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サッカーのデータ分析基本|パフォーマンス向上の戦術活用法

サッカーは“流れのスポーツ”とよく言われます。確かにその通りですが、実はピッチの上で生まれる“勝つためのヒント”の多くは数字やデータとして可視化できるようになっています。今回は高校生から大人まで、サッカーに真剣に取り組む選手や、その育成をサポートしたい保護者の方に向けて、「データ分析」と「戦術」の関係、そして実際に現場で生かす方法を分かりやすく解説します。得点やスタッツを見るだけでなく、“サッカー脳”を磨く新しい視点も一緒に手に入れましょう。

はじめに|なぜ今、サッカーにデータ分析が必要なのか

データ分析の役割とメリットの概要

これまでサッカーは「感覚」や「経験則」に支えられてきました。ですが、ここ10年ほどでサッカーはデータを活かすことで進化を遂げています。具体的には、自分やチームの強み・弱みを客観的に把握できる、パフォーマンスの課題を早期発見できる、効果的なトレーニングや戦術の検証ができる——こうしたメリットが大きな武器になっています。“数字”はときに嘘をつかず、現場のヒントになります。

チーム全体の成績向上だけでなく、個々の選手の伸びしろを見つけるうえでも重要な役割を果たしています。

サッカー界におけるデータ活用の現状

欧州トップリーグのほとんどが、GPSや映像解析、AIを活用した分析スタッフを常時帯同させています。日本国内でもJリーグはもちろん、高校・大学サッカーでも映像/データ分析が当たり前に行われるようになりました。今ではアマチュアの指導現場だけでなく、個人の選手も市販のアプリやウェアラブル端末を活用する時代です。

データ分析は一部のトップアスリートだけのものではなく、すべてのサッカープレーヤーにとって身近な“日常の武器”となりつつあります。

サッカーのパフォーマンスデータとは何か

取得できる主なデータの種類

サッカーで記録されるデータは多岐にわたります。シンプルなところでは「得点・失点」「パス成功数」「走行距離」「シュート数」「インターセプト数」など。最近では下記のような種類も一般的です。

  • ポゼッション率(ボール支配率)
  • パス成功率/回数
  • ドリブル突破成功回数
  • 被シュート数
  • 走行距離・スプリント回数
  • デュエル(1対1)勝率
  • ゴール期待値(xG)
  • ボールリカバリー数や被ファウル数

これらはチーム全体・個人単位どちらでも記録できます。目的に合わせて活用すると、試合やトレーニングの質が大きく変わります。

GPSや追跡データの仕組みと進化

近年、ウェアラブルGPS端末やビデオカメラによるトラッキング技術の進化によって、以前は見えなかった身体的・戦術的データが可視化できるようになりました。小型のGPSトラッカーはウエアの背中ポケットなどに装着することで、「走行距離」「スプリント数」「最大速度」などの詳細な身体パフォーマンスを計測可能です。

さらに、ピッチ全体をカメラやドローンで撮影する解析も増え、どのエリア・タイミングで“有利な動き”ができているかを数字やヒートマップで確認できるようになっています。

データから何が分かるのか

データ分析の最大の利点は「直感だけでは見逃しやすい穴や伸びしろ」を客観的に把握できることです。例えば、「試合前半はパス成功率が高いが、後半に失速する」「右サイドの突破時にゴール期待値が高い」といった、目視では気づきにくいパターンが浮き彫りになります。

また、時間帯別や相手別にデータを見比べることで、ピンチの兆候やチャンスを逃すタイミングなど、「なぜ勝てないのか/なぜチャンスを作れるのか」といった根本原因を探ることもできます。

