する手順
試合映像を一時停止し、ペナルティエリア(16.5m)やセンターサークル(半径9.15m)など既知の長さを基準に、選手間距離をおおまかに推定。隣同士の5mを3場面以上チェックし、ズレの傾向を把握します。
チームKPI:ライン間距離と奪取位置
簡易KPIとして「ボール奪取の平均位置(自陣/中盤/相手陣)」「被縦パス本数」「ライン間侵入回数」を集計。5m徹底後に中央侵入が減り、奪取位置が前に出ていれば、連動の改善が見て取れます。
育成年代と大人の違い
走力差とピッチサイズの関係
育成年代は走力差が大きく、判断も波が出ます。ピッチを少し狭めたり、縦方向の制限を設けると5mの感覚が身に付きやすくなります。大人はピッチが広くても、共通言語があれば5mの再現性を高められます。
規律よりも認知習慣の先行
若い選手には「どこを見るか」の習慣作りが先。ボール、マーク、味方の3点を交互に見るリズムを教え、5mは「結果として整う」流れを作ります。怒って揃えさせるより、見方を教える方が効果的です。
親と指導者の声かけポイント
親やコーチは「もっと走れ」ではなく「隣と5m」「合図は3語」を意識づける声かけを。試合後は距離感の良かった場面を褒め、映像で共有すると定着します。
ケーススタディ:5mで変わった守備
サイドでの2対2を優位にする
SBとWGが5mで縦関係を作るだけで、外切りと内切りのスイッチがスムーズに。相手が内向きに触れた瞬間、内側が詰め、外側がカバー。二人の距離が7m以上だと、この入れ替わりが遅れます。
中央の縦パスを止める
ボランチ間の距離を5〜8mに保つと、相手のトップ下への縦パスに二重の蓋ができます。片方が前へ出たら、もう片方は5m下がり、前向きの反転を許しません。
逆サイドの開きを間に合わせる
サイドチェンジに対して、逆サイドWGとSBが5mで同時に前進。着弾の瞬間に5m圧縮が間に合えば、受け手は前を向けず、後ろに戻すしかなくなります。これが次のプレスの合図になります。
実装プラン:練習1週間ロードマップ
Day1-2 基準の共有と5m感覚づくり
ミーティングで「5m=7歩」を共有。5mグリッド、シャドープレスで距離と角度の基礎づくり。合言葉は「寄る・切る・待つ」。
Day3-4 ユニット連動とゲーム形式
守備ユニット(前線/中盤/最終ライン)ごとに連動スライドシャトル、2対2+サーバー。限定ゲームで「5m離れたら失点」ルールを導入。
Day5-7 試合導入と振り返り
紅白戦でミドルブロックの距離感を検証。映像で5場面をピックし、成功と失敗の要因を可視化。次試合のチェックリストを配布します。
まとめ:5mをチーム文化にする
3つの約束と継続のコツ
約束1:隣と5mを保つ。約束2:合図は3語に絞る。約束3:首振りは4秒に1回。これを続けるだけで、守備の安定感は一段上がります。毎回の練習で「5mチェック」を儀式化しましょう。
個人目標シートの作成
自分のポジションで「5mで改善したい場面」を3つ書き出し、試合後にセルフ評価。数値化できるKPI(奪取位置、被縦パス)も併せて記録します。
次に学ぶべきテーマ
次のテーマは「体の向き(半身)」と「アプローチの歩数」。5mに入るだけでなく、入った後にどの足で止めるか、どちらへ追い込むかを揃えると、守備はさらに強固になります。
おわりに
たった5mですが、チーム全員の感覚が揃うと、守備の景色は一変します。遠くの答えを探す前に、隣との距離を整える。これが一番の近道です。今日の練習から、まずは「7歩」を合言葉に始めてみてください。連動は習慣から生まれます。