基本的なサッカーデータ分析手法

ポゼッション率やパス成功率など基本指標の理解

まず押さえておきたいのは、サッカー分析の基本指標です。

  • ポゼッション率:チーム全体がどれだけボールを保持していたかの割合。ボールを持つ時間が長い=優位、とは言い切れませんが、試合の流れが可視化されます。
  • パス成功率:パス総数のうち、どれだけが味方に渡ったか。単純な回数だけでなく、どのエリア(自陣・相手陣・ゴール前)での成功率なのかにも注目しましょう。
  • シュート数・枠内シュート数:ただ打つだけでなく、チャンスの質(ゴール期待値/xG)も参考にします。
  • 走行距離・スプリント数:90分でどれだけ走れるかは体力管理と戦術貢献の指標になります。

これらは大抵の記録用紙・アプリで簡単にデータ化できるため、まずは基本指標から「現状把握」に使っていきましょう。

攻守別パフォーマンス指標の見方

攻守で求められる能力が異なるので、分析する視点も変わります。例えば「攻撃」ならパスの前進量やシュートまでの回数、「守備」ならボール奪取までの時間や相手シュート数、ブロック数などがポイント。

  • 攻撃パターンの成功率(カウンター・サイドチェンジなど)
  • 自陣でのパスミス発生率
  • セットプレーの守備成功/失点パターン
  • エリア別のボール奪取回数

これらを分けて見ることで、「どこが強み/どこが穴になりやすいか」がより明確になります。

シチュエーション別のデータ活用術

データは「状況分析」にも強い味方です。例えば、

  • 試合時間帯(前半/後半/ロスタイム)ごとに足が止まりやすいタイミングは?
  • リード/ビハインド時でパス回しや守備の意識はどう変わる?
  • 相手チームの10分間の攻撃パターンは何だった?

これらをデータで可視化しながら練習や戦術ミーティングに活かすことで、「その場限りの判断」から「再現性のある勝ちパターン」につなげられます。

実践!パフォーマンスデータをどう戦術に生かすか

自分(チーム)の強みと弱みをデータで把握する方法

“感覚”だけでなく“事実”を知りたいとき、データは強力なサポーターです。例えば、ポジション別にパス成功率やボールロスト数、走行距離を記録することで「誰がどこで目立った働きをしているか」「逆に攻撃に詰まりがちなエリアはどこか」を可視化できます。

ゴール前のシュート本数が多いが成功率が低いならフィニッシュ練習へ、ボール奪取数が少なければ守備の設計に着眼点を置く。こうした“根拠ある判断”がデータ分析の大きな価値です。

試合前後・練習でのデータ活用事例

試合前の相手分析では相手のパス数・ボール奪取エリアや主力選手の走行距離をチェックすると有効です。試合後なら、「狙い通りにパスが通せたか」「前半と後半でバランスがどう変化したか」など、感覚と照らし合わせながら課題と改善点を探します。

練習ではタイムアタックの記録や1対1・パス練習での成功回数、GPSによる走行距離やスプリント回数を蓄積。過去データと比較することで成長を実感しやすくなります。

ポジション別のデータ分析ポイント

ポジションによって見るべきデータも変わります。例として:

  • GK…被シュート数、セーブ率、ペナルティエリア内外でのボール処理
  • DF…インターセプト数、クリア回数、1対1の勝率
  • MF…パス成功率、ボールリカバリー数、エリア別パス数
  • FW…シュート数・枠内率、オフ・ザ・ボール時の走行距離、xG

「点を取った・守った」だけでなく、地味な数値も見ることで、自分の強みや選手間の役割分担も明確になります。

トップレベルから学ぶ!データ活用事例

欧州クラブにおけるデータ活用事例

ヨーロッパのサッカー強豪クラブでは、試合のたびに何十万件ものデータを収集・解析し“科学的判断”で戦術・メンバー選定を行っています。たとえばイングランドのあるクラブでは、選手の“パスの長さと方向”“危険エリアでのプレー頻度”などをAIが分析。さらには「どの選手を加えたら自分たちのサッカーがより機能的になるか」まで導き出しています。

トレーニングでも体力のピークや怪我のリスクを事前に察知し、“無理させずに最大パフォーマンスを引き出す”工夫がなされています。

高校・大学サッカーでもできるデータ分析

日本国内でも、記録係やスタッフ、選手自身が手作業やアプリを使ってデータ収集・分析をする例が増えました。パスやシュートなど基本データを紙やアプリで記録し、集計・共有するだけでも守備ラインの連携・攻撃バリエーションの幅など多くの改善点が見つかります。

映像記録やスマホの録画機能を活用して動きや“意図したプレー”を後から確認し、コミュニケーションに使っている学校・クラブも増えています。

ジュニア・ユース世代での応用ヒント

年齢が低い世代でもデータの活用は有効です。難しい数値分析を無理に求める必要はありません。例えば練習や試合ごとにシュート本数・パス回数・走った距離(目安で可)など、簡単な記録からスタートしましょう。

親子や指導者が一緒に「今日はどこが良かった?」「前回よりパスは増えてる?」「疲れやすかった時間帯は?」と数字を使って振り返ることで、モチベーションと学びのきっかけになります。

注意点と限界|データ分析と現場感覚のバランス

データに依存しすぎないために

データは時にチームや個人の“本質”を見失わせるリスクがあります。数字で表れない一瞬の判断力や、思い切ったプレーの勇気、とっさの創造性。これらを“数値だけ”で評価しすぎると、大事なものを見逃してしまうことがあります。

大切なのは数値の裏側を見ること。プレーの意図や状況、相手の特徴まで含めて考えながら、「あくまでヒントのひとつ」として活用しましょう。

現場の声と融合させる工夫

現場の“気づき”とデータを組み合わせて使うのがベストです。例えば、シュート本数が少なくても「相手が引いてスペースがなかった」など、数字に表れない背景があるケースは多いものです。日々のミーティングや練習後の対話で、「感覚」と「データ」を両輪で回す工夫を習慣にしていくことで、より実効性の高い分析になります。

サッカーデータ分析を学ぶ・始めるためのステップ

おすすめの入門書・ウェブサービス

専門性を深めたい方には、書店や各種オンラインショップで「サッカー データ分析 入門」と検索するとたくさんの書籍が出ています。特にプレイヤー目線では、実例や図解が豊富な書籍がおすすめです。
また、無料から使える分析アプリ・ウェブサービスも多数存在し、専用の端末を使わずにスマホだけでパス回数やシュート位置、走行距離の目安など記録できます。「サッカー分析 アプリ」などのキーワードで探してみてください。

日常練習でデータ化しやすいポイント

本格的な機材がなくても、以下のように日常練習でデータを残せます。

  • 練習ごとのゴール数・シュート数
  • タイムアタックメニューの記録
  • パス回数やミスの回数カウント
  • 走った距離を万歩計やスマホで計測

個人でも、トレーニングノートやメモアプリ、Excelなどに記録し続けるだけで、数週間後・数か月後には“確かな変化”を実感できるはずです。

自分でできる簡単データ計測方法

計測方法も工夫次第です。例えば、
・小型万歩計(安価なものでもOK)
・練習や試合の動画を撮影し、プレーごとに回数・時間をチェック
・チームメイトやコーチに“数を数えてもらう”協力
これらを続けて分析すれば、「今は苦手でも、過去より着実に進化している」と自分自身の努力を定量的に捉えられます。

まとめ|データ分析で強くなるサッカーを目指そう

サッカーの魅力は“勝負の面白さ”だけでなく、日々の努力や工夫にあります。データ分析はプレーや戦術をより深く理解するためのパートナーであり、これを活用できる選手・指導者・保護者こそが、着実な成長を手にする時代です。

数字という客観的なものさしは、やみくもな練習や根性論と違い、“どこを・どうすれば良くなるのか”をはっきり示してくれます。一方で、サッカーは数字だけで語りきれるものではありません。感覚や現場の声も大切にしながら、“データ×体験”による新しいサッカーの形をぜひ始めてみてください。
分析ノートひとつ、数字の記録ひとつから、あなたやあなたのチームの“次のステージ”が始まります。

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